Продолжая использовать сайт, вы даете свое согласие на работу с этими файлами.
下水道
下水道(げすいどう)は、主に都市部の雨水(うすい)および汚水(おすい)を、地下水路などで集めた後に公共用水域へ排出するための施設・設備の集合体。多くは浄化などの水処理を行う。
雨水としては、気象学における降水および、いったん降り積もった雪が気温の上昇などで融けた融雪水も含むが、いずれも路面など地表にあるものが対象で、河川水や地下水となったものは除く。
汚水としては、水洗式便所からの屎尿、家庭における調理・洗濯・風呂等で生じる生活排水、商店やホテル・町工場から大工場にいたる事業場からの産業排水(耕作は除く)などがある。
概要
雨水や汚水を都市部からその外へ流し去ることを排除といい、個人や事業者が下水道を利用して自らの汚水を流し去ることを下水の排除と呼ぶ。具体的には下水管へ水を流し込む行為を指す。日本の水質汚濁防止法で定める特定施設に対しては、その水質について地方自治体などの下水道事業者による排除基準が設けられる。
下水道は都市基盤整備の一環として多額の建設費を投じて整備され、完成後も維持管理や更新に多額の経費を要す国家レベルの公共事業である。それゆえ先進国ほど普及率が高い傾向を示している。
日本の下水道普及率は2022年3月時点で80.6%とかなりの水準を達成してはいるが、先進国としては低い値であるうえ地域格差が非常に大きく、未普及地域における早急な整備が求められている。
その一方で普及率が高い都市部では、合流式下水道の改善、老朽化した管路施設の更新など、次なる課題が急務である。その他にも大きく立ち後れている高度処理の導入や、産業廃棄物としての処分が逼迫する汚泥サイクルの推進等々、多くの課題がなお山積しているのが現状である。
下水道が整備された地域でも、流れ込んだ水が常時100%処理されるとは限らない。集中豪雨の雨水や、起源不明の「不明水」などが流入して処理が追い付かないこともある。特に近年頻発するゲリラ豪雨への対応が急がれている。例えば2008年時点、東京都下水道局では降雨強度が50mmまでの雨を想定して下水道管渠を設計・敷設しているが、ゲリラ豪雨や台風に代表される大雨では100mmを超える場合もある。(ただし、この50mm基準を超えたからと言って、それ以上の雨を排除できないということではない。)
これら統計データなどは啓発を兼ねて、かなり公開されており、一部を外部リンクに示してある。
目的
下水道の目的は、主に以下の三点である。
- 内水排除 - 都市部に降った雨水を速やかに流し去ることにより、水害を防止する
- 汚水排除 - 屎尿を衛生的に収集し病原体を消毒することで、公衆衛生を改善する
- 浄化 - 汚水中の有機物を酸化分解し、公共用水域の水質汚濁を防止する
近年はこれらに加え、
- 環境保全 - 雨水も含めたより高度な浄化による、公共水域の水質ほか環境全体の保全・改善
- リサイクル - 有機物・無機物の資源化による、物質循環型社会の一環としての役割
- 情報経路 - 光ファイバー網などによる情報ネットワークを築くための社会資本
などが求められ、また担い手となりつつある。
歴史
下水道の歴史は古く紀元前にまで遡る。しかし、工学的汚水浄化は近代以降を待つ必要があった。
- 紀元前5000年頃 メソポタミアの都市国家群で、排水溝が築造される。
- 紀元前3000年頃 モヘンジョダロで、水洗便所と排水溝でつながった地下浸透桝が築造される。
- 紀元前2000年頃 モヘンジョダロの下水道設備が、路面下の管路枝網や人孔、沈殿池を備えるまでに発達。
- 紀元前600年頃 ローマでクロアカ・マキシマが築造される(かつてはこれが最初の下水道とされた)。
- 紀元前312年頃 ローマ水道が築造される(かつてはこれが最初の上水道とされた)。
- 645年(大化元年) 日本の難波宮遷都で排水溝が築造される。以降の都でも遺構が発見されている。
- 1370年 パリに本格的な下水道が築造される。これは後にヴィクトル・ユゴーの小説『レ・ミゼラブル』(1862年)の舞台にもなった。
- 1583年 大坂城築城に伴い城下町に太閤下水(背割下水)が建設され、現在も使用されている。
- 1760年頃 下水を耕作地へ導き入れ、ろ過・浄化させる灌漑法が最盛期となる
- 1760年–1830年 イギリスの産業革命。以降、人口の集中に伴う生活排水対策が、都市の課題となる。
- 1854年 ジョン・スノウがロンドンでのコレラ流行が、汚水の侵入した特定の井戸を使用したことが原因であることを疫学的に証明した。公衆衛生上、汚水排除が重要であることを裏付けるもの。
- 1867年 ロンドンのテムズ川沿いに大下水道管が完成する。
- 1871年 横浜で陶製管下水道が設置される。
- 1882年 活性汚泥法の基礎となる研究が開始される。
- 1884年 日本最古の近代下水道(神田下水)が設置される。
- 1890年頃 イギリスで薬品沈殿法、普通沈殿法による処理が行われる
- 1895年 イギリスで腐敗槽が発明される(自然腐化後、1–3か月かけて固液分離する)
- 1900年 旧下水道法公布。当時の下水道は雑排水を排除する単なる排水管であり、水洗便所は許可が必要だった。
- 1908年 アメリカで散水ろ床法の処理場が建設される
- 1912年–1915年 アメリカ、イギリスで活性汚泥法が実用レベルに確立される
- 1923年 日本最初の下水処理場、東京三河島汚水処分工場(現在の三河島水再生センター)が運転開始。標準散水ろ床法。
- 1930年 日本最初の散気式活性汚泥法処理場として、名古屋市で堀留処理場、熱田処理場(ともに現役)が運転開始
