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擬態

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擬態(ぎたい、mimicry, mimesis)とは、

  • 他のものに、ようすや姿を似せること。
  • 動物が、攻撃や自衛などのために、からだの色や形などを、周囲の物や植物・動物に似せること。本項では、動物以外の生物によるものも含めて扱う。

概説

コノハチョウ

態(=ありさま、様子や姿)をする(=似せる)こと、という表現である。

動物の擬態の例としては、例えばコノハチョウが自らの姿を枯葉に似せて目立たなくすることなどが挙げられる。またアブが、ハチに似せて目立つ色を持ち、ハチに擬することなども挙げられる。

一見ミツバチのような、ハチに擬態したハエ

進化によってある特定の環境に似た外見を獲得して擬態するもの(昆虫類など)と、自分の外見を変化させる能力を獲得して擬態するもの(カメレオンなど)がある。

特に色彩だけを似せている場合は「保護色」と呼んでいる。

人間からはそうは見えなくとも、すむ環境や活動する時間によっては立派な擬態や保護色となるものもある。海水魚にはタイカサゴなどっぽい体色のものがいるが、ある程度の水深になるとい光が強くなるため、これらの赤色は目立たない灰色に見えてしまう。

またトラもよく目立つように思えるが、ヒトなど一部の三色色覚を持つ霊長類を除き、哺乳類には視覚的に色の区別ができないものが多いため、茂みにひそめばこれも擬態になると考えられている。

同じような生活環境に適応し、また同じような食性を獲得した結果、二つあるいはそれ以上の種類の生物の形態が非常に似たものになることがあるが、これは擬態ではなく収斂進化と呼ばれる現象である。収斂進化した複数種の生物においては、体の外見だけでなくその機能も似ている。またあとに述べるミミックとモデルという非対称的な関係は存在しない。たとえばカマキリとミズカマキリとカマキリモドキはよく似た鎌状の前脚を持つが、擬態ではなく収斂進化の例である。

擬態はカモフラージュとも言う。

分類

擬態には背景に似せ目立たなくする隠蔽的擬態mimesis(またはcamouflage)と、目立つことにより捕食者、獲物を欺く標識的擬態mimicryがある。また、獲物を得る為に擬態するものを攻撃擬態(こうげきぎたい)と呼ぶ。

