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ヒトパピローマウイルスワクチン

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ヒトパピローマウイルスワクチン
Gardasil vaccine and box new.jpg
ワクチン概要
病気 ヒトパピローマウイルス
種別 サブユニット
臨床データ
胎児危険度分類
  • US: B
法的規制
投与方法 注射
識別
ATCコード J07BM01 (WHO)
各国のHPVワクチン接種プログラム対象女子の接種率
接種率 (%)
コロンビア
87
マレーシア
87
イギリス
86
デンマーク
82
スウェーデン
80
オーストラリア
73.1
メキシコ
67
UAE
59
ニュージーランド
56
アメリカ
40
フランス
17
日本
0.3

ヒトパピローマウイルスワクチンHPVワクチンHPV予防ワクチン)は、特定のヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus:HPV)の持続感染を予防するワクチンである。

WHOは、2006年から2017年までに、2億ドーズ(接種)以上のHPVワクチンが世界中で幅広く使用され、ワクチンの安全性に関する諮問委員会(GACVS)では当ワクチンの安全性に関して評価を行い、これまでのところ推奨の位置付けを変更する安全上の問題は判明していないと表明している。HPVは、尖圭コンジローマまたは子宮頸癌肛門癌中咽頭癌などのや,喉頭気管乳頭腫症の発生に関係し、HPワクチンには2価「サーバリックス」(GSK)、「4価ガーダシル」(MSD)、9価「シルガード9」(MSD)の3つがあるが、4価9価を初めての性行為での感染前に接種を済ませておけば子宮頸がんと共に予防可能である。世界的にみると、HPV16型およびHPV18型が子宮頸がん全体の約70%を占めている。

HPV罹患は性行為及び分娩時のHPV産道感染の可能性が指摘されているが母子の遺伝子系が異なるなど未知の感染経路もあり、また レーザー治療煙で医療者が感染する場合もある。 アメリカ合衆国では、アメリカ食品医薬品局(FDA)が、45歳までの男女に予防接種を推奨している。接種は小児または婦人科できるが、HPVウイルスは100種以上存在し全てがワクチンで防げないため、ワクチン接種後も子宮がん検診も推奨されている。日本では予防接種法でA類疾病に位置付けられ、法第9条で予防接種の対象者・保護者は予防接種を受ける努力義務が課せられている。定期接種以外に積極的勧奨中止の影響を受けた世代に対し2025年3月までに限りキャッチアップ接種が行われるがキャッチアップ接種の場合は、同法の保護者同意は16歳未満にかぎるため保護者の同意は不要。世界保健機関(WHO)は2022年、ワクチンの単回接種は、2回接種と同等の有効性があると発表した。厚生労働省は2023年4月からシルガード9を定期接種を開始した。また2023年2月同省専門部会で15歳未満は2回とする方針が了承された。オーストラリアは2023年2月をもって、9価ワクチン定期接種を2回から単回に変更した。

概要

日本では「子宮頸がんワクチン」という通称がよく使われるため、女性のみを対象としたものだと思われることが多いが、子宮頸がん以外のがんの発生を予防することができるため、男女に関わらず接種可能で有効であるワクチンである。男女共に性交渉開始前に打つことが医師により勧められている。HPVウイルスは性器や肛門周辺に潜むため性行為時でのコンドームによる感染防止は限定的と考えられる。ただしセクシャルデビュー後に接種しても、まだワクチン接種で予防できるHPV型に感染していなければ、予防の効果が期待できる。

アメリカでは中咽頭癌におけるHPV陽性率は1980年代の16%から2000年代初頭には72%まで増加している。ワクチン接種率は2020年代の欧米で70-80%であるのに対し、日本では小学校6年から高校1年相当の女子を対象に定期接種が行われているが、2013年3月に全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会がマスコミに販売した少女がけいれんする映像などを1日80回以上という高頻度で繰り返し流し、朝日新聞がHPVワクチンを一方的に問題視するアンチキャンペーンを展開して以降、同年6月に厚生労働省による接種の積極的勧奨が中止となり、2020年代には接種率が0.3%に減少した。また、国会においても、2013年には参議院で上野通子参議院議員が同ワクチン奨励を「性交渉の低年齢化に拍車をかける」懸念があるとして、山谷えり子参議院議員が「十代前半での性体験を前提」にしているとして、定期健診だけでもほぼ100%子宮頸がん死亡を予防できるなど主張し公的接種について反対した。

2021年10月、厚労省の検討部会がHPVワクチンの安全性や効果などを踏まえ「積極的勧奨」再開の方向で検討を始めた。11月、同省の「副反応検討部会」と「薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会」が11月12日に合同開催において、HPVワクチンの積極的勧奨を再開することを了承され、将来的に打ち逃した世代への救済措置も検討について言及された。平成9年4月2日から平成18年4月1日までの間に生まれた女子で接種を逃した場合へのキャッチアップ接種が決まり、またHPVワクチンの積極的勧奨の差控えにより、ヒトパピローマウイルス感染症に係る定期接種の機会を逃した平成9年4月2日から平成17年4月1日までの間に生まれた女子で、定期接種の対象年齢を過ぎて任意接種を自費で受けた場合には費用が償還されることも決定している。2022年9月時点でキャッチアップ接種は199,012人となった。

日本では2021年時点で毎年約3000人が子宮頸がんで死亡している。子宮頸がんの5年相対生存率(2009~2011年)は76.5%である。子宮頸がんは以前は発症のピークが40~50歳代だったが、近年は20~30歳代の女性にも増加しており、子育て世代の母親が家族を残して亡くなるケースが多いため「マザーキラー」とも呼ばれる。30歳までにがん治療で子宮を失う者は年約1000人に及ぶ。25~40歳の女性のがんによる死亡の第2位は、子宮頸がんによるものである。若年層で子宮頸がん健診を定期受診していても、セクシャルパートナーが夫だけでも子宮頸がんに罹患し死亡することがある。峰宗太郎医師は幼い子を残して子宮頸がんで死亡した母親を解剖した経験からHPVワクチンの啓発に問題意識を持ったと語っている。20代の子宮摘出で妊娠可能性も失い、リンパ浮腫などの後遺症にも苦しむ場合もある。子宮がんは大きく、扁平上皮がん、腺がんの2タイプに分類される。腺がんは増加傾向にあるが一般的に扁平上皮がんより放射線(X線)療法は効きづらく、細胞診検査で見つけにくく、形態が正常細胞に近い場合もあり、診断が難しいという特性がある。大阪府がん登録データを分析した大阪大学の2019年の研究では、年齢調整罹患率は2000年から増加し、特に子宮頸がんのうち特に治療が奏功にしにくい腺癌が、30歳代以下の若年層で増加していることが認められた。日本産科婦人科学会によると日本では円錐切除手術が年間14000件行われている。また子宮がん検診については、日本で受診率が低いこと、一定の割合で検診では異常なしと判定されてしまう可能性があること、HPV 検査を用いた検診では逆に擬陽性で過剰診断を生み出すことも指摘している。このため、子宮頸がんの根本的な原因となる HPV 感染そのものをワクチンで防ぎ、検診も二次スクリーニングとして活用し結果として死亡を予防することを推奨している。

子宮頸がんの前がん病変が発見された場合、経過観察がとられ、進行した場合も部分切除しか治療法がない。かつ将来の早産や流産のリスクが残る。ただし京都大学では抗ウイルス薬FIT-039がHPVを抑制し、手術に代わる画期的な治療法とするために治験を行っている。また日本では子宮頸がんステージ2bは通常、化学放射線治療を行うところ、国際ガイドラインに沿わず広汎子宮全摘手術をより推奨し手術例が多く、浮腫などの被害があることが指摘されている。

子宮頸がんに罹患するとその影響は本人だけに留まらず、罹患した母から出生した新生児に羊水を通じてがんが移行した事案も判明している。オーストラリアの4価ワクチン接種後の研究では母親から移るHPV再発性気道乳頭腫症(RRP)の発症を大幅に減少させたことが公表されているが、同疾患の乳児は平均18.1回全身麻酔切除手術を行う。また妊娠中に子宮頸癌が発覚することはまれではなく、胎児ごと子宮を摘出する。2014年現在で胎児を残したままの患部切除手術は世界で10例しか存在しかない。北海道大学「HPVワクチン副反応支援センター」の医師は子宮頸部円錐切除経験者は早産・流産を起こしやすいため、子が低出生体重児として誕生し脳性麻痺など重度障害を負うケースに小児科が数多く遭遇することを述べ、また不調がワクチン原因説に固執すると他の要因を見落とす事例を挙げている。円錐切除後のHPVワクチン投与は再発リスクを減らす研究もある。妊娠に合併するがんのうち、年間225件72%が子宮頸がん(上皮内癌を含む)となっている。

2019年現在では新宿のクリニックでは9価ワクチンの接種者の半数は中国人という実態がある。また、HPVワクチンの一連の騒動は日本人のワクチン全般に対する信頼性を下げる要因となったとされる。HPVワクチンの接種は、定期的な子宮癌検診を代替するものではないため、女性の場合は接種後も子宮の定期検診が必要である。

子宮頸がんのみならず2014年の中咽頭がん患者は約1800人で男性が女性の5倍罹患しその5年生存率は5割が、ワクチン接種によりその発症要因の一つを防ぐことができる。男児にも接種しているアメリカでは、2013年から2017年にかけて、女性で約25,000例、男性で19,000例のHPV関連癌が発生しその10例のうち4例以上が男性である。日本における中咽頭がんの年間発生数は約5000例と推定され、そのうちの約3000例がHPV関連と考えられている。また、男性不妊に影響があることが分かってきている。フィンランドのトゥルク大学の研究では小児の口腔HPV感染は母親からの感染、再感染の可能性が高いと報告されている。一方、HPVワクチン接種の母の乳児のHPV抗体が高く、受動免疫を高める効果がある。なおHPVは母乳中にも含まれる。

日本においては、2021年10月現在、厚労省の積極的勧奨再開が延びた場合、日本を優先して確保したワクチンを廃棄する可能性があり、今後の確保に影響が出ることを製薬会社から警告されていた。その後、厚生労働省は2022年4月からの積極的勧奨接種再開を決定した。2022年4月に積極的勧奨が再開された。日経メディカルの2021年ウェブ調査では8288人の医師の7割が積極的勧奨再開に賛成し、反対は3.9%だった。また同紙調査では女性医師7665人では20歳代では7割強がHPVワクチン接種済みだったと2021年6月に報道されている。

ランセットには、2020年4月、日本の子宮頸がんに対するHPVワクチンの忌避に対して、子宮頸がんだけで約5000人の死亡をもたらし、この数は、危機が続く毎年約700〜800人ずつ増加すると予想論文が掲載された。

2022年3月、「9価ワクチン」を定期接種化する方針が厚生労働省の専門家部会で了承された。

2021年(令和3年)度、東京都内におけるヒトパピローマウイルス感染症予防接種の第一回目の接種率は千代田区85.3%に対し、墨田区9.5%、あきる野市3.3%となっている。

厚生労働省の予防接種基本方針部会は2022年10月、2023年での9価ワクチンを定期接種化することを了承した。しかし製薬会社MSD社は安定供給については明言できないと取材に回答している。

韓国では2020年10月に人気ドラマ『青春の記録』内で、性行為の前にHPVワクチンを接種するように女性に求められた男性が友人と病院に接種に赴く内容が描かれニュースにも取り上げられるなど話題となった。フランスでは低接種率の向上のため、2023年マクロン大統領は無料のワクチン接種キャンペーンを2023年9月から小学校5年生の男女に導入することを発表した。日本では接種率は一時、1%未満にまで低下したが、積極的勧奨再開後の2022年度上半期では、1回目の定期接種を終えた人は約16万人で実施率は30.1%になった。

歴史

ドイツのウイルス学者ハラルド・ツア・ハウゼン。ヒトパピローマウイルスと子宮頸がんの研究に大きく貢献した。

HPVワクチンは、オーストラリアのクイーンズランド大学で初めて開発され、最終的な形態はクイーンズランド大学ジョージタウン大学医療センターロチェスター大学アメリカ国立がん研究所の研究者たちによって作られた。 クイーンズランド大学の研究者のイアン・フレイザー周建は、HPVワクチンの基礎となるVLPの発明について、アメリカ合衆国特許法の下で優先権が与えられている。2006年、FDAは最初のHPV予防ワクチンを承認し、メルクがガーダシルの商品名で販売した。メルクのプレスリリースによると、2007年の第2四半期までに80か国で承認され、その多くはファスト・トラックまたは迅速審査を受けていた。2007年初頭、グラクソ・スミスクラインは、サーバリックスとして知られる同様のHPV予防ワクチンの承認をアメリカ合衆国で申請した。2007年6月、このワクチンはオーストラリアで認可され、2007年9月にEUでも承認された。サーバリックスは、2009年10月には、アメリカ合衆国での使用も承認された。

ドイツの研究者ハラルド・ツア・ハウゼンは、性器HPV感染が子宮頸がんに繋がる可能性があるのではないかと考え、後にその証明に貢献した。その功績により、2008年のノーベル医学賞を受賞し、賞金の半分140万ドルを授与された。子宮頸がんが病原体によって引き起こされるという検証により、他の複数のグループが、子宮頸がんのほとんどの症例を引き起こすHPV株に対するワクチンを開発するようになった。賞金の残りの半分は、ヒト免疫不全ウイルスの発見に果たした役割により、フランス人のウイルス学者のフランソワーズ・バレ=シヌシリュック・モンタニエに与えられた。

ハラルド・ツア・ハウゼンは、当時支配的だった定説に疑いを持ち、発癌性ヒトパピローマウイルス(HPV)が子宮頸がんを引き起こしているという仮設を考えた。そして、HPV-DNAが腫瘍内で不活性な状態で存在する可能性があり、ウイルスのDNAの特定の検索により検出できるはずであることに気がついた。パスツール研究所で働いていた彼と研究者たちはHPVが異種のウイルス科であり、一部のタイプのHPVのみががんを引き起こすことを発見した。

ハラルド・ツア・ハウゼンは、さまざまな型のHPVを探して10年以上にわたって研究を続けた。ウイルスDNAの一部しか宿主ゲノムに組み込まれないため、これは難しい研究だった。彼は子宮頸がんの生検で新しいHPV-DNAを発見し、1983年に新しい腫瘍原性HPV16型を発見した。1984年には、子宮頸がん患者からHPV16とHPV18のクローンを作成した。HPV16型と18型は、世界中の子宮頸がん生検の約70%で一貫して検出された。

ヒトの悪性腫瘍におけるHPV発癌能に関する彼の観察は、研究コミュニティ内でHPV感染の自然史を特徴付け、HPVによる発がんのメカニズムをよりよく理解するためのきっかけとなった。

2014年12月、アメリカ食品医薬品局 (FDA) はガーダシル9と呼ばれるワクチンを承認した。これは、9歳から26歳の女性と、9歳から15歳の男性を9種類のHPV株の感染から守るためのワクチンである。ガーダシル9は、第1世代のガーダシルがカバーするHPV株(HPV-6、HPV-11、HPV-16、HPV-18)に加えて、子宮頸がんの20%の原因となる他の5種類のHPV株(HPV-31, HPV-33, HPV-45, HPV-52, and HPV-58)による感染を予防することができる。