- 1934年 岐阜市で日本最初の分流式下水道が事業着手。
- 1940年代 第二次大戦による経済的疲弊で、低コストの酸化池(ラグーン)法の適用が増えるが、多くはその後、改廃された。
- 1958年 下水道法公布
- 1960年頃 都市化と化学肥料増産により農村還元できない余剰ふん尿が急増、し尿処理施設の建設が進められる。
- 1960年 西ドイツで回転円板法が開発される
- 1961年 9月10日を全国下水道促進デーとする。選定理由は台風シーズンの二百二十日から。当時の普及率は6%。
- 1972年 初の流域下水道(大阪府寝屋川流域下水道)が工事に着手。
- 1972年 下水道事業センター(日本下水道事業団の前身)が設置される。
- 1972年 日本で下水道施設設計指針が改定され、分流式下水道が原則と定められる。
- 1980年 普及率が3割を超える。
- 2001年 普及率が6割を超え、一定の進捗を来したことなどから、9月10日を下水道の日に改称する。
種類
法令上の分類
下水道事業は、法令体系も国によって違いがあるが、ここでは日本について示す。
下水道法による下水道
法令(下水道法)上の定義は、下水排除のための、管路施設、処理施設、ポンプ施設その他の補完施設の総体で、灌漑排水施設と浄化槽を除く。処理施設から排出される汚泥は産業廃棄物となる。
- 公共下水道
- 主に市街地の下水を排除・処理するため、原則として市町村が管理する。終末処理場を流末とする「単独公共下水道」と、流域下水道で処理を行う「流域関連公共下水道」がある。
- 公共下水道は都市計画における市街化区域を対象とするため、原則として市街化調整区域では利用できないが、それを補完するための事業が用意されている。
- 特定環境保全公共下水道(特環) - 水質の保全と生活環境改善を目的とする。処理場を持つ場合と、他の下水道(同じ又は他の市町村の公共下水道又は流域下水道)へ接続する場合とがある。
- 特定公共下水道 - 計画汚水量の2/3以上を特定の事業者が占める場合(工業団地等)に適用される。
- 雨水公共下水道
- 市街地における雨水のみを排除するために地方公共団体が管理する下水道で、河川その他の公共の水域若しくは海域に当該雨水を放流するもの又は流域下水道に接続するもの。2015年度の法改正で追加された。
- 流域下水道
- 複数の公共下水道の下水を受けて排除・処理するための下水道で、流域幹線と終末処理場を持ち、都道府県が管理する(2005年現在で31都道府県)。河川の流域に沿って設置され、県の管理事務所のほか公社や組合で管理される。受け入れる公共下水道の種別や構成は問わない。
- 雨水流域下水道
- 終末処理場を持つ複数の公共下水道の雨水のみを排除するための下水道で、雨水の流量調節施設を持つ。2003年度の法改正で追加された。
- 都市下水路
- 都市部の洪水防止のための雨水排水路として設けられるもので、原則として明渠であり処理施設は有しない。既存の水路等を指定して改築する場合が多く、外観は小規模河川そのもので、住民の憩いの場になっていることもある。
下水道類似施設
広義の下水道事業で、浄化槽法及び廃棄物処理法の対象となり、汚泥は一般廃棄物である。主に農村部等の水質保全と生活環境改善を目的とするもので、自治体や地元組合等が管理を行う。基本的に管路施設と処理施設を有し、汚水処理は分流式である。これは浄化槽法の対象に、工場排水と雨水が含まれないためだが、少数ながら合流式で整備されるケースもある。ほとんどの場合、汚水処理のみの実施だが、農業集落排水事業等では雨水管の整備も補助事業の対象となっている。
下水道との違いは、設計基準や施工方法、汚水処理を許される事業所等が幾分異なるが、整備に必要な建設資金に対する国庫補助金をどの省庁が交付するかの違いが主である。
近年、人口減少や節水機器の普及により処理施設の施設利用率が低下しており、管理する自治体の経費削減を目的に、公共下水道等に統合・接続(処理施設は廃止)されるケースが多くあり、事業数は減少傾向にある。
- 農業集落排水施設(農集):農林水産省所管の農業集落排水事業。事業数が多く、設計指針やマニュアルも多く出ている。
- 漁業集落排水施設(漁集):水産庁所管の漁業集落排水事業。漁港の後背集落を対象とし、事業数はやや少ない。
- 林業集落排水施設(林集):林野庁所管の林業集落排水事業。対象地域が限られ、事業数も少ない。
この3事業をまとめて「集落排水事業」と称し、農村下水道と呼ぶこともある。
- 簡易排水施設:農林水産省の山村振興等農林漁業特別対策事業
- 小規模集合排水処理施設:総務省所管の小規模集合排水処理施設整備事業
- 特定地域生活排水処理施設(合併処理浄化槽):環境省所管の特定地域生活排水処理事業(浄化槽市町村整備推進事業)
- 個別排水処理施設(合併処理浄化槽):総務省所管の個別排水処理事業
- コミュニティ・プラント(地域下水道):環境省の地域し尿処理施設整備事業。廃棄物処理法の対象。
その他
下水道とその類似施設以外にも汚水等を収集排除する施設・設備は各種あり、その一部を以下にあげる。
- 除害施設:公共下水道を利用する事業者が設置するもので、多くは市町村の補助金制度がある。処理水を下水道へ流すため、管理が安易になりがちな事が問題である。
- 事業場排水処理施設:直接公共用水域へ放流している、工場等の水質汚濁防止法に定める特定施設に設置義務がある。規模も管理レベルも多岐に渡る。
- 合併処理浄化槽(個人管理):商業施設等で使用される法人設置の大規模なものや、下水道等が整備される前に、個人が住宅の汚水処理のために整備したもの等がある。
なお、し尿処理施設は、管路施設がない点で、下水道ともこれら類似施設とも大きく異なるが、処理工程に関しては共通点も多い。
