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浄化槽
浄化槽(じょうかそう)とは、水洗式便所と連結して屎尿(糞及び尿)及び雑排水(生活に伴い発生する汚水 = 生活排水)を処理し、公共下水道以外に放流するための設備又は施設のこと。根拠法は浄化槽法である。
浄化槽は日本で独自に開発された汚水処理施設である。浄化槽は各戸で排水処理を行う分散処理の一方式であるが、分散処理の設備として世界的に主流である設備はより簡易な構造の腐敗槽(セプティック・タンク)である。
日本の現行法(平成13年改正以降)での「浄化槽」とは「合併処理浄化槽」のことを指す。また、浄化槽の目的として、旧法(改正以前)、及び「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」及び「清掃法」(浄化槽法施行前は同法が浄化槽について、監理していた)では、汚水の衛生処理(伝染病の予防、蔓延の防止等)を目的としていたが、現法ではこれと併せて環境保全についても目的としている。
小規模槽の汚水処理は、「沈殿」による固液分離機能と嫌気性と好気性の微生物の浄化作用を利用している。一方、中・大規模槽では、汚水中に含まれる固形分の「除沙」機能と「流量調整」機能、好気性の微生物の浄化作用及び「沈澱」による固液分離を利用している。また、一部の浄化槽では、「ろ過」及び「凝集」による物理的処理及び「脱窒機能」を用いて処理水質の高度化を図っているものもある。
処理方式
浄化槽(合併処理)
屎尿と併せて雑排水(生活系の汚水)を処理するもので、現行の法律で浄化槽と定められているもの。BOD除去率90%以上、放流水のBOD濃度20mg/L以下(浄化槽法施行規則より)であることが定められている。なお、「小型合併処理浄化槽」(5〜50人槽)は昭和63年に構造基準に追加されたものである。
過去には、BOD濃度60mg/L以下,30mg/L以下のものの構造が定められていたが、平成18年2月の法律改正に伴い構造基準より削除された。また、旧構造基準時は大型槽に限られていた。
また設置地域の水質規制等により、より厳しい放流水のBOD濃度や、BOD以外の水質項目(窒素、リン、COD)について水質を求められる場合があり、性能として示されている処理方式もある。なおこの場合「ろ過」、「凝集」などの物理処理装置が生物処理に付加して設置し、処理を行う。
処理方式として、「構造基準方式」(旧構造基準、新構造基準)と「性能評定方式」に分類される。
構造基準方式
建築基準法の「屎尿浄化槽構造基準」の改定時期により、旧構造基準(昭和44年〜56年、それ以前に設置されたものを含む)、新構造基準(昭和56年〜)に分類される(現在「構造基準」は、「建築基準法」の改正により「構造方法」(構造例示)として、構造の一つの方法として分類されている)。処理を構成する各単位装置は構造基準に定められた、構造、容量、名称のものを配置して槽を構成している(容量については槽の構造上、構造基準で定められた容量より大きく設計されているものもある)。
主な処理方式として
- 嫌気ろ床接触ばっ気方式(小型)【新】
- 分離接触ばっ気方式(小型)【新】
- 接触ばっ気方式【新】
- 長時間ばっ気方式【旧、新】
- 標準活性汚泥方式【旧、新】
- 散水ろ床方式【旧】
※ (小型):小型(小規模)合併浄化槽として構造基準に追加して、定められているもの(新構造基準)。【旧】:旧構造基準時に構造基準として定められていたもの。【新】:新構造基準として、構造基準に定められているもの。
小規模槽
小規模槽(小型合併浄化槽)の構造として、前処理装置の「嫌気ろ床槽」(沈殿分離槽にろ材を充填し、固液分離と併せ汚泥の捕捉と嫌気処理を行い、汚泥の減容化、分解性の向上を図っている)または「沈澱分離槽」を持ち、水処理装置の「接触ばっ気槽」及び「沈澱槽」を持つ。ばっ気槽及び沈澱槽より「汚泥返送装置」を持ち、水処理装置内で発生及び堆積した汚泥を前処理装置に戻す構造となっている(初期の頃のものは汚泥返送装置を持たないものもある)。
