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砂嵐
砂嵐(すなあらし、英: sandstorm)あるいは砂塵嵐(さじんあらし、duststorm)とは、塵や砂が強風により激しく吹き上げられ、空高くに舞い上がる気象現象。サンド・ダストストームと総称されるが砂塵嵐等の定義は国や研究者により異なる。空中の砂塵により、見通しが著しく低下する。砂漠などの乾燥地域において発生する。
定義
サンド・ダストストームと総称される現象には、日本語の砂塵嵐、中国語の砂塵暴のような気象現象を含むが、これらは国や研究者により定義が異なることが問題点として指摘されている。
まず"duststorm"と"sandstorm"は厳密な定義が異なる。"duststorm"は、吹き上げられている土壌粒子の多くが粒径1/16ミリメートル以下、砕屑物の分類上「シルト」や「粘土」等であるものをいう。 一方"sandstorm"は、吹き上げられている土壌粒子の多くが粒径 2 - 1/16 ミリメートルの「砂」であるものをいう。
"duststorm"は乾燥した土地であれば発生しうるのに対して、"sandstorm"はいわゆる「砂砂漠」の砂丘のように、粒径の小さい微粒子よりも砂の方が多いところでしか発生し得ない。また、"duststorm"は上空数千メートルの高さまで舞い上がり、時には砂の壁を形成するほどに発達するのに対し、"sandstorm"は砂粒が地面を跳ねながら進む運動の動きをするためせいぜい数メートルまでしか舞い上がらず、15メートルを超えるようなものは稀と言われる。
日本語では"duststorm"は「砂塵嵐」、"sandstorm"は「砂嵐」と訳すが、「砂塵嵐」が砂と塵の2つの語を含んでいることから"duststorm""sandstorm"2つを総称して「砂塵嵐」と呼ぶ場合もある。
気象観測において天気を通報する際には、国際気象通報式のSYNOPおよびSHIPにおいて砂嵐や砂塵嵐を表すものは以下の8種類ある。
- 09.現在観測所にはないが視程内に砂じんあらしがある、または前1時間内に砂じんあらしがあった→
- 30.弱または並の砂じんあらし。前1時間内にうすくなった→
- 31.弱または並の砂じんあらし。前1時間内に変化なし→
- 32.弱または並の砂じんあらし。前1時間内に濃くなった→
- 33.強い砂じんあらし。前1時間内にうすくなった→
- 34.強い砂じんあらし。前1時間内に変化なし→
- 35.強い砂じんあらし。前1時間内に濃くなった→
- 98.観測時に雷電。砂じんあらしを伴う→
METARやTAFでは、「視程障害現象」の欄のDUがちり、SAが砂を表し、「特性」の欄の低いを表すDR、高いを表すBLと組み合わせて用いる。
日本では、「塵または砂」が強風により空中高く舞い上がっていて、視程1キロメートル未満のときに天気を「砂じんあらし」とする。
観測
日本では、天気を自動で判別する機械が導入され、目視観測を2019年2月から順次終了したことに伴い、「砂じん嵐」の記録を終了した。
発生
北アメリカのグレートプレーンズ、アラビア半島、ゴビ砂漠、タクラマカン砂漠、サハラ砂漠などにおけるものが有名である。地表の乾燥した地域では珍しい現象ではなく、砂嵐の多い地域では、1日に数回も発生したり、1回の砂嵐が数日間続いたりする例もある。一般的に砂漠と呼ばれる地域ではほぼ例外なく砂嵐が発生しうるが、地表面の状態によっては発生しにくい砂漠もある。
例えば、地表のほとんどが岩石で覆われていて砂塵の少ない岩石砂漠地帯では、強風が吹いても砂嵐は発生しにくい。また同様に、土砂漠やサバンナなどで、雨期に入って湿ったり、植生に覆われたりして、土壌が固定されると砂嵐は発生しにくくなる。このような性質から、多くの地域では砂嵐に季節性があり、乾期の特に風の強い時期に、砂嵐が最も多く、激しくなる。
砂嵐の原因には大きく2つある。1つは地表面の状態であり、乾燥しているほど、土壌粒子が細かいほど、土壌が柔らかく移動性の砂塵層が厚いほど、砂嵐は発生しやすい。もう1つは天候の状態である。ある程度の広範囲に強風が吹くと、砂嵐が発生する。地形の影響で差があるが、多くの乾燥地域では、風速約10メートル/s以上の風が吹き続ける天候下では砂嵐が発生しやすいとされている。一般的に、低気圧の接近や寒冷前線の通過による強風が、砂嵐を発生させる。また、大気が不安定な状況下で局地的に突風が吹いて、砂嵐を発生させることもある。