排除方式
雨水と汚水を排除するための管路をどのように施工するかにより二分され、それぞれ特徴がある。
合流式
汚水と雨水を同じ管路で集め、まとめて浄化処理して放流するものである。 比較的早い時期に整備を開始した都市に多く見られ、特に大阪市と尼崎市は布設延長の98.96%が合流管となっている。
- 埋設する管路が合流管1本なので、分流式より施工が容易で安価。
- 降雨時は急増した下水を未処理または簡易処理のみで放流する。このため、混入している汚水による水質汚濁が生じる。このように放流される汚水は合流式下水道越流水(CSO:Combined Sewer Overflow)と呼ばれる。
- 逆に、初期降雨に含まれるノンポイント汚染源に由来する汚濁物質を、遮集して処理することが可能。
- 上記への対策として、雨水滞留池や雨水スクリーン、スワールなどの建設が推進されている。
分流式
汚水と雨水を別の管路で集め、雨水はそのまま、汚水は浄化処理して放流するものである。現在新設される下水道では、この方式による。
- 埋設する管路が汚水管と雨水管の2本である分、合流式より施工費が大きい。
- 合流管に比べて汚水管は小さいため、人が入れず清掃や点検等が行いにくい事が多い。
- 原理上、降水による汚水の希釈が生じないため、流量・水質の変動がなく、浄化処理を安定的に行える。
- 逆に、大雨による管内堆積物の自然除去が期待しにくく、清掃が必要になる。
- ただし、実際には降水や地下水がある程度混入し(侵入水、不明水と称す)、水処理に影響を与えるケースが少なくない。原因として、汚水管への雨水管の誤接合、損傷した汚水管・汚水ますへの地下水の侵入、マンホール・ますふたの密閉度不足などがある。
- 雨水管に誤って汚水を接続された場合、汚水が河川に流出する可能性があり、適切な工事と検査が必要となる。
管路施設
下水の発生源と排除先を結ぶものであり、水を流すための水路やパイプである管渠と、ポンプ場ほかの付帯設備によって構成される。
都市部に網の目状に張り巡らされた下水管路はまさに都市の静脈であり、公共財である。しかしその耐用度は、都市住民の公共心に依存している。
収集方式
水への運動エネルギーの与え方により、自然流下式、真空式、圧力式に分けられ、それぞれ使用管種や付帯設備に違いがある。圧力式と圧送式を分けたり、真空式と圧送式を合わせて圧力式とする場合もある。ここではエネルギーを得る方法(重力、大気圧、機械的動力)により区分している。
自然流下式
古典的な、重力を利用して下水を流下させる方式。厳密な水密管路は不要で管渠の構造は比較的単純だが、堆積物の蓄積を防ぐために流速を確保しつつ、建設費の増大を招く埋設深増加を抑える設計が求められる。故に地形条件における制約の多寡が、建設費に大きく影響する。大規模から小規模まで適用され、主流である。
重力と水の関係をうまく制御する手法が蓄積されており、後述の真空式、圧力式においても部分的に自然流下式を採用する例が多い。
真空式
真空式下水道システム、真空式汚水収集システム、真空下水と称され、気密性の高い、真空ステーション(中継ポンプ場)、真空管路、及び各家庭単位の真空弁ユニット(弁マス)から構成される。真空管路内は、ステーションにおける排気によって管路は減圧され、そのまま負圧に保たれる。一方、家庭からの汚水は自然流下にて真空弁ユニットに流入、貯留される。水位の上昇により圧力スイッチやフロートが作動すると、機械的機構が無電源で真空弁を開閉し、汚水は管路へ吸引されステーションへ収集される。
自然流下式よりも地形条件に左右されにくく、布設費が割安で、一般に平坦で軟弱な地盤のエリアでの採用が多い。また、真空ステーション以外で動力用電源を必要としない(真空弁ユニットの異常通報装置などにはバッテリーが必要な場合はある)。管種にはポリエチレン(PE)管や真空下水用塩化ビニル (PVC) 管が使用され、特にポリエチレン管は耐震性が高く、長寿命であるため、現在はこちらが主流となっている。農業集落排水や特環下水・特公下水道など、中から小規模向きの収集システムである。 近年は真空ステーションが道路下埋設型でコンパクトかつ、旧来より安価となったため、小規模な収集もコストメリットが出るようになってきた。そのため、下水道普及率が高く財務の良い自治体を中心に、自然流下方式では収集が難しい「下水道整備の残された」エリアの収集方式として多く採用される。民地が道路より低い所や、国道沿いの民家で収集管の敷設が困難な地域、地盤沈下地域などでの採用が進んでいる。 中越地震の被災地区の本復旧に採用された事例もあり、その後の中越沖地震で全く管路被害が無いなどの高い耐震性を示した。東日本大震災 では宮城県の烈震地域を中心に数多くの真空式採用地域に於いて、ポリエチレン管路が無被害であった事と、電源の少なさから、近隣の自然流下+ポンプによる下水道敷設地域が大きな道被災を招いたのをよそに、短期復旧している。改めて耐震性に優れたシステムである事を印象付けた。
真空下水管路内の負圧は-25~70kPaである。この負圧で汚水のみ吸引・揚水するのは地球上では2m程度から最大7m程度までが限界である。管路内で、汚水は空気と混合され、低比重の流体(気液混合物)となり2相流を形成して「リフト」と呼ばれる登り勾配(標準で30cm、最大で100cm)を上昇し乗り越えていく。リフトの下流管路は一般に2‰(1~3‰)の下り勾配からなり、気液分離後も自然流下にて流下する。2‰勾配の場合、平坦地でのリフトは150mおきにつけられる事になる。リフト部は、気体の逆流は許しても液体の逆流は妨げる構造となっている。一回の吸引でステーションへ達しなかった汚水も管路底部に担持され、他の真空弁ユニットから流入した気液混合物で後押しされる機会を待つことが出来る。この様に、真空式では水理工学的に高度な技を駆使して汚水を収集する仕組みが備えられている。