中規模槽
中規模槽の構造として、前処理装置に「沈殿分離槽」または「流量調整槽」+「汚泥貯留槽」を持ち以降の処理装置は小規模と同様の装置を持つ。なお、旧構造の装置では「沈殿分離槽」、「流量調整槽」を持たないものもある。
大規模槽
大規模槽の構造として前処理装置に「流量調整槽」+「汚泥貯留槽」を持ち以降の処理装置は小規模と同様の装置を持つ。なお、旧構造の装置では、「流量調整槽」+「汚泥貯留槽」を持たないものもある。
性能評定方式
処理を構成する各単位装置を製造メーカーが独自に構造、容量、名称を設定し、処理性能に関しての「性能評定試験」を行い認可、製造されているもの(構造基準上では「第13構造」(個別認定)として定められていたものである)。建築基準法の改定により製造、設置が可能になった。
近年製造、設置されている製品のほとんどは性能評定方式に依るものである。現在、性能評定の実施は日本建築センターが行っている。
- 主な処理方式
- 担体流動生物ろ過方式
- 回分活性汚泥方式
- 膜分離活性汚泥方式
※ 処理方式の名称は各製造メーカーが独自に定めているため、上記の名称とは必ずしも一致しない。
性能評定方式の槽の総容量は構造基準方式に比べ80〜50%程度である。
派生型として、高濃度対応型(ディスポーザー汚泥対応型や主に屎尿汚水のみの流入対応型、窒素、リン、CODに性能値をもつ処理方式)のものもある。
小規模槽
前処理装置の「沈澱分離機能」の固液分離機能の向上を図るため、「ろ過機能の向上」(充填ろ材の汚泥捕集性の向上)、「ピークカット流量調整機能」(設計流入水量の5〜20%程度の水量を固液分離槽内に一時貯留し、水処理装置へ定量移送)を用いている。水処理装置に「担体」(小型(1cm3程度)のプラスチックの管体やスポンジなど)を充填し、曝気攪拌による生物処理を行っている。表面積が大きいため付着生物量が多く、効率的な処理が行える。また、装置内には静止部を設け、ろ過機能を併せ持ち固液分離を行う。処理に伴い発生する汚泥は、静止部下部より循環装置および汚泥移送装置により前処理装置へ移送・貯留する。また、曝気装置にタイマーを設置し、自動運転にて「ばっ気と循環」・「逆洗と汚泥移送」の切り替えを行い処理性能を維持しているものもある。
中規模槽
固液分離機能(小規模槽と同様の機能)または流量調整機能(設計水量の50%程度の水量を貯留し、定量的に水処理装置に移送する)と水処理装置(主に担体流動生物ろ過)を組み合わせ、処理装置を構成している。100人槽程度までは固液分離機能、それ以上は流量調整機能を採用する場合が多い。
大規模槽
流量調整機能と併せて、水処理装置内の組み合わせとして
- 活性汚泥+液中膜(RO膜)を充填し、吸引ろ過により処理を行う。
- 活性汚泥+回分処理(ばっ気槽をばっ気工程、沈澱工程、排出工程と制御し処理を行う)
- 担体流動生物ろ過(小型、中型槽と同様の構造のもの)
を組み合わせたものもある。また1、2については処理工程中に硝化脱窒槽を設置したものや、水処理薬剤を直接水処理装置内に添加する事により、処理性能の高度化を図っているものもある。
なお、構造基準方式とは「施工」、「維持管理」、「清掃」の方法が異なるため、製造メーカーは「施工要領書」、「維持管理要領書」を発行し、その実施方法を提示している。
みなし浄化槽(単独処理)
屎尿(便所からの汚水)のみを処理するもので、生物化学的酸素要求量(BOD)除去率65%以上、放流水のBOD濃度90mg/L以下であることが定められている。
平成13年(2001年)4月1日以降の新設が禁止され、平成18年2月の法律改正時に浄化槽の定義が変更されたことに伴い、構造基準より削除された。浄化槽法上では「浄化槽とみなす」と定義されている。
なお、既設のみなし浄化槽(単独処理)については、下水道等の計画が無い地区に設置されているものについては、浄化槽(合併処理)への転換を図る事を努力することが求められている(浄化槽法附則)。
