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酸素中毒
酸素中毒 | |
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1942年から1943年に英国政府はダイバーの酸素中毒の広範な実験を行った。高圧室は3.7バールの空気圧をかける。中央の被験者は、マスクから100%の酸素を呼吸している。
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分類および外部参照情報 | |
診療科・ 学術分野 |
救急医学 |
ICD-10 | T59.8 |
ICD-9-CM | 987.8 |
MeSH | D018496 |
GeneReviews |
酸素中毒(さんそちゅうどく)とは、超高分圧の酸素を摂取した場合、またはある程度高分圧の酸素を長期にわたって摂取し続けることによって、身体に様々な異常を発し、最悪の場合は死亡に至る症状である。特にスクーバダイビングなど、空気あるいは混合ガスを用いての潜水時に起こりやすい。
酸素中毒に対する誤解として、酸素濃度だけを問題にすることが見受けられるが、上記のとおり酸素分圧が問題であるため、大気圧(1,014ヘクトパスカル)で純酸素(酸素100%のガス)を吸入した場合であっても、制限時間内であれば問題は無く(実際に医療行為として行われる)、低圧であれば初期のアポロ計画のように、船内気圧を1⁄3にして純酸素で宇宙船内を満たしても、長時間の活動を行える。逆に通常の空気(酸素約21%)であっても深度の潜水などの高圧環境で、酸素分圧が高くなれば酸素中毒を起こす(後述)。
潜水と酸素中毒
酸素は、ヒトの生体活動になくてはならないものであるが、潜水中に呼吸するガスに含まれる酸素の分圧が2気圧程度を超えると、全身の激しい痙攣などを発症し最悪の場合は死亡する。このような症状を急性の酸素中毒と呼ぶ。また酸素分圧が急性の酸素中毒を発症するほど高くなくても、ある程度高い分圧の酸素を長時間にわたって呼吸すると、肺の障害などさまざまな症状が発生する。これを慢性の酸素中毒と呼ぶこともある。
これら急性あるいは慢性の酸素中毒を防ぐためには、呼吸ガス中の酸素分圧は通常で1.4気圧以下、特別な場合でも1.6気圧以下に保つとともに、酸素分圧に応じた潜水時間の制限を設けることが必要とされている。
例えばスクーバダイビングで空気潜水を行う場合、水深約70mで酸素分圧が1.6気圧に達するので、このような大深度まで潜水すると酸素中毒の危険性が高くなる。
分類
酸素中毒の影響は、3つの主要な症状を呈し、影響を受ける臓器別に分類することができる。
- 中枢神経系
- 高圧条件下で発生する意識喪失に引き続いた痙攣を特徴とする。
- 肺
- 長時間の酸素加圧下の環境で呼吸困難と胸の痛みが発生する。
- 眼(網膜症)
- 長時間の酸素加圧下の環境での呼吸時に発生する、眼の変化が特徴である。
中枢神経系の酸素中毒は、痙攣、意識喪失に引き続く短時間の硬直の発作が発生する可能性があり、大気圧よりも高い気圧にさらされるダイバーに懸念されている。肺への酸素中毒は、胸の痛みや呼吸困難を伴う肺の損傷をもたらす。眼に対する酸化的損傷は、近視や網膜の部分的な剥離を引き起こす可能性がある。肺や眼への損傷は、特に新生児の治療の一環として行われる酸素補給の際に最も発生する可能性が高く、また、高圧酸素療法中にも同様な損傷が懸念される。
酸化的損傷は、体の任意の細胞で発生する可能性があるが、影響を受けやすい三大臓器への影響が最初に懸念される。また、酸化的損傷は、赤血球の破壊(溶血)、肝臓への損傷(肝炎)、心臓(心筋)、内分泌腺(副腎、生殖腺、甲状腺)、または腎臓(腎炎)に関与する可能性があり、細胞へ一般的な損傷を与え得る。
異常な状況下では、他の組織への影響が観察されることがある。それは宇宙飛行時における高酸素濃度は、骨の損傷に影響するかもしれないことが疑われている。高濃度酸素も間接的に慢性閉塞性肺疾患や呼吸中枢抑制のような肺疾患患者に「二酸化炭素酔い」を引き起こす可能性がある。酸素の毒性は、常に大気圧の空気を呼吸する過換気に関連付けられていない。なぜなら大気圧の空気は0.21バール(21 kPa)の酸素分圧(ppO2)であり、酸素中毒の下限値が0.3バール(30 kPa)であるためである。
メカニズム
酸素中毒の生化学的基礎は、酸素の正常な代謝の自然な副産物として形成され、細胞シグナル伝達に重要な役割を持っている酸素の1つまたは2つの電子の部分的な還元により活性酸素種が形成されることである。体内で形成されるスーパーオキシドアニオン(O2-)は、多分鉄の捕捉に関与していると考えられる。通常の濃度よりも高い酸素は、活性酸素種の濃度を高める。酸素は細胞の代謝に必要であり、血液は身体のすべての部分に酸素を供給する。高分圧の酸素を吸い込むと、高酸素状態が急速に広がっていき、最も血管が張り巡らされた臓器が最も弱い立場となる。環境的なストレスのもとで活性酸素種の濃度は劇的に増加し、細胞構造に損傷を与え、酸化ストレスを形成し得る。