圧力式、圧送式
小型の水中ポンプを多数設置し、各家庭からの汚水をポンプ圧送する方式。ポンプは破砕羽根を備えたグラインダーポンプが多用される。ポンプ設置と動力・維持に多額の費用を要するが、布設自由度が最も高く地形が極めて急峻な場合でも対応できる方式。部分的、小規模向き。
標準的な設計手法において、施工上の制約などで自然流下式や真空式で整備困難な場合、部分的に圧送管路を採用する(数km以上の遠距離を特に圧送式と呼ぶことがある)。これを拡大し、1から数世帯単位で汚水マスから下水本管や処理場にまでポンプ圧送するシステムが、圧力式下水道となる。急傾斜地や、小水路が縦横に走る平地などで実績がある。
圧送管路では汚水へ空気の溶け込む機会が少なくなる為、腐敗による硫化水素や有機酸の発生、または管路内部へのリン酸マグネシウムアンモニウム (MAP) などの析出といった問題があり、下水中へのオゾンなど酸化剤の注入や、定期的なピグ洗浄などの対策が行われている。
管渠
管渠は一部の雨水を除き原則暗渠であり、一般に『下水』と言う場合は管渠を指している事が多い。路面や河川、住宅の地下に布設され、外部からの確認が困難であり、また使用される管種、施工方法ともに年代による変化が大きい。そのため、管理や清掃、更新を行う上で対象管渠の布設年代は重要な確認事項となっている。
管種
大別して剛性管と可撓管がある。自然流下用の下水道用管材として最も多く使用されているのが、硬質塩化ビニル管であり、用途に応じて様々な管種が用いられる。一般的には日本下水道協会規格(JSWAS)製品が使用される(記号のアルファベットはJISコードと同じ)
- 硬質塩化ビニル管(VU管):内圧がかかる上水道用の「VP管」に対して、内圧がかからない(Unpressurized)のでV"U"管と呼ぶ。VP管は下水道に於いても汚水の圧送管材として広く使用されているがJSWASに準拠してはいない。水道分野では受口の長い耐衝撃性樹脂(HIVP)に離脱防止継手をつけたものは主要幹線のレベル2耐用管材として取り扱われているが、下水道用ポリエチレン管(JSWAS K-14)などに比べると一般に耐震性に劣っている。近年の地震においても事故事例が多く、下水道用途としての圧力管路には不向きである。
-
強化プラスチック管(FRPM管):Fiberglass Reinforced Plastic Mortar の略。
- 強化プラスチック複合管(K-2):自然流下の大口径管に使用される管材。
- 内挿用強化プラスチック複合管(K-16)
-
ポリエチレン管(PE管):日本ではガス、水道分野にも広く使用される柔軟で耐震性に富んだ管材。一般に接続は「融着」によって行われ、EF-エレクトロフュージョン-(電気融着)接続やバット融着接続を行う。
- 下水道用ポリエチレン管(K-14):耐震、耐食性に極めて優れ、特に小中口径クラスではダクタイル鋳鉄管に替わって採用が増えている。中口径(φ250)以上にて高価である事が難点ではあるが長く使える事で割安感があり、ヨーロッパを中心に圧力管の「主流」となっている。高密度ポリエチレン管(HDPE管)は昔水道で使われた一般のPE管とは素材が異なる高機能製品。汚水・汚泥圧送、真空式、急傾斜地等での採用が主。ISO規格に準じた製品が多い。耐用年数は一般に100年以上といわれ、更新まで含めたLCCの観点から極めて経済的な管種といえる。宮城県北部沖地震、中越沖地震、東日本大震災等にて極めて高い耐震性を有する事が判っている。
- 下水道用リブ付ポリエチレン管(K-15):自然流下向けの大口径管(約3000程度)で、ハウエル管(ドイツで開発。中空リブを外壁に設け、内面は平滑で耐圧性に優れる)が代表的。
-
ダクタイル鋳鉄管(DCIP):上水道で実績が多く、下水道では圧力管種で最も多く採用される。ただし、曲部や管内気相部に腐食破損事故が多く、内面塗装品に主力が移りつつある。これにより腐食や電食に対する耐用年数は20–25年程度まで向上し(上水道では40年)、また耐震性を高めるため離脱防止性に優れたNS型が普及している。
- ダクタイル鋳鉄管(G-1)
- 推進工法用ダクタイル鋳鉄管(G-2)
-
鉄筋コンクリート管:中から大口径管が中心。製法上、セメントの締固めを振動によるもの(バイコン)と、遠心力によるもの(ヒューム管)に大別され、後者は特に遠心力鉄筋コンクリート管と呼ぶ。バイコンは現場打ちや特殊な形状に対応しやすいが、規格品としてはヒューム管が優れている。(漫画でお約束の「空き地に積んである土管」はこれ。下水道整備が進められた高度成長期世代には事実見慣れた光景だったが、現代では管材に占めるシェアはかなり低くなってしまった)
- 鉄筋コンクリート管(A-1)
- 推進工法用鉄筋コンクリート管(A-2)
- 鉄筋コンクリート卵形管(A-5)
- 小口径管推進工法用鉄筋コンクリート管(A-6)
- 推進工法用ガラス繊維鉄筋コンクリート管 (A-8)
- 台付鉄筋コンクリート管(A-9)
-
レジンコンクリート管:ヒューム管のセメントを不飽和ポリエステル樹脂に代えたもの。セメントと樹脂の違いが性能差にそのまま表れており、酸に強く、摩耗しにくく、耐震性が高い。軽量で施工性がよいため工期短縮に効果的。水密性、内面の平滑性も高い。いいことずくめだが、当然ながら価格も高い。
- レジンコンクリート管(K-11)
- 推進工法用レジンコンクリート管(K-12)
-
