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ストリキニーネ

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(−)-ストリキニーネ
識別情報
CAS登録番号 57-24-9
PubChem 441071
日化辞番号 J4.576D
KEGG C06522
特性
化学式 C21H22N2O2
モル質量 334.41 g mol−1
外観 無色結晶
密度 1.36
融点

275–285 °C

への溶解度 不溶
log POW 1.68
危険性
安全データシート(外部リンク) モデルデータシート
ICSC 0197
EU分類 猛毒 T+ 猛毒
環境への危険性 N 環境への危険性
Rフレーズ R27/28 R50/53
Sフレーズ S(1/2) S36/37 S45 S60 S61
半数致死量 LD50 2.35 mg/kg(ラット経口
出典
ICSC Sigma Aldrich
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ストリキニーネ (strychnine) はインドールアルカロイドの一種。非常に毒性が強い。IUPAC許容慣用名ストリキニジン-10-オン strychnidin-10-one。ドイツ語ではストリキニン (Strychnin)。1948年ロバート・バーンズ・ウッドワードにより構造が決定され、1954年に同じくウッドワードにより全合成された。化合物の絶対配置は1956年X線結晶構造解析により決定された。

概要

  • 単体は無色柱状結晶で、熱湯に溶けやすくアルコールクロロホルムに少し溶ける。極めて強い苦味を持つ(1ppm程度でも苦味が認識できる)。主に「ストリキニーネ硝酸塩」として流通している。
  • 医療用としては、苦味健胃薬や、痙攣誘発薬、グリシンα1受容体拮抗薬、強精剤(ED治療薬)に用いられる。蓄積性が有ることが知られている。
  • 分析・研究用としては、(1)リン酸塩の検出、比色定量 (2)亜硝酸塩、硝酸塩の検出、比色定量、臭素の検出 (3)バナジウムの検出 (4)セリウムの検出 (5)塩素酸塩、臭素酸塩の検出 (6)水銀の検出 (7)オスミウムの重量分析 (8)白金族元素および金とそれぞれ特有の結晶性沈殿をつくるので、これらの顕微鏡分析に用いられる。
  • 医療用以外の用途としては、殺鼠剤や害獣駆除剤(毒エサ)としても使用されるが、日本では毒物及び劇物取締法により毒物に指定されている。1993年(平成5年)に発生した、埼玉愛犬家連続殺人事件で犯行に使用されたことでも有名。
  • 主にマチン科の樹木マチンの種子から得られ、1819年にマチンの学名 Strychinos nux-vomica にちなみ命名された。
    日本語で名称が似ているキニーネ(quinine)とは全く別の物質である。
  • 天然ではトリプトファンから生合成されている。同じくマチンに含まれるブルシン (brucine) は、ストリキニーネの2,3位にメトキシ基 (CH3O−) が付いた構造を持ち、毒性はストリキニーネより弱い。

中毒症状

ヒトをはじめとする脊椎動物において、脊髄に存在するリガンド作動性Cl-チャネルであるグリシンレセプター (GlyR) に対し、アンタゴニストとして作用する。 これは、主に脳幹脊髄シナプスで抑制性神経伝達物質として振る舞うグリシンを特異的に阻害し、強力な中枢興奮作用を示す(言い換えると、ブレーキを無効にして暴走させる)。 痙攣を発する量は皮下注射の場合で、マウス0.4mg/kg、ウサギ0.7mg/kg、イヌ0.25mg/kg。

経口摂取すると小腸から血流中に入り、肝臓の解毒能力(ミクロソーム系酵素代謝)を超える濃度に達する15~30分ほどで症状が現れる。 激しい強直性痙攣、後弓反張(体が弓形に反る)、痙笑(顔筋の痙攣により笑ったような顔になる)が起こるが、これは破傷風の症状に類似している。また、刺激により痙攣が誘発されるのが特徴。意識障害はなく、筋肉の激しい痛みと強い不安・恐怖を伴う。最悪の場合、呼吸麻痺と乳酸アシドーシスで死に至る。 なお、心循環系、消化器系には影響を与えない。痙攣に伴い、横紋筋融解によりミオグロビン尿が出る。

ヒト致死量には個人差があり、成人の最小致死量は 30-120mg だが、3.75g 摂取して生存したケースも報告されている。

治療においては、まず患者に刺激を与えないようにして鎮静剤ジアゼパムバルビツール酸誘導体など)、筋弛緩剤を投与し、痙攣の防止と気道の確保を行う。 ストリキニーネの体内での分解は早いので、中毒から24時間を過ぎれば予後の生存率は高くなる。

文化

ストリキニーネ中毒は、人と動物に対して致命的な影響を与えうる中毒である。任意の既知の毒性反応のなかでも最も劇的な痛みを伴う症状を引き起こすもののひとつで、しばしば文学や映画(おおむね殺人事件)で描かれている。

また、マラリアの特効薬であるキニーネとの混同も見られる。

  • TVアニメ母をたずねて三千里 - 肺炎治療薬として登場するが、翌週放送のラストで、キニーネの誤りである旨がテロップで付加された。再放送でもストリキニーネを治療薬として放送した回の次回のラストでそのテロップが表示される。
  • ジュール・ヴェルヌ作『神秘の島』 - マラリア治療薬
  • マラリア治療薬「キナポン」 - キニーネとストリキニーネの合剤

ドーピング

かつては興奮剤としてドーピングに用いられた。著名な例としては、1904年セントルイスオリンピックマラソンで金メダルを取ったトーマス・ヒックスが挙げられる。

ストリキニーネには運動向上能力はないとされるが、2019年現在も世界アンチ・ドーピング機構により禁止薬物に指定されている。

全合成

ストリキニーネの構造決定に貢献したロバート・ロビンソンは、「この分子量としては、知られる限りにおいて最も複雑な有機化合物(for its molecular size it is the most complex organic substance known)」 と評した。

少ない分子量でありながら複雑な構造を持つことから、ストリキニーネの全合成は現在に至るまで化学者たちの関心を集めており、1954年のウッドワード以降様々な方法による合成法が報告されている⇒ストリキニーネ全合成

ウッドワードの合成法は28段階で収率はわずか0.00006%だったが、Rawal(1994年)らの収率10%、Vanderwalの6段階(2011年)まで改良されている。

脚注

関連項目

外部リンク



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