ワクチンの種類

ガーダシル
注射器

2006年に、米国メルク社による、HPV 6・11・16・18型に対する4価ワクチン「ガーダシル」 (Gardasil)が、アメリカ合衆国で6月、欧州で9月に発売された。

その翌年2007年5月に、競合他社であるフランスグラクソスミスクラインのHPV 16・18型に対する2価のワクチンの「サーバリックス」 (Cervarix)が、オーストラリアで初めて承認され、同年ヨーロッパでの承認が続いた。両社の製剤は、いずれも世界約130か国で承認されている。

2014年9月には、HPV 31・33・45・52・58型に追加対応とした9価ワクチンの「ガーダシル9」が、アメリカ合衆国で9-26歳の男女への接種が認可された。ガーダシル9によって、HPVの原因となるウイルス型の90%がカバーされる。なお、がん研有明病院によると日本ではHPV52型、58型ががん組織から高率に見つかる傾向がありこれらをハイリスクHPVととらえる見解がある。

2022年7月現在、インドではインド血清研究所(SII)が製造したインド初の4価ヒトパピローマウイルスワクチン(qHPV)を2022年末までに国内で展開する予定にしている。

シルガード9(9価ワクチン)

シルガード9(9価ワクチン)は2015年カナダ、EU、オーストラリアで承認され、2018年までに世界77か国で承認された。2016年以降、米国では9価ワクチンのみが使われている。

日本ではMSDによって、2015年7月3日付で9価HPVワクチンの承認申請が行われ、5年後の2020年7月21日、「シルガード9水性懸濁筋注シリンジ」として製造販売承認を取得した。適応対象となってもシルガード9は自費接種であるが、これを無料化する定期接種の検討も行われている。2023年4月からは女性の定期接種及び令和7(2025)年3月まで限定のキャッチアップ接種において公費で無料となった。

2015年のHPVワクチンのシルガード9の認可を待たず海外から個人輸入して接種する診療所が現れた。

9価ワクチンへの需要は世界的に増加しているため、MSDによると日本での供給が安定するのは2023年ごろを想定していると報道されている 。自らも子宮頸がんに罹患し子宮摘出の経験を機に政治家になった三原じゅん子参議院議員は、HPVワクチンの積極的再開に尽力しその再開決定に喜びつつも、9価ワクチンの定期接種化については世界中で奪い合いになっているため容易ではないことを表明している。

富士市では定期接種として認められている2価・4価HPVワクチンの接種に代わり、「シルガード9」の接種を希望する人またはその保護者の方の経済的負担を軽減するためとして費用の一部補助を2022年開始した。延岡市もシルガード9の接種者を償還払いの対象としている。

ワクチンの接種回数

接種回数は当初3回が推奨されていたが、2回接種でも十分な効果があることが確認されたために、世界では2回接種が主流になっている。例えばイギリスでは女子の接種時期は12歳と13歳の2回であり、義務教育中に受けられなくても、25歳まで国民保健サービスで無料で接種可能となっている。ノルウェーの研究では2回接種を受けた9-14歳男女でのHPV抗体反応は、3回接種を受けた16-26歳女性に非劣性であった。また、国際がん研究機関(IRAC)の研究では、2010年4月にインド政府がHPVワクチンを用いる臨床試験の中止を行ったが参加者の追跡調査ではワクチンを1回接種の者も16型18型の感染予防効果は劣っていなかった。

HPVワクチンは1回の接種で高い効果が得られたと報告され、コスタリカでの成果はJournal of the National CancerInstituteで、ケニヤでの成果は2011年国際パピローマウイルス会議で発表があった。接種回数が少なくなればコストのワクチン供給の問題解決となることが報道されている。

アイルランドで娘のガーダシルの副反応被害を訴える保護者団体は、2015年国内でアメリカに先駆けて推奨回数を3回から2回に減らしたことについて、娘たちが3回目の接種で最も影響を受けていたため世界中で同様の変更が行われないことに怒りと疑問を感じた。アメリカでもその後2017年に全面的な変更が行われた。

日本においても、本ワクチンによる接種被害を訴える女性について多様な症状を「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS)」ととらえ、診察する元日本小児科学会長・横田俊平医師は、ワクチンの接種回数が1回目、2回目、3回目と増えるたびに、症状の種類や頻度も増えると語っている。

ところで、日本では処方箋医薬品として認可されている2価ワクチンのサーバリックスは、10歳以上の女性に3回接種、4価ワクチンのガーダシルは9歳以上の女性に3回接種と記載しているが、2021年11月の厚生科学審議会の部会でも接種回数の減数が安全性につながるのではとの意見が呈されている。

イギリスでは、15歳以上の人に3回の投与を続けるやむを得ない理由はないと判断し3回から2回に変更した経緯があり、ワクチン接種と免疫化に関する合同委員会は2018年までさかのぼって1回の投与の可能性を確認していたが、同委員会は、HPVワクチンの2回接種から1回接種へのスケジュールの変更を助言する十分な証拠があることに同意している。9価ワクチンへの移行は2022年から開始される予定である。2022年8月には、同委員会は青年のためのHPVワクチンの1用量への移行を提言した。

世界保健機関(WHO)は2022年、ワクチンの単回接種は、2回接種と同等の有効性があると発表したが、本公表はワクチン供給の限られる低・中所得国を念頭にしたものであり全ての国を対象として単回接種を推奨するわけではないこと、最終的に単回接種は子宮頸がんの予防効果があるかどうかは未判明との見解がある。

オーストラリアは2023年2月をもって、9価ワクチン定期接種を2回から単回に変更した。

2023年2月厚生労働省専門部会で2023年4月から開始される定期接種では15歳未満は2回とする方針が了承された。

医師の村中璃子は女子学生、日本産婦人科医会会長らからなる「守れる命を守る会」の2023年国際女性デーの記者会見で、WHOの推奨接種回数変更を受け、ワクチンの接種可能年齢になれば性交渉の前に種類に関係なくまずは1回、1日も早く接種すべきと訴えた。

なお、厚生労働省は、1回目、2回目に気になる症状が現れた場合、それ以降の接種をやめることができるとしている。

適応

すでに感染しているHPVの排除や、すでに進行しているHPV関連の病変を抑制する効果はないため、初めての性行為の前までに接種することが推奨される。しかし、HPVに既に感染した既往がある人でも新たなHPVウイルスの感染を防ぐメリットや、別の部位の感染を予防する効果がある。アメリカ合衆国では26歳までの未接種の人々に予防接種を推奨していたものを、2018年には45歳までの男女への接種推奨に切り替えた。


サーバリックス

「効能・効果に関連する接種上の注意」として

  1. HPV(ヒトパピローマウイルス)-16型及び18型以外の癌原性HPV感染に起因する子宮頸癌及びその前駆病変の予防効果は確認されていない。
  2. 接種時に感染が成立しているHPVの排除及び既に生じているHPV関連の病変の進行予防効果は期待できない。
  3. 本剤の接種は定期的な子宮頸癌検診の代わりとなるものではない。本剤接種に加え、子宮頸癌検診の受診やHPVへの曝露、性感染症に対し注意することが重要である。
  4. 本剤の予防効果は20-30年間継続するとされる。
ガーダシル
ヒトパピローマウイルス6、11、16及び18型の感染に起因する以下の疾患の予防
  • 子宮頸癌(扁平上皮細胞癌及び腺癌)及びその前駆病変(子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)1、2及び3並びに上皮内腺癌(AIS))
  • 外陰上皮内腫瘍(VIN)1、2及び3並びに腟上皮内腫瘍(VaIN)1、2及び3
  • 尖圭コンジローマ
  1. HPV6、11、16及び18型以外のHPV感染に起因する子宮頸癌又はその前駆病変等の予防効果は確認されていない。
(2. - 4.はサーバリックスと同一)

他の多くのワクチンと同様、妊婦また妊娠中および授乳中の接種は避けるべきであると、添付書に明記されている。

4価HPVワクチンは、遺伝子組み換えされたパン酵母(baker`s yeast ; Saccharomyces cerevisiae )を使用して製造されているため、イーストに対して過敏性のある人は接種できないが、2価HPVワクチンについては、製造にあたってイーストは使用されていない。2価HPVワクチンは、製造にあたって遺伝子組み換えされたバキュロウイルス(baculovirus)が使用され、イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni )という蛾の細胞でバキュロウイルスは増殖されている。

男性への接種の適応と公費助成

HPVワクチンは、中咽頭癌、肛門癌、陰茎癌、尖圭コンジローマなどの抑制効果も明らかになっているため、世界的に男性への導入も進んでいる。2020年12月 (2020-12)現在、男性への接種を認める国と地域は100以上におよび、40以上の国と地域では男性も公費助成の対象となっている。

2020年12月4日、厚生労働省は4価ワクチンのガーダシルの男性への適応を了承した。

アメリカの大学の研究では、4価のワクチンを男性同性愛者に接種すると、ワクチンがカバーしている4タイプのHPVの感染に関連する肛門上皮内腫瘍のリスクが有意に低下した。

青森県平川市では2022年6月現在、市長が男性も接種助成対象に加える検討をすることを表明した。

東京都中野区では、小学校6年生から高校1年生の任意接種の男子を対象に、令和5年8月からの4価ワクチンの予防接種費用の無料助成を行うことを決定した。


男性の接種可能な病院については、HPV9価ワクチン 医療機関リストとして一般社団法人 予防医療普及協会が国内医院をリスト化している。

禁忌

4価HPVワクチンは、遺伝子組み換えされたパン酵母(baker`s yeast ; Saccharomyces cerevisiae )を使用して製造されているため、イーストに対して過敏性のある人は接種できない。

米国の疾病予防管理センター(CDC)は、新型コロナワクチンについて、ワクチンに含まれるポリエチレングリコール(PEG)に対して重いアレルギー反応を起こしたことがある者への接種は推奨しておらず、PEGに似た構造を持つポリソルベートに対して重いアレルギー反応を起こしたことがある者への接種は以前は禁忌としていたが、現在は、専門医による適切な評価と重度の過敏症発症時の十分な対応ができる体制のもとに限り考慮できるとしている(2021年3月3日時点)。ポリソルベートはガーダシルにも含まれる。

ヒトパピローマウイルスと子宮頸癌の関係

子宮頸癌の最大の特徴は、予防可能な癌であるという点である。日本では、子宮頸癌の人々の87.4%に、あらゆる型のヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus:HPV)感染が確認されている。以下、特に断りのない限り本記事では子宮頸部扁平上皮癌について述べる。

HPVには100種類以上の種類があり、そのうち16型と18型のHPVが、子宮頸癌の約60-70%に関係しているとされる。感染頻度の低い、他に高リスクとされる型には全てではないが31、39、51、52、56、58、59などがある。信頼性の高いPCR/シークエンス法による日本での調査では、16型18型は子宮頸癌のほぼ50%から検出されている。

HPVによる感染の大部分は一過性で自覚症状がない。新たに感染したHPVは、1年以内に70%が、2年以内に約90%が自然消失するので、HPVの感染自体が必ずしも致命的な事態ではない。発癌性のある高リスクのHPVによる感染から前癌病変である異形成組織の形成まで1-5年とされ、子宮頸癌の発生までは通常10年以上、平均で20年以上かかるとされる。前癌病変も軽度なCIN2と呼ばれる状態では、24歳までの若年女性で、1年で38%、2年で63%が自然軽快し、CIN2では確率は低いが、CIN3まで進んだ場合には12-30%が癌に進行すると推定されている。結局HPV感染者の0.15%が癌に至るとされる。

感染率

HPVの感染率は、アメリカ合衆国での約2,500人を対象とした調査で、14-19歳で24.5%、20-24歳で44.8%が感染し、多くの女性が既にHPVに感染していることがわかっている。また別の調査では、性交渉を持ったことがある女性のうち、50-80%がHPVに一度は感染する。アメリカ疾病予防管理センター (CDC) は全米で79万人がHPVに感染し、さらに毎年1,400万人の女性が新たにHPVに感染している。

5ヵ国における子宮頸部上皮内癌と子宮頸癌に関する7つの症例対照研究の1つに登録された 1,913組のカップルに関するデータの分析によると、男性の包皮環状切除は、陰茎のHPV感染リスクの減少と関連し、複数の性的パートナーをもったことのある男性においては、現在の女性パートナーにおける子宮頸癌のリスク減少と関連していることが明らかになっている。なお、日本人男性の7割前後が仮性包茎と言われる。

子宮頸癌による死亡者数

世界で年間52万9,000人が子宮頸癌を発症し、27万5,000人が死亡していると推計されている。子宮頸癌の85%、子宮頸癌による死亡の80%は、発展途上国で発生する。

日本では、年間約9,800人が子宮頸癌と診断され、2,700人が死亡している(2008年と2011年の統計)。1958年の統計開始時には1583人であったものが年々増加し、2019年には15歳以上の2,921人が死亡している。2018年の診断数は10,978例である。。ほかのとは異なり、20歳代から高い発生頻度を示すのも、子宮頸癌の特徴である。また一方で、再発や転移のリスクの高い癌とは異なり、治療による生存率が高い。特に20-30歳代で増加しており、若い女性や子育て世代の女性が子宮頸がんに罹患し、妊娠能力や命を失う深刻な問題が発生している。

一方、年齢別死亡者数では、子宮頸癌による主な死亡層は高齢者であり、2008年時点で24歳までの死亡はほとんどなく、30代の10万人あたり1人から50代の同5人前後へと上昇していったまま推移し、80代近くになると急激に10人に達する。

18歳で初体験をして21歳で死亡した急進行した事例もある。

子宮頸癌については罹患影響は本人だけに留まらない。2021年1月、国立研究開発法人国立がん研究センターは、母から子供に癌が移行することを公表した。出産直後の赤子が母親の子宮頸がんのがん細胞が混じった羊水を肺に吸い込むことによって、母親の子宮頸癌の癌細胞が子どもの肺に移行して小児での肺癌を発症した2事例を発表した。1組目の男児は免疫療法薬で治療できたが、2組目の男児は手術で肺癌を切除した。母親2人は出産後や出産時に癌と診断され出産後に死亡した。

岡山県知事伊原木隆太はその現状を飛行機が30代、40代の母親を200人弱定員満席で乗せ毎月墜落しているのと同様と例え、独自にワクチン勧奨策を取り2020年接種率を23.4%に上昇させた。

産婦人科医本間進は2013年の毎日新聞の取材に答え、患者だった子宮頸がんによる腸閉塞で闘病した30代の女性が大量に吐血し、その小学校低学年の娘がベッドの傍らで震える様子が忘れられないとして、HPVワクチンが日本で承認された直後に妻に接種させた。接種も健診も両方必要と思うと語っている。

アイルランドでHPVワクチンの推奨キャンペーンに参加したローラ・ブレナンは、中学生の時HPVワクチンの対象年齢外であったため未接種となり、2017年に25歳で子宮頸がんを発症して2019年に26歳でその病により逝去した。アイルランドのHPVワクチンの摂取量は、2017年の過去最低の50%から2019年3月の70%に増加し当時の保健相は、ワクチンを接種する人の増加は、彼女のキャンペーンの証だと話した。彼女は生前、アイルランド中の両親に接種を促す呼びかけを希望し、次のように語った。また、彼女の死後の2022年、アイルランドではHPVワクチンを受けていない若者のためのキャッチアッププログラムが決定し、保健相は摂取率の回復しについて彼女と彼女の家族に多大な借りがあると表明した。