土管(陶管)(セラミック管):明治初期から使用され、特に家庭取付管など煉瓦積みで施工しにくい小口径管路としてPVC管が普及する昭和40年代頃まで大部分を占めていた。常滑焼など地場産業振興や、汚泥焼却灰などのリサイクル先として、現代でも需要がある。
- 陶製卵形管(R-1)
- 陶管(R-2)
- 推進工法用陶管(R-3)
- 鋼管:他の鉄鋼製品に比べて規格とサイズ数が格段に多いため、配管用など、いわゆる流通業での利用が多かったが、近年、下水道用としても使われるようになった。なお、日本下水道協会規格(JSWAS)には制定されておらず、独自規格として、日本水道協会規格(JWWA)に制定されているにとどまる。
- その他:管のイメージから離れるが、プレキャストコンクリート製品など。
- ボックスカルバート(カルバートは暗渠の意味):断面が四角形の短い箱で、道路下の幹線などによく使われる。四角いことから「函渠」とも呼ばれる。
- アーチカルバート:断面がアーチ型、カマボコ型のカルバート。
- セグメント:シールド工法で使用される、管壁の一部。
- 特殊な異形管の場合、現場施工(場所打ち工法)による場合もある。
布設工法
下水道に限らず、細長い設備を施工する事を布設と呼ぶようだ。工法によっては特定の管種と関連が深い。
- 開削工法
- 最も基本となる工法で、歴史も長い。非開削工法でも立坑は開削工法による。
- まず地面に鋼矢板を並べて打ち込み、間を掘削して溝を作る。底に砕石やセメントで基礎をつくり、その上に管渠を組み立てて行く。管種、布設長、周辺状況に最も柔軟に対応できるが、道路の下に布設する場合は通行止めの範囲と期間が最も長くなる。このため、交通量が多い幹線道路では非開削工法による事が多い。
- シールド工法
- 径が1.35mを超える大規模幹線で採用される、地下鉄の建設で多用される工法。シールドマシンが掘った内壁にセグメントを並べ、管渠をその場で構築してゆく。
- 推進工法
- 19世紀末にアメリカで開発され、下水道には昭和28年から採用された。
- まず管渠の布設深度まで2本の縦穴(発進立坑と到達立坑)を設置し、大型油圧ジャッキを発進立坑の底に据える。次いで両端にネジを切ってある推進工法専用管を、到達立坑へ向けて地中に油圧で押し込んでゆく。一本を押し込み終えたら次の管を後ろにネジ込み接続し、これを繰り返す。先端が到達立坑に達したら油圧ジャッキをこちらへ移設し、新たな発進立坑として次の到達立坑へ向け推進を開始する。旧発進立坑にはマンホールなどを施工する。
- 布設計画線の深度が大きかったり、地表に建造物がある場合などに効果的な工法で、騒音・振動も少ない。地表の専有面積が小さく、交通に与える影響も抑えられる。先端での掘削や土砂の排出方法に様々な改良法が実用化され、適用範囲拡大や精度向上がはかられている。
- 刃口推進工法
- 従来法で、先頭管にはカッター(刃口)を取り付け、管内に人が入って先端部で掘削作業を行う。
- セミシールド工法(密閉式・機械式推進工法)
- 昭和40年頃、シールド工法の技術を導入して開発された。先端に掘進機を設置し管内は密閉される。泥水式、土圧式、泥濃式がある。
- 小口径管推進工法
- 先導体(切羽)に推進管(二工程法では細い誘導管)を接続し、発進立坑から遠隔操作する。管種により高耐荷力方式、低耐荷力方式、鋼製さや管方式があり、さらに掘削・排土・埋設方法により、圧入方式、オーガ方式、泥水・泥土圧方式、ボーリング方式(鋼製さや管方式のみ)がある。
- 改築推進工法
- 最近普及し始めた管渠更新専用の工法。掘進機で老朽管を砕きながら推進する。
ポンプ場
収集方式を問わず下水を放流するためには、放流先の水面よりも十分高い位置まで揚水する必要があり、ポンプが必要になる(地形条件に恵まれた、一部の自然流下式を除く)。
- 中継ポンプ場
- 下水に位置エネルギーを与える事を目的とし、最も数が多い。
- 自然流下式では布設が広がるにつれ、単純に管渠の傾斜を延長して行くと、非常に地下深くなったり逆に地表から飛び出してしまう。そこで、中継ポンプ場と管渠を組み合わせ横から見るとノコギリの歯のような管路とし、一定の深さを保って布設距離を伸ばしてゆく。
- マンホールポンプ場
- マンホールの中にポンプを設置しただけの簡易な中継ポンプ場。
- 排水ポンプ場(排水機場)
- 雨水、または遮集されなかった合流下水を、公共用水域へ排除するためのポンプ場。
- 大規模河川に接続する小規模河川・水路では、大規模河川の水位が上昇して逆流の恐れが出てくると、水門、樋門、樋管を閉じてこれを防ぐ。この時必要になるのが、水位差を超えて内水を排除するための排水施設である。河川や排水路には河川管理施設である排水機場が、下水道には排水ポンプ場が設置されるが、都市下水路のように中間的な存在もあり、管理も河川部門と下水道部門で合理的に配分されている(どちらも国土交通省の管轄なので)
- 排水施設には、降雨時以外は常に待機し、集中豪雨のような急激な流量増加には即時に対応が求められる。このため、気象状況に応じて降雨前に空転を開始しそのまま待機させられる、気中待機型と呼ばれる大型ポンプが開発されている。
- 場外ポンプ場
- 終末処理場の処理装置へ汚水を送るためのポンプ場で、最後の中継ポンプ場とも言える。処理場内に設置される事も多く、その場合は場内ポンプ場と称し、管路施設には含めない。
調整施設
平成16年(2004年)の下水道法改正を受け、主に合流式下水道の未処理下水放流を抑制、解消するため設置が推進されている。
- 貯留施設
- 処理場の汚水処理能力を超える下水(遮集汚水)を一時的に貯め、雨があがってから下水管へ戻す。
- 合流下水をどう遮集、貯留するのが効果的であるかは、降雨や管路の条件が大きく影響するため、貯留能力の検討と合わせてシミュレーション技法の活用が進んでいる。
- 雨水浸透施設