設置人槽としては、2000人槽までが構造基準で定められているが、大型槽については腐敗型のものがほとんどである。
旧構造基準型
- 主な処理方式
- 腐敗型
- 平面酸化方式
- 散水ろ床方式
固液分離装置の「腐敗室」と水処理装置の「散水ろ床」(砕石等のろ材を充填し、その表面に生物膜を形成し水を処理する方式。均等な散水を確保するため、上部に樋を設置し樋の切り欠き部より、腐敗室よりの流出水を均等に散水する)及び「平面酸化」(平面的に配した流路に生物膜を形成し、腐敗室よりの流出水を流路中に生物膜を形成する)を持つ。ばっ気装置等の機械装置を持たないため、容量が大きく取られている。腐敗処理を伴うため発生する臭気の拡散と槽内の通風を確保するため臭突を設置する。槽の容量確保のために処理装置を深くするため、放流側にポンプを設置し放流する場合がある。
- 曝気型(ばっ気型)
- 全曝気方式(全ばっ気方式)
- 分離曝気方式(分離ばっ気方式)
固液分離装置の「沈澱分離室」と水処理装置の「曝気室(ばっ気室)」及び「沈澱室」を持つ。水処理装置に「曝気装置(ばっ気装置、空気を送り込むブロワーと散気装置)」を設置し、常時曝気することにより処理の効率化を図り、装置の小型化に貢献している。なお、全曝気方式は「沈澱分離室」を持たない。
旧構造基準の装置は大型化への対応や、安定した処理水質の維持、使用ピーク時の対応が難しい状況があった。また処理に伴い臭気が発散する状況があったため、処理の安定化と処理規模の大型化への対応を含めた構造基準の改定が行われた。
新構造基準型
- 主な処理方式
- 分離曝気方式(分離ばっ気方式)
- 分離接触曝気方式(分離接触ばっ気方式)
固液分離装置の「沈澱分離室」と水処理装置の「曝気室(ばっ気室)」及び「接触曝気室(接触ばっ気室)」及び「沈澱室」を持つ。なお、「沈澱分離室」容量は旧構造基準のものに比べ大きく設定している。
水処理装置の「接触曝気室(接触ばっ気室)」は、曝気室内に「接触材」を充填し、生物膜を形成し処理を行っている(同能力(人槽)の分離曝気方式の曝気室に比べ小型である)。
材質(駆体)
近年製造されるもののほとんどがプラスチック製(FRPやジシクロペンタジエン(DCPF)等の材質)で一体形成される(槽を上下または、左右に分割して成形し、内部装置(隔壁、ろ材、配管など)を配置し、張り合わせ整形する)。成形方法は、スプレーアップ式か、プレス式で行われている。
大型槽については、FRPの管体に内部装置を配置した構造となっている。
また大型槽や旧構造基準で製造された、散水ろ床、平面酸化については、RC製のものがある。近年では、ボックスカルバートで施工されているものがある。
人槽
処理能力の単位で、何人用のものかを示す。最小のものは「5人槽」(浄化槽、みなし浄化槽とも同じ)であり、
- 浄化槽:1.0 m3/日(一人当たり一日水量0.2m3、流入BOD濃度200mg/L)
- みなし浄化槽:0.25m3/日(一人当たり一日水量0.05m3、流入BOD濃度260mg/L)
を標準としている(括弧内の数値は標準的な設計をする時に用いる数値)。
設置する浄化槽の人槽を決定する方法として、JIS規格(JIS A3302-2000「建築物の用途別による屎尿浄化槽の処理対象人員算定基準」)により建築物の用途や床面積毎の人槽の算出方法や、用途毎の床面積あたりの水量や流入BOD濃度が定められている。ただし、必ずしもJISの算定方法と実態の流入状況が一致するものではなく、使用実態として一人あたりの使用水量が設計より多い場合や、設置人槽より使用人員が多い場合や少ない場合および高濃度汚水が流入する場合など、水質の維持が困難な事例が見受けられる(多い場合の事例として、モレラ岐阜参照)。このためJISでは例外事項を設け、類似施設および実際の使用状況を考慮した設計ができることとなっている。
なお、規模の大・中・小として、
- 小規模:5〜50人槽
- 中規模:51〜200人槽
- 大規模:201人槽以上
と一般的には分類している。
設置基数
