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ファシリテイテッド・コミュニケーション

ファシリテイテッド・コミュニケーション

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ファシリテイテッド・コミュニケーション(Facilitated Communication:FC)は、自閉症やその他のコミュニケーション障害などで発話困難な障害者の意思伝達の支援を、ファシリテーター(介助者)が身体を支えるなどのサポートを通し試みる介助法であり、科学的に否定されている。FCのファシリテーターは、障害者の腕や手を支え誘導し、障害者がキーボードやコミュニケーション・ボード(文字盤など)の文字、絵、物体を指していく介助を行う。

科学界や障害者支援団体の間では、FCは疑似科学であるという合意が広く共有されている。研究が示すところによると、FCを通じて得られたメッセージの発信源は、障害者ではなく、ファシリテーターである。ウィジャボード効果やイデオモーター効果により、ファシリテーターはメッセージの発信源は自分ではないと思い込む。FCを通じて単純な質問をしても、ファシリテーターが質問の答えを知らない場合は(例:障害者にのみ物体を見せファシリテーターには見せずに、何を見たかFCを通して障害者に質問する)、正しい回答が得られないという一貫した結果を多数の研究が再現している。さらに、障害者が目を閉じていたり、文字盤から目をそらしていたり、文字盤に特に興味を示していない状態にもかかわらず、ファシリテーターは障害者が首尾一貫したメッセージをタイピングしていると見做していたケースも数多くある。

FCは、「発達障害分野のすべてにおいて最も科学的に信憑性のない介入法」と呼ばれている。推進者の中には、テスト環境が被験者の自信を失わせる可能性を考慮すると、FCが明確に誤りであるとは証明できないと主張する者もいるが、 FCは有効なコミュニケーション介助法ではないという科学的合意に達しており、多くの言語・発達障害の専門家団体がFCの使用を強く否定している。FCを通してこれまで数多くの虚偽の虐待の申し立てがあった。

概要

FCは、重いコミュニケーション障害のある人達が自立したコミュニケーションをとれるように、アルファベットボード、キーボード、その他の装置上の文字を障害者が指差していくのを支援する手段として広められている。FCは「サポート付きタイピング(supported typing)」、「プログレッシブ・キネステティック・フィードバック(progressive kinesthetic feedback)」、「リトゥン・ライティング・アウトプット・コミュニケーション・エンハンスメント(written output communication enhancement)」とも呼ばれる。「インフォーマティブ・ポインティング(informative pointing)」とも呼ばれる「ラピッド・プロンプティング・メソッド(Rapid Prompting Method:RPM)」や「スペリング・トゥ・コミュニケート(Spelling to Communicate: S2C)」にも関連しているが、RPM、 S2Cのいずれにも有効性を示すエビデンスはない 。

FCにおいて、発話によるコミュニケーションが困難となる障害を持つ人の腕を支える者はファシリテーター(介助者)あるいはコミュニケーションパートナーと呼ばれる。ファシリテーターは障害者がキーボードやデバイス上のアルファベットを指し示す間、障害者の肘、手首、手、袖などの体の部位を支えたり触れたりする。

キャノン・コミュニケーター
キャノン・コミュニケーター

初期のFCユーザーに人気のあったデバイスのひとつは、キヤノン・コミュニケーターであり、起動させタイプするとテープに印字していくミニタイプライターだった。しかし、FCに使用するミニタイプライターを販売するアメリカの企業(Crestwood Co.およびAbovo Co.)は、ミニタイプライターをFCに使用することで障害者がコミュニケーションを取れるようになるという「虚偽で裏付けのない主張」をしているとして、後に連邦取引委員会から告発された。企業は和解し、広告キャンペーンでFCに言及するのをやめた。

FCの支持者たちは、自閉症の人々が効果的にコミュニケーションをとれない理由は、失行などの運動の問題が関係しており、「自分の能力に自信がない」ためであり身体的支援によりそのような限界は克服可能だと主張している。しかし、この主張には根拠がない。研究が示すところによると、話せない自閉症者がコミュニケーションをとれないのは知的障害のためである。

FCのファシリテーターは、障害者の腕の不随意運動を制御しつつ、障害者が誤ってタイプせぬよう、精神的にも支えながら、口頭で促しタイピングを開始させ、障害者が文字を指し示すのを支援する者とされている。また、ファシリテーターは障害者のコミュニケーション能力を信じる必要があるともされている。ダブルブラインド試験に参加した後にFCを否定するようになった元ファシリテーターのジャニス・ボイントンは、FCの研修がFCは機能するものと決めつけていたことや、ファシリテーションの複雑さが、メッセージの発信源は患者ではなく彼女自身の期待であると気づくのを困難としていたと報告した。

