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自律神経不全
自律神経不全 | |
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別称 | 自律神経障害 |
自律神経系 | |
診療科 | 脳神経内科, 神経学, Neurology |
症候学 | autonomic nervous system |
原因 | Inadequacy of sympathetic, or parasympathetic, components of autonomic nervous system |
リスクファクター | Parkinson's disease, multiple system atrophy, spinal cord injury and diabetes |
診断法 | Ambulatory Blood pressure, as well as EKG monitoring |
治療 | Symptomatic and supportive |
自律神経不全(じりつしんけいふぜん)は、(脳)パーキンソン病,多系統萎縮症, (脊髄)脊髄損傷, (末梢神経)糖尿病などの病気により心循環系・膀胱・腸管などの症状をきたしたもので、脳神経内科が中心となり診断治療を行うことが多い。末梢神経疾患は神経伝導検査、脊髄・脳疾患はMRI、パーキンソン病は心筋MIBGシンチグラフィーなどの検査を行う。原因治療と並行して対症療法を十分に行う。(こころの病気である不安は自律神経失調症を参照。)
自律神経不全の症候
自律神経不全(dysautonomia, autonomic failure, 自律神経障害autonomic dysfunction)の症候は多彩であるが、特に頻度が高く生活の質に関わる重要な症候として、以下のものが挙げられる。 ★1)起立性低血圧~血圧下降の起因因子として、起立(起立性低血圧)の他に、食事(食後性低血圧)、運動(運動後低血圧)、排尿排便(排尿排便失神)が良く知られている。★2)尿閉と尿失禁(過活動膀胱)★3)胃排出能低下とイレウス ★4)睡眠時無呼吸、この他、皮膚自律神経機能として発汗低下、瞳孔自律神経機能として縮瞳などがみられる。
- 発汗低下 Anhydrosis
- 視調節低下 Blurry or double vision
- 神経因性消化管障害 neurogenic bowel dysfunction
- 便失禁 Bowel incontinence
- 便秘 Constipation
- 腸閉塞 paralytic ileus or intestinal pseudoobstruction
- 立ち眩み Dizziness
- 嚥下障害 Difficulty swallowing
- 運動不耐症 Exercise intolerance
- 座位での血圧低下 Low blood pressure
- 起立性低血圧 Orthostatic hypotension
- 失神 Syncope
- 神経因性膀胱 neurogenic bladder dysfunction (NB)
- 排尿障害 lower urinary tract dysfunction(LUTS) or urinary dysfunction
- 尿失禁 Urinary incontinence or urinary retention
- 尿閉
自律神経不全の原因
自律神経不全(自律神経障害)の原因は多様で、下記のような疾患がある。
- Amyloidosis
- Autoimmune disease, such as Sjögren's syndrome or systemic lupus erythematosus (lupus), and autoimmune autonomic ganglionopathy
- Craniocervical instability
- Diabetes
- Eaton-Lambert syndrome
- Ehlers-Danlos syndrome
- Guillain-Barré syndrome
- HIV and AIDS
- Multiple sclerosis
- Paraneoplastic syndrome
- Spinal cord injury
- Synucleinopathy, a group of neurodegenerative diseases including dementia with Lewy bodies, multiple system atrophy, and Parkinson's disease
- Surgery or injury involving the nerves
- Toxicity (vincristine)
機序
自律神経不全の機序は複雑で、障害される系統により異なるといえる。 ★1)起立性低血圧、★2)尿閉、★3)胃排出能低下イレウスは、ぞれぞれ血管周囲神経-交感神経adrenergic alpha1B受容体、膀胱-副交感神経 muscarine M3受容体、消化管-副交感神経 muscarine M3受容体の機能低下による。★2)切迫性尿失禁(過活動膀胱)は、膀胱抑制的に働くマイネルト基底核-前頭葉・帯状回・島回acetylcholine M,N受容体の機能低下・前頭前野-黒質線条体dopamine D1受容体の機能低下などが関与するとされる。★4)睡眠時無呼吸は、多系統萎縮症においては、声帯開大筋である後輪状披裂筋の開大麻痺・閉鎖ジストニアの両者がしられ、共に延髄の疑核・孤束核の病変などが指摘されている。
診断
診断は、まず自律神経機能検査を行って程度と障害部位を調べる。自律神経機能検査の中で、頻度が高く生活の質に関わる重要な症候である以下の4つについて述べる。 ★1)起立性低血圧: 起立性低血圧は延髄・脊髄(特に頚髄)・末梢神経障害でみられ、特に末梢神経障害で多い。head-up tit検査は、電動ベッド上で臥位となり、自動血圧計で1分毎に血圧を測定しながら、受動的に頭部を60度挙上し10分間維持するもので、収縮期血圧が20-30mmHg以上下降するものを陽性とする(この方法は、能動的な臥位から立位への体位変換3分(90度挙上)と同程度の血圧下降を示す)。血圧下降の起因因子として、起立(起立性低血圧)の他に、食事(食後性低血圧)、運動(運動後低血圧)、排尿排便(排尿排便失神)が良く知られている。 Tilt table test ★2)尿閉と尿失禁: 不全尿閉(自排尿直後の残尿が300ml以上)は仙髄・末梢神経の病変でしばしばみられる。切迫性尿失禁(過活動膀胱)は脳疾患特に大脳(前頭葉)・大脳基底核などの病変でしばしばみられる。不全尿閉と切迫性尿失禁の組み合わせは、脊髄(頚髄・胸髄)または多系統萎縮症でみられる。ウロダイナミクス(尿流動態検査)と括約筋筋電図検査でこれらの特徴的な変化がみられる。 ★3)胃排出能低下とイレウス: 胃排出能の低下とイレウス(高度便秘)は、脳・脊髄・末梢神経の病変でみられ、特に末梢神経の病変でしばしばみられる。胃排出能検査、胃電気図、大腸通過時間検査、直腸肛門ビデオマノメトリー検査でこれらの特徴的な変化がみられる。 ★4)睡眠時無呼吸: 延髄および末梢神経障害でみられる。polysomnography検査で特徴的な変化がみられる。 ☆この他、皮膚自律神経機能として、発汗低下 Quantitative sudomotor axon reflex test (QSART)、皮膚血流反応の低下、瞳孔自律神経機能として、縮瞳散瞳反応の低下、などがみられる。