この病気は壊滅的で、私の命を奪うでしょうが、いいニュースとして、それを防ぐために入手できるワクチンがあります。HPVは私の癌を引き起こしました。代わりの方法があることを両親に知ってもらいたいのです。

日本では、芸能事務所社長の井出智は、30代半ばに子宮頸がんに罹患し、所属芸能人とともに子宮頸がんの予防について最後の日まで訴えたが2023年4月に逝去した。

子宮頸癌検診

日本での子宮頚癌検診の受診率は40%程度と、他先進国の70-80%と比較すると低率であり、特にも特に20歳代を含めた若年層の検診受診率が低い。また、既に子宮頸癌や前癌病変に進行した人が検診を受診しても、陽性と判断される確率(検診の感度)は、50-70%に過ぎない。より感度の高い細胞診・HPV-DNA検査併用検診は、日本では臨床研究段階であり、特定の地域でのみ実施されているため普及していない。

定期的な検診で、子宮頸癌による死亡率は最大80%減少するとされているが、現実には日本の子宮頚癌患者は年々増加しており、子宮癌検診による患者削減は成功していない。20-39歳の癌患者の約8割が女性で、特に25歳から飛躍的に癌になる可能性が増える。これは子宮頸癌と乳癌の増加によるものである。

東京都医師会の見解では、がんや前がん状態の被験者が検診で陽性を示す割合(感度)は 50%から70%であり、一定数偽陰性が出ることが知られ、特に妊婦や腺がんに多い。また検診でがんや前がん状態が発見されても子宮摘出や円錐切除術を受けるため女性のQOLが低下する。接種で集団免疫が向上する効果もある。これらのため、HPVワクチン接種と検診の両方を推奨している。なお厚労省によると円錐切除術の件数は年間1.1万件を超え、かつ妊孕性を失う手術や放射線治療を要する20代・30代は、年間約1,200人に上る。

妊娠中の細胞診は脱落膜細胞や異型化生細胞など鑑別を要する細胞がしばしば出現すること、採取の際の出血を避けるため十分な細胞採取が行われないことなどにより正確な診断が困難となることが専門医師により指摘されている。

双子の子どもの母であった女性(享年47歳)は検診を欠かさず受けていたが、子宮頸がんの末期がんと診断されてから2年たたずして亡くなった。その配偶者はワクチン普及の重要性を訴える活動を行っている。

女性医師の居原田麗は人間ドックを毎年受け、不正出血で即時に病院に行くも38歳で子宮頸がんのうち小細胞がんに罹患し子宮全摘出したが再発、転移して闘病記を公表している。

有効性

有効性の研究

2013年の厚生労働省の資料では、ワクチンの予防効果はまだ明確には見出されていないとされるが、日本での解析では、ワクチン接種によって、子宮癌の年間累積罹患率を半減できるとする推計が出ており、また世界での解析モデルによる推測でも、子宮頚癌罹患と死亡を70-80%程減らすという結果が出ている。

2017頃より、非接種群と比較して、子宮頸癌の発癌率に差が出てきたことが報告され始めている。効果の判定を慎重にしているのは、予防効果を検出するには、大規模で長期間の試験が必要なためである。前癌病変であるCIN2については、2018年5月に感染予防を確認したとされる報告書が公開されている。

しかし前述のとおり、CIN2が癌へと進行する確率は低い。ランダム化比較試験のシステマティック・レビューでは、最長7年の研究を含む26研究から、子宮頸癌について評価するには十分な研究規模、また期間ではない。16型・18型に未感染であることを確認した15-26歳女性では、種類を問わず前癌病変が生じるリスクは、ワクチン接種群で10,000人中106人に病変があり、偽薬では287人であった。

感染不明では、同リスクは、ワクチン接種群で391人、偽薬では559人である。CIN2の指標は、診断の一致率の低さや、自然退行率が高いため、CIN2をワクチンの有効性を図る指標として使用することを疑問視する声もある。

宮城県での20-24歳の女性で、細胞診による異常が未接種で約5%、ワクチン接種群では約2.4%。秋田県での同じく未接種約2%、ワクチン接種群で0.24%。

2017年12月に大阪大学産婦人科などのOcean Studyが日本ワクチン学会で報告した中間解析では、16型と18型の感染を抑制したことで、あらゆる型を含めた感染率はワクチン接種群12.9%、対照群19.7%と差が見られたが(約35%減少)、細胞診の異常率には差がなかった。

2019年4月、英国エディンバラ大学のTim Palmerらは、1988-96年にスコットランドで生まれた女性を対象に、20歳時点の子宮頸部病変スクリーニング検査の結果を調べ、12-13歳時点でHPVワクチン定期接種を受けた1995-96年生まれの女性では、ワクチンの接種機会がなかった1988年生まれの女性に比べ、グレード3以上の子宮頸部上皮異形成が89%減少していたと『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』で報告した。

2019年6月、「HPVワクチンの影響の共同研究(HPV Vaccination Impact Study Group)」が2014年から4年間の14カ国の研究を総評するレビューを『ランセット』誌に掲載し、このなかで子宮頸癌ワクチンの効果が明らかになったとした。

同レビューでは、ワクチン接種が始まる前と8年後を比べた際に、以下のような結果が出た。

  • 16型と18型のHPV感染件数は、15-19歳の女性で83%、20-24歳の女性で66%減少
  • 尖圭コンジローマの発症件数は、15-19歳の女性で67%、20-24歳の女性で54%減少
  • CIN2+(前癌病変である子宮頸部上皮内腫瘍)の発症件数は、15-19歳の女性で51%、20-24歳の女性で31%減少
  • ワクチンを受けていない15-19歳の男子の尖圭コンジローマ発症件数は50%近く減り、同じく30歳以上の女性の発症件数も大きく下がった。
  • より幅広い年齢層がHPVワクチンを接種し、接種率が高い国ほど、減少率は高かった。

共同著者のカナダ・ラヴァル大学Marc Brisson教授は「向こう10年で、20-30代の女性の子宮頸癌罹患率が下がっていくだろう」と指摘し、子宮頸癌撲滅の可能性にも触れた。英国・ジョーズ子宮頸癌基金(Jo's Cervical Cancer Trust)会長は「この研究は、ワクチンの効果を信じない人に対する反証をさらに強めるもので、とても勇気付けられる」と評した。BBCは「'Real-world' evidence(「現実世界」での証拠)と題して報じた。

2021年11月、医学誌「ランセット」に公費によるHPVワクチン接種プログラムを2008年9月から導入しているイギリスでは12-13歳でワクチン(2価ワクチン)を接種した学年は、子宮頸癌を87%減少させる報告が掲載された。

有効期間

2017年時点で、サーバリックスで最長9.4年、ガーダシルで最長12年のHPVの感染予防効果の持続が確認されている。計算によるシミュレーションでは、20-30年以上有効性を保つと予測される。1回のみ接種したケースでは、抗体価の上昇が3回接種した群と比較して低かったが、少なくとも4年間は安定した抗体価を保つとされる。

対象とする型のHPVの感染防止

咽頭癌(HPV陽性口腔咽頭癌)の70%、2009年の分析で子宮頸癌の70%、肛門癌の80%、膣癌の60%、外陰癌の40%の原因となっていた16型・18型の、感染を予防するとされる。ガーダシルについては、尖圭コンジローマの90%の原因である2種類の低リスク型HPV(HPV6およびHPV11)も予防する。
海外の疫学調査ではHPVワクチンの導入によって、ワクチンの対象とする型のHPV感染者が減少している。アメリカ疾病予防管理センター (CDC) は2013年に、14歳-19歳の女性のあらゆるHPV感染が56%減少したことを報告した。他の年齢層、アメリカの20-24歳の女性では、ワクチン対象型の感染率は低下したが、そのことで全体的な感染率に影響はなかったという2016年の分析。
他の部位、口腔のHPV感染では、他の型では差はないが、16型・18型の感染が93%減少した。
子宮頸部の異形成病変抑制 HPVワクチンによって、子宮頚癌の発生前段階となる高度異形成病変についての抑制効果は、国際的な前向き研究(コホートスタディ)で既に確認されている。子宮頚癌は異形成病変から発生するので、HPVワクチンの有効性が期待できる根拠になっている。
子宮頸癌の抑制 フィンランドでのワクチン接種者と非接種者を、2007年6-2015年12月の7年間経過を追う診療研究で、HPVに関連した子宮頚癌の発生を比較したところ、非接種群では8人(発症率 6.4/100,000 人年)の発生を認めたが接種群は0人であった。他に外陰癌 1 人(0.8/100,000人年)、口腔咽頭癌 1 人(0.8/100,000 人年)の計 10 人(8.0/100,000 人年)にHPVに関連した癌が認められたのに対して、接種群はいずれも癌も0人だった。なお、HPVに関係しない癌の発生頻度には差が無かった。
その他の癌抑制 HPV感染の予防により、HPVが原因となる様々な癌が抑制され、少なくとも腟癌・外陰部癌・肛門癌については、無作為比較試験によって75-100%の高い抑制効果が証明されている。FDAは2008年に、膣癌および外陰部癌の予防について、ガーダシルを追加承認した。
生殖器疾患の抑制 4価ワクチンは HPV 6・11・16・18型の4抗原が原因となる生殖器疾患(子宮頸部、腟又は外陰の上皮内腫瘍又はこれらに関連した癌、上皮内腺癌及び尖圭コンジローマ)の予防に関する日本の試験成績は、419例中100%の予防効果が確認されている(プラセボは422例中5件発症)。
HPVに既に感染した既往がある人でも、その後の新たなHPVウイルスの感染を防ぐメリットや、別の部位の感染を予防する効果がある。
子宮頸部、口腔、肛門の3か所だけで比較しても、HPVに既に暴露された女性の91%にHPVワクチン接種によって、3つの場所のうち1か所で感染の予防効果が認められ、58%の女性が3か所ともに感染の予防効果が確認されている。また、既にHPVに感染した既往がある女性の抗体価と比較すると、HPVワクチン接種者の抗体価は5-24倍であった。
人種差・地域差の影響はない
世界5大陸から26,000名が参加した臨床試験と、部分集団解析によってによって、人種や地域が異なっていても、HPVワクチンの有効性、免疫原性、安全性は影響を受けない。

副反応

副作用と副反応・有害事象の定義

日本における副作用とは薬剤が原因となる目的以外の作用のことで、副反応予防接種が原因の目的以外の生体反応のことである。

有害事象という用語は、原因がなんであれ投薬や予防接種の後に起こる、体にとって有害な出来事のことである。このため有害事象には「紛れ込み」が含まれる。例えば予防接種の後に、風邪が原因で熱がでても、交通事故に遭っても、その発熱や受傷は『予防接種の有害事象』となる。有害事象は、因果関係の有無に問わず、医療機関は厚生労働省へ予防接種後副反応報告書を報告しなければならない。

添付文書に記載される副作用や副反応(一般的に言われる「副作用」や「副反応」は、こちらである)は、医薬品規制調和国際会議(ICH E2A)ガイドラインにより「有害事象のうち、当該医薬品・ワクチンとの因果関係が否定できないもの」となっている。

このように集計して、発症率に差があった場合にワクチンが影響していることが判明する。副反応の被害が認められた際は、予防接種健康被害救済制度の対象となる。

急性期の副反応

HPVワクチン接種時の、頻度の高い副反応(報告数の20%以上)としては急性期のショックアナフィラキシーが知られる。多くは、局所の疼痛、発赤、腫脹、全身性の疲労、筋痛、頭痛、胃腸症状(悪心、嘔吐、下痢、腹痛等)、関節痛がある。頻度の低い副反応(20%以下)としては発疹、発熱、蕁麻疹が見られている(いずれもサーバリックスの日本報告による)。

重度の疼痛は接種者の6%が経験する。疼痛は2価ワクチンで強い。海外で行われている予防接種は筋肉注射が一般的であるのに対し、日本で行われている予防接種の多くは注射時疼痛が強い皮下注射である。皮下注射は疼痛面で不利であるが、薬剤が緩徐に吸収されるメリットがある。HPVワクチンは、水痘ワクチン肺炎球菌ワクチンなどと共に、筋肉内注射で投与される。筋肉注射は、刺激の強い薬物でも注入でき、皮下注射より薬物の吸収が速いという特徴がある。

HPVワクチンのpHと、食塩に対する浸透圧比はそれぞれ、2価サーバリックスはpH 6.0-7.0、約1.0、4価ガーダシルはpH 5.7-6.7、約2.0である。

その他に、どのワクチンも接種後に、注射による一時的な心因性反応を含む血管迷走神経反射性失神が現れることがある。失神による転倒を避けるため、予防接種後30分程度は座らせた上で、被接種者の状態を観察することが望ましい。

アメリカ合衆国では、どのワクチンでも予防接種後15分間は、座位を保つことが推奨されている。

サーバリックスの初期の製品にある、シリンジキャップ及びプランジャーには、天然ゴムラテックス)が含有されていたため、ラテックス過敏症のある被接種者において、ラテックスアレルギーが出現する可能性があった。同様の容器を使ったワクチンに共通した問題であったが、2011年までに天然ゴムが含まない素材に変更された。

慢性期の副反応

慢性期のものとしては急性散在性脳脊髄炎(ADEM)が挙げられるが、HPVワクチンに特有の副反応ではなく、どのワクチンにも普遍的に存在する、よく知られた副反応である。

議論されている副反応

厚生労働省によると、HPVワクチン接種後、医療機関から報告された発熱やアナフィラキシーショックなどの副反応疑いが、2010年11月-2013年3月に計1,196件あり、うち106件は障害が残る重篤なケースだった。重篤な障害が発生したケースでは、接種当日から局所反応・強い疼痛等のため入院となり、接種64日たって夜間就寝時に手足をばたつかせる痙攣のような動きが出現(脳波、SPECT等で睡眠時の行動ではなく覚醒時に生じていると診断)し、接種81日後には計算障害を起こしたとする例が報告された。

日本で接種による副反応疑いの報告頻度は、100万接種あたりサーバリックスで170人超、ガーダシルで同150人と、他のワクチンでも報告の多い麻疹ワクチンの同50人を上回る。痙攣、意識障害めまい、内分泌異常、疲労、麻痺、筋力低下、などなど多彩な症状が複合的に長期にわたる症状が見られ、国外の報告と共通している。日本では、1年以上歩行困難となった事例、また日本の別の少女らでは、身体の痛み、脱力感、寝たきりになる例、一時的な記憶障害を繰り返すようになったといった報道がされた。

医薬品承認以前の5700人超のランダム化比較試験において、2価ワクチンを接種した群は、アルミニウムの偽薬を摂取した群より死亡が多く、また各7000人の比較では4価ワクチンより、9価ワクチンの方が重篤な全身症状を示した数が多かったが、ワクチン関連であるとされておらず、市販後の重篤な症例にもこれらの重篤な有害事象と同様のものがみられるとの報告がある。

2017年の取りまとめでは、日本での接種回数のうち0.03%にそのような症状があったが、約90%が回復または軽快して治療が不要となり、症状が回復しなかったのは、186人(のべ接種回数の0.002%)であった。つまり、10万回接種された中で、2人だけ回復しない症状の発現がみられる頻度であった。