2021年3月末時点での設置基数は、約751万基で設置基数のうち、51.5%が合併浄化槽である(約382万基)。
設置人槽別としては20人槽以下のもの(主に住宅用として用いられている)が90%を占める。また構造別としては旧構造基準のものが約91万基を占め、近年に急速に普及していることが窺える状況である。令和元年に調査結果により、合併処理浄化槽の設置基数は単独処理浄化槽を上回ったと公表された。
ただし、設置基数については、設置の状況が明確ではなく(下水道へ接続後の廃止届が提出されていないもの、未届けで設置されているもの、設置届けが重複し提出されているもの等がある)、設置数の信憑性については不明である。
なお、設置数は近年減少傾向にある。ピーク時の設置基数は890万基である(平成13年末環境省公表資料より)。
施工と管理
施工方法
標準的な施工方法として、埋設設置で行われている。家庭用の場合、乗用車一台程度の面積を要するため、近年の施工場所は家庭の表側(庭、駐車場など)に施工される例が多い。家庭より排出する汚水を全て処理するために管路が長くなるので埋設位置が深くなり放流先が槽より高くなる傾向にあるため、放流ポンプを設置し放流する事例が多くなっている。
また、埋め立て地・岩盤・湧水発生地等の埋設が不可能な場所の場合、および仮設の場合埋設が困難であることと、工期の短縮のため、半地下設置および地上設置が行われる。この場合、自然勾配での流入が不可能なため、配管経路中及び槽直前に「中継ポンプ槽」や「原水ポンプ槽」を設置、槽へ汚水を流入させる。ただし、設置状況により高所作業(マンホール位置が地面よりの高さが2mを超える)となる場合の足場・柵などの高所作業対策、および低温対策(駆体が寒気にさらされる事による機能低下)が必要となる。
なお、施工については専門の知識を持った者(浄化槽設備士)が施工することが定められているが法的罰則はなく努力目標である。
保守点検
定められた期間に一度以上、機器の調整点検、水質検査や消毒剤、水処理薬剤の補充、害虫駆除等を定期的に実施する事が定められている。
点検の実施頻度は、「構造基準型」については、毎年1回以上と定めている(浄化槽法施行規則により、処理方式や処理能力(人槽)により、実施する回数を定めている)。「性能評定型」については、「維持管理要領」に定めている(構造基準型の類似の処理方式、人槽とほぼ同じ回数が定められている)。点検方法は、その構造毎に異なる。
実施にあたっては、「技術上の基準」に基づき実施する事が定められているため、専門の知識を有するもの(浄化槽管理士)に委託する事が求められている。浄化槽の管理を業とする個人および法人は、管轄する行政庁(県、および保健所を設置する市(政令指定都市、政令市、中核市等))に登録することが条例により求められている(神奈川県横浜市、大阪府大阪市を除く)。
また大規模槽(501人槽以上(水質汚濁防止法に基づく指定地区については201人槽以上))については、水質汚濁防止法の特定施設に定められているため技術管理者の設置が求められている。 保守点検作業では、設置機器の調整や軽微な部品交換、制御装置の調整、消毒剤、水処理薬剤の補充、害虫の駆除、汚泥の移送および返送、清掃時期の判断等を行う(設置されている設備、処理方式により保守点検の内容は異なる)。
清掃
浄化槽に流入および処理に伴い発生した汚泥等の引き出し、調整及びこれらに伴う機器類の洗浄などの作業の行為。法律に基づき毎年1回以上実施する事が定められている(構造基準型、性能評定型とも)。なお、全ばっ気方式はおおむね6ヶ月に1回以上(施行規則による)と定められている。
中・大規模槽の場合発生する汚泥量と貯留機能の容量により、法律の回数に関わらず清掃を行う必要がある。なお、「性能評定型」の場合「維持管理要領書」に清掃の頻度を定めている。処理性能の高度化により汚泥発生量が増える傾向にあるため、清掃の頻度、量については構造基準型に比べ多く設定する必要がある(槽のコンパクト化に伴い汚泥の貯留容量が小型化する傾向にあるため、清掃の頻度を2週に1度と定めている処理方式のものもある)。