体内でのこれらの活性酸素種のすべての反応メカニズムはまだ完全には解明されていないが、最も反応性の高い酸化ストレスはヒドロキシルラジカル(·OH)であり、これは細胞膜の不飽和脂肪酸に対して有害な過酸化脂質の形成の連鎖反応を発生させる脂質過酸化反応を引き起こし得る。高濃度の酸素は、DNAや他の生体分子を傷つける窒素酸化物、ペルオキシニトライト及びトリオキシダン(三重酸素)などの他のフリーラジカルの形成を増加させる。生体内の酸化ストレスに対する防御機構は、酸化ストレスに対抗するグルタチオンなどの多くの抗酸化システムを持っているが、最終的には非常に高い濃度の遊離した酸素に圧倒され、細胞の損傷率が高まり、それを修復するシステムの容量を超えてしまう。細胞の損傷と細胞死はその結果である。
関連項目
脚注
参考文献
- Clark, James M.; Thom, Stephen R. (2003). “Oxygen under pressure”. In Brubakk, Alf O.; Neuman, Tom S. Bennett and Elliott's physiology and medicine of diving (5th ed.). United States: Saunders Ltd. pp. 358–418. ISBN 0-7020-2571-2. OCLC 51607923
- Clark, John M.; Lambertsen, Christian J. (1970). “Pulmonary oxygen tolerance in man and derivation of pulmonary oxygen tolerance curves”. IFEM Report No. 1-70 (Philadelphia, PA: Environmental Biomedical Stress Data Center, Institute for Environmental Medicine, University of Pennsylvania Medical Center). http://archive.rubicon-foundation.org/3863 2008年4月29日閲覧。.
- Donald, Kenneth W. (1947). “Oxygen poisoning in man—part I”. British Medical Journal 1 (4506): 667–72. doi:10.1136/bmj.1.4506.667. PMC 2053251. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2053251/.
- Donald, Kenneth W. (1947). “Oxygen poisoning in man—part II”. British Medical Journal 1 (4507): 712–7. doi:10.1136/bmj.1.4507.712. PMC 2053400. PMID 20248096. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2053400/.
- Revised version of Donald's articles also available as:
- Donald, Kenneth W. (1992). Oxygen and the diver. UK: Harley Swan, 237 pages. ISBN 1-85421-176-5. OCLC 26894235
- Lang, Michael A., ed (2001). DAN nitrox workshop proceedings. Durham, NC: Divers Alert Network, 197 pages. http://archive.rubicon-foundation.org/4855 2008年9月20日閲覧。
- Regillo, Carl D.; Brown, Gary C.; Flynn, Harry W. (1998). Vitreoretinal Disease: The Essentials. New York: Thieme, 693 pages. ISBN 0-86577-761-6. OCLC 39170393
- U.S. Navy Supervisor of Diving (2008) (PDF). U.S. Navy Diving Manual (SS521-AG-PRO-010, revision 6 ed.). U.S. Naval Sea Systems Command. http://supsalv.org/pdf/DiveMan_rev6.pdf 2009年6月29日閲覧。