妊娠への影響

妊婦への投与は推奨されていないが、過去に誤って妊婦に投与されたケースの集計により、2価-4価-9価の全てのワクチンにおいて、胎児奇形、胎児死亡、自然流産の発生頻度が、ワクチンを妊娠中の接種していない群と比較して上昇しないことが分かっている。妊娠30日以内の妊娠早期であっても、先天異常の増加は認められなかった。不妊となるリスクについても否定されている。サーバリックスを販売するグラクソ・スミスクラインは、ワクチンに不妊を誘発させる成分は含有されず、不妊の報告例もないと記載している。

死亡リスクはない

死亡リスクは、ワクチン接種群と非接種群で有意差は無い。死亡例は報告されているが、因果関係が認められたケースはない。

  • アメリカ食品医薬品局(FDA)とアメリカ疾病予防管理センター(CDC)の2009年の発表によれば、メルク社のガーダシルを接種した2300万例のうち、接種後に32例の死亡報告があるが、死因は糖尿病性ケトアシドーシス2例、薬物乱用1例、若年型筋萎縮性側索硬化症(ALS)1例、髄膜脳炎1例、肺塞栓3例、循環器関連疾患6例、インフルエンザ菌による敗血症1例、痙攣発作2例など多彩で、ワクチンが原因であるとされるものはなかった。
  • 2007年にはオーストリアで19歳の女性が、ドイツで18歳の女性が、米・メルク社の「ガーダシル」接種後に死亡したが薬剤との因果関係は判明していないと伝えている。
  • 2009年9月にイギリスでグラクソ・スミスクライン社の「サーバリックス」接種後に14歳の少女が死亡し、一時同国でワクチンの使用が中断されたが、その後の調査で死因は患っていた胸部の悪性腫瘍によるものと報告され、使用が再開された。
  • 日本国内で、2011年に14歳の女子中学生がサーバリックス接種の2日後に死亡した事例が厚生労働省の専門調査会で報告されたが、心臓の持病(心室頻拍の発作)からの致死性不整脈で亡くなったとみられ「接種と直接の因果関係はない」と判断された。

デンマーク及びスウェーデンの有害事象の研究

2006年10月から2010年12月までにかけてスウェーデンとデンマークのHPVワクチン接種者に対し、180日以内に起こった有害事象の研究が行われた。両国は人口ベースの医療登録があり、個別の医療情報把握が可能となっている。認可後最初の 4 年間に4価ワクチンを受けたデンマークとスウェーデンの10歳から 17 歳の思春期の少女全員が含まれ、約100万人の女児と70万回のワクチン接種に基づいたこの研究の結果は、HPVワクチン接種後のHPVワクチンへの曝露と自己免疫性、神経性、静脈血栓塞栓性の有害事象との関連性を裏付ける証拠は見つからず、安心できるものであったと結論づけられた。

日米間の有害事象の比較

2014年5月16日に開催された第1回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会では、以下が報告された。

  • 日本はサーバリクス、アメリカはガーダシルの使用が優勢で、報告制度も同一ではない。
  • 米国の方が報告頻度が高い一方、重篤とされた副反応疑いについての報告頻度は日本の方が高い(医療機関からの報告のうち重篤なものと、製造販売業者からの合計。両者の重複がある)。
  • 重篤な副反応疑いの内訳としては、局所反応、過敏症反応、失神等の占める割合が高い。本来「重篤な副反応」とは、死亡、障害、それらに繋がる恐れのあるもの、入院相当以上のものが報告対象とされるが、重篤でないのに「重篤」として報告されるケースがある。規則上それらはそのまま集計されている。
HPVワクチン10万接種あたりの有害事象 日米比較
ワクチン接種数合計 約830万 約2300万
副反応 日本(2価、4価) 米国(4価)
全ての報告 23.2 53.9
重篤な報告 10.4 3.3
副反応の例 ( )内は報告に占めるパーセント
局所反応(疼痛、硬結等) 1.1 (12%) 0.2 (5%)
蕁麻疹 0.3(3%) 0.1 (3%)
失神めまい、嘔気 3.2 (62%) 1.3 (40%)
過敏症反応(蕁麻疹、アナフィラキシー様反応) 0.4 (12%) 0.2 (6%)
アナフィラキシー 0.2 (2%) 0.03 (1%)
ギラン・バレー症候群 0.07 (0.7%) 0.1 (4%)
横断性脊髄炎 0 0.04(1%)
静脈血栓症 0 0.2 (5%)
死亡 0.01 (0.1%) 0.1 (4%)

治療

ワクチン接種後に、何らかの症状が現れた方のための診療相談窓口が全国85施設(全ての都道府県)に設置され、症状によって適切な指導がなされる体制が整えられた。

起立性低血圧にはドロキシドパアメジニウムが使用される。疼痛や痺れにはプレガバリンミロガバリンベシルが投与される。過眠症状には、ナルコレプシー治療薬のモダフィニルが使われる。理学療法士、整形外科医、麻酔科医、精神科医、心療内科医、臨床心理士、社会福祉士、歯科医などの多職種治療チームによって、身体的および心理的な診療体制を整備し、理学療法認知行動療法対症療法を実施したところ、64%の症例で疼痛などの症状が改善したとする研究結果が報告されている。

なお、一部の病院では、独自の特殊な治療が行われている。信州大学医学部附属病院では、学習障害、記銘力障害、過睡眠、意識障害などの症状は『高次機能障害である』として、認知症治療薬であるドネペジルメマンチン、向精神病薬であるメチルフェニデート、その他としてビタミンB12の少量投与を行っている。鹿児島大学病院では「免疫調節療法」として、ステロイドパルス療法免疫グロブリン大量静注、免疫吸着療法、免疫抑制剤(アザチオプリン)投与などを積極的に行っており、効果が得られた症例もあるとされている。

上記の治療方法は『自由診療の実験的治療』であり、日本医師会や産婦人科学会や神経学会のガイドラインや手引書、医学的エビデンスに沿った確立された標準治療ではない。ステロイドパルス療法、免疫グロブリン大量静注については、無効であったと報告されている。

重篤な副反応の原因

HPVワクチンの重度な副反応には、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、体位性頻脈症候群(POTS, 起立性調節障害を参照)、HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS)、慢性疲労症候群(CFS)などを含む。これらの副反応の原因について、主に2つの提唱がある。1つ目は、これらの症状の本体は、心因反応・接種の痛みと痛みに対する恐怖心が惹起する心身の反応・機能性身体症状であるというものである(以下 機能性身体症状説と表現する)。もう1つは、ワクチンにアジュバントとして添加されているアルミニウム化合物による免疫反応であるというものである。

機能性身体症状説

機能性身体症状説は、厚生労働省や多くの団体が支持する仮説であり、その根拠として日本および世界中で数多く実施された大規模臨床試験で、接種群と非接種群で、重篤な副反応の発生頻度に差がないことが挙げられている。国立養育医療研究センター理事長の五十嵐隆は、これによってマスコミ等が問題にする「接種後の多彩な症状」はワクチン接種とは無関係に発生しうることが示されているとしている。

全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会によると国立精神・神経医療研究センター病院の集団検診でワクチンの影響が考えられると初めて診断された。診察医師は、抜歯や高熱などを契機として痛みやしびれが起こることがあり、HPVワクチンは痛みが強いことから仮に心因性でもワクチンと症状を切り離せないと語っている。

2016年12月の厚労省の副反応検討部会の全国疫学調査の中間報告では、実際にこうした患者を診療している医師や、中毒学、免疫学、認知行動科学、産婦人科学の専門家らが集まって審議を行い、これらの多彩な症状は神経学的疾患や中毒、免疫学的疾患では説明がつかないとして、これらの多彩な症状は機能性身体症状と考えられるとしている。また、HPVワクチンの接種後に出現したという多彩な症状については、HPVワクチンを接種していない人でも同様に見られることも確認されているとしており、接種後1か月以上経過して出現した症状は接種との因果関係を疑う根拠に乏しいと指摘した。

医師で医療ジャーナリストの村中璃子は、HPVワクチンが登場する以前から精神医学には身体表現性障害という概念があり、これがHPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS)の症状と重複が多く、HPVワクチン接種が開始される以前よりそのような患者が存在していたと指摘している。

なお、身体表現性障害は、厚生労働省の機能性身体症状の定義とは異なる。注記すると、身体表現性障害はDSMにおける分類名であり、診断名ではない。ある患者の医師へのインタビューでは、過剰適応や心因性の偽発作(心因性発作)とされる。偽発作は、脳波にてんかんに特徴的な波形が観察されないことで鑑別される。村中璃子は、同様のインタビューによって、症状だけを精神科や小児科医師らに説明した場合、CRPSや、POTS、CFSに似た症状を呈する子供たちをたくさん診察・治療してきたという回答が得られたとして、思春期の少女にはそのような症状が観察されることは珍しくなかったと考えるが、これらの症状がHPVワクチンの副反応だという報道が大きくなされてからは、そうした意見は「弱者への暴力」とされる雰囲気が蔓延したと述べている。

なお、心因反応はHPVワクチンに特有の副反応ではなく、2009年のインフルエンザの大流行の時には、中華民国でインフルエンザワクチン接種後の心因反応が23例報告された。イランでは破傷風ワクチンのあとに26人の女子クラスのうち10人が心因反応を起こして、パニックを起こしたとされる。

しかし、ワクチン接種後の多彩な症状を全て「心身の反応」で説明するのは難しいと指摘する医師もいる。HANSの提唱者である西岡久寿樹は、オーストラリアの副作用報告から、例えば男子の失神は約15%、女子では約12%と男女のそれぞれの症状の頻度には大差がなく思春期の女性特有の心因反応だとは考えられない。また、信州大学医学部の医師である池田修一によれば、これらの症状を訴える患者の中には複合性局所疼痛症候群の診断基準を満たしているものがある。鹿児島大学神経内科の高嶋博は、心因性と診断したほうが治療しやすいわけでもないという。

また日本医師会日本医学会は、「心因」という言葉について、2015年の手引きで以下のように述べている。

患者の精神的な異常状態から発症する心因性の痛みも鑑別する必要があるが、「心因」という言葉が、器質的な病態の存在を全否定し、詐病的あるいは恣意的であると誤解されやすい事から、患者・家族も認める明らかな精神的問題を認める特殊な場合を除き、「心因」という表現は用いない。 — 『HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き日本医師会日本医学会、2015年8月、8頁


解離性神経症状反応説

解離性神経症状反応説(DNSR=== :dissociative neurological symptom reactions)は、神経学的に明らかな責任病巣を同定できない種々の症状の発症を糸口として器質的な疾患を除外したのちに診断され、このような反応は予防接種以外のストレス要因によっても惹起される。2018年に実施された ISRR の集団発生についての検討では発生は地域や所得に関係なく、ワクチンの種類も様々であり集団の大きさは7名から806名まであった。

アジュバント原因説

ワクチンの効果を強める目的で添加される、アジュバント(抗原性補強剤)を問題視する仮説が提唱されている。サーバリックスには水酸化アルミニウム、ガーダシルにはアルミニウムヒドロキシホスフェイト硫酸塩が、アジュバントとして添加されている。

2014年2月に行われた子宮頸癌ワクチン国際シンポジウムにおいて、パリ大学のフランソワ・オーシエ教授(神経筋肉病理学)や、元エール大学元准教授・シン・ハン・リー(病理学)らは、抗原性補強剤として添加されているアルミニウム化合物が、神経障害などの副作用を引き起こしていると発表し、ワクチン接種後に急死した少女3人の脳を調べた、カナダブリティッシュコロンビア大学の研究助手、ルチジャ・トムルジェノビックは「すべての国で接種を即刻中止すべきだ」と主張した。

2016年のイスラエル、テルアビブ大学 Rotem Inbarらは、HPVワクチン(ガーダシル)の人体相当量を生後6週目の雌マウスに注射し、対照群と比較する実験を行った。その結果、大脳の免疫組織化学分析で、海馬CA1領域ミクログリア活性化が明らかとなった。またうつ病に類似した行動変化も観察され、アジュバントとして添加されるアルミニウム化合物によって神経炎症および自己免疫反応が誘発されるものと示唆した。

アジュバントは安全であるが、HPVワクチンの臨床試験の偽薬群には、アルミニウムのアジュバントを使用しているため、アジュバントの有害な影響が隠されてしまうとも指摘されており、新しいタイプのアジュバントAS-04を含めたシステマティック・レビューは2017年時点で存在せず、利益と害についての適切な評価はできないため、システマティック・レビューが予定され、事前にその評価方法が公開された。Autoimmune Syndrome Induced by Adjuvants(ASIA、アジュバント誘発性自己免疫/炎症性症候群)が提唱されており、HANSはそのひとつであるという意見もある。

2014年、日本線維筋痛症学会・理事長で東京医科大学医学総合研究所の西岡久寿樹らは、HPVワクチン接種後の様々な症候群に、HANS英語: HPV Vaccine Associated Neuropathic Syndrome, ハンズ、HPVワクチン関連神経免疫異常症候群)という概念を提唱し、その原因はやはりアジュバントと使用されるアルミニウム化合物であるとし、アルミニウム化合物によって脳内のミクログリアが活性化することがHANSの原因であるという仮説を提唱している。

HPVワクチン接種後の症状が、マクロファージ性筋膜炎 (MMF) と呼ばれる疾患概念に似ているという意見もある。MMFはフランスでの報告が多い疾患概念で、同じ水酸化アルミニウムをアジュバントとして含有する、A型肝炎ワクチンB型肝炎ワクチンによって起こる可能性があることが指摘されており、全身筋肉痛や倦怠感、発熱など。記憶障害や集中力の低下などの症候群を呈するとされる。

このような概念で提唱されている症候群としては、MMFの他にも、湾岸戦争症候群 (GWS)、「ワクチン接種後の各種自己免疫疾患」などがあり、これらは同一疾患である可能性も指摘されている。

アジュバント原因説への反論

厚生労働省の専門家会合は、これらアジュバント原因説に対して「科学的根拠に乏しい」として、否定する見解を示している。出席した複数の部会委員らが、根拠となる症例データに対照群が設定されていないなど調査手法に問題があることや、既にアルミニウムを含むワクチンが、世界で80年以上使用され続けており、事実にそぐわないなどの意見が出された。

アルミニウム化合物は、アジュバントとして1926年に認可され、今日まで使用されてきた。アジュバントはHPVワクチンの固有成分ではなく、多くのワクチンに使用されている。

2014年、WHOはHPVワクチンのアルミニウムアジュバントまたはワクチン成分、MMFの関与などの危険性や影響についての研究報告や論文を検討した結果、それら主張には科学的エビデンスが存在しないと判定し、これらの主張はワクチンを接種する機会を脅かし、有害であると非難した。

HANS(HPVワクチン関連神経免疫異常症候群)仮説

難病治療研究振興財団理事長・西岡久寿樹、横浜市立大学名誉教授の黒岩義之、横浜市立大学名誉教授の横田俊平、東京医科大学教授中島利博らは、ハンズ(HANS、HPVワクチン関連神経免疫異常症候群)という概念を提唱した。このグループは、アルミニウム化合物に疑念を持っているとされるが、一方でHANSはHPVワクチンの特有の全く新しい疾患だとしている。