- 汚水と合流する前の雨水を土壌に浸透させ、合流管への排除量を削減する。
- 舗装が過剰なまでに行き届いた市街地は、浸透係数の小さい地表が大部分を占める。そのうえ都市型水害を防ぐため雨水排除を進めた結果、本来土壌浸透させ地下水とすべき降水までも、下水としてしまっていた。これに対処するため、路面の流出水を浸透マスで受け、浸透トレンチ内の浸透管で浸透マンホールに集水し、越流水のみを合流管渠へ排除する、雨水流出抑制モデルが実用化されている。なお、下水道計画においては管路施設の計画水量に影響するので、浸透管路線計画図を作って検討する。
- 簡易処理施設
- 下水を排出する前に、スクリーンで除塵(夾雑物を取り除く)や消毒をする。
- 市街地に降り始めた雨がやがて流出水となるとき、大気中や屋根、路面に由来する煤煙やゴミなどを洗い流して取り込んでいることが多い(ノンポイント汚染)。これを初期降雨(初期フラッシュ水)と呼び、分流式下水道の雨水施設であっても処理の対象とすべきとされる。小さな設置面積で急変する水量を効率的に処理できる設備が必要となる。
- 遮集設備
- 処理施設へ送る量を増やすため、堰高や構造を改良した雨水吐など。
- 雨水調整池
- 下水道施設ではないが、雨水量を抑えるので遮集改善に効果がある。
その他
- ます(桝、舛)
- 事業者が設置し、管渠と取付管で接続された公設ます(公共ます、取付ます)と、公設ますへ接続する前に汚水や雨水をとりまとめる私設ます(宅内ます)に分けられるが、構造上の差とは直接関係しない(大規模な私設ますや小さな公設ますもある)。雨水の場合は側溝と関連するので、汚水ますとは異なる構造の雨水ますが使われることもある。尚、「ます」の正確な漢字表記は「桝」である(「枡」は誤用)。
- 人孔(マンホール)
- 管渠の点検や清掃のため一定間隔で設けられる。特に管路の屈曲点や、複数の管渠の合流点などには必須といえる。
- マンホールポンプ場
- 略称はMPまたはマンポ。大型マンホール内部に水中ポンプ1–2台を設置した、簡易ポンプ場。管渠の一部として扱われる。
- 真空ステーション
- 公共下水では「中継ポンプ場」と称す。略称はSTN。真空式下水道システムの収集施設。真空ポンプを有し、システムの唯一の電源施設となり、真空下水管渠が接続される。
- 伏せ越し
- 河川や地下鉄などの下を潜らせて交差させるため、U字状のサイフォン構造。底に沈殿物が溜まりやすく、定期的な清掃が必須となる。
- 減勢工
- 急峻な地形などにより下水の流速が上がり過ぎると、含まれている土砂などによる磨耗や水圧そのものにより下水管が損傷する。これを抑えるため設ける、障害物を配した水路や螺旋状のシャフト。
処理施設
正式には終末処理場だが、一般的に下水処理場と呼ばれている。最近は、浄化センターや水再生センターなどの愛称が付けられることが多い。図面上の略号は□で囲ったT(Treatmentの略称)。
処理施設の能力は日平均、日最大、時間最大の水量負荷について立方メートル毎日で表示される。これらを設計負荷または設計能力と称し、計画下水量に基づく下水道計画の一環として定まる。
普及率
下水道整備などの進捗状況を、人口に占める割合などで表した指標で、国が集計する。対象により数種あり、人口に依らないものもある。人口データには住民基本台帳人口を使用するため、外国人は含まれない。全国集計の基礎となる県や市町村レベルの値も、一部で公表されている。
種類
- 下水道処理人口普及率:国土交通省が集計公表していて、下水道で単に普及率と言うとこれを指す。その意味するところは、下水道の処理区域内人口(下水道へ生活排水を排除できるようになった人口)の率であり、実際の利用率ではない事に注意。報道でしばしば混同されている。実際の利用率は接続率や有収率などと呼ばれ地域差が大きく、全国では普及率の8割程度である。
- 高度処理人口普及率:高度処理を実施している地域の人口の、全体に占める率。やはり実際に利用している数ではない。
- 都市浸水対策達成率:都市浸水対策整備の対象地域のうち、5年確率の大雨に対する整備が完了した区域を、面積の割合で表したもの。
- 下水道水環境保全率:国交省独自の指標。公共用水域の水質保全に関する3つの対策の進捗状況を示す。下水道処理人口普及率と高度処理人口普及率に加え、合流式下水道整備地域の合流改善対策の普及率を、水環境改善の観点から必要とされる地域について集計したもの。
- 汚水処理人口普及率:管轄が分かれる下水道と類似施設の普及人口に、合併処理浄化槽人口を加えたものから求めたもので、平成8年(1996年)度から集計がはじめられ、平成14年(2002年)度までは汚水処理施設整備率と称した。農林水産省、国土交通省、環境省が連名で毎年8月下旬に公表している。単独処理浄化槽人口を除いているのは、生活排水処理を重視しているため。
- 水洗化率:下水道普及率と同義に使われたり、水洗便所を使用している人の率として浄化槽人口を含めたりと、定義が定まっていないので要注意。環境省の一般廃棄物処理実態調査結果では、後者の意味となっている。
- 環境省の水洗化人口は、公共下水道人口にコミプラ人口と浄化槽人口(合併浄化槽人口+単独浄化槽人口)を加えたもので、家庭用浄化槽も含まれる。し尿処理場の収集対象に浄化槽汚泥が含まれる関係で、この部分は統計的厳密さにやや欠けるきらいはある。
現状
- 下水道処理人口普及率(令和3年度): 80.6%(下水道利用人口÷総人口)
- 高度処理人口普及率: 59.%
- 都市浸水対策達成率: 52.7%
- 下水道水環境保全率: 31.4%
- 汚水処理人口普及率(令和3年度) : 92.6% - 単独浄化槽は生活排水を処理しないため、含まれていない
- 下水道: 80.6%