ファシリテーションを行っているときは他のことに気を取られすぎる。ファシリテーターは会話を継続したり、質問をしたり、質問に答えたり、介助対象者がキーボードを見ているか確認しようとしたり...頭がフル回転状態となり自分の手の動きを見失ってしまう。そのせいで、FCが機能しているかのように感じてしまうのだ。練習を積めば積むほど、ファシリテーションが実にスムーズに進行しているかのように感じられてしまうのだ。

エモリー大学心理学教授スコット・リリエンフェルドは、『Neuroethics Blog』に寄せた記事で、精神保健の実践者は自らに「専門職としての認識義務―正確な知識を求め、正確な知識を持つという専門職としての義務」があることを無視せぬよう戒めた。そしてリリエンフェルドは次のように書いた:

結局のところ、FCの支持者たちは、自閉症の人々を支援したいと強く願っていたのだ。しかし、FCがもたらす悲劇が我々に教示するところは、善意だけでは不十分ということだ。善意に、著しく不正確な知識と自己批判観点の欠如が組み合わさると、悲惨な結末をもたらすリスクがある。また、FCの悲劇は、専門家が自らの認識義務に注意を払わなければ、意図せずに重大な害を与え得ることを我々に教示している。

歴史

FCに類似したテクニックは、1960年代に現れた。エルセ・ハンセン(デンマーク)、ローナ・ウィング(英国)、ロザリンド ・オッペンハイマー (米国)により、自閉症の子供たちの教育補佐に関する初期の観察結果が発表されている。1960年代と1970年代にデンマークで研究が行われたが、国外には影響を与えなかった。科学的根拠が欠如していたため、1980年代初頭にはその議論は終息した 。

FCに使用されたキーボード
FCに使用されたキーボード

1977年、オーストラリアの特別支援教育者であるローズマリー・クロスリーが独自にFCを開発した。「ファシリテイテッド・コミュニケーション」の語は、クロスリーが名付けたものである。クロスリーの努力により、FCはオーストラリアで広く普及した。クロスリーがFCの技術を教えるメルボルンの教育と言語を通したコミュニケーション促進を目指す施設(Dignity through Education and Language [DEAL] Communication Centre)を訪れたダグラス・ビクレンは、そのとき体験したFC介入の様子を『Harvard Educational Review』誌にて紹介した。1992年、シラキュース大学の客員教授として渡米したクロスリーはビクレンと共に、FCを米国で広めることになる。米国では、アーサー・ショーローとダグラス・ビクレンが、1980年代後半からFCの普及活動を始めていた。FCはアジアやヨーロッパでも注目を集めてきた。

FCの早期ユーザーは、FCの介入が一見してシンプルである点を賞賛した。FCは、客観的評価や細かいモニタリングを要さない「教育戦略」として宣伝された。しかし、1991年という早い時期から40を超える査読付き研究がFCの有効性の実証に失敗しただけでなく、報告された成功例はファシリテーターの影響であることを示していた。ファシリテーターの影響とは、ファシリテーターの無意識の動きに起因するものであり、ファシリテーターは自分がコミュニケーションを制御していることに本当に気づいていないと考えられている。

1994年、アメリカ心理学会(American Psychological Association: APA) は、FCの科学的根拠の欠如を理由にFC使用に対し警告を発する決議を採択した。さらにAPAは、FCを通じて得られた情報を使い虐待の告発を確認または否定したり、診断または治療の決定をするべきではないと宣言した。FCに否定的な科学的エビデンスが継続的に示されていることを受けて、米国児童青年精神医学会(American Academy of Child & Adlescent Psychiatry: AACAP)、アメリカ言語聴覚学会(American Speech-Language-Hearing Association: ASHA)、拡大・代替コミュニケーション国際学会(International Society for Augmentative and Alternative Communication: ISAAC)がAPAに続き同様の声明を発表した。1998年、英国政府の報告書は、「ファシリテーターの影響が制御される途端、現象は生じなくなるのだ。これ以上の研究を正当化するのは難しいだろう」と結論づけた。1995年と1996年にFCの効果を否定するレビュー論文が、2001年には査読論文の包括的レビュー論文が発表され、「2001年までに、障害がありコミュニケーションができなかった人々――特に自閉症および関連した障害のある人々――への有効な介入法としてFCは信頼できないことが、ほぼ実証されている。主要な実証的研究は、コミュニケーションを生じさせているのはファシリテーターでありクライアントではないことを一貫して示している」という理解は、学術界においてコンセンサスに達した。

多くの人々が、FCの流行は一時的であり、流行はピークを過ぎ、疑似科学にすぎないと位置づけた。しかし、FCの支持者たちは、実証的調査を的外れであるとか、研究に欠陥がある、あるいは不要であると退け、FCを「効果的で正当な介入」と評価し、その推進運動を継続している。2014年時点においても、FC推進運動は人気があり、FCは多くの国で使用され続けていた。FCのレビュー論文で知られるマーク・モスタートは次のように述べている。