2016年7月の産婦人科感染症学会で開催されたHPVワクチンの安全性を議論するシンポジウムでは、HPVワクチンの成分かアジュバントか、ワクチンのどこに問題があるのかという質問に同グループの東京医大小児科の横田俊平は「(HPVワクチン)全体に不備がある」と答えるに留まった。

HANS提唱グループは、2016年11月11日にイギリスの科学誌『サイエンティフィック・リポーツ』に、マウスを用いたHPVワクチンの安全性を問う実験結果の論文でHPVワクチン薬害を主張したが、この論文は各国の研究者から「研究の欠陥や不一致にも関わらず、注射されたマウスで観察された症状は『HANS』とされる患者と重なっていると結論付けてしまっている」と批判を受けた。

2018年5月11日に同誌は「大量のHPVワクチンと百日咳毒素の同時投与は、HPVワクチンが単独で神経学的な損傷を与えることを判定するためには適切な手法ではない」として論文の撤回を発表した。論文を批判する医師らは、「この論文が予防接種プログラムに与えたダメージによって、日本や世界の現世代の女子たちが被った将来の健康リスクは重大で致命的だ」として批判した。

なお、B型肝炎ワクチンについて、MMFとされる症状との間の因果関係についても既に否定されている。WHOも1999年、2002年、2004年にアジュバントの安全声明を出している。

ワクチンの副作用は接種後6週間から8週間内に起こることが歴史的に知られているのに対し、HANSではHPVワクチン接種後から発症まで平均194日と半年以上経過した例が多数含まれる。また接種者と非接種者との頻度の比較が行われていないとの指摘がある。

池田修一の所属した信州大学医学部医学部では、HPVワクチン接種後の疑いのある症候群の検査中に患者がXXXX症候群と診断された症例を『サイエンティフィック・リポーツ』で報告している。HPV免疫後の疑わしい副作用は、特定の障害が原因である可能性のある複雑な状態だとしている。

その他の仮説

  • 鹿児島県の研究者は自己免疫性脳症との関連を挙げており、静岡や岐阜の研究者も32の症例で髄液中のサイトカインと自己抗体が増加している傾向があることを報告している。自己免疫性脳症の原因は急性散在性脳脊髄炎が最も多く、急性散在性脳脊髄炎は、HPVワクチンの有害事象の1つとして、既に挙げられているものである。

ただし、HPVワクチンに特有の有害事象ではなく、予防接種後ADEMとして、インフルエンザワクチンや麻疹ワクチンなど、どのワクチンでも確認されている。

  • シン・ハン・リー博士はオーストラリア・ブルガリア・フランス・インド・ニュージーランド・ポーランド・ロシア・スペイン・アメリカからの未開封のガーダシルのバイアルを使いHPV16L1が混入していることを発見した。FDAもDNA断片を含むことを認めている。博士はまた3回のガーダシル接種の受けて3か月後に死亡した18歳の少女の遺体組織の血中からは、遺伝子組み換えHPV-DNAが存在し、メルク社の遺伝子データベースと一致したと報告している。非B型のコンフォメーションHPV16DNAを分解できない人々は免疫系を長期にわたり刺激される可能性を示唆している。

世界保健機関(WHO)の見解

2015年12月の世界保健機関(WHO)専門委員会GACVSの声明では、複合性局所疼痛症候群(CRPS)や体位性頻脈症候群(POTS)については、医薬品の承認前と後のデータの検討からは関連するとの証拠はなく、慢性疲労症候群(CFS)については、イギリスでの観察研究によって関連が見られていないとされた。重篤な患者はこれらの症候群に精通した医師への紹介が推奨される。
また、フランス医薬品庁が実施した200万人の若い女性を対象とした、自己免疫疾患についての後ろ向きコホート研究では、接種後3カ月以内のギランバレー症候群の発症が10万人に1人程度の頻度で増加することが見出されたが、他の小規模な研究では報告されていないとした。
2017年5月にWHO(GACVSではない)が声明を公表し、ギランバレーなど自己免疫疾患を含めて承認後の集団ベースの研究、および承認後レビューにおいても関連は見られず、CRPSやPOTSについて承認前後のデータからワクチンの影響は見いだせなかった。
7月にGACVSの報告では、イギリスでの1040万回分、アメリカで6000万回分の母集団による研究からギランバレーのリスク上昇はなく、アメリカとデンマーク、日本から新たにCRPS、POTSなどが報告されたが以前から因果関係の証拠がないとしており、またシステマティックレビューを依頼し、73,697人からなるその結果草案から重篤な有害事象に接種群と非接種群とに差を見出さなかったとした。
そのシステマティックレビューには、26研究のランダム化比較試験が含まれ、重篤な有害事象についての定義はないため個々の研究でその数に変動があるが、個々にはワクチン群と偽薬群と差はみられず、また、すべての研究のコメント欄に他のバイアスのリスクについて、ほぼ製薬会社資金の研究でリスク高と記され(リスク低1件でそれ以外の資金、不明確1件)、それ以外の多くの要素ではリスク低が多い。

欧州医薬品局 (EMA)の見解

2015年12月の『ネイチャー』に、「The world must accept that the HPV vaccine is safe」と題したコラムが掲載され、デンマークから疼痛、湿疹、めまいなどの報告があったが、EMAが安全性を確認したとし、HPVワクチンの安全性を世界的に認めるべきであるとした。2015年の8-11月にEMAが実施した大規模な安全性プロファイルの再調査では、マスコミなどで問題であるとして報道されていたCRPSおよびPOTSの発生頻度は、HPVワクチン接種群と一般集団との間で差がなく、共に10万人あたり15人ほどの頻度で観察されることが報告され、CRPSとPOTSの発症とHPVワクチンとの因果関係を否定した。翌年5月、北欧コクランピーター・ゲッチェらは、EMAの調査について、データのチェリーピッキング(選り好み)があるなどといった苦情の申し立てを行った。7月、EMAはバイアスのリスクは最小限になっているとする回答を公表した。

コクラン共同計画

コクラン共同計画では2018年1月に、北欧コクランのピーター・ゲッチェらは、すべての研究が公開されないことで多くの場合研究結果は誇張されているとし、偏りのできないよう全研究のシステマティック・レビューを実施するためにバイアスへの対処を指摘した。その時点ではGSKのみが提出し、ClinicalTrials.govに登録された試験の半分しか試験成績が公開されていなかったが、研究の索引は既に主な監督庁が保有するよりも大きなものとなり、例えばEMAによるCRPSとPOTSの評価にはその索引の48%の試験のみが含まれており、引き続き臨床試験の登録と公開を推奨している。製薬会社資金のランダム化比較試験が96研究、それ以外の資金での研究が40研究存在し、一部はまだ結果の出ていない進行中の研究である。

2018年5月にはベルギーのコクランによるシステマティックレビューが報告され、HPVワクチンと偽薬のアジュバントあるいは、ほかのワクチンとを比較した26研究からなるランダム化比較試験の計73,428人では、重大な副作用のリスクは共に約7%であり、HPVワクチン接種群と対照群との間に重大な副作用リスクの発生頻度に差が無いと報告した。1つの研究を除き製薬会社資金の研究であった。HPVワクチンによる流産または妊娠中断のリスク上昇も認められなかった。死産リスクおよび新生児の先天性障害リスクについては、集めたデータが不十分であり確実なエビデンスを示すに至らなかった。

厚生労働省の見解

2014年1月20日、厚生労働省の厚生科学審議会の予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会と、薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全調査会が合同会議を開き、接種後に発生した広範な疼痛または運動障害は、ワクチンの成分ではなく「注射針による痛みや不安から起こされた心身の反応(機能性身体症状)と結論付けた。議事録に忠実に記せば「針を刺した痛みや薬液による局所の腫れなどをきっかけとして、心身の反応が惹起され、慢性の症状が続く病態〔ママ〕」である。症状としては「失神、頭痛、腹痛、発汗、睡眠障害、月経不整、学習意欲の低下、計算障害、記憶障害等」が挙げられた。心身の反応、または機能性身体症状では、原因に心理的要因が、身体に病理学的所見がなく、身体症状の増悪また慢性化に心理・社会的な要因が関与する。以前のDSM-IV第4版の身体表現性障害の定義による、精神が中心となっているとするには違和感があり、機能性身体症状ではむしろ身体と精神とが一体となって症状が生じるということである。

日本産科婦人科学会の見解

日本産科婦人科学会は、2015年に、日本においてみられるような慢性疼痛等の様々な症状はワクチン接種とは関係なく発症することもあるとした。2016年4月、日本小児科学会など国内17の学術団体は、接種再開を求めるその声明において、障害を残す副反応は0.002%に過ぎず、ヨーロッパでの調査でもワクチン接種群と非接種群で副反応とされる症状の発生頻度に差が見られないとした。

名古屋スタディ

2015年12月、「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会愛知支部」からの要望で、愛知県名古屋市は市内在住の7万人の若い女性を対象に、ワクチンの副反応が考えられる症状についてのアンケート調査を行った(名古屋スタディ)。これは日本初のワクチンの安全性を確かめる大規模調査となった。

名古屋市立大学医学部公衆衛生学分野の鈴木貞夫教授が調査を行った。接種・症状の有無にかかわらず全員を調査する分析疫学手法で調査は実施され、患者会から提示された24症状(月経不順、関節痛光過敏、簡単な計算ができない、簡単な漢字が書けない、不随意運動など)を使ってアンケートを作成し、7学年の女生徒全員に調査票を郵送し、ハガキで回答する形式で行われ、約3万人の回答が得られた。

解析によれば、年齢補正前の統計でワクチン接種群には月経量の異常、記憶障害、不随意運動、手足の脱力の4つの症状が多くみられ、ワクチン非接種群には体や関節の疼痛、集中できない、視力低下、めまい、皮膚の荒れなどが、多く見られた。また24の症状に関与する要素についても検討された。ワクチンの種類や病院受診の有無、など様々なクロス集計も実施された。

その結果、症状間に強い関連性があったのは、ワクチン接種の有無ではなく、年齢のみであった。年齢補正後、接種群が非接種群より有意に多い症状は1種類もなかった。むしろ、年齢補正後の接種群は有意に少ない症状が目立った。名古屋スタディでは、ワクチンと症状の因果関係を示すオッズ比相対危険度)を示すことが目的とされた。オッズ比が大きければ薬害だと判断され、サリドマイドのオッズ比は100を超え、薬害エイズ結核結核菌の関係では、理論上無限大になる(結核菌以外が原因で結核にはならない)。しかし、名古屋市の調査ではオッズ比は2を下回り、低く、薬害と判断するのは無理があった。

2015年12月、これらを元に名古屋市は「接種者と非接種者で統計的に明確な差は確認できない」との速報を発表した。12月17日に薬害オンブズパースン会議は、名古屋スタディに対して「実態調査であることの限界から、分析疫学の解析手法を適用して、接種群と非接種群の統計学的有意性の検定を行い、因果関係を推論するには適さない」という意見書を提出した。

2016年6月、名古屋市の最終報告書では、生データの公開と数値の集計にとどめ、因果関係に言及することを避けた。また最終報告では、鈴木が24症状全てで、接種者に発症の多い症状は見られなかったことを、オッズ比を含めて報告したにも関わらず、非接種者を1とした場合に、接種者はどれぐらい症状が起こっているのかを比較するオッズ比を削除した。削除の理由として名古屋市健康医療課は、被害者連絡会や薬害オンブズパースン会議からの圧力を踏まえたことを認め、「集団訴訟の被告となっている製薬会社が、名古屋市の調査速報をワクチンとの因果関係を否定する証拠として、訴訟に利用していることも知り、公正中立の立場から、市としては最終解析までは公表しないことを決めた」と説明した。

鈴木貞夫論文への批判と反論

2018年に名古屋市の報告は、名古屋市立大学の鈴木貞夫教授らによって、英文論文として出版され「HPVワクチンと症状との間に因果関係がないことを示唆するような結果が得られた」と結論した。

研究では、症状の最多は「生理不順」(回答者26.3%)で、次に「足が冷たい」(12.3%)が続き、「頭痛」「だるい」「疲労」「めまい」「皮膚荒れ」が回答者の1割以上で、24症状のいずれもワクチン接種者と非接種者との間で統計的に意味のある差はなかった。しかし、病院への受診に条件を変えて解析すると、うった方がリスクが高く見える傾向があった。

これは「副反応かもしれない」という心配やインパクトが強かったため、症状を頭の中で関連づけて、症状が接種後に起きたように思い込んだと鈴木教授は分析し、以下のように説明した。

様々な条件で解析しましたが、受診したかどうかだけが違うパターンを示していました。これは、ワクチンの成分が症状に関連したと考えるよりも、接種した人が『自分の症状はワクチンのせいではないか』と不安になったことが受診に繋がったと考える方が自然です。全体で見ても、ワクチンにネガティブな意見が年を追うごとに増えたため、その心理的影響を受けたと思われるデータも見られました。 — 名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授・鈴木貞夫、2018年3月

この鈴木論文について薬害オンブズパースン会議が、年齢調整が不適切であったなど批判した。薬害オンブズパースン会議の批判について、鈴木は査読論文に反論があるときには、レターを当該雑誌に投稿するのが、医科学分野では一般的であり、レターは出版社が査読する。査読を経ていない反論に対し,科学者は答える必要はないとしたうえで、「因果関係を推論するには適さない」というなら、結果公表前にするのが科学的態度で、指摘は可能であったのに、速報の公表時点までに指摘はなかったと反論した。さらに、「選択バイアス」について会議は根拠を示すことなくオッズ比が低くなる方への可能性を述べているが、数学的な意味でのバイアスの方向性は決まっておらず、鈴木論文でも特定方向への可能性については述べていないし、記入者のばらつきは、結果と交絡しておらず調整も行っていないとした。また利益相反との指摘について、名古屋市から研究費約20万円は受け取ったが、論文校正等の費用として全て使い、いかなる意味でも「報酬」は一切受け取っておらず、利益相反はないと反論した。

この批判論文は、八重ゆかり及び椿広計によるもので、日本看護科学学会の「日本看護科学学会誌」(JJNS)に、2019年掲載の「日本におけるHPVワクチンの安全性に関する懸念:名古屋市による有害事象データの解析と評価」であるが、鈴木貞夫は日本看護科学学会に加入して2022年12月に学術総会の場で改めて反対派の論拠となっている同論文を撤回するように求めた。年齢を交絡とせず、調整をしなかった点などに問題があることを指摘し、学会や学会誌の不作為が非科学に加担しており社会に悪影響を及ぼすことを危惧していることを述べた。一方、日本看護科学学会はJJNS編集長のホルツマ―博士及び学会としても内容等について見解を出す予定はないとしている。

また、2018年に特定非営利活動法人医薬ビジランスセンターの浜六郎は、13症状に現れた統計的なバイアスの影響が無視されているが、認知機能や運動機能の異常が高率であると指摘した。しかし、2019年6月時点で鈴木教授への反論レターは出版社に提出されていない。

鈴木教授は「現在の状況は、正義感や価値観が動きすぎていて、根底にある科学性が無視されている」とし、「HPVワクチンを接種した世代だけ子宮頸癌による死亡率が下がり、その後の世代はそれ以前と同じように、毎年3000人死亡する状況に戻るだろう」と、2019年に警鐘を鳴らした。