清掃により発生する汚泥(収集汚泥)は、一般廃棄物に分類され、設置地域の自治体(各市町村)の処理計画に基づき収集・処理されている。
法定検査
保守点検とは別に都道府県知事が指定した検査機関による水質に関する法定検査が定められ、受検することを浄化槽の設置者および管理者に義務づけている。検査機関は、各県1および複数(全国で延べ65機関)が指定され(検査機関は各県により地域および人槽により担当を分類している)、定められた内容に基づき検査を実施している(検査項目、判定の方法等については、各県により異なる)。なお、11条検査の受検状況については思わしくない状況である。
- 「設置後等の水質検査」(第7条検査)
- 新設、規模の変更等を行った場合、使用開始後3ヶ月から5ヶ月の間に行い、施工状況や槽の機能を果たしているかを検査するもの。
- 「定期検査」(第11条検査)
- 毎年行い、維持管理・清掃の実施状況や、機能を果たしているかを検査するもの。
法律の改正(平成18年)により、行政機関より設置者または管理者に受検に対して、「助言」、「勧告」、「命令」を出すことができるようになり、命令に従わない場合、行政処分(過料)が科せられる場合がある。
機能障害・設備の故障
流入する汚水は主に生活系の排水であるため、施工が正しく行われていれば、誤った使い方や、設計した能力以上の水量、濃度での流入が無く、適正な維持管理が行われていれば、概ね性能を満たすことが出来る(機器、および内部装置の経年劣化、駆体破損等による障害を除く)。流入水量が設計水量以内でも、ピーク水量が多い場合水質の維持が困難な場合がある。また、流入水量が著しく少ない場合、汚泥の解体による透視度の低下や、処理水のpH値の低下を招く場合がある。
機器の不備、維持管理が不十分な場合機能を発揮できない場合がある。そのため保守点検は使用開始前から行う事とされている。また速やかに機能を発揮させるために、シーディング(種汚泥の投入)を行う事が必要である。
水量以外での機能障害で主に原因となるもの
- 家庭の場合での機能障害
- 厨芥・油脂分の流入が多い(高負荷)、洗濯排水の流入が多い(発泡)、便器洗浄剤等薬剤の流入が多い(発泡およびpH値の低下および上昇)、ペットの糞尿(性能として、人の屎尿を処理するものとしている)・毛等難分解物質の流入、トイレットペーパー・生理用品等の大量流入(汚泥の堆積増加による詰まり)
- 事業所の場合での機能障害
- 事業系厨房の厨芥の流入が多い、便器洗浄剤等薬剤の流入が多い、雑排水の流入が少ない、事業系排水の流入が多い(浄化槽法では一部の事業系排水の流入を認めている)。
- その他機能障害となるもの
- 事業所系統の用途で場合、最近のトイレでは節水便器を設置する傾向にあるため、浄化槽へ流入する屎尿のBODや栄養塩類濃度が高くなる傾向にあるため、雑排水の流入が少ない施設では、水質を維持することが難しい状況がある。
- 活性汚泥方式等の浮遊汚泥を処理に用いる場合、処理槽内に死水域が生じる場合、糸状菌が発生し(バルキング現象)処理機能の低下を引き起こす。
- 家庭や、医療施設、老人ホーム等では、雑排水使用量が多くなる傾向があり、処理能力以上の水が流入する傾向にあり、水質の維持が難しい状況がある。
- 医薬品の常用や、糖尿病患者などの屎尿が流入する場合、機能障害が発生する場合がある。
- ミジンコ、サカマキガイ、ヒル(主にイシビル)等の生物が発生した場合、生物膜を食害する。また虫の幼虫(主にユスリカ蚊の幼虫等)が大量発生し、槽内配管内に詰まり、機能障害が発生する。
機器・駆体の損傷による障害
- 機器については、常時稼働する機器が多いため、5〜10年程度で故障等発生する場合が多い。
- 槽内配管については、槽内で発生するガス、汚水中に含まれる塩分等で10年程度で腐食、漏れが発生する場合が多い。
- 維持管理が不十分な場合、槽内設備(濾材、接触材、担体)等の詰まりから、押さえの破損による浮上、流出が発生する場合がある。
