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インスタントコーヒー
インスタントコーヒーとは、コーヒー豆の抽出液を乾燥させて粉末状に加工したインスタント食品である。湯を注ぐだけでコーヒーが完成する。
ソリュブルコーヒーとも呼称されるが、「インスタントコーヒーとソリュブルコーヒーは定義の異なる製品である」として両者を区別する場合もある(後述)。
発明者
コーヒーを即席食品化する場合、抽出液を粉末化するのがもっとも簡易である。しかし、その加工過程では嗜好品であるコーヒーにとって重要な味や香りが損なわれやすい。加工後も味と香りを維持する技術の改良史が、インスタントコーヒーの歴史と言える。
1771年にイギリスで水に溶かすインスタントコーヒーが発明されたが、製品の貯蔵可能期間が短く発展せず、1853年にもアメリカで開発が試みられたが、保存に成功しなかった。
1889年にニュージーランドインバーカーギルのコーヒー・香辛料販売業者デイビッド・ストラングが「ソリュブル・コーヒー・パウダー」(可溶性コーヒー粉末)の作成法の特許を取得し、「ストラング・コーヒー」として製品化したのが、記録上確認できる最初の例とされる。
1899年にアメリカイリノイ州シカゴに在住していた日本人科学者のカトウ・サトリ博士が、緑茶を即席化する研究途上、揮発性オイルを使用したコーヒー抽出液を真空乾燥する技術を発明し、1901年にニューヨーク州バッファローで開催されたパンアメリカン博覧会で「ソリュブル・コーヒー」と名づけて発表した。1903年にカトウは特許を取得した(USP735777)が、商品化には成功しなかった。
1906年にアメリカ合衆国でジョージ・コンスタント・ルイス・ワシントンがインスタントコーヒー製法の特許を取得し、「Red E Coffee」としての製品化を経て成功を収めたが、ストラングやカトウの製法とワシントンの製法との関連は不明である。
一般への普及
ワシントンの特許以後、いくつかのメーカーがインスタントコーヒーの製造販売を行ったが、その中で後年にまで知られる大きな成功を収めたのは、スイス・ヴェヴェイに本拠を置く食品商社のネスレであった。
1920年代末期、コーヒーの大産地であるブラジルでは、コーヒー豆の大豊作で価格相場が暴落、農民は困窮した。これに苦慮したブラジル政府は、余剰のコーヒー豆を用いた加工食品の開発をネスレに要請する。ネスレは数年間の開発期間を経て、1937年にほぼ現在同様のスプレードライ法によるインスタントコーヒーを完成させた。この製品は翌1938年に「ネスカフェ」の商品名で市販され、インスタントコーヒーの代名詞として知られるようになる。
フリーズドライ製法で製造されたインスタントコーヒーは、1960年代にアメリカで登場し、風味に優れることから成功を収めた。
日本では1950年代からインスタントコーヒーが輸入され始めたが、1960年代以降国産化が進み、1960年に森永製菓によって国内生産が開始されて、大衆にコーヒーを広く普及させる契機となった。
工業国でない国家の多くで、レギュラーコーヒーよりもインスタントコーヒーの方が値段が高いことがある。手間暇がより多くかかっているからということもある。
カフェインを抜く加工を施したカフェインレス(英語ではdecafというのが普通)のインスタントコーヒーもある。
製法
スプレードライ法
高温の乾燥筒の中に、高温のコーヒー液を噴霧して素早く乾燥させる方法。一般的に気流乾燥装置と呼ばれる。製品は微粉状となる。冷水にも溶けやすいという利点があって量産性が高いが、製造時の熱によって酸味が揮発して苦味が強調され、香味も揮発することによってやや損なわれやすい。香味の損耗については製造工程の改善もあり、熱風中に数秒間ブロー乾燥させたのちすぐに冷却される程度のものに過ぎず、極端なものではない(代表例:ネスレ日本「ネスカフェ クラシックブレンド」「ネスカフェ エクセラ(ソリュブルコーヒーに変わる前)」、AGF「ブレンディ」など)。
フリーズドライ法
