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マキャベリ的知性仮説
マキャヴェッリ的知性仮説(マキャヴェッリてきちせいかせつ、"Machiavellian intelligence" hypothesis)または社会脳仮説(しゃかいのうかせつ、"Social brain" hypothesis)とは、人間の持つ高度な知的能力は、複雑な社会的環境への適応として進化した、という仮説。「マキャヴェッリ的」という言葉は、15世紀イタリアの政治思想家ニッコロ・マキャヴェッリに由来し、マキャヴェッリの著書『君主論』に出てくるような意味での、社会的・権謀術数的な駆け引きの能力が、個体の適応度に大きな影響を与えたのではないか、とする。
心理学者・哲学者ニコラス・ハンフリーが1976年に『知性の社会的機能』として提案し、バーンとホワイトゥンが「マキャヴェッリ的」という印象的な呼称を与えた。しかし「マキャヴェッリ的」という言葉は仮説の大まかなイメージを伝えるのには非常に適しているが、反面マキャヴェリズムという言葉の使われ方からも分かるように、「マキャヴェッリ的」という言葉は「自己の利益のみを関心事として、目標の実現のために手段を選ばず行動する」といった強いニュアンスを持つ。しかし血縁淘汰の研究などからも知られるように、生物個体は必ずしも個体単位で利己的なわけではない。そのため「社会的」という言葉の方が意味的にはより中立的で正確である。
概要
このプロセスの進化的な圧力となりうると想定されている行動には以下が含まれる:
- 同盟や協力関係を組み、破る
- 約束を結び、破る
- ルールを作り、破る
- 嘘をつき、真実を話す
- 恥と寛容さ
- 誤解と騙し
例えば他者を上手く騙せる個体はそうで無い個体よりも短期的には成功しうる。しかしそれは同時に騙しを見破り回避するか報復する対抗適応の進化の圧力となりうる。その進化は騙し行為が見破られないように巧妙化する対抗適応の圧力となり、騙し能力と騙しを見破る能力は共進化する。
協力関係にも同じ事が言える。提供する労力を減らし、分け前を多く受け取る行動は短期的には成功する。それは相手の協力を監視し、分け前の量を見極める能力を対抗適応として進化させるかも知れない。
参考文献
- リチャード・バーン, アンドリュー・ホワイトゥン編著, 『マキャベリ的知性と心の理論の進化論――ヒトはなぜ賢くなったか』 藤田和生ら訳, ナカニシヤ出版, 2004年, ISBN 4-88848-854-1
- 長谷川寿一, 長谷川眞理子共著, 『進化と人間行動』「第五章 ヒトの進化 」(pp.87-118), 東京大学出版, 2000年, ISBN 4-13-012032-8
- RIM Dunbar "The Social Brain Hypothesis," Evolutionary Anthropology, Vol.6, Issue 5, pp. 178-190 (1998)
- N. K. Humphrey "The social function of intellect" In "Growing Points in Ethology",ed.P.P.G.Bateson and R.A.Hinde,pp303-317(1976)
関連文献
- 日本語のオープンアクセス文献
- 松本晶子「「マキャベリ的知性と心の理論の進化論」 リチャード・バーン, アンドリュー・ホワイトゥン 編/藤田和生, 山下博志, 友永雅巳 監訳」『霊長類研究』第20巻第2号、日本霊長類学会、2004年、165-166頁、doi:10.2354/psj.20.165、NAID 130000094094。