- 浄化槽: 9.4%
- 農集排等: 2.5%
- コミプラ: 0.1%
なお、都道府県下水道構想(整備についての基本計画)の集計(平成16年度)によると、最終想定普及率は88%。
都道府県別ランキング
都道府県別では普及率トップ5は東京都、大阪府、神奈川県、埼玉県、愛知県。ワースト5は徳島県・和歌山県・高知県・鹿児島県・香川県。
防災(耐震化・マンホールトイレ)
近年の大地震による下水道施設の被災を受け、処理施設や管路施設の耐震化が進められている。また、過去の災害時の避難場所において、トイレの問題が深刻であったことから、国土交通省は、「下水道BCP策定マニュアル~第2版~(地震・津波編)」において、マンホールトイレの必要性について整理している。今後の災害に備え、下水道担当部署だけでなく、防災担当部署も含めた横断的な取り組みが必要とされている。
先進的な事業の例
- 下水道台帳のWeb公開:東京都下水道局
- 高度処理:滋賀県流域下水道
- 汚泥の集約処理:横浜市汚泥資源化センター
- 処理区の統合(広域化):秋田県
- ICT活用による集中管理(共同化):新庄市浄化センター
- 管路施設の包括的民間委託: 柏市
- コンセッション方式:浜松市西遠浄化センター
- 消化ガス発電:大村市大村浄水管理センター
- 風力発電:掛川市大須賀浄化センター
- 水力発電:神戸市湊川ポンプ場
- トンネル式処理場:島根県クリーンセンター鹿島
- 運用中の下水道管内部の見学:小平市ふれあい下水道館
問題点・課題
下水道事業は、社会生活において重要な公共サービス・社会インフラであるが、その反面、様々な問題点・課題を抱えている。
計画
下水道は、ほかの汚水処理施設(農業集落排水施設や合併処理浄化槽等)とともに、経済性や地域特性を勘案しながら、そのメリットやデメリットを考慮し整備することが非常に大切である。現在、各都道府県ごとに汚水処理事業に係る「都道府県構想」が策定されており、最適な汚水処理手法が選択されるよう検討がなされているものの、水道事業の浄水処理コストと比べて、汚水処理に要するコストが高額なため、管理する自治体の財政を圧迫し、使用する住民への負担も高くならざるを得ない。
地域格差
下水道の整備は地方公共団体の財政事情や地形的特質に大きく影響されるため、地域格差が大きい。
例えば、基礎自治体ごとの普及率が東京都や神奈川県では概ね100%であるのに対し、徳島県は30%台である(平成29年度末時点、西日本は低く、東日本は高い傾向にある)。また、市町村ごとに見ると人口規模が小さいほど普及率は低く、10万人以下で全国平均を下回る。
ただし、下水道類似施設や合併処理浄化槽があるため、必ずしも「普及率が低い=汚水処理が進んでいない」訳ではない点に注意すべきであり、令和3年度末時点での汚水処理人口普及率は、和歌山県が68%、徳島県は66%となっている。これは逆に、普及率が高いからといって必ずしも良いわけではないという意味でもある(下記参照)。
未接続
新しく下水道の整備を行うとき、事業実施主体(市町村)は公共汚水ますまでの工事を実施する。宅内の排水設備工事費用は個人負担となるため、下水道への接続については下水道法により供用開始の公告の日から概ね3年をめどに接続するよう義務づけられている(下水道法第11条の3)ものの、経済的理由等により放置されていることがあり、水洗化率が延びない要因となっている。下水道に接続しない場合、合併処理浄化槽が義務づけられる以前に建築された家屋から排出される家庭排水は、未処理のまま垂れ流されていて、河川の汚濁原因の一つとなっている。なお、新築や改築の場合、建築主事の建築確認を受けることとなるが、下水道処理区域内に所在しているのにも関わらず、下水道以外の方法で汚水を処理する申請は原則として確認を受けることはできない(下水道法第10条)。
除害施設
きわめて頻繁に「除外施設」と誤記される上、この誤記に基づき義務がないものと誤解しているケースすらあるという。
除害施設とは下水道に対する「下水による障害を除去するために必要な施設」であり、社会の共有施設である下水道を自らが損ねてしまう事を防ぐため利用者が自らの責任で設置・管理するものである。
悪質下水、すなわち下水処理場の無害化能力を超える量や種類の有毒物質や、管渠を閉塞や破壊させてしまう様な物質・物体を、除去せずに流し入れる行為(例えば熱湯をそのまま流し入れる行為なども含まれる。)は、他の下水道利用者全てに対する罪であり、放流先の公共用水域を利用する全てのものに対する罪である。
また家庭や事業所から排出される水銀などの有害金属類は生物濃縮され下水汚泥の堆肥などへの有効利用を阻害している。
下水道は、暗渠であるため当局による事業所排水の監視が十分にできない。また下水道に接続すると排水の取り締まりは保健所から下水道管理者に移管されるが、下水道管理者にとって利用者は下水道料金を支払う顧客であるため強力な取締りができない。全国で下水道管理者が利用者に対して告発などの処分を行った例はない。更に多くの市町村に跨る流域下水道においては管理責任が曖昧になり指導が疎かになる。
なお、除害施設を有する事業者は、除害施設管理責任者を選任し、適切な維持管理を行わなければならない。
汚泥の処理
下水処理に伴い多量の汚泥が発生する。ロンドン条約批准により日本国内でも廃棄物処理法が改正された。2007年4月から公共下水道から除去した汚泥の海洋投入処分が全面禁止になり、現在では下水汚泥の全量が陸上処理されている。
多くの下水汚泥が産業廃棄物として埋め立て処分されているが、埋め立て用の最終処分場が不足してきており、多くの産業廃棄物の不法投棄事件の投棄物中に下水汚泥が見られる。
