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動悸

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動悸(どうき)とは心臓の拍動が自分で感じられる状態を指す。

動悸は病気ではない。

動作時や貧血時にみられるが、基本的には自覚症状であり他覚症状ではない。「心臓がドキドキする」などと表現されるが、必ずしも心拍数が上昇しているわけではなく徐脈の時にも生じることがある。1分間に100回以上の心拍数が計測される場合は頻脈とされ、病的なものとして扱われる。

動悸がなぜ生じるのかは明らかになっていない。本稿では動悸を「必要な心拍数と実際の心拍数の解離がみられる状態で生じる心臓の拍動が、自分で感じられる状態」と定義し、主に医学的な側面を記載する。

動悸を起こす疾患

動悸を起こす疾患は多岐におよび循環器疾患ならばどんなものでも動悸は起こりえる。またそれ以外の全身疾患でも起こることがある。

分類 疾患
心疾患 虚血性心疾患弁膜症心筋症など
肺疾患 肺炎COPDなど
消化器疾患 消化管出血など
血液疾患 貧血など
内分泌代謝性疾患 甲状腺機能亢進症、低血糖、褐色細胞腫
感染症 敗血症、発熱
中毒 アルコール、テオフィリン中毒、アンフェタミン中毒など
アレルギー アナフィラキシーなど
薬物性 アルコール、抗コリン薬など
神経原性 自律神経失調症など
精神疾患 パニック障害うつ病など
その他 脱水、低酸素血症

動悸のマネジメント

一過性の動悸であるか持続性の動悸であるのかでマネジメントは大きく異なる。来院時に動悸が消失していれば一過性動悸と考え原因検索となるが持続する場合はバイタルサイン、心電図の計測を行い、ACLSアルゴリズムに従い不整脈をコントロールする必要がある。コントロール後に動悸の原因疾患を検索する。原因検索を行う上で有効な検査としては、問診、身体診察、心電図、血液検査、画像検査などがあげられる。

問診で重要な事項としては動悸がいつ、どれ位生じたかであり、安静時か労作時に出現したのか、誘因はあるのか、頻度はどれくらい起こったのか持続時間はどれくらいあったのかなどがあげられる。既往歴としては動悸での病院受診歴、受けた検査、その他の基礎疾患が重要となる。家族歴の心臓病や突然死のエピソードも手掛かりになることは多い。社会歴としては職業、スポーツ歴、たばこ、酒、薬物歴、アレルギーの有無が重要となる。また発熱、胸痛といった随伴症状の有無を確認する。

身体診察では眼瞼結膜の貧血、甲状腺腫大、心雑音、肺雑音、下腿浮腫の有無が重要である。心電図検査では脈拍数、リズム、その他の虚血性変化やQT延長、δ波の有無などを確認する。血液検査では甲状腺機能、凝固機能検査、CKやトロポニンTをはじめ一般的なものが調べられることが多い。

動悸が持続したとしても洞調律であり徐脈または頻脈の場合は基礎疾患の治療のみを行う。洞調律の頻脈のみで致死的な疾患である可能性はかなり少ない。しかし洞調律では心拍数は150回/分以上にはならないのが一般的である。心拍数が150回/分以上の場合は不整脈があると考え、薬物療法を行う場合が多い。

診断がついたら疾患に基づいたおのおのの治療が主に循環器内科にて行われる。

ACLS 徐脈アルゴリズム

症状が持続する徐脈の場合はACLS徐脈アルゴリズムに基づいて治療がおこなわれる。ここでいう徐脈は心拍数が60回/分未満あるいは臨床状態からみて不十分な場合をいう。発熱や低血圧など脈が速くなるべき状態で脈拍数が上がらない場合は臨床上徐脈として扱う。全身状態を把握し、循環動態が保たれていれば経過観察、循環動態が保たれていなければ経皮的ペーシングの準備をする。モビッツⅡ型房室ブロックや3度房室ブロックの場合は速やかに経皮的ペーシングを行う。ペーシングを待つ間はアトロピン0.5mgの静注を行う。最大量は3.0mgまでである。ペーシングを待つ間、またはペーシングが無効な場合はアドレナリンまたはドパミンの持続静注を行い、経静脈ペーシングなど専門治療を考慮する。

ACLS 頻拍アルゴリズム

症状が持続する頻脈の場合は場合はACLS頻拍アルゴリズムに基づいて治療がおこなわれる。まずはバイタルサインや全身状態から循環動態が保たれているか、保たれていないかを判断する。循環動態が保たれていなければ電気的除細動(カルジオバージョン)の使用を検討する。意識がある場合は鎮静薬を用いてでも電気的除細動を行うべきであり、決して遅らせたりはしない。循環動態が保たれていれば薬物療法を考慮する。薬物療法はnarrow QRSかwide QRSであるのか?あるいは規則的か非規則的かによって使用する薬物は異なる。

特に重要な区別がnarrow QRSかwide QRSであるのかという点である。本来の刺激伝導系を伝導する場合は心室中隔から左室、右室へと均等に伝わるが心室性頻拍jの場合は左室または右室から伝導が始まるため偏りが生じ、伝導時間が長くなるためwide QRSになると考えられている。

上室性不整脈にはジギタリスなどを用いることがあるが心室性不整脈ではリドカインなどが用いられることが多い。上室性不整脈薬は房室伝導を抑制するものが多いため、心室性不整脈の患者に上室性不整脈薬を投与すると悪影響を及ぼしショックや心肺停止になる可能性があるからである。そのため心電図にて上室性か心室性か不明な場合は心室性として扱う。

narrow QRSであれば上室性であり、心室性頻拍であればwide QRSであるがこの命題の逆は正しくない。上室性頻脈でwide QRSとなる不整脈としては早期興奮症候群(WPW症候群)や完全脚ブロック、心室内変行伝導、Ⅰa型抗不整脈薬使用中の場合に認められる。

