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代理母出産
代理母出産(だいりははしゅっさん、だいりぼしゅっさん、英:surrogate)とは、主に子宮や卵巣を先天的疾患又は摘出手術のために無い女性が代理母(surrogate mother)に妊娠・出産してもらう生殖医療である 。代理出産(だいりしゅっさん)ともいう。出産時だけでなく、懐胎(妊娠)時も含めて表現したい場合は、代理懐胎(だいりかいたい)と表すこともある。LGBTのゲイカップルなどカップル双方が子宮を持たないが子供が欲しい場合も用いることがあるが、「女性の搾取」であり生命倫理を軽視したエゴイズムであると問題視され強い批判がある。インドではゲイの依頼による代理出産は禁止となり、代理母斡旋などレインボービジネスへの警戒も広がっている。
2種の代理出産
代理母出産には以下の2種類がある。
- Gestational Surrogacy(妊娠代理出産):代理母とは遺伝的につながりの無い受精卵を代理母の子宮に入れて行われた出産。ホストマザー。夫婦の受精卵を妻の親族(母・姉・妹など)の子宮に移す方法もあり、日本でも少数ながら実例もある。Gestational Surrogacy(妊娠代理出産、ホストマザー)には更に4パターン存在する。
- Traditional Surrogacy(伝統的代理出産):依頼者の夫の精子又は第三者の精子を用いた人工授精を行った代理母の卵子を使った受精卵からの妊娠・出産。サロゲートマザー。
子宮影響不妊夫婦における代理出産
不妊夫婦にとっては子供が欲しいとの思いが切実であることが少なくなく、アメリカより費用が安く代理出産ができるインドで、多数の先進国の不妊夫婦が代理出産を行っている。インドでは代理出産用の施設まで作られ、代理母が相部屋で暮らしている。インドにおける代理出産の市場規模は2015年に60億ドルに上ると推計されている。インド政府は、商業的な代理出産を合法化する法案を2010年に国会に提出したが、外国人については本国政府の「代理出産を認める」「依頼人の実子として入国を認める」という証明書を要求している。妊産婦の死に直結するリスクも看過できず、インド国内でも臓器の売買に近い「人体搾取」だという批判がある。このほかにもウクライナでビジネス化している。
上記のように、代理母出産が実施されている原因として、強い需要が存在していることが理由として挙げられる。日本において子宮障害や疾患などのため不妊となっている女性は、20万人はいると見積もられている。子宮が不妊原因で卵子は健康的である場合は、彼女らは代理出産を用いれば、夫婦双方の遺伝子を持つ自らの子を授かることが出来る。養子や里親制度で「子供」を持つのことが出来るのだから代理出産を利用せずにそうすべき、という主張もあるが、遺伝的つながりを求める夫婦の要求を満たすことはできない。不妊治療経験者のうち、養子制度を考えたことがない者が62%をしめ、不妊治療経験者の66%が子との遺伝的つながりを求めている、という調査がある。
性的少数者の用いる代理出産
LGBT(性的少数者)のうち、女性同士のカップルはどちらか片方の子宮と卵子に第三者からの精子提供で妊娠・出産するが、男性同士の同性婚やカップル・トランスジェンダーを含むカップルなど双方が子宮を持たない場合は代理出産が選択肢となる。ゲイカップルの場合は特にパートナーとの生殖細胞が精子のみで、子宮と女性の生殖細胞である卵子を持たないため、「子供」が欲しい場合にカップル片方の生殖細胞(精子)利用又は双方第三者の生殖細胞を用いた代理出産をしてもらう者がいる。
代理母出産に関する議論
賛成派