- 駆体については、樹脂製のもの(FRP等)は駆体そのものの劣化が進みにくいため30年程度は補修等の必要がないようであるが、外部よりの力(過重物の積載、地震、土圧、水圧など)が加わり、破損・変形が発生(漏水、隔壁の変形・破損、配管の脱落、勾配不良、浮上、沈下、水平の狂いなど)する例が認められる(東日本大震災では、震災による駆体の破損、浮上、沈下、および液状化による破損、浮上、沈下が多数認められた)。RC製については、特に腐敗式は、発生するガスにより、20年程度で内部コンクリートの劣化により、補修が必要になる傾向にある。
- マンホールは、鋳鉄製の物は上部よりの過重による破損・変形、および発生するガス(消毒剤による塩素ガス及び、汚泥の腐敗による硫化水素等の腐敗性ガス)によりマンホール内側より腐食する場合がある。樹脂製の物は鋳鉄製同過重による物に加え、紫外線による劣化が発生する。
衛生害虫
槽内に水および汚物を貯留することにより衛生害虫が発生する。
そのほか分類として衛生害虫に属さないものとして、ミズアブ(アメリカミズアブ)等が発生する。ミズアブ(アメリカミズアブ)の幼虫(蛆)は浄化槽から配管を伝って便器に出て来る事があり、必要に応じて、駆除が必要となる。
設置整備補助事業
個人の浄化槽の設置に際し、設置費用の一部補助を行い設置を促す事業。従来は、「みなし浄化槽」と「浄化槽」の製品価格差を埋める為に事業を実施していたが、法律改正により「みなし浄化槽」の設置が出来なくなったため、事業の目的を「みなし浄化槽から浄化槽への転換」を目的に補助を行う事業へと変更された。なお、事業に合わせて「みなし浄化槽の撤去費用」を補助する事例もある。実施の有無や補助対象になる要件・補助額は自治体により異なる(事業の実施状況については、各自治体のHP等参照)。
なお、法律的には現在設置されているものが「みなし浄化槽」であっても、設置時の法律に基づき「設置届」について受理されているため違法ではない。
市町村整備推進事業
生活環境の保全及び公衆衛生の向上を目的に、自治体主体で合併処理浄化槽の整備及び管理を行う事業である。環境省所管の国庫補助事業であり、「特定地域生活排水処理事業」ともいう。類似事業に、国庫補助金を使用せずに自治体の単独事業として実施する「個別排水処理事業」がある。実施状況は自治体により異なる(事業の実施状況については、各自治体のHP等参照)。
この事業についての浄化槽設置者及び管理者は、自治体または管理の委託(組合等の維持管理組織)を受けた者による。人口密集地区の汚水処理施設の整備は、公共下水道等の「集合処理」による整備が一般的であるが、人口密度が低い地域においては、費用対効果の面で「個別処理」が優位となることから、浄化槽を「下水道と同等以上の性能(水質の維持が可能)を有する」と位置づけ、合併処理浄化槽により汚水処理事業を実施している。近年では整備期間が短い(申請から竣工まで半年程度)ことから、効率的な整備の利点も謳われている。
使用者(家屋または土地所有者)の敷地内に自治体が浄化槽を設置し、管理等(法律に基づく維持管理、清掃、法定検査、基本的な補修、機器稼働に関する給電設備の設置および管理)についても自治体が行う。また、自治体が使用者より合併処理浄化槽使用料を徴収し、汚水処理費(維持管理費及び資本費)を賄う。
高度処理浄化槽(法律で定められた性能以上のBODの他に、窒素、リンなどを処理性能として持つもの)が設置される事例が多い。
類似施設
- 下水道(「下水道法」に基づき設置・管理されているもの)
- コミュニティ・プラント(「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に基づき設置されているもの)
- 農業集落排水施設
- 漁業集落排水施設
技術移転
雑排水の適正処理を行うことを目的として、合併浄化槽の開発が行われ、この処理システムについては「個別処理」システムとして、海外へ技術移転が行われている。ただし、移転先の文化(生活様式)、水道の普及状況、技術者の能力など普及には課題がある。