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ヒダハタケ

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ヒダハタケ
Čechratka podvinutá 1.jpg
分類
: 菌界 Fungi
: 担子菌門 Basidiomycota
亜門 : 菌蕈亜門 Hymenomycotina
: 真正担子菌綱 Agaricomycetes
: イグチ目 Boletales
: ヒダハタケ科 Paxillaceae
: ヒダハタケ属 Paxillus
: ヒダハタケ P. involutus
学名
Paxillus involutus (Batsch ex Fr.) Fr. (1838)
シノニム

Agaricus contiguus Bull. (1785)
Agaricus involutus Batsch (1786)
Agaricus adscendibus Bolton (1788)
Omphalia involuta (Batsch) Gray (1821)
Rhymovis involuta (Batsch) Rabenh. (1844)

和名
ヒダハタケ(襞歯茸)
英名
Brown roll-rim
common roll-rim
poison pax
Paxillus involutus
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菌類学的特性
子実層にひだあり
傘は湾生形
子実層は垂生形
柄には何も無い
胞子紋は茶色
生態は菌糸
食用: 致死性あり

ヒダハタケPaxillus involutus)は、イグチ目に属するキノコの一種。北半球に広く分布するが、欧州産の樹木の輸出によってオーストラリアニュージーランドにも移入されている。子実体の色は茶色に近く、高さ6 cm、傘は漏斗型で直径12cm、傘の縁は巻き込み、ひだは垂生形で柄に近い部分は管孔状となる。ひだを持つが、同じようなひだを持つハラタケ類でなく管孔を持つイグチ類と近縁である。1785年にピエール・ビュイヤールにより記載され、1838年にエリーアス・フリースにより現在の学名が与えられた。遺伝子調査では、Paxillus involutus は単一種ではなく種複合体を構成しているようである。

晩夏から秋に温帯落葉樹林温帯針葉樹林や緑地で見られる普通種で、多様な樹木と菌根を形成する。この共生は、宿主の重金属吸収を減らすだけでなく、Fusarium oxysporum のような病原体への抵抗性も増大させる。生食によって消化管の不調を引き起こすことは知られていたが、かつては食用キノコと見なされ、東ヨーロッパ中央ヨーロッパで広く食されていた。だが、1944年にドイツの菌類学者ユリウス・シェッファーが中毒死したことで 毒キノコと分かった。これは、以前の摂取で悪影響が無かったとしても、反復的な摂取で突然発症する可能性がある。毒性は致命的な自己免疫性の溶血によるもので、キノコに含まれる抗原免疫系に赤血球を攻撃させることによる。これにより、急性腎不全ショック呼吸不全播種性血管内凝固症候群などの合併症が発症する。

分類

Bulliard's 1785 drawing of "L'Agaric contigu" (Agaricus contiguus)

1785年、フランスの菌類学者ピエール・ビュイヤールによって Agaricus contiguus の名で記載された。だが、正式発表された学名と認められているのは、1786年のAugust Batschによる Agaricus involutus である。w:James Boltonが1788年に Agaricus adscendibus の名で記載した種も、Index Fungorumによれば本種のシノニムである。他のシノニムとしては、1821年のSamuel Frederick Grayによる Omphalia involuta・1844年のGottlob Ludwig Rabenhorstによる Rhymovis involutaがある。現在の学名は1838年、'菌学の父'として知られるスウェーデンの博物学者、エリーアス・フリースによるもので、彼はPaxillus 属を立てて本種をそのタイプ種とした。菌類の分類学の始まりは1821年1月1日、フリースの著作の出版に伴うもので、これ以前に発表された名前はフリースによって認可名と認められていなければ正名とならなかった。そのため、コロンによって認可名であることを示し、”Paxillus involutus (Batsch:Fr.) Fr.”とするのが正式な表記であった。だが、1987年の国際藻類・菌類・植物命名規約の改定によって、学名の起点は1753年5月1日、カール・フォン・リンネSpecies Plantarumの出版日となった。そのため、現在ではフリースによる認可は不要である。

