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痺れ
痺れ(しびれ)は感覚障害を表すことばで、感覚の低下(つねっても痛みを感じないなど)・感覚の亢進(自発的なびりびり、じんじん、ちくちくなど)を指し、低下と亢進が同時にみられることも少なくない。原因は脳・脊髄・末梢神経とさまざまだが、末梢神経障害によることが多く、脳神経内科・整形外科・脳神経外科が担当することが多い。原疾患の治療と並行して、対症療法を十分に行う。
原因
しびれの原因は脳・脊髄・末梢神経とさまざまだが、脊髄根から末梢神経の障害によることが多い。
脳疾患(稀。視床・脳幹などの感覚経路に病気が及ぶ時にのみみられる。半身、まれに一側の手・口[手口感覚症候群]にみられる): 脳血管障害、脳腫瘍など
脊髄疾患(病気の部位[髄節、水平線、レベルともいう]から下にしびれがみられる。初期には病気の部位よりもはるか下にレベルがみられる場合もある。高位頚髄の場合、稀に靴下手袋型[偽多発神経炎型]を呈する場合がある): 亜急性脊髄連合変性症、多発性硬化症、脊椎疾患など
末梢神経疾患(靴下手袋型[多発神経炎型]、多発単ニューロパチー型などがある。一本の神経のみが圧迫されることも少なくない[手根管症候群]): 糖尿病性多発ニューロパチー、アミロイドニューロパチー、薬剤性ニューロパチーなど
足の痺れ: 脊髄病変 頚部、胸部、腰部どこの障害でも足の痺れは起こりえる。脊髄病変を積極的に疑う所見としては膀胱直腸障害である。歩行障害も認める場合が多く、大抵は階段を下るときが辛いという。階段を下るとき辛いというのは下肢の痙性麻痺や運動失調を強く疑うエピソードである。上りが辛いという場合は筋力低下は疑えるものの診断学的価値はかなり低い情報となってしまう。怒責や咳、くしゃみによって放散痛が生じることも脊髄病変では特徴的である。脊髄病変を起こしやすい職業歴として柔道、ラグビー、レスリングの選手やタクシーの運転手が多いということも念頭に置くべきである。 多発神経炎 脊髄病変を疑えるエピソードがない場合は多発神経炎(ポリニューロパチー)を考える。この病気ではつま先から徐々に症状が上行してきて、運動神経よりも感覚神経の方が優位に障害されるのが特徴的である。多発神経炎は原因疾患の検索が重要である。糖尿病、アルコール、薬剤性などが高頻度である。悪性腫瘍や全身性血管炎でも生じうる。
手の痺れ: 頚髄病変 脊髄の病変でも手の痺れは生じうる。手が痺れる場合、その責任病巣は頚髄であり、頸椎症が原因疾患であることが非常に多い。痺れの領域は基本的にはデルマトームに従う。足の痺れの場合と同じで膀胱直腸障害、階段を下る際に辛い、怒責で放散痛が生じる、スポーツ選手やタクシードライバーに多い。 手根管症候群 手根管症候群は特発性のものでは中年の女性に多い。長時間のパソコン、キーボード操作やピアノの演奏などが誘発因子になることもある。基礎疾患としては妊娠、透析、甲状腺機能低下症、先端巨大症といったものがある。特に甲状腺機能低下症は手根管症候群が受診契機になることもある。筋肥大や嗄声といった症状にも注意したい。ファーレンテスト(Phalen Test、手首関節を屈曲させることで痺れを誘発する)やティネル徴候(Tinel Sign、手根管の部分で正中神経を叩くことで痺れを誘発する)といった神経徴候が有名である。感度、特異度ともに優れている検査としてはハンドダイアグラムという検査がある。これは痺れている領域を患者に絵で描いてもらうもので、正中神経の支配領域である第1~3指のみである場合はかなり手根管症候群が疑わしい。掌にまで及ぶとほかの疾患の合併の可能性もある。この
脳卒中との関係: 痺れを主訴にする患者の多く、脳血管障害の可能性を考えて来院する。近年はTIAという概念が確立し脳血管障害の前兆であるのではないかと受診する場合が多い。基本的には痺れは脳血管障害と関係ない。但し以下の場合は脳血管障害の可能性がある。 明らかな急性発症であり筋脱力を伴う場合, 片側の上下肢の分布であるとき, 脳血管障害を積極的に疑う分布の場合(顔と片側と反対側の上下肢とか口と手掌など)~ こういった場合を除き、脳血管障害の心配はないことを告げることが大切である。安易に抗血栓薬(アスピリンなど)を処方するべきではない。高齢者はしびれを主訴に来院する場合が多いが、どんなに検索しても重要な疾患が見つからず特発性良性慢性しびれという診断になってしまうことが多い。 痺れで重要な疾患としては顔面の痺れというものがある。これは脳血管障害や悪性腫瘍の可能性が高く、精査が必要である。また亜急性、即ち数週間で経過する四肢の痺れも悪性腫瘍や血管炎の可能性が高い。