NIIGATAスタディ

2022年5月、新潟大学大学院医歯学総合研究科産科婦人科学分野の医師らは、HPVワクチンがどの程度長期の予防効果を示すかを検討し、接種から約9年経過した25歳の時点でHPV16/18型の感染者を認めておらず、長期の予防効果が実証されたことを国内で初めて報告した。さらに、HPV31/45/52型の感染率も、非接種群に比べて接種群では有意に低かった。

WHOによる推奨と世界的普及

2009年4月、世界保健機関(WHO)は、HPVワクチンに関する方針説明書(ポジション・ペーパー)において、先進国だけでなく、発展途上国を含めた世界全体でHPVワクチンの使用を推奨し、ワクチン接種プログラムに導入すること、およびその財政的基盤を作ることの重要性を強調している。開発途上国では、革新的な民間セクターであるGAVIアライアンスと協力して、先進国で100ドル以上するHPVワクチンを、4.5ドルで供給している。

またWHOは、各国の政策立案者に向けた、HPVワクチン導入のためのガイドラインを示した。

接種率

2014年までに、世界中で4000万回のHPVワクチン接種が実施され、2013-2014年までにオーストラリア、スコットランド、ルワンダでは、ワクチンの接種率は約80%となった。

  • インドでは、2州で2010年よりワクチンの接種を2015年時点で中断している。
  • フランスでは2016年に16%の女子がワクチンを接種しており、45%であったアメリカよりはるかに低い。

接種率が高い国は、80%近いオーストラリア、イギリス、スペインであり、40-50%と中間はアメリカとドイツである。デンマークやアイルランドでも接種率の低下は確認され、日本は約70%であった接種率が1%を下回った。積極的勧奨再開を受け、日本における2023年の1回目接種率は30.1%となった。

中華人民共和国上海市松江区の疾病予防管理センター(CDC)によれば、2019年に住民の8割以上が、日本円で10万円ほど必要となるHPVワクチン接種を希望している。

生まれ年度ごとの日本のHPVワクチンの接種率

日本での導入

タイムライン

  • 2008年11月に推進団体の「子宮頸がん征圧をめざす専門家会議」は、ワクチン承認前に設立された。12月に、「ワクチンを活用して疾病の予防、罹患率の減少を目指し、国民の健康増進を推進する議員の会」(通称:ワクチン予防議連)が発足した。
  • 2009年10月に日本で、女性へのサーバリックスの使用が承認され、同年12月から販売が開始された。2010年に接種費用が公費によって負担されるようになり、2011年7月にガーダシルが承認され、8月に販売が開始された。しかし、いずれも3回接種の費用が4-5万円程度の費用負担があり、普及を妨げた。
  • 2010年5月13日に、栃木県大田原市にて、小学校6年生女子を対象とした集団接種が全国で初めて実施された。8月4日に、長妻昭厚生労働大臣が、ヒトパピローマウイルスワクチン接種の公費助成について、予算要求を行う考えを表明した。10月に、予防接種制度について継続的に評価・検討し、全ての年代に必要な予防接種を国内で適切・安全に実施できる体制整備に貢献することを目的に、予防接種推進専門協議会が発足された。10月6日に、厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会は、Hib ワクチン、 小児用肺炎球菌ワクチン、HPV ワクチンは、予防接種法上の定期接種に位置づ ける方向で急ぎ検討すべきであると提唱した。11月26日に、厚生労働省は「ワクチン接種緊急促進事業」を実施し、Hibワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンにHPVワクチンを追加し、市区町村が行う接種事業を助成した。
  • 2011年1月1日、公費負担による子宮頸がん予防ワクチン接種促進事業が開始された。2月、サーバリックス接種後の失神多発を受けて、添付文書が改訂された。7月、ガーダシルの製造販売が承認され、8月から販売された。
  • 女子大生からなる一般社団法人「リボンムーブメント」(2009年設立)は 2012年から若い女性の発症率が増加している子宮頸がんの予防啓発を中心に講演会出席などの啓発活動を行った。
  • 2012年(平成24年)10月の調査では、接種率(接種事業対象者に対する接種済みの者の割合)は67.2%となっていた。
  • 2013年(平成25年)3月31日までは、事業の対象者(おおむね中学1年生から高校3年生相当の女子)は無料もしくは低額で接種を受けられるようになった。4月1日以降「積極的な接種勧奨の差し控え」が出ているが、予防接種法に基づく定期接種は続けられている。
  • 2013年3月25日に、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会が組織され、2016年に集団訴訟が行われた。
  • 2013年4月1日に、予防接種法に基づき小学校6年生から高校1年生までの女子を対象に無料で受けられる定期予防接種が制度化された。4月9日に、「子宮頸がん征圧をめざす専門家会議」が「子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)適正接種の促進に関する考え方」を発信し、さらなるワクチンの適正接種を提唱した。5月16日、厚生科学審議会令第5条に基づき、予防接種施策全般について、中長期的な課題設定の下、科学的な知見に基づき、総合的・ 継続的に評価・検討を行うことを趣旨として、厚生労働大臣に提言する機能を有する予防接種・ ワクチン分科会を設置された。 6月14日に、平成25年度第2回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会にて、ワクチンとの因果関係を否定できない持続的な疼痛がヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン接種後に特異的に見られた。同日、厚生労働省は「積極的な接種勧奨の差し控え」を通達し、同副反応の発生頻度等がより明らかになり、国民に適切な情報提供ができるまでの間、定期接種を積極的に勧奨すべきではないとした。通達では、市町村長は、接種の積極的な勧奨とならないよう留意するとされたが、定期接種を中止するものではないので、 予防接種法施行令第5条の規定による公告及び同令第6条の規定による対象者等への周知等を行うとともに、対象者のうち希望者が定期接種を受けることができるよう、接種機会の確保を図ることとした。その後、接種者が1%に激減した。
  • 2013年7月5日に、世界保健機関のワクチンの安全性に関する諮問委員会(Global Advisory Committee on Vaccine Safety, GAVCS)が「慢性疼痛の症例は他国で見られないものであり、HPVワクチンを原因とする根拠に乏しい」という意見を公表した。
  • 2014年に厚生労働省審議会は、注射針の痛みや不安から起こされた心身の反応(機能性身体症状)との見解を示した(精神障害ではない)。
  • 2015年世界保健機関が選出したワクチンの安全性に関する諮問委員会 (GACVS) が、日本の「接種差し控え」の対応を指摘し、WHOなど専門家による報告書では、「ワクチン接種と副反応の因果関係は無い」と日本に勧告した。しかし、厚生労働省元職員はワクチンへの不安を煽るマスコミの報道などによる世論がある以上、「積極的な接種勧奨」を再開することは難しいと述べている。
  • 2015年8月19日に、日本医師会・日本医学会が「HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診察の手引き」を発行した。8月29日に、日本産婦人科学会が早期の接種勧奨再開を要望する声明を発表したものの、9月17日、厚生労働省予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会にて、副反応継続調査の結果が公表され、「現時点では積極的勧奨の一時差し控えは継続することが適当」であるとされた。9月30日、厚生労働省と文部科学省は「ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後に生じた方に対する相談・支援体制の充実について」を通達し、相談窓口の設置などを勧めた。通達では、9月17日の合同会議において、委員から「患者の学習支援や教育現場との連携等、患者の生活を支えるための、相談体制を拡充すべきである」という意見が出されたことを踏まえて、これらの相談に一元的に対応する相談窓口を各都道府県に設置することとした。都道府県では、衛生部局及び教育部局に1箇所ずつ相談窓口を設置すること、指定都市、中核市では、設置は任意とするが、都道府県と相談し、区域内に居住する者の相談窓口が明確になるように配慮すること、既に相談窓口を設置している場合は、既存の窓口を活用することで差し支えないが、改めて担当者を明確にすることとした。

積極的勧奨の中止

2013年6月14日の専門家会議では、接種後原因不明の体中の痛みを訴えるケースが30例以上報告され、回復していない例もあるとして、厚生労働省は定期接種としての公費接種は継続するものの、全国の自治体に対して積極的な接種の呼びかけを中止するよう求めた。接種を希望する場合は、市区町村の担当部署に自ら連絡し書類の交付を受ける必要があり、呼びかけ中止により、70%程度あった接種率は1%未満に激減した。この判断は、医学的統計的根拠に基づかず、世論に寄り添う日本の政策決定であるとして、世界から非難されることになった。

日本の産婦人科医が、自分の娘にワクチンを接種したかについては、50人超の調査から、2014年では0だったが2017年には16.1%であった。2017年9月までに295人が、HPVワクチン接種との因果関係が否定できないとして、予防接種健康被害救済制度の対象となった。

MSDの広報部門を統括する執行役員は2014年に取材で子宮頚がんの死亡者は高齢者である一方、ワクチンで人生を台無しにされる少女を比較した質問に対し、多様な症状に苦しむ少女に大変なことと共感を示しながら、子宮頸がんにより女性には子宮切除や不妊、後遺症の問題があるため予防手段として個人判断になるが接種の機会が与えられるべきではないかと答えている。

2019年9月現在、定期接種対象者は16歳の女性までとなっている。9月中に接種を開始しないと、当該年度中に3回接種が完了せず任意接種(自費)となってしまうため、注意喚起がなされている。2013年6月の厚生労働省勧告を受けて、地方公共団体は積極的に接種を薦めることを控えているため、他の定期接種ワクチンとは異なり、郵送による一斉通知をしていない。接種を希望する者は、住民票のある区市町村役場に問い合わせ、接種券・予診票を入手する必要がある。2021年1月現在、厚生労働省はる定期接種の対象者及びその保護者へ個別送付による情報提供を実施するよう自治体に周知している。東京都港区では令和2年度から、高校1年生相当年齢の女子及び保護者に厚生労働省作成のリーフレット等の個別通知を送っている。

WHOの接種勧告

2013年7月5日、世界保健機関 (WHO) は公式声明の中で、「日本が報告する慢性疼痛の症例は、同様の徴候が他国で認められないことにより、2013年時点ではHPVワクチンを原因として疑う根拠に乏しい」とコメントし、日本の方針転換を疑問視した。

WHOに独立した科学的助言を提供するために、WHOが委員を選出した『ワクチンの安全に関する国際委員会(GACVS)』の2014年3月の声明では、日本の複合性局所疼痛症候群(CRPS)等の報告について言及し、「2013年に検討したが、因果関係は認められなかった」と結論を出した。

GACVSによる2015年12月22日の声明では、日本だけが接種中止の勧告を出していることを名指して、

専門家の副反応検討委員会は、子宮頸癌ワクチンと副反応の因果関係は無いと結論を出したにもかかわらず、政府は予防接種を再開できないでいる。以前からGASVSが指摘しているとおり、薄弱なエビデンスに基づく政治判断は、安全で効果あるワクチンの接種を妨げ、真の被害をもたらす。若い女性が本来なら避けられる筈の子宮頚癌の被害と脅威に暴露され続けている。 — 世界保健機関 ワクチンの安全性に関する国際委員会、2015年12月22日

と日本の対応を批判した。

日本国内で報告されている有害事象について、日本の専門部会でも関連性を否定しているのに、ワクチン接種推奨再開についての合意に至っていないとして、日本国政府として科学的エビデンスに従った判断を行い、予防接種計画を遂行する必要性を強調した。村中璃子によれば、WHOが1国のみを名指しで非難することは異例だという。日本小児科学会理事は「恥ずかしい限り」と語り、日本産科婦人科学会理事も、2015年の声明全体が、日本への呼びかけのように読めるとして声明への理解を示した。

日本医師会、日本産科婦人科学会、日本小児科学会、日本プライマリ・ケア連合学会のワクチン積極的勧奨再開要望

  • 日本医師会は2015年8月19日に『HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き』を発行、47都道府県に協力医療機関を設置し、HPVワクチン接種後の症状に対する診療体制を整えたなど、接種希望者がより安心してワクチン接種を受けられる診療環境が整ってきたことを指摘した。
  • 日本産科婦人科学会は、2015年にHPVワクチン早期再開を訴えた。さらに、2017年12月9日の声明で、ワクチン接種を導入した国々では、接種世代におけるHPV感染率の劇的な減少と前癌病変の有意な減少が示され、9価ワクチンは子宮頸癌の原因となるHPV型の90%以上をブロックしている。日本では「一部の研究者の科学的根拠のないデータや報道等により、国民の正しい理解を得られないまま、長期にわたり勧奨が再開されないままとなっている」が、現在女性の74人に1人が罹患し、340人に1人が子宮頸癌で死亡している。日本でもワクチン接種により子宮頸癌罹患者数は10万人あたり859人から595人、死亡者数は10万人あたり209人から144人の減少が期待され、「このまま勧奨を再開せず、接種率がゼロに近い世代が拡大し続ければ、将来、ワクチン接種を勧奨しなかったことに対して、不作為責任を問われることも危惧される」として、接種再開を訴えた。2017年12月までに4度にわたって、接種推奨の再開を求めた。
  • 日本小児科学会など17の学術団体は2016年4月、子宮頸癌予防ワクチンの積極的な接種を推奨する共同声明を発表した。既に世界130か国で使用されているが、障害を残す副反応は0.002%に過ぎず、ヨーロッパでの調査でもワクチン接種群と非接種群で副反応とされる症状の発生頻度に差が見られないことを根拠として、これ以上の積極勧奨中止の継続は「極めて憂慮すべき事態だ」と表明した。
  • 2016年8月、日本医学会会長、日本産婦人科医会会長ら学識経験者の有志が、厚生労働省健康局長に書簡を提出した。書簡には「EUROGIN 2016」(ヨーロッパ生殖器感染および腫瘍に関する専門家研究会議)に参加した、世界50カ国以上341人の研究者の署名が添えられ、「日本で問題になっている諸症状は、HPVワクチンとの因果関係が認められておらず、日本の不適切な政策決定が、世界中に与えている悪影響を承知されるべきである」という、世界中の研究者の苦言が伝えられた。
  • 日本プライマリ・ケア連合学会は2018年12月「ワクチンの情報が知らされず接種機会を失うことは、自らの体に対して極めて大切な予防医療の取り組みの機会が奪われることを意味します。」と厚生労働省に積極的再開をすることを通じ、市町村が対象者やその保護者に対して、問診票やハガキ等を各家庭に送る、さまざまな媒体を通じて接種する機会があることを伝える、といった取り組みを再び行うことを訴えた。また学会としてワクチンによる影響を長期にわたって調査する情報システムの構築、といった社会的な側面にも真剣に取り組む意向であることを述べた。