その後、フランスの菌類学者ルネ・メールによって、ハラタケ類(agaric)とイグチ類(bolete)の双方に関連する科としてヒダハタケ科 Paxillaceaeが立てられた。本種は管孔でなくひだを持つにもかかわらず、ひだを持つハラタケ目ではなく管孔を持つイグチ目に属するとされている。属名Paxillusラテン語で "ペグ"・"プラグ"を意味する。種小名 involutus は"湾曲した"の意味で、傘の縁が内側に巻いていることに由来する。英名にはnaked brimcap・poison paxillus・inrolled pax・poison pax・common roll-rim・brown roll-rim・brown chanterelleなどがある。Grayは1821年の英国の植物相大要の中で本種を"involved navel-stool"と呼んでいる。

生態・遺伝学的研究からは、本種は複数の類似した種を含む種複合体であることが示唆される。1981-83年に行われたウプサラ周辺での調査で、菌類学者 Nils Fries は相互に交雑しない3つの個体群を発見した。1つの個体群は針葉樹、または混交林で、2つの個体群はカバノキに近接した緑地で発見された。1つ目の個体群の子実体は単独で、柄は細く、傘の縁はあまり巻き込まないのに対し、他の2個体群の子実体は群生し、太い柄を持ち、傘の縁は強く巻き込み波打つこともある。だが、これらは一般的な傾向に過ぎず、これらの個体群を区別する明瞭な巨視的、微視的特徴は発見できなかった。バイエルン州で採集した標本の塩基配列分子系統的手法で比較した研究では、緑地、庭から得られた標本は北米に分布する Paxillus vernalis に、森林から得られた標本はムクゲヒダハタケに近縁であるという結果が得られた。著者は、緑地の個体群は北米から移入されたものであると推測している。ヨーロッパ産の分離株を用いた多重遺伝子解析からは、P. involutus sensu latoP. obscurosporusP. involutus sensu strictoP. validus・未同定の1種の4つの遺伝的系統に分離できることが示された。宿主範囲の変異は、この内の複数の系統で独立に、頻繁に発生している。

形態

ひだは垂生形である。

茶色い木製の独楽のような形態で、子実体の地上部は高さ6 cm程度になる。は最初は凸型であるが、その後中心部が凹んで漏斗型になり、縁が巻き込む。色は赤・黄・またはオリーブ色がかった茶色で、幅4–12 cm、傘の直径は15 cmを超えない。表面は最初は綿毛状であるが、その後滑らかになり、湿ると粘りが出る。若い子実体では、傘と傘の縁がひだを保護している(pilangiocarpic development)。ひだは細くて黄褐色で、垂生形で分岐しており、イグチ類の管孔のように肉から容易に剥がすことができる。ひだは柄に近づくに従って不規則な網目状となり、イグチ類の管孔に類似する。傷つけると暗い色に変色し、古い標本には暗い斑点が現れることがある。は黄味がかって水分が多く、わずかに酸味、鋭い匂い、味があり、調理することでよい風味がすると記録されている。柄は短く、傘と似た色で、曲がることがあり、基部に向けて先細りとなっている。

胞子

胞子紋は褐色、胞子は楕円体で長径7.5–9μm、短径5–6μm。ひだは細い糸状の縁・側シスチジアを持ち、長さ40–65μm、幅8–10.5μm程度になる。

類似種

茶色であることと、漏斗型であることから、多少の毒性を有するチチタケ属の種と混同されることがあるが、乳白色の滲出液を分泌しないことで区別できる。ウグイスチャチチタケ Lactarius turpis とよく似ているが、この種は暗いオリーブ色である。北米で見られる Paxillus vernalis とは、胞子紋の色が暗い、柄が太い、ポプラの下に生育する、などの点で区別できる。ムクゲヒダハタケ P. filamentosus と本種はさらに類似しているが、この種は稀で、ハンノキの下にしか生育せず、傘の縁に向いた平たい鱗片を持つ、肉は淡黄色で傷つけても僅かにしか褐色にならない、傷つけても変色しない深い黄土色のひだを持つ、などの点で区別できる。

