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マラチオン

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マラチオン
Malathion
特性
化学式 C10H19O6
モル質量 235.25 g mol−1
外観 黄色ないし茶色の液体
密度 1.23
相対蒸気密度 11.4
融点

2.9°C

沸点

156〜157°C

への溶解度 145 mg/L
苦い
危険性
EU分類 有害 Xn 腐食性 C 環境への危険性 N
主な危険性 標的臓器/全身毒性(単回暴露)
臓器(神経系)の障害(区分1)
経口摂取での危険性 有害(区分4) 飲み込むと有害
呼吸器への危険性 ー(分類できない)
への危険性 ー(区分外)
皮膚への危険性 警告(区分1)
アレルギー性皮膚反応を
引き起こすおそれ
引火点 163 °C (325 °F; 436 K)
半数致死量 LD50 1,390 mg/kg (ラット/経口
1,500 mg/kg (マウス/経口)
識別情報
CAS登録番号 121-75-5
出典
国際化学物質安全性カード
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

マラチオン英語: Malathion)は有機リン有機硫黄殺虫剤の一種。商品名のマラソンで知られている。

アメリカンシアナミドが開発し、日本では1953年昭和28年)2月7日農薬登録を受けた(シアナミドは、後のワイス、現ファイザー)。原体輸入量は207t、単乳剤生産量252kL、単粉剤生産量230t(いずれも1999年)。主にマラソン乳剤として広く用いられ、マラバッサなどの商品名で販売されている。ホームセンターなどで印鑑なしで購入可能である。

用途

接触性・浸透移行性の殺虫剤として、農耕地のアブラムシハダニカメムシなどに用いられる他、ゴミ埋立地などのハエ・蚊の駆除や、動物用医薬品としても使用される。

アメリカでの使用

マラチオンは、農業、住宅造園で使用されている殺虫剤で、公衆衛生では防除を維持するため、アメリカ合衆国では広く使用されている。

1980年代チチュウカイミバエ防除ためにカリフォルニア州で使用された。数ヶ月の期間、郊外地域の近くに毎週、空中散布によって大規模に行われた。アラメダ郡サンバーナーディーノ郡サンマテオ郡サンタクララ郡サンホアキン郡スタニスラウス郡マーセド郡の郊外の一部の上空でも空中散布が行われた。

1981年後半にカリフォルニア保全隊の一人が、希薄したマラチオンを飲み込んだ。これはカリフォルニア州のチチュウカイミバエの発生以下で、マラチオンの安全性を実証するための試みであった。ハエを駆除するために、3600平方キロメートルに噴霧した。

西ナイルウイルス防除ために、1999年秋と2000年春には、ロングアイランドニューヨーク市の5つの地区に殺虫剤を噴霧した。

カナダでの使用

カナダでは2005年7月に、マニトバ州ウィニペグで、西ナイルウイルスの感染防止キャンペーンの一環として、噴霧した。

オーストラリアでの使用

チチュウカイミバエに対処するために使用されている。

医学的使用

低用量(0.5%製剤)でマラチオンは、治療薬として使用され、アタマジラミと体のシラミ除去に使われている。アメリカ食品医薬品局によって承認されている。

有害性

マラチオンの毒性は、コリンエステラーゼ阻害作用による。マラチオンは、毒性の強いマラオクソン代謝されることで殺虫効果を発揮するが、哺乳類ヒトではマラオクソンへの代謝が少ないため、選択毒性を持つ。

基準値

日本の残留農薬基準値は、小麦、玉葱、カボチャなどで8.0ppm以下。それ以外の作物では0.1〜8.0ppm以下。

一日摂取許容量 (ADI) は、0.3mg/kg。急性参照容量2mg/kg。

中毒症状

有機リン剤に共通な、 アセチルコリンエステラーゼ阻害による中毒症状がみられる。

ほとんどの症状は数週間以内に治癒する傾向があるが、稀に死亡することもある。

  • 可燃性(引火点163°C)であり、燃焼によりリン酸化物・硫黄酸化物を含む有毒ガスを生じる。
  • 水生生物に対する毒性が強く、ミツバチなどにも影響を及ぼす。
  • など一部の金属や、一部のプラスチックゴムを浸食・劣化させる。

コリンエステラーゼ阻害作用

昆虫の体内に吸収されたマラチオンは、シトクロムP450による酸化的脱硫反応で、オキソン体マラオクソンへと代謝される。マラオクソンはコリンエステラーゼ阻害作用がマラチオンより強く、これにより殺虫剤として本来の毒性を発揮する。

哺乳類においても同様の代謝があるが、カルボキシエステラーゼによるマラチオンの分解が速やかなため、マラオクソンへの代謝が少なく、毒性は低くなる。一方、体外で生成されたマラオクソンに直接暴露すると、毒性が高い。アメリカ合衆国環境保護庁では、マラオクソンの毒性をマラチオンの61倍と評価している。

発達神経毒性

FAO/WHO合同残留農薬専門家会議(JMPR)、内閣府食品安全委員会農薬専門調査会は「発達神経毒性は認められない」と結論を出している。アメリカ合衆国では「聴覚驚愕反射強度増大(PND23/24) 」としており、無毒性量が設定できなかったと報告している。

神経細胞への影響では、マラチオン(40mg/kg)を14日間投与したマウスは、樹状突起スパインの密度が有意に減少していたとの報告がある。

ADHDとの関連

米国の子供を調査した結果、因果関係は不明であるものの、尿中のジアルキルリン酸塩濃度、特に代謝物のジメチルアルキルホスフェート (DMAP) 濃度と注意欠陥・多動性障害の診断率に関連が示された。

発癌性

マラチオンは発癌性の有無がまだ分かってない。マラチオンは「発癌性を示唆する証拠がある」物質として、アメリカ合衆国環境保護庁によって分類されている。メスのネズミに過剰な投与量した結果、肝臓癌が発生し、曝露後に発生したネズミの鼻腔に腫瘍ができた。

両生類への影響

2008年、ピッツバーグ大学によって行われた研究では、ヒョウカエルオタマジャクシでは致死的であることを見出した。はるかにEPAによって設定された限界以下の濃度で5つの広く使われている殺虫剤(カルバリルクロルピリホスダイアジノンエンドスルファン、マラチオン)を組み合わせた場合、ヒョウカエルのオタマジャクシの99%が死亡したことが判明した。

事件

パキスタン

1976年、パキスタンでマラリアを媒介する蚊の防除で、DDTの代わりにマラチオンを散布した時に、不良品の製剤に微量含まれていた「イソマラチオン」という不純物が、マラチオンの低毒性の機構(カルボキシルエステラーゼによる解毒)を解除して、大規模な中毒事故が起こった。

食品への混入

2013年12月29日に、マルハニチロホールディングス子会社のアクリフーズ群馬工場(群馬県邑楽郡大泉町)で製造した冷凍食品から、マラチオンが検出されたことが発表され、冷凍食品の回収と群馬県庁による立ち入り調査、群馬県警察による捜査が行われた。

参考文献


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