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シグナル伝達

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本項においては、生体内におけるシグナル伝達(シグナルでんたつ、: Signal transduction)システムについて記述する。

いかなる生命周囲環境適応しなければならず、それは体内環境においても、個々の細胞においてすらも同様である。環境中には刺激となる何らかの形の生化学的情報(これを「生化学的シグナル」、あるいは単に「シグナル」という)があり、これが別の刺激を誘導することで次々と伝達し、定まった経路(「シグナル経路」という)やシステムを形成する。この情報伝達システムをシグナル伝達システムといい、刺激を媒介する様々なシグナル分子が担っている。細胞の運命や行動はそれらへの応答として決定される。刺激で生まれたシグナル伝達の結果が生命個体にとって都合のよい結果となることを、その生物にとっての「環境適応」という。

シグナル伝達システムの各段階

シグナル伝達の基本的な流れとしては、細胞膜上・細胞質中の因子が次々にシグナルを受け渡しながら他の経路とも影響し合い(「クロストーク」という)、最終的には内の転写因子による特定遺伝子転写調節(さらにそれによる細胞の変化)や、アポトーシスによる細胞死などの効果をもたらす、というものとなる。

この流れは、基本的に、細胞間で行なわれるものと、細胞内で行なわれるものとに分けることができる。この場合、細胞膜上の受容体において、細胞外シグナルから細胞内シグナルへの変換が行なわれる。ホルモンに代表される細胞外シグナルをシグナル分子といい、これに対して細胞内シグナル分子をセカンドメッセンジャーという。ただしステロイドホルモンなどの場合は、細胞外シグナル分子が細胞膜を透過し、そのまま細胞内シグナル分子として機能し、細胞質内の受容体に働きかけて、直接転写を制御する。このような反応は1ミリ秒ほどの時間で起きる。

多くの場合、最初の刺激から過程が進むにつれ、関与する酵素分子の数が増大する。このような反応の連鎖は「生化学的カスケード」と呼ばれ、弱い刺激から大きな反応が誘導(増幅作用)される。効率によってはたった1つの刺激で数百万ものシグナル分子を応答させることができる。この結果は生命個体にとって全く無視できるレベルのものから、病的なレベルに至るものとなる可能性もある。

細胞間シグナル伝達

細胞間シグナル伝達の方法はおおよそ4つに分類される。

内分泌
シグナルを最も広く伝えられる方法で、シグナル分子を血流中(植物の場合は導管液か篩管液中)に放出して全身に伝えるものである。このときのシグナル分子をホルモンという。
傍分泌
パラクリン型とも称する。内分泌型より狭い範囲のシグナル伝達に用いられるもので、このときのシグナル分子は血流中ではなく細胞外液中に拡散するために分泌した細胞周辺のみに留まり、近隣細胞への局所仲介物質として機能する。
神経型シグナル伝達
シナプスで行なわれるシグナル伝達自体は傍分泌型であるが、途中に電気シグナルが介在するため、結果としてシグナル分子のみによるシグナル伝達よりも長距離を高速に伝達できる。この場合のシグナル分子を神経伝達物質と称する。
自己分泌
オートクリン型とも称する。基本的には傍分泌型と同様だが、この場合シグナルを受けるのは分泌した細胞自身である。
接触型
最も直接的な短距離間のシグナル伝達で、分泌性の分子は放出されず、シグナル細胞の細胞膜に結合しているシグナル分子が、標的細胞の細胞膜に結合している受容体分子に結合することで、情報がシグナル伝達される。

細胞間シグナル伝達から細胞内シグナル伝達への変換

シグナル伝達で最も重要なのは、情報の変換過程である。体内においては、情報発信細胞から発信されたシグナル分子のうち、細胞内に侵入しないシグナル分子は標的細胞が持つ受容体タンパクと結合して新たな刺激に変換され、これが細胞内シグナルとなって細胞内の遺伝子発現や酵素活性の変化など、様々な応答を返す。このときの細胞外シグナル分子は受容体タンパクと特異的に結合することから、リガンドとして働いていることになる。

細胞外シグナル分子は大きく2つに分類できる。

疎水性の高いもの
容易に細胞膜を透過できるため、直接内部に入って細胞内酵素を活性化又は不活性化するか、遺伝子発現を調節する細胞内受容体(核内受容体ともいう)タンパクと結合する。ステロイドホルモンや甲状腺ホルモンなどがこれである。細胞内受容体の遺伝子(NR遺伝子)は動物界にだけしか認められていない。
これらは特異的に結合するので、リガンドとして機能している。それらホルモンの細胞内受容体はホルモンとの結合によって活性化され、核内に移動して直接に標的遺伝子の転写を調節する。
親水性のもの
シグナル分子が細胞膜を透過できないため、シグナル伝達は標的細胞の細胞膜上にある受容体に依存する。
受容体タンパクはシグナル分子の受容によって活性化し、新たな細胞内シグナルを生み出す。細胞内シグナルは一連の反応を惹起し、その最終的な結果が細胞の応答となる。

細胞内シグナル伝達

哺乳類の細胞内での主要なシグナル伝達

細胞膜上の受容体は、下記の3種類に大別される。これらの違いは、細胞外シグナル分子がそれに結合したときに生じる細胞内シグナルにある。

イオンチャネル連結型受容体
膜を横切ってイオンの流れが起こって膜の内外での電位差に変化が生じ、電流を生じる。
Gタンパク質共役受容体
Gタンパク質を活性化してそのサブユニットを放出し、それを通じて細胞膜のなかの標的となる酵素やイオンチャネルに作用する。
酵素連結型受容体
シグナル分子との結合で活性化し、酵素として働いたり、細胞内酵素と共同作業をしたりする。

細胞膜上の受容体が受けたシグナルは、細胞内シグナル分子:セカンドメッセンジャーを使った巧妙なシグナル伝達システムで伝えられていく。この伝達システム:細胞内シグナル伝達システムには次のような重要な機能がある。

  1. シグナルを変型または変換して、シグナル伝達に適した、応答を引き出せる形の分子にする。
  2. シグナルを受領したところから、応答の生ずるところまでシグナル伝達する。
  3. しばしばシグナルを増幅し、大きな応答を引き起こす。
  4. シグナルを配分し、いくつかの反応系に同時に影響を及ぼす。
  5. シグナルの効果を細胞内外の条件に合わせて調節できる。

このセカンドメッセンジャーにはcGMP,cAMP,カルシウムイオンなどの小分子もあるが、その大部分はタンパク質である。これらのタンパク質の多くは分子スイッチとして機能する;つまり、シグナルを受けると活性化し、シグナル伝達経路のほかのタンパク質を刺激するのである。スイッチタンパクのかなりの部分はリン酸化によってその活性が切り替えられる。

細胞内受容体は3つの系統に分類されている。

シグナル伝達経路の要素と様式

シグナル伝達の各段階を担う要素(分子)は様々であるが、およそ次のように分類できる。

シグナル伝達経路の図示

シグナル伝達経路(パスウェイ)あるいはそれらからなるネットワークは、代謝マップに似た有向グラフで図示される。ノードがシグナル伝達に関与する分子を、エッジがそれらの間の反応すなわち個別のシグナルを示す。

参考文献

  • 内山安男「3.細胞のシグナル伝達」『組織細胞生物学』南江堂、2006年、77-93頁頁。ISBN 4-524-23676-7 

脚注


外部リンク


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