対策として、固形燃料化や溶融スラグ化が行われているが、多額の建設費と維持管理費が必要であり、一部の大都市でしか進んでいない。また、製造されるブロック等の製品も強度など品質上の問題があり、有効利用はあまり進んでいない。近年、焼却灰をコンクリート原料である砂の代替品として利用する、セメント原料としてのリサイクル率が向上している。
下水汚泥は、多量の肥料成分を含んでおり、コンポスト化などによる堆肥等への有効利用が最も安価で簡単な方法であるが、日本では肥料の品質の確保等に関する法律における有害金属含有量基準が厳しく、工場排水などを多く取り込んでいる場合は難しい。
このほか、下水汚泥に含まれる有機物を発酵させて、バイオマス燃料となるメタンガスを取り出し、固定価格買取制度を利用した消化ガス発電や、汚泥を減量化する取り組みが広がっている。
施設の老朽化
管路施設は、物理的(土圧や車輌の重量、水圧、摩耗)、化学的(硫化水素等による腐食)、生物学的(樹木の根が水を求めて侵入する)に厳しい環境に長期間さらされており、布設から数十年が経過した管路は老朽化し、周囲の土砂を引き込んだ結果、空洞を形成して路面の陥没事故を発生させる事案が全国で相次いでいる(平成17年度で6600件)。通行中の車や人が転落する事故も起きており、維持管理の重要性が増すとともに、維持管理費も大幅に増加している。 これは戦後日本の下水道管が陶管・石管等の代わりに、腐食に弱いヒューム管と呼ばれる鉄筋コンクリート製の材料を使用してきたことによる。下水管内は硫化水素等の腐食性のガスが発生しやすく、汚水が滞留した場合、コンクリートが腐食し破損することがある。現在、長寿命化対策として管路施設の内面更生を行う自治体も多いが、管路の入れ替え時には、仮設のバイパス管を設置する等、新設時よりも費用がかかる傾向にある。下水道の建設には国からの補助金はあるが、それでも国庫補助金の裏財源に充てた起債の償還に苦しむ自治体が多い。将来はさらに、多くの自治体が更新費用の増加・捻出に苦労することが予想される。
また、阪神大震災において、処理施設は比較的早く回復したが、管路施設については復旧まで時間がかかっており、地震等の災害に対する脆弱性も問題視されている。
人口減少
下水道事業は、先行的に施設整備を行い、当該施設で提供する汚水処理サービスの対価として使用料を収入し、経費を回収する事業であるが、全国で、人口減少により有収水量が減少し、それに伴い使用料収入も減少するといった課題に直面している自治体も多い。
井戸水使用者の不正利用
下水道料金は、水道使用量とリンクしているため、井戸水を併用して下水道に放流している分は料金には反映されない。このことからあらかじめ井戸水のくみ上げ配管にメーターをつけたり、定額の利用量を自治体から認定してもらう等の手続きを行うこととなるが、私有地や施設内への立ち入り調査には限界があり、しばしば不正行為も行われる。自治体による不正行為の高額請求額の例として、大津市がロイヤルオークホテル スパ&ガーデンズ(運営会社は2020年4月に破産申請)に対して行った使用料13100万円、過料39500万円というものがある。ホテル側は30年間下水道の不正利用を行っていたが、徴収対象となったのは時効分を除いた5年間のみである。
世界の下水道事情
日本の下水道普及率は、先進国中に限って言えば高いとは言えない。しかし、全世界では現在なお下水道計画さえままならぬ国も多く、普及率が過半数に達している国はむしろ少数派である。これは例えば、国連が提唱する「人間の安全保障」達成への要素を欠いた国と地域がなお多いことを意味している。
とりわけ、モンスーン気候に属するアジアは多雨・高温多湿で下水道の必要性が高い環境にもかかわらず、過密の進む多くの都市で普及率は低く、下水道の代わりに地下浸透式が採用されていることが多い。
下水道博物館・テーマパークなど
- 愛知県下水道科学館
- 大阪市下水道科学館(大阪市)
- 蔵前水の館
- 小平市ふれあい下水道館
- 札幌市下水道科学館
- 名古屋市下水道科学館
- 虹の下水道館
- 三河島水再生センター
- 日本下水文化研究会
- 海外
主題とする書籍
- 月刊下水道
脚注
注釈
関連項目
- 土木工学、環境工学
- 下水道局
- ディスポーザー - 排水設備に直接取り付ける生ゴミ粉砕機
- 地溝油
- ファットバーグ
- 下水道ワニ - 1920年代ごろに出来た、下水道にワニが住んでいるという都市伝説である。巨大化したり、アルビノ化したり様々なバリエーションが生まれた。
- ユーティリティの場所 - ガス・電線・電話線・上水道・下水道など埋設物についての場所。アメリカ、オーストラリア等では地上でも分かるようにカラーコードが示されている。
外部リンク
参考文献
- 土木デジタルアーカイブ 鶴見 一之著 『下水道』 丸善 大正6年発行
- 土木デジタルアーカイブ 森 慶三郎著 『最近下水道』 丸善 大正12年発行
- 土木デジタルアーカイブ 草間 偉著 『上下水道(萬有科学大系、続篇12巻、第21編)』 誠文堂 昭和4年発行
- 土木デジタルアーカイブ 草広瀬 孝六郎著 『上下水道』 山海堂 昭和17年発行
関係団体
- 国土交通省 水管理・国土保全局 下水道部
- 地方共同法人 日本下水道事業団
- (公社)日本下水道協会
- (一社)地域環境資源センター(JARUS) (旧:(社)地域資源循環技術センター、(社)農村環境整備センター、(社)日本農業集落排水協会)
統計データなど
- 環境省 水環境関係 環境基準、一律排水基準など
- 総務省刊、地方公営企業年鑑 全国の下水道事業者別の詳細な集計結果
- 環境省廃棄物処理技術情報 一般廃棄物処理実態調査結果に、水洗化の集計結果がある
- 国土交通省下水道資料室 主要資材・機器及び特殊工法の推移