ヨーロッパにおいては、かつて本種と同種だと見なされていた2種が存在する。Paxillus obscurosporus は本種より大型で、傘の直径は40 cmに達し、縁は最初は巻いているが、時間とともに平たくなる。柄は先細りになり、基部をクリーム色の菌糸が覆っている。Paxillus validus は広葉樹林や緑地で見られ、直径20cmに達し、柄の太さは上部と下部で変わらない。ヒダハタケを含むヒダハタケ属の種は、根状菌糸束(rhizomorph)に存在する結晶物の長さが0.5 μm以下であるのに対し、Paxillus validus では2.5 μmに達する。

生態・分布

多くの針葉樹や落葉樹と外菌根を形成する。栄養要求が特殊ではないため宿主特異性が低く、研究や植樹によく用いられる。この菌根は宿主にも利益をもたらす。本種を Pinus resinosa の滲出液で培養した実験では、病原性のカビである Fusarium oxysporum の増殖を抑制することが示された。苗木に本種を接種した場合も、フザリウム属のカビへの抵抗性が増すことが示されている。本種は抗菌物質を作り出し、宿主の根腐れを防いでいるのかもしれない。また、重金属のような毒性物質の吸収を減らし、宿主への毒性を軽減する効果もある。例えば、本種はヨーロッパアカマツの苗木に対するカドミウム亜鉛の毒性を軽減する。カドミウム自体は菌根の形成を阻害するが、菌根はカドミウム・亜鉛の根への移送を減少させると同時に、亜鉛の移送割合を変化させることでカドミウムを根に留め、植物体全体の代謝経路への侵入を妨げる。解毒機構には、菌の細胞壁にカドミウムが結合すること、液胞に蓄積されることが関わっていると考えられる。さらに、菌根は・カドミウムなどに曝されたとき、金属を結合する低分子タンパクであるメタロチオネインの生産量を急速に増加させる。

本種がヨーロッパアカマツの根に存在すると、根に付着している細菌が減り、代わりに菌糸に付着するようになる。また、細菌叢も変化する。1997年のフィンランドでの調査では、菌根が存在しないとき、ヨーロッパアカマツの根の細菌叢は有機酸アミノ酸を利用していたが、本種の菌根が存在するときにはフルクトースを利用していた。また、本種自身も土壌細菌から利益を受けている。本種の成長時に排出されるポリフェノールは、そのままでは本種の成長を阻害するが、この物質を細菌が分解することで再び成長することができる。また、細菌が作り出すクエン酸リンゴ酸のような物質も本種の成長を刺激する。

ドイツ、ウルムで発生した子実体

本種は極めて豊富であり、北半球の広い範囲で見られる。ヨーロッパだけでなく、アジアではインド・中国・日本・イラン・アナトリア半島、北米でも同じように広範囲に分布し、アラスカ州中心部のツンドラ地帯、コールドフット近郊からも記録がある。グリーンランド南西部ではカバノキ属ヒメカンバヨーロッパダケカンバBetula glandulosaなどの樹の下で採集されている。ヨーロッパの針葉樹林でも普遍的に見られるが、オウシュウシラカンバとも共生する。森林内では、湿った場所や泥状の場所を好み、石灰質の土壌は嫌う。また、ヨーロッパではニセイロガワリ、北米の太平洋岸北西部ではヤマイグチLactarius plumbeusに隣接して生育することが記録されている。落葉・針葉樹林どちらでも見られ、主に都市の アメリカシラカンバ の下で見られる。植林されたラジアータパインの林で生育できる数少ないキノコの一つでもある。フィンランド北部、オウル周辺のヨーロッパアカマツ林での調査では、本種は他のキノコが減少するような高度に汚染された土地でもよく生育することが示された。汚染の原因は製紙工場・肥料・暖房・交通であり、松の葉に含まれる硫黄分によって測定したものである。