隠蔽擬態
バッタナナフシなど、周囲の植物や地面の模様にそっくりな姿をすることで、捕食者、獲物から発見されないようにする。
攻撃擬態
攻撃擬態を取るオキナワアズチグモ:背景に溶け込み、自身の姿を隠す。蜜を吸いにやって来たハチをつかまえた
カマキリアンコウリーフフィッシュなど自分が捕食者では、周囲の植物や地面の模様にそっくりな姿をすることで、獲物に気づかれないようにしたり、目立つことにより獲物をおびき寄せたりする。身を隠すという意味では隠蔽擬態の一種であり、実際自分を捕食する動物に対しては普通の隠蔽擬態として機能する。ペッカム型擬態とよばれることがある。
繁殖のための擬態
ごくまれな例であるが、あるものを呼び寄せるための擬態であり、しかし攻撃や捕食を目的としないものもある。オーストラリアハンマーオーキッドというランは、その花がある種のハチのメスの姿に似ていることで有名である。その種のオスがこの花を見つけると、花に抱き着いて交尾をしようとして、この時に花粉媒介を行う。
類似の例として、淡水二枚貝ランプシリスがある。この種では、幼生が放出されると、淡水魚ヒレにしばらく寄生する性質がある。二枚の殻からはみ出す外套膜の周辺部が魚のように見える形と模様を持ち、それを見た魚のオスが、メスが産卵しようとしているものと見て放精するために体を寄せてくるところに幼生を放出するのである。
また、擬態関係にある複数種が出現する場合があり、その内容によってベイツ型擬態(ベイツがたぎたい)、ミューラー型擬態(ミューラーがたぎたい)と呼ばれる。
ベイツ型擬態
ベイツ型擬態のシロスジナガハナアブ:腰に白い部分がありハチの細い腰を彷彿とさせる。一定の場所を占有し、近づく虫や人を駆逐するような行動をとることがある。飛び方や羽音もハチに似る
を持つ生物のなかには、警戒色によって周囲に危険を知らせるものがあるが、それらの生物とは違う種が、同じ警戒色を用いて、捕食されないようにする。アシナガバチにそっくりなトラカミキリ、サンゴヘビにそっくりなミルクヘビなどが例として挙げられる。
アフリカ産のオスジロアゲハ(Papilio dardanus) のメスは、少なくとも6種のマダラチョウ(有毒あるいは鳥が嫌う味がする)と酷似したそれぞれ全く異なる羽の紋様を持つ。しかし異なる紋様を持つ系統同士でも交雑が可能である。ベイツはこのような擬態を見せる昆虫について、中間型はすぐに捕食されてしまうから見つからないのだろうと予測したが、オスジロアゲハに関しては、紋様を決める遺伝子群が単一の遺伝子であるかのように固まって遺伝し、中間型は生まれないことが分かっている。
ビロードスズメなどいくつかの種のスズメガでは、幼虫の体の先端がふくらみ眼状紋を持ち、ヘビの頭部に擬態していると考えられている。このように系統的にまったく違う生物の間にもベイツ型の擬態が見られる。
ミューラー型擬態
毒を持つ生物が、おたがいに似通った体色をもつことをいう。スズメバチ類、アシナガバチ類、ホタルホタルガなどが例として挙げられる。
メルテンス型擬態
ミューラー型擬態の特殊なもの。危険な生物がより危険が少ない生物に擬態しているように思われる比較的まれなケースである。ある生物Aが捕食者を必ず死なせるような強い毒を持つ場合、生物Aを捕食した捕食者は死んでしまうので、捕食者は「生物Aが有毒である」という知識を学習することができない。したがって、生物Aが独自の警戒色を持っても、捕食者が生物Aを避けてくれないため、意味がない。このような場合、生物Aが「捕食者を殺さない程度の毒を持つ生物B」に擬態すれば、Aは「Bを捕食したことのある捕食者」に避けられる、という恩恵が得られるのではないかと考えられる。たとえば強毒のサンゴヘビは弱い毒を持つニセサンゴヘビに擬態していると言われる。

擬態している生物を擬態者、またはミミック、模倣される対象をモデルと呼ぶ。

擬態と行動

一般には、擬態は外見がモデルによく似ることをさすが、モデルが動物などの動くものの場合、動きが似ていなければ、外見が似ていても効果が薄い。そこで、擬態するものの動きや行動が、モデルそっくりになるのもよく見られる。例えば、ハチに擬態するカミキリは、細かく触角をふりながら、せわしなく歩く。また、コノハチョウは危険を感じると体を前後にユラユラと動かし、木の葉がゆれるように見せかける。

単に動きが似ているというより、行動として、特別に他者によく似た動きをとるものもある。タテハチョウは強くはばたいてしっかりと飛ぶが、マダラチョウは柔らかくはばたいてふわふわと飛ぶ。タテハチョウの仲間で、カバマダラ(有毒)に擬態しているとされるメスアカムラサキのメスは、普段はマダラチョウのようにふわふわと飛んでいるが、人が追っかけて捕虫網をふりまわし、取り逃がしたとたん、タテハチョウの飛び方に変わって力強くはばたいて逃げてしまう。このことは、このチョウのふだんの飛び方が、モデルに似せるための、つまり擬態のためにあえてとっている行動であることを示唆するものである。

視覚以外の擬態

視覚以外の感覚にうったえる擬態もある。

たとえば、ナゲナワグモというクモは、枝先に足場のような糸を張り、そこにぶら下がって前足から糸を垂らす。この糸の先には粘液の球がついており、虫が近づくとそれをぶつけて虫を捕らえる。ところが、よく調べて見ると、捕まる虫が特定の数種のばかりで、しかもオスであることが判明した、そこから研究が進み、粘球にガの性フェロモンに類似した物質が含まれることが判明した。つまり、雄のガがメスだと思ってやってくると、そこにクモがいるわけである。したがって、これは化学物質を利用した攻撃型擬態である。またガータースネークのオスは、冬眠からさめたときメスのフェロモンを出すことがある。 すでに日光をあびて体温が上昇したほかのオスたちがこれにだまされて接触してくると、このオスは彼らから熱をうばい、自分の冷えた体をすみやかにあたためる。これは同種の動物をあざむく化学的擬態の例である。