日本のマスコミ報道への批判

  • 村中璃子は、いずれも雑誌『Wedge』で、センセーショナルな発言でメディアに露出したがる専門家や圧力団体の主張に大きく紙面を割く一方で、日本だけが名指しで非難されたWHOの接種勧告を一切取り上げないという日本のメディアは嘆かわしいと主張した。また『Wedge』で名古屋市が実施した調査に論理的根拠も明示せず、調査方法が疑問であるとする、専門家や団体の主張を大きく取り上げる朝日新聞などは世界的に特異であると主張した。村中が2017年にネイチャー等が主催するジョン・マドックス賞を、日本人として初めて受賞した際、ネイチャーに掲載されたプレスリリースでは「HPVワクチンの信頼性を貶める誤った情報キャンペーンが、日本で繰り広げられた」と日本の状況を表現している。ただ村中の『Wedge』での主張に関しては、信州大学の池田修一医学部長らが2016年に発表した副反応に関する研究に意図的な捏造行為があったと主張した件で、池田から名誉毀損だとして損害賠償を求める訴訟を起こされ、村中側が敗訴している。ウェッジは控訴せず、村中は4月8日付で控訴した。HPVワクチンをめぐる記事の名誉毀損訴訟で、東京高裁は10月30日、ウェッジが賠償金を全額支払ったため同記事を書いた控訴人である村中璃子の一審判決の敗訴部分を取り消すという判決を言い渡した。村中は上告受理申立てする方針を表明していた。これに対しては信州大は「予備実験でありながら断定的な発表をした責任は重い」と池田に対して再現実験の実施を求めるとともに、厳重注意処分を行っている。
  • 池田医師よりHPVワクチンをめぐる記事の名誉毀損訴訟が提起された際に、当時の日本産婦人科医会会長の石渡勇気を代表とする「守れる命を守る会」が2016年に発足し、科学的根拠に基づいた言論活動を支援する団体として裁判で村中を支援する広報活動を行った。会員である本庶佑ほかの医師はHPVワクチンに対するマスコミの対応を批判している。
  • 2018年ノーベル賞受賞した本庶佑はストックホルムでの受賞者による記者会見の場でもHPVワクチンに言及し、「とんでもない、大変なこと」と訴えた。厚生労働大臣にぜひにと接種再開を訴えた。また取材に応じてワクチンの問題を説明するも、複数デスクで没にされた経験があるとも語っている。
  • 2020年3月、慶応大学名誉教授で元日本産婦人科学会長吉村泰典は文藝春秋においてHPVワクチンについて意見を掲載し、一人の産婦人科医として低接種を座視してきた責任を痛感していることを述べ、本ワクチンはバッシングの対象とされてきた経緯より発言することが大きな批判を浴びる可能性につながる懸念があるものの、生涯最後の仕事として接種率の向上に取り組むとの心情を吐露している。
  • ロンドン大学熱帯医学研究所教授で元ユニセフワクチン接種グローバルコミュニケーション部門の責任者のハイジ・J・ラーソンは「海外から日本での騒ぎを2年ほど見守ってきたが日本で最も驚くのは、日本国政府も学会も薬害を否定する中で、主要なマスコミがこぞってHPVワクチンの危険性を吹聴することだ。このようなメディアは世界中には例外中の例外で特異である。」と日本のマスコミを非難した。また、日本のマスコミの騒ぎがデンマークに飛び火して、一部の研究者が薬害説を唱え始める事態ともなり、欧州医薬品庁(EMA)も独自に調査をすることになったと語った。後の展開は#重篤な副反応の原因を参照。
  • 産婦人科医らでつくる団体「HPV JAPAN」は2015年3月31日、「HPVワクチンの不安のみをあおる報道は、日本の将来に大きな禍根を残す」とする声明を発表した。
  • 帝京大学の津田健司は、2013年3月の朝日新聞の報道以降、HPVワクチンに関する日本のメディア報道が肯定から否定に転じ、科学的エビデンスを無視する一方で、感情を揺さぶるエピソードが重視される傾向にあると述べている。また、ワクチンに対する否定的な論調が、一部のワクチン接種者の間でノセボ効果を発生させているのは否定できないとも述べた。
  • ジャーナリストの石戸諭によると、HPVワクチンの導入当初、日本ではワクチンに好意的な報道が占めていたが、2013年3月に朝日新聞が疼痛を訴える東京都杉並区在住の女子中学生を報じた報道を境に、「ワクチンをネガティブでリスクのあるように取り上げる記事が圧倒的に占めるようになった」と指摘している。
  • 2019年7月、HPVワクチンの政策決定に関わった元厚生労働省健康課長の正林督章は「科学的なことをよく把握せずに、ワクチンの危険性を煽った一部のマスコミによって、国民の中にワクチンに対する不安が大きくなり、HPVワクチンは危険である世論が形成されてしまった。積極的勧奨の再開のためには、世論が変わることが必要だ。今度はマスコミが接種推奨再開をせよというのなら、マスコミの側で責任を取って世論を元に戻すべきである。世論が変わらない以上、積極的推奨の再開は難しい」と答えている。
  • 2020年以降、朝日新聞はHPVワクチン再評価の記事を出している。
  • 上記のようにHPVワクチンの賛成の立場から、積極的勧奨の中止につながったマスコミ報道を批判する意見は多様だが、実際に副反応に関して虚偽など報道倫理に反する報道があったかについては議論は低調で、放送倫理・番組向上機構でHPVワクチン報道が審議されたり、虚偽だとして新聞記事の撤回に追い込まれたり、司法が判決で虚偽報道と認定したような事例もない。
  • 積極的接種再開に際し、朝日新聞が「9年ぶりHPVワクチン勧奨再開 接種後の症状、医療者側の理解進む」とのタイトルの記事と公式Twitter2022年3月30日掲載したところ、千葉県知事の熊谷俊人及び産婦人科専門医が「目を疑った」「朝日新聞には言われたくない」など反駁を行った。

積極的勧奨接種の再開

  • 厚生労働省は2021年11月に、2022年4月からの積極的勧奨接種再開を決定した。
  • 2020年8月に医療、公衆衛生、社会行動科学の専門家10名からなる「みんハピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」が発祥し、クラウドファンディングで集めた寄付により新聞広告やチラシ配布活動及びNHK出演などでHPVワクチンに関する啓発を行った。8月30日には自民党の「HPVワクチンの積極的勧奨再開を目指す議員連盟」とともに、みんパピ!代表の稲葉医師が「積極的接種勧奨の再開」を求めるオンライン署名(55,616名分)を厚生労働省に提出している。議員連盟の参加者、参議院議員自見はなこは政治に男性が多いため女性の健康を考えず男尊女卑の考えが根底にあると推察した上で、性交渉に対するタブーが激しすぎしわ寄せが全て女性に来ており、仮にこれが「前立腺がん予防ワクチン」であれば、差し控えがあっても、速やかに再開していたのではと問題視している。
  • 産婦人科医が主人公のコウノドリの漫画の子宮頸がんの回を「FRau」で無料期間限定公開したことにより、2000万回以上のPVがあった。
  • HPVワクチンの積極的勧奨接種差し控えでワクチンを打たなかった女子大生の声を受け、2020年6月、医師が「HPVワクチンfor Me」のキャンペーンで、無料のキャッチアップ接種を求める署名活動をオンラインで立ち上げ1日で約1万3000人の署名が集まった。
  • 2022年1月、厚生労働省は積極的な接種勧奨を中止していた期間に機会を逃した1997年度から2005年度生まれの女性に公費で接種する「キャッチアップ接種」の運用方法を決め、あわせて自己負担して接種した人には、費用助成も行う方針とした。
  • 2022年11月から100日間、大阪市では「大阪市×みんパピ 子宮頸がん啓発チャレンジ」としてTwitterとYoutubeを活用した啓発活動を実施した。

文部科学省の対応

2022年11月、文部科学省医学教育課が、大学の医学部や薬学部などに対してHPVワクチン接種後に訴えられた症状を「薬害」と主張する団体の要望書を添え、「薬害被害」について学ぶ授業を行うよう通知を送っていたことが報道された。文部科学省担当は今年度からHPVワクチンの位置付けが変わったことを厚労省から直接聞いていなかったと話している。自民党のHPVワクチン議連が訂正を申し入れるも、12月に文科省が発出した通知は、HPVワクチンで薬害が生じたとする団体の要望書自体を参考にとどめるよう補足したのみで、HPVワクチンによる薬害の主張の取り扱いを変更とするものではないことが報道されている。


 9価ワクチンの無料接種 

2022年11月8日、厚生労働省の第50回厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会)にて、2023年4月1日から、小学6年生から高校2年生に相当する女性に向け、9価のHPVワクチンを全額公費負担で、計3回定期接種する方針を決めた。積極的な接種勧奨の中止から8年間に、ワクチンの接種を受けずに対象年齢を過ぎてしまった女性も、無料接種の対象とする。

副反応報道と補償制度

日本

東京都の中学生がワクチン接種後に1年以上歩行困難となり接種との因果関係を主張した事例があり、2013年3月に無料接種を実施した東京都杉並区は、副反応の被害救済制度の適用の可能性を検討している。2013年4月に杉並区議会に議員が議題として取り上げられた後に、補償に応じない自治体として被害者団体により非難を受け、マスコミによる激しい取材を受けたため、杉並区では被害者とされる接種者に補償を行うことを決定した。このことを日本国民は「自治体が誤りを認めた」と認識し、HPVワクチンに対する反感の転換点となった。

村中璃子によれば、HPVワクチンを過去に接種していれば医療費が無料になるという噂が広まり、それらしい症状が少しでもあれば「ワクチンとの関連性を疑うと診断書を書いてほしい」という求めが首都圏を中心に増える現象が報告されている。

また朝日新聞にて、更に別の少女らが身体の痛みを覚えたり、脱力感、疲労感、四肢に力が入らなくなるなどで寝たきりになる例、修学旅行に行った記憶、学校からの帰り道、食事をしたことなどを忘れるなど著しい記憶障害が発生したといった報道がされるようになった。

2013年5月、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会が発足し8月に田村憲久厚生労働大臣と少女6名とその保護者、事務局等が面会した。面会時少女6名は一斉に症状を発症し、不随意運動、急な眠り込み、白目をむき乖離症状を起こすなどがあった。その場で初めて不随意運動を起こした少女は2時間症状が継続し、大臣には一斉に症状が出たことで逆に疑われたのではと本人は語った。発症前にMRワクチンや日本脳炎ワクチンの接種をしたが知人にワクチンの影響を示唆され家族が本ワクチンの被害を確信した事例もある。また痙攣を止める薬として整理食塩水を点滴され止まったことで心因性だと診断されたことが少女自身により語られている。

平成26年12月のシンポジウムにおいて、国立感染症研究所 倉根一郎の発表では、本ワクチンの副反応と訴える症状について、器質性疾患ではないことを示唆する神経学的所見に言及し、筋力低下を来した場合に通常見られるはずの深部腱反射の低下等の異常が認められない。また、採血時には不随意運動様症状が収まる症例が見られる。他に注意を向けて診察すると筋力低下が検出されないとの指摘がある。四肢の不随意運動様症状が見られる症例においては、脳波・筋電図の検査の 結果が神経疾患による不随意運動で見れるものと異なるといった症状の被転導性があり、神経学的疾患では説明できない。さらに、被害を訴える女性の血液検査で炎症所見がないことが免疫反応では説明できないことから器質性疾患ではないことを示唆する神経学的所見であると言及している。そのほか、接種成分が異なるサーバリックス及びガーダシルの2剤接種後の報告頻度に有為な差はないことの指摘もあった。


HPVワクチン接種後の体調不良に対して、2014年時点で日本国政府は「任意接種であること」等を理由に補償には応じなかった。しかし、2019年9月現在、厚生労働省は、「積極的な接種勧奨の差し控え」の間であっても、健康被害救済の対象になる、としている。アメリカでは2018年時点の罹患率が10万人に対し6.5人という、地域から該当の病が排除されたと国際的にみなされている罹患率が対10万人で4人近くまで下落しているが、HPVワクチンの「積極的勧奨の差し控え」が続いている日本の2018年の子宮頸がん罹患率は10万人中14.7人である。2021年5月現在、健康被害が生じた際には定期接種の場合には厚生労働省の予防接種健康被害救済制度による救済となる一方、該当年齢外の女性及び男性、定期外の9価ワクチンによる任意接種の場合には独立行政法人医薬品医療機器総合機構による救済となる。両者の救済内容は同一ではなく、障害児養育年金では定期では1級 (年額)1,581,600円に対し、任意では878,400円。介護加算が定期で支給があるのに対し、任意ではないなど、定期の方が手厚い制度となっている。

アメリカ

アメリカ合衆国では保健福祉省アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が、HPVから保護するために9〜26歳のすべての女性にMerckPharmaceuticals製のGardasilワクチンを推奨している。2007年に初めてHPVワクチンが認可された。それは4つのHPV型を予防する4価ワクチンだったが、2014年には上記のがんに加え、性器いぼを起こすタイプを含んだ9つの型に対応するHPV9価ワクチン(ガーダシル9)も承認された。2016年以降、米国では9価ワクチンのみが使われている。2005年には10万人に対し8人だった米国の子宮頸がん罹患率も、HPVワクチンの導入と子宮頸がん検診により、2018年では10万人に対し6.5人まで下がっている。罹患率が対10万人で4人まで下がれば、その病気は地域から排除されたと国際的にみなされている。全米接種調査によれば、2018年の接種率(2回完了)が51.1%、2019年には54.2%にアップした。男子の接種率は51.8%と、女子の接種率56.8%より低いが、年々上昇傾向にある。また10代のうちに少なくとも1回はHPVワクチンを受けた人の率は71.5%に上昇した。米国がん協会は80%を目指すことを表明している。統一教会メディアのワシントン・タイムズによると2013年4月までに、副反応を訴える49人の被害者に対して、全国ワクチン傷害補償プログラム(VICP)による588万ドルの補償を決定した。

被害者団体

イギリスにはAHVIDという団体があり、470人のメンバーのうち約400人はHPVワクチンの影響があると信じている。

2010年にはアメリカでジャーナリストを中心とした、HPVワクチンの安全性に異議を唱える市民団体セインヴァックス(Sane Vax)が立ち上げられた。同国では2017年に20歳で接種を開始して3回目の18日後に不整脈で死亡したクリスティーナ・ターセルに対し、全米ワクチン傷害補償プログラムは25万ドルを支給した。2015年アイルランドではガーダシルで起こった究極の被害(Reactions and Effects of Gadasil Resulting in Extreme Trauma,通称REGRET)という保護者の会が発足した。2014年コロンビアのエル・カルメン・デ・ボリバルの学校で接種を受けた保護者により「希望を取り戻す会」が立ち上げられた。。

2018年3月には、日本で国際シンポジウムが開催され、日本、コロンビア、スペイン、イギリス、アイルランドの被害者団体が集った。同年4月、上記5か国の被害者団体は接種中止の共同宣言を行った。

日本

2013年(平成25年)3月25日、日本国政府にHPVワクチン予防接種の完全中止や、副反応患者の救済を求める「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」が設立された。被害者連絡会の会員は、免疫吸着療法が「症状緩和の手段として有効である」と信じられており、厚生労働省に対しては、免疫吸着療法に関する成果を公表するように要求している。症状の原因は「HPVワクチンの固有成分による、脳内での免疫反応である」という仮説を支持している。

被害を訴える者には、12歳で3回接種し15歳で歩行障害などを発症した、13歳で3回接種して17歳からめまいなど出現したと話し治療を受ける者もいる

2017年、厚労省研究班の「牛田班」(牛田享宏・愛知医科大学学際的痛みセンター教授代表)が「軽い運動や考え方の癖を前向きに変える認知行動療法によって、7割の被害者が症状の回復または改善をみた」と発表したことに対して、副反応とされる症状の原因が「心身の反応や機能性身体症状」という前提で研究している、会員は「改善したという自覚を持っていない」と不信感を募らせた。