次に、自律神経系以外の意識/認知/心理、運動系(錐体路/錐体外路/小脳)、感覚系の身体症状の有無と程度を調べるために、神経学的診察を行う。
次に、末梢神経疾患の場合は自己抗体・神経伝導検査や神経皮膚生検 Nerve biopsy small fiber neuropathy、脊髄疾患・脳疾患の場合はMRI、MRIでとらえることが困難なパーキンソン病/レヴィー小体型認知症の場合は心筋MIBGシンチグラフィー・DATscanを行って診断を確定する。
治療とケア
脳神経内科での上記4大自律神経症状の治療とケアは、 ★1)起立性低血圧: 起立性低血圧患者は臥位高血圧を有していることが多いが、生活の質の改善の観点から、目標血圧を設定する。高血圧治療薬を使用している場合、その減量中止を循環器科医師に依頼する。弾性ストッキング、塩分負荷食を指導し、充分でない場合は、昇圧剤として1)交感神経刺激薬(alpha1受容体刺激薬など)、2)塩分保持性ステロイド(低K血症を伴うためK製剤を補給)を使用する。心不全の予防のためBNP他のチェックを行う。 ★2)尿閉と尿失禁: 尿閉に対して自己間欠導尿を指導する。尿失禁に対して必要時、選択的β3受容体刺激薬・中枢移行の少ない抗コリン薬を使用する。 ★3)胃排出能低下とイレウス: 運動、食物繊維の摂取、便の軟化膨化薬から開始し、充分でない時、腸管運動促進薬(mosapride, 大建中湯・六君子湯など)を使用する。 ★4)睡眠時無呼吸: 持続陽圧呼吸CPAP, BiPAPを使用する。多系統萎縮症の重症睡眠時無呼吸・喉頭喘鳴に対して、必要時気管切開を行う。
糖尿病などの代謝性疾患、ギラン・バレー症候群などの自己免疫性疾患等で原因治療が可能なものは、それを並行して行う。
関連項目
脳神経内科・整形外科の疾患でなく精神科の疾患(不安症 anxiety, mental stress, neuroticism)が身体症状を来すことがあり(心因性)身体症状症 * somatic symptom disorder (SSD) * Da Costa's syndrome と言う。神経調節失神は単独でみられる場合と(心因性)身体症状症の一部としてみられる場合があり、いずれも起立性低血圧と比べ軽度といえる。* psychogenic (neurally mediated) syncope * postural orthostatic tachycardia syndrome* orthostatic intolerance * reflex syncope * Long COVID
- ヘッドアップティルト試験 - 起立性低血圧の検査
- 心電図 - CVRRを含む
- シンチグラフィー - MIBGシンチグラフィーを含む
- 排尿障害 - 神経因性膀胱を含む
- 括約筋筋電図 - en:Neurogenic bladder dysfunction, sphincter EMG
- 神経因性消化管障害
- 大腸通過時間 - en:Gastrointestinal tract, Time taken
- バロスタット - en:Barostat
外部リンク
- 日本神経学会 - (日本学術会議協力学術研究団体)
- 日本自律神経学会 - (日本学術会議協力学術研究団体)
- 「自律神経(不全)の治療」[1] 日本神経治療学会
- 「自律神経障害(不全)の看護|原因、症状、アセスメントとケア」 [2]
- 「起立性低血圧に対するリハビリテーション」
- ビデオでみる起立性低血圧(きりつせいていけつあつ)の検査(起立試験) [3] 英語版 British Heart Foundation
- 「神経因性膀胱に対する間欠導尿」
- ビデオでみる神経因性膀胱(しんけいいんせいぼうこう)の検査(ウロダイナミクス) [4] 英語版 Austin Health and research
- 「睡眠時無呼吸に対する陽圧呼吸療法」 [5]
- ビデオでみる陽圧呼吸器の使い方(シーパップ CPAP) [6] 英語版
- 「多系統萎縮症」 [7] 難病情報センター
- 「自律神経機能検査(第5版)」日本自律神経学会
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脚注
- Brading, Alison (1999). The autonomic nervous system and its effectors. Oxford: Blackwell Science. ISBN 978-0632026241
- Goldstein, David (2016). Principles of Autonomic Medicine (free online version ed.). Bethesda, Maryland: National Institute of Neurological Disorders and Stroke, National Institutes of Health. ISBN 9780824704087. https://neuroscience.nih.gov/publications/PrinciplesofAutonomicMedicine30.pdf
- Jänig, Wilfrid (2008). Integrative action of the autonomic nervous system : neurobiology of homeostasis (Digitally printed version. ed.). Cambridge: Cambridge University Press. ISBN 978-0521067546
- “Dysautonomia due to reduced cholinergic neurotransmission causes cardiac remodeling and heart failure”. Molecular and Cellular Biology 30 (7): 1746–56. (April 2010). doi:10.1128/MCB.00996-09. PMC 2838086. PMID 20123977. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2838086/.