花粉を媒介させるため、花から腐肉の匂いを発してハエシデムシなどの昆虫を集めるラフレシアスマトラオオコンニャクスタペリアなどの植物が知られているが、これも化学的擬態の例と言えるだろう。スッポンタケ科のキノコも胞子をふくんだ腐敗臭を放つ粘液を出してハエなどの虫を集め、胞子を拡散させる。

視覚に訴えるものではあるが、外見によらないものもある。ホタルの仲間はオスとメスが光の信号でやり取りすることが知られているが、北アメリカのフォトリウス属には、メスがフォティヌス属のホタルの発光パターンで発光し、フォティヌス属のオスを誘引し、捕食するものがある。

擬態の限界

ベイツ擬態のように、無害な動物が有害な生物をモデルとした擬態の場合、捕食者がモデルを攻撃したときのいやな記憶を長く保っていなければ効果がない。もしもハチに刺された動物が、すぐにハチのことを忘れてしまえば、次に(ハチに擬態した)カミキリを見つけたときにも、ためらわずに捕食する。また、ハチの模様と刺された痛みを関連づけて覚えていなければ、次にカミキリを見つけたときにも、やはりためらわずに捕食することとなる。

したがって、脳神経系と視覚などの感覚器がある程度発達した捕食者に対してしか効果はない。

また、捕食者があらかじめモデルの発する信号の意味を理解していなければ(これは遺伝的なものと学習によるものとがある)、擬態者の「偽の」信号の意味も知らないことになり、効果がない。もしモデルより擬態者のほうがあまりに多ければ、捕食者は、危険なモデルよりも無害な擬態者に遭遇する頻度が高くなり、擬態者の発する信号は機能しない。黄色と黒のカミキリがハチよりもはるかにたくさんいるのであれば、捕食者は、「黄色は食べられる」と理解する。黄色と黒のカミキリがハチと同数ならば、「黄色と黒は危険だが、捕食を試みる価値はある」と理解する。

したがって、擬態者は、モデルよりあまり多数になるような繁殖はできない可能性がある。

擬態の信憑性

いろんな生物を見たときに、擬態ではないかと思われる例は数多い。しかし、この問題が見かけでわかりやすく、面白くて取っつきやすいために、安易な判断がなされている場合も多い。本当にそれが擬態として作用しているのかどうかには、しっかりした観察に基づく慎重な論議が必要である。この点は、保護色警告色などについても同様であり、これまでに、後に誤りであったと判断された説は数多い。

たとえば、トリノフンダマシという、排泄されたばかりの鳥の糞に見えるクモがいる。このクモは、20世紀半ばまで、糞だと判断してよってきた昆虫を食べる、攻撃的擬態であると判断されていた。しかし、現在では、このクモは夜間に網を張ることが知られている。それでも糞に擬態している可能性は残るわけだが、実はこのクモは、多くの場合葉の裏側に止まるのである。

アリに擬態したアリグモ

同じくクモ類であるが、アリグモは、ハエトリグモ類でありながら、肉眼的にはアリにしか見えないくらい、アリによく似ている。このクモも、20世紀前半までは攻撃的擬態の代表例になっていた。アリが仲間だと思って挨拶するところを捕まえる、というのである。さらに、アリの巣に侵入してアリの蛹を担いで出るという話すら、専門書に記されていた。ところが、その後の観察から、このような話の信憑性が問題になり、むしろ、現在では野外に於いてはアリは攻撃的で強い昆虫であるので、その姿でいることで安全を図っている、つまりベイツ型擬態であるとの判断になっている。それどころか、アリが近づくと逃げる、との観察もあり、現在のクモの本では、アリグモがアリを捕まえたという確実な観察例は存在しない、とまで書かれているものがある。しかし、この記述が正しいかどうかは、また別の問題でもある(なお、アリを捕食するハエトリグモとしてアオオビハエトリがいる。前脚をあげて触角に似せているかのようなポーズをとるが、アリグモほどアリに似ていない)。

このような擬態に関する誤解は、今後とも起こり得ることとして、慎重に判断する必要がある。

擬態する生物

フィクション

脚注

関連項目

外部リンク


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