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起立性低血圧

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Orthostatic hypotension
orthostasis, postural hypotension
分類および外部参照情報
発音 [ˌɔːrθəˈstætɪkˌhpəˈtɛnʃən]
診療科・
学術分野
循環器科 脳神経内科
ICD-10 I95.1
ICD-9-CM 458.0
DiseasesDB 10470
MeSH D007024
GeneReviews

起立性低血圧(きりつせいていけつあつ、: orthostatic hypotension)は、安静臥床後起立した際に血圧の低下(起立後3分以内に収縮期血圧で20mmHg以上、拡張期血圧で10mmHg以上の血圧低下 blood pressure fall [1])と代償性脈拍増加が同時に見られ (ただし疾患が進行すると代償性脈拍増加は目立たなくなることが多い、徐脈はみられない) 、顔面蒼白となり、意識が遠のく(意識消失・失神)もので、眼前暗黒・頚から肩にかけての痛み(coat-hunger pain)・耳鳴・外傷・ミオクローヌス様の軽い痙攣を伴う場合がある。意識消失中の脳波は徐波化~平坦化している。(血圧低下時に徐脈がみられる神経調節失神と異なる。) 原因は末梢神経疾患脊髄疾患が多い。原因治療と並行して対症療法を十分に行う。


分類

2つに大別される。

  1. 本態性(非神経原性)
    • 薬剤性起立性低血圧
  2. 症候性(神経原性)
    • 特発性自律神経障害
    • 二次性自律神経障害


解説: 起立性低血圧は、一次的には重力によって血液が下肢に溜まってしまうことが原因で起きる。それによって静脈還流が損なわれ、その結果(スターリングの法則により)心拍出量が減少して動脈圧が低下するのである。例えば臥位から立位になると、胸郭から約700mlの血液が失われる(全循環血液量は安静時で5000ml/分であるといわれている)。その時収縮期血圧は低下するが、拡張期血圧は上昇することになる。しかし結果として、心臓よりも高い位置にある末梢への血液灌流量は不充分なものになるのである 。

しかし血圧の低下はすぐに圧受容体のトリガーとなって血管収縮を起こし(圧受容器反射)血液がくみ上げられるので、正常生体内では血圧はそれほどは低下しない。したがって、起立後に血圧が正常より低下するにはさらに二次的な原因が求められる。その原因は、末梢神経疾患(糖尿病性ニューロパチー、アミロイドニューロパチー、パーキンソン病/レヴィー小体型認知症での血管周囲神経のレヴィーニューライト病変等)・脊髄疾患(多系統萎縮症の脊髄中間外側核病変、頚髄損傷等)などの神経内科疾患・代謝科疾患・整形外科疾患が多い。


原因

症候性: 症候性は多彩な疾病の症候として現れる。

  1. 特発性自律神経障害
    1. 純粋自律神経不全症(pure autonomic failure PAF, Bradbury-Eggleston症候群, 下記のパーキンソン病の1型のことが多い)
    2. 多系統萎縮症(シャイ・ドレーガー症候群)
    3. パーキンソン病あるいはレビー小体型認知症
  2. 二次性自律神経障害
    1. 加齢
    2. 自己免疫疾患 - ギラン・バレー症候群、混合性結合組織病、関節リウマチランバート・イートン症候群全身性エリテマトーデス
    3. 腫瘍性自律神経性末梢神経障害(ニューロパチー)
    4. 脳疾患 - ウェルニッケ脳症、視床下部や中脳の血管病変、腫瘍
    5. ドーパミンβ-水酸化酵素欠損症
    6. 家族性高ブラジキニン血症
    7. 全身性疾患 - アミロイドーシス腎不全
    8. 遺伝性感覚性末梢神経障害(ニューロパチー)
    9. 神経系感染症 - 後天性免疫不全症候群シャーガス病ボツリヌス中毒症梅毒
    10. 代謝性疾患ビタミン - 糖尿病性ニューロパチービタミンB12欠乏症 / アルコール中毒ポルフィリン症ファブリー病タンジール病
    11. 脊髄疾患(脊髄損傷・視神経脊髄炎スペクトラム病・多発性硬化症など)