コーヒー液をマイナス40℃以下で一度凍結させた後に細かく砕き、真空状態にして水分を蒸発させる方法。製品は2-3mm程度の大きさで角が尖った粗い粒状となる。スプレードライ法に比して香味は損なわれにくいが、製造に手間がかかるため、やや量産性に劣る。このため、スプレードライ法の製品より価格は高め(代表例:ネスレ日本「ネスカフェ プレジデント(ソリュブルコーヒーに変わる前)」「ネスカフェ 香味焙煎(ソリュブルコーヒーに変わる前)」「ネスカフェ ゴールドブレンド(ソリュブルコーヒーに変わる前)」、AGF「グランデージ」「マキシム」、UCC「ザ・ブレンド」など)。
エキス抽出液体式
近年に至り、アメリカではグリーンコーヒーブームが起き、日本などにも上陸してオーガニック系カフェや個人経営でこだわりを持つ喫茶店などで提供され始めたが、もっと手軽に飲めるようにインスタント商品化も試みられ、植物抽出技術を持つスマカフェなどの外資系会社による製造・販売も行われている。
公正競争規約との関係
この節は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。
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日本の公正競争規約上では、インスタントコーヒーを「コーヒーいり豆から得られる抽出液を乾燥した水溶性の粉状、顆粒状その他の固形状のコーヒー」と定義している。粉状で湯を注ぐだけで完成するコーヒーであっても、粒子の中にコーヒー豆を内包する製品の場合、日本では同規約上レギュラーコーヒーに分類されてしまい、「インスタントコーヒー」を名乗れない。このため、「ソリュブルコーヒー」(「ソリュブル」は「可溶性」の意)と称した場合には、粒子にコーヒー豆を内包するものを含んだ「湯を注ぐだけで完成するコーヒー製品全般」を意味するとして、インスタントコーヒーと区別する見解がある。
実際に2013年9月には、ネスレ日本がすでに採用済みの「ネスカフェ 香味焙煎」(2010年9月のリニューアル以降より採用)と「ネスカフェ プレジデント」(2011年9月のリニューアル以降より採用。2015年7月をもって一旦製造終了、2016年9月復活)を除く残りのネスカフェ全製品を「挽き豆包み製法」を採用した製品に統一することに伴い、製品の呼称を「インスタントコーヒー」から「レギュラーソリュブルコーヒー」に変更することを発表している。
ただし、コーヒー業界の団体である全日本コーヒー公正取引協議会では、内規でネスレ日本の一連の製品のような「粒子の中にコーヒー豆を内包する製品」について「インスタントコーヒー(レギュラーコーヒー入り)」と表示するよう規定しており、「『レギュラーソリュブルコーヒー』表記では『ドリップで入れるレギュラーコーヒー』と誤認する」と反発する業者もいる。
ネスレは自社の「レギュラーソリュブルコーヒー」について、「コーヒー抽出液を乾燥させて粉状にする」インスタントコーヒーの製法とは異なり、「微粉砕したコーヒー豆を抽出液と混ぜて乾燥させる」という新しい製法を取っていると説明したほか、豆をひく「レギュラーコーヒー」でも、従来の「インスタントコーヒー」でもないと説明し、「ソリュブルコーヒー」をインスタントコーヒーの定義に該当しない新ジャンルのコーヒーと位置付けていた。
しかし、2014年7月に全日本コーヒー公正取引協議会は、同社製品について「インスタントコーヒー(レギュラーコーヒー入り)」と表示されるべきものに過ぎないとして、「ソリュブルコーヒー」という新ジャンル呼称および「レギュラーソリュブルコーヒー」の名称の使用を一切認めないことを決め、「レギュラーソリュブルコーヒー」という名称を、広告において使用することを『不当表示』として制限する公正競争規約改訂案を採択した。
その結果、この規約によってネスレ日本は現在の商品名称での販売・広告展開が不可能になるため、協議会および一般社団法人全日本コーヒー協会を脱退した。さらには、当時ネスレ日本の高岡浩三社長が会長を務めていた日本インスタントコーヒー協会・日本珈琲輸入協会をも退会した。今後は業界に縛られない営業活動を展開するという。このため、ネスレの製品は日本で唯一、コーヒー協会のマークがラベルに入っていない。