大抵の場合、砂嵐の中は周囲よりも高温で乾燥している。砂嵐の中に含まれる砂塵が空気中の水分を奪うとともに、空気へと熱を放出するためである。しかし、時に雨を伴った砂嵐が発生することがあり、湿った砂嵐も存在する。
発生点から砂嵐の発生を見た場合、地表付近からにわかに砂が舞い上がり始めて濃度が増していく様子が観察される。一方、少し離れた地点からやってくる砂嵐を見た場合、砂嵐の塊、いわゆる「砂の壁」が迫ってくる様子が観察される。弱い砂嵐は地表から上空数十メートル程度までしか砂塵が舞い上がらないが、強い砂嵐の場合は上空2,000~5,000メートル程度まで達する。ただし、粒子が大きいものは高く上がらないので、濃い砂嵐は大体高さ数百m程度になるのが普通である。
昼間でも視界が数メートルになるような濃い砂嵐であっても、低気圧などの強風帯とともに数百~数千キロメートルを移動して各地に被害をもたらすことがしばしばある。発生地では砂丘がごっそり数キロメートル移動してしまうような場合もある。飛来地でも、数糎もの砂が積もり、町の景色が一変するような場合がある。一般的に、砂嵐が濃いと日光が散乱されるため周囲が赤みを帯びてきて、さらに濃くなると日光が完全に遮られて夜のように暗くなる。
屋外で砂嵐に遭遇した場合、砂が体に付着したり吸い込んだりすることで不快感を覚えたり、吸い込んだ砂が気道や肺に達することで健康に影響が及んだりすることがある。これらに対処するため、砂嵐のときには外出を控えるなどし、やむを得ず外出する場合は、体の広範囲を覆える長袖の衣服を着用したり、帽子やスカーフ、布などで頭を覆って砂の侵入を防いだりする対策がとられる。砂嵐の常襲地域である中東などでは、砂の侵入が少ない、一枚布や体を広く覆える形状の衣装が一般化している。
粒子の細かい砂塵は、高く舞い上がって上空の強い気流に乗り、長距離を移動する。アラビア半島やゴビ砂漠、サハラ砂漠などの砂嵐は大規模な長距離移動をすることで知られており、砂嵐とは無縁にも思える、温帯や熱帯の湿潤地帯にも届いて砂塵を降らせることがある。
砂嵐の地方名
各地の砂嵐や砂嵐をもたらす「風」には、固有名詞がついたものも多い。
- ハブーブ - 北アフリカ、中東。アメリカでは砂嵐を伴った強風を表す気象用語として採用されている。
- シャマール - ペルシャ湾沿岸
- ハムシン - 北アフリカ、アラビア半島
- シムーン - 北アフリカ、中東
- ギブリ - リビア
- シロッコ - イタリア
- ハルマッタン - 西アフリカ
- ブリックフィールダー - オーストラリア
- 黄砂 - 東アジア
顕著な砂嵐被害の例
この節の加筆が望まれています。 |
- 1930年代 - アメリカ グレートプレーンズ - 急速な農地拡大後に大量の耕作放棄地が発生し、乾燥により砂塵嵐が頻発した。ダストボウルと呼ばれている。
- 1993年 - 5月5日 中国北西部寧夏回族自治区、内モンゴル自治区アルシャー盟、甘粛省 - 「黒風暴」と呼ばれる激しい砂塵嵐が集落を襲い、耕地21万ヘクタール、森林18万ヘクタールが被災、電柱倒壊による停電、鉄道や道路の埋没も発生した。家畜の死亡・行方不明48万頭、負傷者386人、死者・行方不明者112人に上り、記録が残る中で中国史上最悪の砂塵嵐であった。
- 2012年 - 3月13日 アメリカ ワシントン州 - アメリカの都市では珍しい大規模な砂塵嵐が来襲。視界がゼロに近い状態になり、交通事故が多発した。
地球以外の砂嵐
砂嵐の発生は地球上に限らない。例えば火星上では地球上と比較すると発生時間、面積共に大規模な砂嵐が発生し、時には星全体を覆うこともある。規模が大きくなる原因として、火星の大気が地球の約1/100と希薄な影響で、巻き上がった砂塵が大気を熱する効果が地球より高く、それが上昇気流を強めて砂嵐を自己増強しているとの仮説がある。火星の大規模な砂嵐は、観測時の条件が良ければ地球上からも天体望遠鏡で観測できる。
脚注
注釈
関連項目
- 塵旋風 - 地表から垂直な漏斗のように砂塵が舞い上がる現象。
- ダストボウル - 土地利用の失敗などにより、砂嵐が頻発したアメリカの例。
- スノーノイズ - 通称「砂嵐」。アナログテレビなどで見られる映像、及び音声にノイズが入る現象。
外部リンク
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