薬剤性: 何らかの疾病治療薬の副作用として現れる事が多い。

  1. 薬剤性及び脱水症
    1. 利尿薬
    2. 交感神経α受容体遮断薬
    3. 中枢性α2受容体刺激薬
    4. アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)
    5. 抗うつ薬 - 三環系抗うつ薬セロトニン阻害薬
    6. 飲酒(アルコール)
    7. 節遮断薬
    8. 精神神経作用薬剤 - Haloperidol、levomepramazine、chlorpromazine等
    9. 硝酸薬
    10. 交感神経β受容体遮断薬(β遮断薬)
    11. カルシウム拮抗剤
    12. その他(Papaverine等)

高血圧症治療薬や三環系モノアミン酸化酵素阻害薬などの抗うつ薬の副作用として起こることがある。マリファナの短期間使用による副作用で起こることもある。α1アドレナリン遮断薬(α1ブロッカー)の副作用でも起こることがある。α1ブロッカーは正常なら起立時に圧受容体反射で起こる血管収縮を阻害するので、その結果血圧が低下してしまう。

安全ベルト: 安全ベルトの使用の結果、落下事故の際に起立性低血圧が起きることがある。安全ベルトのおかげで落下を防ぐことはできるが、通常の安全ベルトや登山用ハーネスの脚部分の環が、下肢からの血液還流を阻害してしまい、血圧が低下することがある。

その他の危険因子: 起立時に低血圧を来しやすい状態として、小児、高齢者、産褥期、長期ベッド臥床者(廃用性萎縮sarcopenia)、アルコール摂取後などが知られている。ただし、これらの状態で脈拍を測定した報告が少なく、その病態が起立性低血圧(代償性脈拍増加を伴う)か・神経調節失神(徐脈を伴う)かについては結論が出ていない(神経調節失神の項目を参照)。


病態機序

起立性低血圧 orthostatic hypotension は、血圧反射弓(求心路-延髄循環中枢-遠心路)の病変でみられ、このうち特に遠心路の病変、中でも血管周囲神経 periarterial nerve の障害が多い(パーキンソン病では血管周囲神経内にレヴィーニューライトが、糖尿病性ニューロパチーでは血管周囲神経の変性が認められる)。一方、遠心路の中の心臓交感神経は、起立性低血圧への関与が少ないと考えられている。1例として、パーキンソン病では、起立性低血圧が無い患者でも、心筋MIBGシンチグラフィーでの心臓交感神経脱神経が高頻度にみられる。 大動脈弁狭窄、肥大型心筋症、心筋梗塞後などの心臓ポンプ不全は、(起立時でなく)労作時血圧低下 exercise-induced hypotension をきたすことが多い(高度な例で稀に起立性低血圧も来す場合がある)。


診断と鑑別診断

起立性低血圧は循環不全型めまいの代表的なもので、収縮期血圧が100mmHg以上下降する重症例も少なくない。起立性低血圧の診断と鑑別診断については反射性失神/神経調節失神の項目を参照。


診断は、まず自律神経機能検査を行って程度と障害部位を調べる。起立性低血圧は延髄・脊髄(特に頚髄)・末梢神経障害でみられ、特に末梢神経障害で多い。起立試験head-up tit test は、電動ベッド上で臥位となり、自動血圧計で1分毎に血圧を測定しながら、受動的に頭部を60度挙上し10分間維持するもので、収縮期血圧が20mmHg以上下降するものを陽性とする(この方法は、能動的な臥位から立位への体位変換3分(90度挙上)と同程度の血圧下降を示す)。血圧下降の起因因子として、起立(起立性低血圧)の他に、食事(食後性低血圧)、運動(運動後低血圧)、排尿排便(排尿排便失神)が良く知られている。起立性低血圧の部位診断として、安静臥位血漿noradrenaline値は末梢神経病変で低値(<100 pg/ml)、脊髄より上位の中枢性病変で正常(300 pg/ml)となる。