動悸と関係する症候

胸痛

胸痛のメカニズム
胸痛のメカニズムとしては特に新たに説明を加える事項は存在しない。特に重要な虚血性心疾患では胸痛が生じることが知られているが、何故痛いのかというメカニズムは全く不明である。心筋梗塞の患者にPTCAなどの治療を行うと患者は全身から力がみなぎってくるような開放感を持つ。逆に増悪していたら大動脈解離が存在したと考えることもできる。大動脈解離と心筋梗塞の合併の診断は非常に難しい。造影CTをとれば診断できるが、どのような場合にそこまでするべきかはコンセンサスがない(全ての心筋梗塞の患者に造影CTを行うと逆に時間がかかり救命率を下げてしまう)。背部痛の存在、引き裂かれるような痛み、胸部X線写真で縦隔の拡大をみるなど方法はあるが、専門医でも意見が分かれるところである。
胸痛の診断プロセス
まずは外傷性か非外傷性かをみる。これらはエピソードで大抵区別できるが胸部X線撮影で確定できる。非外傷性ならば、否定されるまでは虚血性心疾患として扱う。12肢誘導の心電図をとり虚血性心疾患を疑うエピソードがないかどうか問診をする。虚血性心疾患を否定できたら血管性の病変か非血管性の病変を調べる。非血管性であれば、上腹部の消化管の疾患まで鑑別にいれていく。胸痛のアプローチとしては致死的な疾患の除外、好発年齢などから可能性をランキングし、身体所見でさらに狭めていくという方法が非常に安全である。見逃してはならない胸痛をおこす疾患としては、急性冠症候群急性大動脈解離心タンポナーデ緊張性気胸肺塞栓食道破裂急性胆嚢炎急性膵炎があげられる。患者が痛みの部位を話したとき、それをそのまま医学用語に変換することは危険である。胸痛といっても胸腔内の疾患とは限らず、腹痛でも腹腔内の疾患とも限らない。胸痛の場合は、上部消化管疾患までは念頭におく。
胸膜性胸痛
胸膜などに病変がある場合は特徴的な所見がとれる。深呼吸をさせて痛みの変化を問診してみる。もし吸気に増悪する胸痛ならば胸膜性胸痛である。胸膜性胸痛をおこす疾患としては、胸膜炎肺炎肺塞栓気胸心外膜炎膠原病(特にSLE)が疑われる。
心電図でST上昇が見られたら
ST上昇は心筋梗塞を疑う非常に重要な所見であるが、特異度としてはあまりよくなく、他の疾患でもST上昇がみられる。心外膜炎心筋症、異型狭心症、早期再分極、くも膜下出血でもST上昇はしうる。ST上昇をみたら心筋梗塞と診断するには一般内科医でもできる検査としては、心電図でreciprocal changeを探す。問診、身体所見から心筋梗塞を示唆する所見、他疾患を除外する所見をとる。または血液検査を行う。CK-MBが最も普及した血液検査だが、ラピチェック(H-FABPの迅速測定)やトロップT(トロポニンTの迅速測定)が可能となり診断学は変化している。

原則として行うべきこととしては

過去の心電図と比較する。
これは早期再分極であったらST上昇が昔からあるからである。過去の心電図がないときは心電図を何回かとり心筋梗塞の経時的変化がないのか調べる。
心筋梗塞の診断的治療を行う。
狭心症であったらニトログリセリンで痛みが消失する。ニトロペンを舌下投与して改善が見られなければ心筋梗塞の可能性が高くなる。
心筋梗塞の治療
PTCAなどは専門医のもつ手技が必要となるので一般内科医でも可能な治療を述べる。行うことはMONA(モルヒネ、ニトログリセリン、アスピリン)、疼痛コントロール、バイタルサインの安定化である。具体的に行う処置としてはニトロペン(0.3mg)1T を舌下、またはミオコールスプレー1噴射(0.3mg)を舌下、これを3回まで行う。バファリン81mgを2錠、プラビックス75mgを4錠内服することが多い。腸溶錠であるバイアスピリンは急性期には用いないことが多い。ニトログリセリン無効時は塩酸モルヒネ(10mg/1ml/A)2mg(0.2ml)静注、ツベルクリン用1mlシリンジを用いるといった指示でよい。脈拍に関しては徐脈および房室ブロックに対しては硫酸アトロピン1Aを静注し、低血圧に対しては昇圧剤を行う。これらを行い専門医の到着を待つのが鉄則である。心筋梗塞で一番危険なのは不整脈、特に心室細動である。これが起こると秒単位で患者は死にいたる。確実に心電図モニターを装着しAEDを用意し患者のそばで待機するのが重要である。

呼吸困難

漢方薬治療

動悸の訴えがあるが、ホルター心電図心臓超音波検査などで異常が指摘されない場合は漢方薬が補完医療として用いられることがある。炙甘草湯(しゃかんぞうとう、ツムラ64番)が動悸の症状緩和に用いられることがある。炙甘草湯が無効のときストレス依存性の動悸の場合は柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう、ツムラ12番)が効果あることもある。柴胡加竜骨牡蛎湯はストレス依存性の高血圧の降圧にも有効である。疲れの訴えがある場合は補中益気湯(ほちゅうえっきとう、ツムラ41番)、胃もたれを伴えば六君子湯(りっくんしとう、ツムラ43番)、心身症を疑う場合は柴胡桂枝湯(さいこけいしとう、ツムラ10番)を用いることもある。

脚注

参考文献

関連項目

外部リンク


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