FCを支持しようとする近年の研究のほとんどは、FCは機能し、自閉症やその他の重度コミュニケーション障害を持つ人々に関連するあらゆる現象の探求に使用されるべき正当な介助法であるという前提に立脚している。このような前提は、実証研究で否定されているという事実を知らず確たる研究と疑わしい研究とを区別するスキルを持たない読者たちにとってのFCを、ますます正当な介入法であるかのように変えてしまう。そのような状況で、FCは保護者や実務者の間で有効性の思い込みを強化し続けることになろう。FC支持者の認識は、シラキュース大学のファシリテイテッド・コミュニケーション研究所のような専門組織、FCの国際的規模での広まりと受容、確かな実証研究のうち信奉者の考えを改めさせるようなものは今後もなかろうという欠乏状態のために、今後も強化されていくだろう。

FCは、のちに開発されたファシリテーターが患者に触れずに文字板を持つRPMというコミュニケーション介助法と密接に関係している。RPMの支持者はFCとの類似性を否定し、RPMのプロンプトは特定の行動を促すようなものではないと述べている。しかしRPMには微妙な合図(キューイング)が含まれているため、ファシリテーターの影響を非常に受けやすくなる。

RPMとFCの類似点は、次のようなものがある。統制された環境での検証に抵抗したり拒否すること(検証のプロセスはファシリテーターとクライアントの間の信頼関係を壊すからという理由で)、能力があると決め込むこと、効果の証拠を事例的報告に依存すること、研究知見と相容れない実践、技術、主張を固持すること、並外れた言語力や知的障害の克服といった主張、ファシリテーターの特定の反応を引き出すために無意識に行う口頭または身体的キューイング、ファシリテーターの影響を考慮するプロトコルが不十分あるいは存在しないこと。

2019年、米国ペンシルベニア州ローワーメリオン学区とその学区の公立校に通う子供の保護者との間で、RPMのブランドであるS2Cの使用に関する争議が起きた。保護者は学区がS2Cに基づく教育プログラムへの支払いを拒否したせいで子どもが無償の教育を奪われたと主張した。同年12月、ペンシルベニア州紛争解決局の審理官は、S2Cによって当該児童のコミュニケーションが可能になったというエビデンスはないと判断し、学区側の勝訴となった。

FCと同様の問題を抱えた介入効果のないコミュニケーション介助法は、名称と形態を変えながら次々開発されてきた。教育現場でのFCおよびFC類の使用も問題視されている。

解説

介助者(ファシリテーター)が、障害者の腕または手をガイドし、キーボードまたはその他のデバイスでの入力を支援しようとするものである。

1970年代後半にオーストラリアの教師が、脳性麻痺などの疾患が原因で発語できない12人の子供たちと、FCによってコミュニケーションをとったと報じられたことから知られるようになった。

その後、1990年代後半までは一部の患者や医療関係者にFCが支持されるようになったが、管理された科学的環境で一貫した結果を出すには至らなかった。

ジェームズ・ランディをはじめFCに疑念を抱く研究者は、介助者が無意識に、または意識的に、患者の手を誘導しているのではないかと疑義を挙げる。

日本における研究

1973年若林慎一郎日本精神神経学会会誌『精神神経学雑誌』75巻6号に掲載した「書字によるコミュニケーションが可能となった幼児自閉症の1例」は日本におけるFC研究の初期の事例の1つである。1955年生まれで、折れ線型自閉症といわれるタイプの男児について、1959年から13年間フォローアップした報告である。この対象児は10歳2か月から文字カードによる文字指導を受け、12歳9か月時には母親が対象児の手に触れることで「筆談」が可能が可能となり、15歳1か月のときには介助なしで筆談を行っている。

上述のようにアメリカ合衆国では1992年ごろからFCが知られるようになったわけだが、日本でも同時期に以下のような研究発表が行われている。

  • 落合俊郎、久田信行「表出援助の方法をめぐって(1)-書字・描画の援助を通して-」、日本特殊教育学会、1992年。 
  • 片倉信夫「筆談自閉症」、発達協会、1992年。 
  • 石井聖『「自閉」を超えて』 上、学苑社ISBN 978-4761493073  - コロロ・メソッド
  • 高橋秀敏「特別発表「レット症候群の未央ちゃんとの抱っこ」」『第2回抱っこ法研究会報告集』1993年。 

参考書籍

  • Rosalind C. Oppenheim (1974) (英語). Effective Teaching Methods for Autistic Children. ISBN 978-0398028589 

関連項目

外部リンク


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