次に、自律神経系以外の意識/認知/心理、運動系(錐体路/錐体外路/小脳)、感覚系の身体症状の有無と程度を調べるために、神経学的診察を行う。


次に、末梢神経疾患の場合は自己抗体・神経伝導検査や神経皮膚生検 Nerve biopsy small fiber neuropathy、脊髄疾患・脳疾患の場合はMRI、MRIでとらえることが困難なパーキンソン病/レヴィー小体型認知症の場合は心筋MIBGシンチグラフィー・DATscanを行って診断を確定する。



治療と対処

起立性低血圧に対する治療ケアの一般として 

  • 適切な水分と塩分の摂取量を維持していくこと
  • 必要に応じて補助療法としてミドドリンを投与すること
  • 必要に応じて補助療法としてフルドロコルチゾンを投与すること
  • 失神回避法 Physical Counterpressure Maneuvers の導入
  • 静脈貯留を減少するために腹帯もしくは弾性ストッキング elastic bandage/ stocking の使用
  • 体液量を増加させるために上半身を高く保持した姿勢(>10度)での睡眠 head-up tilt at night が挙げられる。

薬物療法

起立性低血圧の治療に用いられる薬剤としては、フルドロコルチゾン(商品名フロリネフ)、エリスロポエチン(体液量維持のために用いる。日本での適応はない)、アメジニウム(商品名リズミック)やミドドリン(商品名メトリジンなど)のような血管収縮薬などがある。臭化ピリドスチグミン(商品名メスチノン)も近年起立性低血圧治療に効果があるとの報告がある(日本での適応はない)。

薬物 商品名 作用機序
フルドロコルチゾン(0.1〜0.3mg) フロリネフ 循環血液量の増加
エリスロポエチン(6000単位) エポジンなど 循環血液量の増加
デスモプレシン デスモプレシン 循環血液量の増加
ジヒドロエルゴタミン(36mg) ジヒデルゴット 静脈の交感神経刺激
ミドドリン(4〜8mg) メトリジン 直接的α1

刺激

アメジニウム(20mg) リズミック ノルアドレナリン再吸収阻害
ドロキシドパ(600〜900mg) ドプス ノルアドレナリンの前駆物質
クロニジン(0.225〜0.45mg) カタプレス 部分的α2刺激
オクトレオチド サンドスタチン 食後低血圧の予防
β遮断薬 血管拡張、頻脈の抑制
ピリドスチグミン メスチノン 節前線維神経伝達改善

メトプロロールなどのβアドレナリン遮断薬(βブロッカー)も治療に用いられる(日本での適応はない)。 選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI) やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 (SNRI) も多くの例で有効である。アデラール(日本では未発売の薬剤)やメチルフェニデート(商品名リタリン)などの中枢神経刺激薬が助けになる場合もある。ベンゾジアゼピン系薬物もよく処方される。


予後

起立性低血圧の予後は、原因が何であるのかによって異なってくる(自律神経不全を参照)。 起立性低血圧は単独でみられる場合と自律神経不全の一部としてみられる場合があり、いずれも神経調節失神と比べ重度といえる。


脚注

関連項目


外部リンク

日本神経学会  - (日本学術会議協力学術研究団体)

日本自律神経学会  - (日本学術会議協力学術研究団体)

日本循環器学会  - (日本学術会議協力学術研究団体)

ビデオでみる起立性低血圧(きりつせいていけつあつ)の検査(起立試験) 英語版 [1] British Heart Foundation

「多系統萎縮症」 難病情報センター

「自律神経機能検査(第5版)」日本自律神経学会


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