解説: 虚血(閉塞性動脈硬化症 arteriosclerosis obliterans ASO/末梢血管障害 peripheral artery disease PAD)によりニューロパチーをきたすかについては十分に明らかにされていない。
解説: 脳神経内科・整形外科・脳神経外科等の病気が十分に除外された時、しびれが心因性)身体症状症(の一部としてみられる場合がある。心因性しびれは、単独できたす場合と、過呼吸症候群が重畳してきたす場合がある。過呼吸症候群によるしびれは、心因が引き金となり、過呼吸によるアルカローシスがしびれをさらに引き起こすものである。いずれも精神科治療により軽快する。
痺れの治療
可能ならば原疾患の治療を行うべきである。しかし症状緩和の意味や特発性良性慢性しびれの除外のために以下の処方がしばしば用いられる。
- 特発性良性慢性しびれ
- 軽症であればアリナミンF(ビタミンB1)50mg 1×やメチコバール(メコバラミン、ビタミンB12)1500μg 3×、ユベラN(トコフェノール、ビタミンE)100mg 2×、ビタメジンカプセル50mg 1×(複合ビタミン剤)などを使用する。また心因性の場合も多いため、抗不安薬も併用することもある。
- 末梢神経障害
- 糖尿病性ニューロパチーの場合は軽症の場合はキネダック150mg 3×(エパレスタット)がよく用いられる。キネダックはアルドース還元酵素の阻害薬でありアルドース還元酵素を特異的に阻害し神経内のソルビトール蓄積を抑制する。神経が不可逆的阻害を受けていなければ有効とされている。糖尿病性神経症の疼痛やしびれに使用されることが多い。尿が赤くなるが、それは特に問題とならない。痛みが強くなってきた場合はキネダック150mg 3×に加えてメキシチール(メキシレチン)300mg 3×を併用する場合が多い。メキシチールはⅠb群の抗不整脈薬であり、不整脈を誘発することがあるので投与まえに心電図を検査することが望ましい。1か月をめどに使用し効果がなければ2週間で退薬する。また痛みが難治性となった場合はテグレトール400mg 2×(カルバマゼピン)を使用することも多い。この痛みによってうつ状態となることも多く、抗うつ薬、抗不安薬が効果的な場合もある。トフラニール30mg 3×(イミプラミン)は三環系抗うつ薬であり、セルシン6mg 3×(ジアゼパム)は抗不安薬である。セルシンとテグレトールの併用はしばしば行われる。なお、日常生活に支障がでるほどの糖尿病性神経症では神経が不可逆的な変化を起こしておりこれらの薬物が効果的でない場合も多い。その場合、痛み、しびれは訴えないこともある。
- アルコールや栄養障害のニューロパチーを疑った場合はビタメジンカプセル(50)3C3×とメチコバール 1500μg 3×を併用することもある。
- 手根管症候群
- この場合は原疾患の治療とNSAIDsによる疼痛を行う場合が多い。浮腫に対してラシックス®(フロセミド);40mg1×も使用される。
- 神経痛
- テグレトール(カルバマゼピン)が頻用される。帯状疱疹後などではフランドルテープが効果的なこともある。
他の用法
「痺れ」という単語は他にも用法がある。
- 我慢して待つ 例文:もう痺れが切れた。(もう待てない。)
- 感動 例文:あの人の歌には痺れた。(あの人の歌に感動した。)
脚注
参考文献
- 神経症候学Ⅰ,II改訂第二版 著:平山惠造(千葉大学名誉教授) 文光堂、東京、2006 ISBN 978-4-8306-1532-0
- 問題解決型 救急初期診療 ISBN 426012255X
- Step By Step! 初期診療アプローチ(第3巻)ISBN 4903331679
- 神経内科ケーススタディ ISBN 4880024252
- Q&Aとイラストで学ぶ神経内科 ISBN 4880024635
- 考える技術 臨床的思考を分析する ISBN 9784822261092
関連項目
外部リンク
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