一方で、食事療法で症状が改善したという会員の声を封殺した上で、事実上の除名処分にするなど「被害者そっちのけで、イデオロギー闘争に明け暮れている」と医師の上昌広による批判もある。

また、ワクチンの『副反応』とされる症状に疑問を呈し、厚労省研究班の「池田班」の研究発表に不備があると主張した、医師・ジャーナリストの村中璃子及び関係者に対しても、抗議活動を展開している。また厚生労働省への法的責任の確認や、日本での疫学調査の実施を要求している。

読売新聞では、2016年8月に掲載したジャーナリスト岩永直子取材による医療サイトyomiDr.の「子どもにワクチンを打つ小児科医の立場から」という森内浩幸医師の記事を、ワクチン反対派からの批判により削除した。記事は接種の必要性を訴え、積極的勧奨再開について状況を無作為に放置することは大量殺りくに「不作為」という形で加担していると指摘するものだった。当時は学会の重鎮たちからはHPVワクチン問題に関わり合いになりたがらず取材は難航し、記事掲載後も寄稿医師が学内外から攻撃に遭い所属大学病院内からも記事を削除すべきとの意見があったと騒動が振り返られている。「ヨミドクター」の編集長だった岩永直子は記事削除事件をきっかけに読売新聞社を退社した。その後HPVワクチンに関する報道でnternet Media Awards選考委員特別賞を受賞している。

政界においては、日本共産党は2009年衆院選から2013年参院選ではHPVワクチンについて公費・定期接種化を掲げていたが、副反応問題騒動後の2014年衆院選から接種勧奨再開に反対に転じ、その後2021年10月に希望者への接種機会整備などを公約で示した。

2022年8月、近畿大学医学部の研究チームは、HPVワクチン薬害訴訟の原告弁護団がHPVワクチン接種後に神経運動症状が生じる理論的証拠として掲載する論文であるワクチン接種後にみられる「重篤な神経系の障害による多様な症状(副反応)」を実験的に再現したとして報告された基礎研究データを、専門家の立場から詳細に検討してそれらの科学的根拠を評価しCancer Scienceに掲載した。2つの動物実験論文の2つに示された研究方法と結果を詳細に検討した結果、データに論理的な合理性がなく、再現性の検討も不十分であると評価している。自己免疫の論文では、HPVワクチンと無関係なL1タンパク以外のHPVタンパク質も含めて解析している点などを問題視している。また後述する動物実験ではヒトのHPVワクチン接種に使用されていない百日咳毒素(PT)が実験に使用されていること、すべての組織学的所見は、わずか1枚の顕微鏡写真/染色/実験群によって示されており、定量化されていないこと、正常マウス脳のパラフィン切片では、しばしば第3脳室に隙間がなくなるため、本論文で示された第3脳室の狭窄は異常とは言えないなどを指摘している。科学的に不十分な実験データを、HPVワクチン接種後に生じる多様な症状の理論的な根拠とすることは、正しい解決策を提示するための障害となるとしている。2023年2月に同大学は、アルミニウムアジュバントを含んだワクチンの筋肉注射で、マクロファージ性筋膜炎(macrophagic myofasciitis; 以下MMF)という、全身性の筋肉痛、関節痛等が起こる事例がある言われているが、ワクチン反対派が論拠とするこの症例はMMFの症例について、水酸化アルミニウムを含むワクチン接種後に限定されているが、日本で使用されてきたサーバリックスとガーダシルののうち、水酸化アルミニウムは、サーバリックスには含まれるがガーダシルには含まれていないことなどを明らかにしている。またそもそもワクチンを注射した一つの筋肉にとどまる局所反応と、MMFによるとする全身性の炎症との因果関係は、これまで一度も示されたことがなくMMF自体の懐疑性について指摘している。あわせてワクチンに含まれるアジュバントによって自己免疫反応が誘導されるとする「autoimmune /autoinflammatory syndrome induced by adjuvants(以下ASIA)」も公議すぎてデータにも再現性がないと否定している。

旧統一教会問題で注目されているジャーナリスト鈴木エイト村中璃子の訴訟事件から子宮頸がんワクチン反対運動に注目し取材を行っている。

集団訴訟

  • 2016年3月30日、日本で「HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団」が結成され、半身麻痺などが残った女性ら原告124人が、日本政府とグラクソ・スミスクライン社、MSD社に損害賠償を求める集団提訴を行うと発表し、東京、大阪、名古屋、福岡の4つの地方裁判所で1人あたり1500万円の賠償金を求める集団訴訟が起こされた。2020年3月現在、係争中。
  • 2017年、コロンビアで700人以上からの政府と製薬会社に対する集団訴訟が行われた。

厚労省HPVワクチン副反応研究班「池田班」における副反応ミスリード騒動

2016年3月、厚生労働省のHPVワクチン副反応に関連する研究班(池田班;信州大学鹿児島大学の共同研究グループ)は、脳機能障害が起きた患者の8割弱で、免疫システムに関わる遺伝子が同じ型だったと報告した(その遺伝子の型は、日本や中華人民共和国オセアニアに多く、ヨーロッパ北アメリカに少ない)。33名の被験者のHLA-DPB1が調査され、通常日本人では4割程の頻度で存在する「0501」という型が、8割程度の頻度であることがわかった。ワクチンの成分と症状の因果関係は不明だが、接種前に遺伝子を調べることが、副反応を回避することができる可能性があると発表した。

また池田班は、マウスに複数のワクチンを接種する実験を行い、HPVワクチンを注射したマウスの脳のみに、神経細胞に対する抗体が産生されたとも報告した。

NFκ-βp50 ノックアウトマウス(自己免疫疾患モデルマウス)へのHPVワクチン(サーバリックス)、インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチンの接種の結果、

1.サーバリックス接種群においてのみ、
(1)マウス海馬への自己抗体(IgG)の沈着
(2)この抗体(IgG)はヒト海馬へも沈着
(3)末梢神経障害あり

この抗体を精製して、神経障害の機序を解明する。 — 信州大学脳神経内科、リウマチ・膠原病内科 池田修一、2016年3月16日

池田教授は同研究結果について、3月16日夜に放送されたTBSのニュース23で「明らかに脳に障害が起こっている」とコメントした。

村中璃子は、この調査には比較すべきでないものを比較しているなど様々な問題点があると述べた。調査対象が少なすぎることも指摘された。

厚生労働省は2016年4月16日に、池田班が示したデータによって特定の遺伝子多型を持つ人にHPVワクチンを接種した場合、記憶障害を起こす可能性が高いということは示せておらず、HPVワクチンと脳の症状との因果関係を示したものではないとし、HPVワクチン接種後脳障害などの発症者の8割に、特定の遺伝子多型が見つかるとの報道は誤りであると発表した。

6月、信州大学は、不正を疑う通報を受けて外部有識者による調査委員会を設置し、11月に「マウス実験の結果が科学的に証明されたような情報として社会に広まってしまったことは否定できない」と発表した。また実験はNFκ-βp50欠損マウスへの接種後の様子ではなく同接種マウスから血清を取り出し、これを無垢のマウス等の脳組織に反応させる手法だったこと、実験区ごとに各1匹のマウスから採取された血清のみの実験であったことが記載されている。更に再実験ではいずれの検体でも無垢のマウスの脳組織との反応を認められなかった。調査班は池田教授には、科学的な検証に耐えられる欠損マウスを用意したうえでHPVワクチン等接種の初段階からの検証実験とその結果公表を求めている。ほか、B特任教授についても複数のマウスより血清を検体を採取したにも関わらず実験結果をn=1にとどめていたことに研究姿勢の疑問が呈されている。

厚生労働省は2016年11月24日、「池田氏の不適切な発表により、国民に対して誤解を招く事態となったことについての池田氏の社会的責任は大きく、大変遺憾に思っております」「この度の池田班の研究結果では、HPVワクチン接種後に生じた症状が、HPVワクチンによって生じたかどうかについては何も証明されていない」とコメントした

池田は一連の問題提起のなかで研究内容を「捏造」とする記事を書かれたのは名誉が棄損されたとして、村中璃子に対し損害賠償のための訴訟を起こした。「捏造」と表現するに足る証拠があったか、それを裏付ける取材が十分になされたのかどうかが争われ、雑誌「Wedge」側が敗訴し謝罪広告掲載と、記事の一部が削除となり、損害賠償もウェッジが330万円を全額支払うこととなった。村中璃子は控訴を決めた。上告提起および上告受理申立てを受けて最高裁判所は2020年3月9日、いずれについても却下決定を下した。

控訴審では、2018年ノーベル賞受賞者の京都大学特別教授の本庶佑は意見書を提出した。一例の実験結果に基づき、結論を出したなどという行為は、生命科学研究者の常識としては、作為の捏造と同等と強く批判した。また明確な因果関係がないということは科学的に考えて因果関係を否定するのが科学的常識と言及した。


日本における子宮頸癌ワクチン問題の真実を、医師でありジャーナリストである村中璃子は、科学的視点から追求したことへの功績として、2017年イギリスの科学誌「ネイチャー(Nature)」が主催する「ジョン・マドックス賞」を受賞した。そのスピーチの中で「医師として、守れる命や助かるはずの命を危険にさらす言説を見過ごすことはできない。書き手として、広く真実を伝えなければならない。」と語り、被害者団体からの抗議活動によって執筆活動が阻害され、本人や家族に多数の脅迫が届いたことを述べている。

その他の反ワクチン論

  • Japan Skeptics監査委員の平岡厚は2014年の論文で副反応の検証を期待していた。当初は、反対派には査読を通過した論文がないのでWHOを信頼することで良いのではと考えていたが、実際に文献を調査してみると推進派は都合の悪い論文を無視しているだけだということが2017年の二度目の調査も通して判明し、今では、査読を通過した論文によって検証を怠っていないのはワクチンの推進派ではなく反対派だと見ており、接種の中止が無難だと判断している。
  • 民主党のはたともこは、2010年にブログにて、HPVワクチンを接種しなくても、検診を怠らないことで子宮頸癌に対応できるとして、HPVワクチンの集団接種はワクチン接種のリスクにさらすだけの行為で、自治体が高額な予算をつけて推奨するような話ではないとして反対している。2016年にはワクチン接種再開の圧力には、メルク社などアメリカの製薬会社の利益のために国民を犠牲にする構造が問題で、日本は「人体実験パラダイス」だと『月刊日本』発表文で主張した。
  • 政治家の山本太郎2019年10月18日の街頭演説で、子宮頸癌ワクチンは重篤となる割合が高く、これを強制接種することに疑問を呈し、さらにワクチンによる癌の予防効果は証明されていないとする厚生労働省の資料を示した上で「人体実験」だと批判した。これに対して産婦人科医らから批判の声が寄せられた。厚労省は、予防と早期発見は全く別のものであると説明している。日本産婦人科学会も、がん検診ではワクチンの代わりにならないことを説明している。
  • ナショナル・ワクチン情報センター(NVIC:反ワクチンを掲げるアメリカの民間団体)は、2011年5月5日時点の報告で、全世界でHPVワクチン(ガーダシルおよびサーバリックス)接種後1年以内に94件の死亡事例と、21,722件の副作用の事例があったと主張している。
  • 薬害オンブズパースン弁護士関口正人は、2014年に厚生省の審議会のメンバーの15人中11人に利益相反があり、金額が500万円を超える3名は決議に参加できなかったと指摘した。2016年11月1日には、厚生労働省による副反応追跡調査の結果(10万接種あたり2人の症状)について、「医療機関に報告が届いていない症状がある可能性もある。また追跡不能例1/3が除外されているのも問題である。」として、17もの学術団体の委員たちが真剣に検討したとはとても考えられない、お粗末な内容と批判した。

ワクチン忌避の類似例

HPVワクチンに限らず、ワクチン忌避は歴史的・世界中でも発生している。ワクチンの副反応に関する同様の話題は、過去に以下のようなものが知られている。

  • MMRはしかおたふくかぜ風疹)ワクチンに関して、医師アンドリュー・ウェイクフィールドが、MMRワクチンを接種すると自閉症になると主張した論文をイギリスの医学誌『ランセット』1998年2月に発表した。子供の保護者らに懸念が広まり、イギリス、アメリカ合衆国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドでワクチン接種の差し控えが広がり、その結果、麻疹に感染する子供が増加していった。
    • MMRワクチンによって自閉症になったとして訴訟も起こったが、巨額の費用を投入して実施された調査では、MMRワクチンと自閉症には因果関係が認められなかった。医事委員会(General Medical Council、GMC)は2010年1月28日、ウェークフィールド医師らの研究は「倫理に反する方法」で行われていたとの裁定を下し、『ランセット』は2010年2月2日に論文を完全に撤回すると発表した。さらに2010年5月、アンドリュー・ウェイクフィールドは、イギリスの医師免許を剥奪された。
  • 百日咳ワクチンについて、1970-80年代には接種に否定的な報道が、世界中のマスコミで行われ、日本・スウェーデン・イギリス・ソビエト社会主義共和国連邦で接種率が低下した。日本でも国の予防接種事故救済制度が発足し、厚生省は1975年(昭和50年)に乳児への百日咳ワクチン接種を中止し、百日咳ワクチンを含む三種混合ワクチンの接種開始年齢を、2歳以上に引き上げた。
    • その結果、百日咳の流行が起きてしまい、1979年(昭和54年)には年間1万3,000人の患者が発生し、うち20人以上が死亡した。厚生省が百日咳ワクチンの接種開始年齢を3か月に戻したのは、14年後の1989年(平成元年)になってからであった。1981年(昭和56年)ごろより感染者数が減少に転じるもの、1970年代前半のレベルに戻ったのは1995年(平成7年)であった。
  • インフルエンザワクチン集団予防接種が、日本では1987年(昭和62年)度まで、小中学生を対象に行われていた。この集団予防接種は、約300万人が感染し約8000人(推計)が死亡した、1957年(昭和32年)のアジアかぜ大流行の教訓から生まれたもので、1962年(昭和37年)から小児への接種が推奨され、1977年(昭和52年)に予防接種法で小中学生の接種が義務化された。しかし、接種後に高熱を出して後遺症が残ったと国を訴えて、裁判で日本国政府が敗訴するケースも続出したため、1987年(昭和62年)に、保護者の同意を得た希望者に接種する方式に変更され、 1994年(平成6年)には、学校での集団予防接種が廃止され、診療所や病院での任意接種に変わった。また、インフルエンザワクチンの効果に対する疑念も世論に広まり、100%近かった小中学生の接種率は、1990年代には数%に低下した。
    • その結果、インフルエンザ脳症によって死亡する児童が増加しただけではなく、インフルエンザに対する集団免疫の低下により、高齢者施設の入所者がインフルエンザで相次いで死亡することになった。後に、日本での小中学生に対するインフルエンザワクチンの集団予防接種は、年間約3万7000-4万9000人の命を救っていたことが指摘された。多くの犠牲者を生んだこの教訓は、ワクチンの集団免疫という概念を知らしめ、各国のワクチン政策に影響を与えた。

脚注

注釈

参考文献

参考資料

関連文献

関連項目

外部リンク

政府・国際機関など
薬害を訴えている組織

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