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托卵
托卵(たくらん、brood parasite、brood mimicry、egg mimicry)とは動物の習性のひとつ。自分の卵と誕生した雛への世話を他の個体に托すこと。育ての親は仮親と呼ばれる。もともとは鳥類の行為を指したが、魚類・昆虫類の行為も指す。
巣作り・抱卵・子育てなどを仮親に托す(代行させる)ことを托卵と表現する。一種の寄生と言って良い同種に対して行う場合を種内托卵・他種に対して行う場合を種間托卵と言う。
鳥類
種間托卵
種間托卵でよく知られているのは、カッコウなどカッコウ科の鳥類が、オオヨシキリ、ホオジロ、モズ等の巣に托卵する例である。カッコウの雛は比較的短期間(10 - 12日程度)で孵化し、巣の持ち主の雛より早く生まれることが多い。孵化したカッコウの雛は巣の持ち主の卵や雛を巣の外に押し出してしまう。その時点でカッコウの雛は仮親の唯一の雛となり、仮親の育雛本能に依存して餌をもらい、成長して巣立っていく。托卵を見破られないようにするため、カッコウは卵の色や斑紋などを仮親の卵に似せている(仮親の卵に似た卵を生む性質が代を経て選抜された)。また、托卵する際に仮親の卵を抜き出すが、その行動の意義は判っていない。基本的に、卵を託す相手は、同種または近縁種が選ばれる。しかし、稀に猛禽類など、場合によっては卵や雛を食べる肉食鳥が、選ばれることもある。
他にはスズメ目のコウウチョウやキツツキ目のミツオシエ科が挙げられる。
種内托卵
種内托卵を行う鳥類としてはダチョウやムクドリが知られている。ダチョウはオスが地面を掘ってできた窪みにメスが産卵、その巣にさらに他のメスも産卵する。これを最初に産卵したメスが抱卵する。
対抗策
托卵されるということは繁殖のためのリソースを空費させられることにほかならず、托卵が始まったことにより生息数が減少する鳥も見られる。托卵に対抗できれば繁殖で有利となるため、「個体差の大きな卵を産むことで、托卵された卵を見分けやすくする」、さらに托卵者との共生が長く続く環境では「托卵による雛を殺す、あるいは巣ごと放棄して育てない」といった進化を遂げた鳥も存在する。種内托卵でも自分の雛を見分けて、托卵された雛を排除する例が見られるという。
爬虫類
北米に生息するフロリダアカハラガメは同所に生息するアメリカアリゲーターの巣に托卵する。巣の発酵熱で孵化を早めると同時に、巣を守るアリゲーターの親を卵の護衛役に利用するが、托卵先のアリゲーターの卵に危害を加えるわけではない。
魚類
魚類では、日本に生息するコイ科の淡水魚であるムギツクが、オヤニラミ、ギギ、ドンコ、ヌマチチブ、ブルーギル等の卵を親が保護する魚類の巣に卵を産み付ける。近縁種で朝鮮半島に生息するホソムギツク、クロムギツクは、主にコウライオヤニラミに托卵する。 また、ナマズ類に属し、アフリカのタンガニーカ湖に生息する、シノドンティス・ムルティプンクタートス(和名・カッコウナマズ)は、マウスブルーダーであるシクリッドに卵を託す習性を持つ。このナマズの稚魚は、シクリッドの口腔内でシクリッドの卵を食べながら成長する。
昆虫類
昆虫類のシデムシの一部は種内托卵を行う。モンシデムシは托卵を行うが、托卵される側はこれに対抗する防衛本能として子殺しの特徴を備えている。すなわち、親は通常の孵化に要する時間と比べて孵化が早すぎる個体を殺す。
人工的な托卵
動物園などでは親鳥が放棄した卵を同種、あるいは近縁種の鳥に育てさせることがある。この場合、卵を人工孵化させて雛を仮親に託す方法と卵を仮親に抱卵させる方法の2通りがある。
人間の不倫行為に対する比喩
ヒトの既婚女性が、夫以外の男性(以前の恋人や不倫相手など)との性行為によって妊娠した子を「夫との子である」と偽り、夫に養育させることがある。これを俗に「托卵」と表現することがある。
なお、日本の現行法上、DNA型鑑定によってこの「托卵」行為が判明しても、嫡出否認の訴えの期間制限を過ぎると父子関係の存否を争うことは原則できない。
このことから、「1年バレなければ養育費GET」などと喧伝されることがあるが、離婚後の子の監護費用の分担を夫に求めることが権利濫用に当たるとされた事例がある(平成23年3月18日最高裁判所第二小法廷判決集民第236号213頁)。また、妻に対する不法行為による損害賠償や不当利得返還請求の可否は別である。
2017年、オランダの医師であるヤン・カールバルトが、不妊治療として精子提供を受ける女性たちに対し、「指定された提供者の精子」と偽って自身の精子による人工授精を行い、数十人以上の女性たちを妊娠・出産させていた疑惑が浮上した。カールバルトは同年に死去した。
2021年、日本の既婚女性が、夫に内密で他の男性と「不妊治療のための精子提供」として性行為を行って妊娠・出産したのち、「男性が学歴・国籍を詐称していた」と主張して、男性に対する損害賠償を請求した。詳細は「2021年の日本における精子提供に関する訴訟」記事を参照。
脚注
参考文献
- 濱尾, 章二『「おしどり夫婦」ではない鳥たち』 276巻、岩波書店〈岩波科学ライブラリー〉、2018年。ISBN 978-4-00-029676-2。
- 山内, 淳「鳥類における托卵行動の進化 : 野外観察・実験と理論」『日本生態学会誌』第45巻第2号、1995年、131-144頁、doi:10.18960/seitai.45.2_131、ISSN 0021-5007、2022年1月22日閲覧。
- 樋口, 広芳「托卵習性に見る鳥類の繁殖適応」『Journal of Reproduction and Development』第41巻第6号、1995年、j127-j133、doi:10.1262/jrd.95-416j127、ISSN 0916-8818、2022年1月22日閲覧。
- 田中, 啓太「騙しを見破るテクニック:卵の基準,雛の基準」『日本鳥学会誌』第61巻第1号、2012年、60-76頁、doi:10.3838/jjo.61.60、ISSN 0913-400X、2022年1月22日閲覧。
関連項目
- 卵
- 労働寄生
- ムギツク
- 刷り込み - カモなどが最初に見た相手を親だと思う習性
- Slave-making ant