芝生や古い牧草地に出現する。子実体は、切り株周辺の腐食した木の上に生えることもあるが、一般的には地面から直接生える。子実体は晩夏から秋に出現する。David Aroraはカリフォルニアにおいて、晩秋から冬にカシやマツの下に出現するフォームと、秋にカバノキの下に出現するフォームを区別している。幼虫の餌として子実体を利用する甲虫やハエもいる。また、イグチ目に寄生する菌類、アワタケヤドリ Hypomyces chrysospermusの寄生を受ける。寄生を受けると、最初は白い粉を吹いたようになり、成熟とともに黄金色から赤茶色に変化する。

オーストラリアの菌類学者ジョン・バートン・クレランドは1934年、南オーストラリア州において本種がカラマツ・カシ・マツ・カバノキなどの移入樹木の下に発生していることを記録しており、その後ニューサウスウェールズ州ビクトリア州(カバノキ・ポプラ属)、西オーストラリア州でも記録されている。ニュージーランドにおいても、移入されたカバノキハシバミから発見されている。菌類学者ロルフ・シンガーによって、同様の状況がチリに移入された樹木からも報告されている。これらは、輸入された樹木に付着した土が原因のようである。

毒性

Folsomで採集された標本

イギリスのガイドブックでは推奨されていなかったが、第二次大戦までは、中央ヨーロッパ東ヨーロッパにおいて広く食用とされていた。ポーランドでは酢漬け・塩漬けとして食べられていた。生食すると消化管刺激性があることが知られていたが、加熱すれば可食であると考えられてきた。だが、1944年10月にドイツの菌類学者ユリウス・シェッファーが本種を食べた後に死亡し、毒性が疑われ始めた。シェッファーと妻が本種を用いた料理を食べた後、シェッファーは嘔吐・下痢・発熱などの症状を示し始めた。症状が悪化したために彼は翌日病院へ行ったが、腎不全により17日後に死亡した。

1980年代半ば、スイスの医師René Flammerは、本種に含まれる抗原赤血球に対する自己免疫反応を引き起こすことを発見した。これにもかかわらず、1990年までガイドブックは本種に関する警告を掲載しておらず、あるイタリアのガイドブックは1998年まで本種を食用と表記していた。この自己免疫性溶血は比較的稀であるが、本種を繰り返し摂取した後に発生する。発症する1回前の摂取では、軽度の胃腸症状がみられることもある。これは純粋な毒性物質ではなく、キノコ内の抗原によって発生するため、厳密にはアレルギー反応というべきである。抗原の構造は未知であるが、血漿中の免疫グロブリンGを凝集させる。継続的な摂取によって免疫複合体が形成され、これが赤血球表面に付着することで溶血が起こる。

中毒症状は急速に現れ、まず嘔吐・下痢・腹痛に伴って血液量減少が起こる。その直後に溶血が発生し、乏尿血色素尿症貧血に至る。臨床検査では、ビリルビンと遊離ヘモグロビンの増加、ハプトグロビンの減少が確認できる。溶血により、急性腎不全・ショック・急性呼吸不全播種性血管内凝固症候群などの様々な合併症が引き起こされる。この合併症は重篤なもので、死者も報告されている。

解毒剤はないため、全血球数・腎機能・血圧・電解質・体液平衡を監視・補正することによる支持療法が行われる。コルチコステロイドを用いることで溶血を防ぎ、合併症を減らせる可能性がある。血漿交換によって免疫複合体を取り除くことでも転帰が改善する可能性がある。また、腎機能障害・腎不全が発生した場合には血液透析を用いることができる。

染色体を傷害する物質が含まれることもわかっているが、発がん性変異原性があるかどうかは不明である。

2種のフェノール類が同定されており、それぞれインボルトンインボルチンと呼ばれる。後者は、本種を傷つけた際に茶色に変色する原因であることが分かっている。日本における古い文献では、無毒だが食不適と記載されていたが、比較的新しい近年の文献ではほとんどが有毒扱いとなっている。

脚注

外部リンク


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