ロキタンスキー症候群などによって生まれつき子宮か腟、又は両方が無い女性たちが存在している。日本人女性中に約4500人に1人の割合で存在しており、更に子宮に関するがんなどで後天的に失った女性もいる。日本人女性の20~30代の推計5万~6万人が子宮がない女性たちである。上記の中で自分の遺伝子で子供を産みたい女性で卵巣と子宮はあって膣だけが無い場合ならば、腟は腸から手術でつくることが出来るので自力で自分の子を出産することは出来る。しかし、卵巣しかない場合は自分の卵子を使った海外で代理出産の選択肢とあり、日本でも将来的には国内の代理出産が可能になるかが議論されている。日本における代理母出産の議論点については、日本産科婦人科学会の吉村泰典と諏訪マタニティークリニックの根津医師のそれぞれが見解を示している。
反対派
- 宗教的見地理由
- 宗教的な見地より、人間に許される行為ではない、という批判がある。しかし「人間に許される範囲を超えている」という指摘は、内容は不明確であり、そもそも何が禁忌であり「人間に許されること」なのかを一義的に決定することは難しいのではないかという反論もある。
- 契約上理由
- 代理母出産契約は公序良俗に反し、契約として無効であるという指摘がある。また、上記のインドにおける事例で、インドの福祉団体がこれを人身売買であると糾弾し、出生した子を同団体で保護させるよう訴える、という事態も発生している。
- 平成17年5月20日大阪高裁、「代理出産は人をもっぱら生殖の手段として扱い、第三者に懐胎、分娩による危険を負わせるもので、人道上問題があるばかりか、代理懐胎を依頼した夫婦と代理懐胎を行った女性との間で生まれた子を巡る深刻な争いが生じる危険性を胚胎しているとして、否定的に評価する見解が有力である。」としたうえで「公序良俗に反し無効」と判示し、特別抗告を棄却している。最高裁判所も特別抗告を棄却した。
- 契約違反時対応理由
- 代理母が子の引き渡しを拒否する事件が起きている(ベビーM事件)。この他、生まれた子が障害を持っていたために依頼元の父母が引き取りを拒否する事例も起きている。このような契約違反が行われたとき、国家が介入して法で救済すべきとも考えられるが、そのような強制力による救済は当事者を納得させることはできないという見解がある。救済とは損害賠償と強制執行をいうところ、子の代わりに金銭賠償では当事者は納得しないであろうし、強制的に生ませるということは人権の侵害であると考えられる。つまり国家が介入し強制しないにしても強制するにしても問題が発生するという指摘がなされている。
- 親子関係理由
- 法律上、予定されていないため親子関係の確定方法が問題となる。最高裁判例によれば、「母子関係は分娩の事実により発生する」とし、代理母の子として扱われる。このため、代理母と子との間で相続上の問題が発生することが可能性が指摘されている。遺伝子上の代理母と値父親を実親として認めさせようという動きもある。しかし、生まれた子が依頼者・受託者双方と遺伝子上のつながりを持たないケース(上記1-4)があり、単純に遺伝子的なつながりのみで親子関係を確定することはできない。
- また、代理出産の上に、夫以外の第三者の精子を使った人工授精する不妊治療(AID)で生まれた子の約4割は、事実を知らされる前に法律上の父親とは遺伝的なつながりがないと感じている、という研究結果がある。
- 代理出産を外国で依頼したものの、誕生前に依頼した女性が夫と離婚したことで、代理出産の女児が無国籍となって依頼者の国へ帰国出来なかったケースがある。
- 妊娠・出産に対するリスク理由
- 妊娠・出産には最悪の場合死亡に至るリスクがある。
- 1990年に夫の子どもを産もうと人工授精を行ったところ他人の子どもが生まれた事例がある。他にも2003年に不妊治療AIHを行ったところ、別の患者の夫の精液を注入するというミスが起こったことが発覚している。
- 成功率向上のための着床前診断理由
- 子の出自を知る権利理由
- 生殖補助医療において第三者から精子もしくは卵子の提供を受ける場合、匿名性の原則が存在したが、子どもの出自を知る権利と相容れず、その調和が問題となる。匿名性の原則とは提供精子から生まれた子どもには、提供者に関する情報はいっさい公表しないということである。その原則の背景には、第一に生まれた子どもから養育の責任を問われないように提供者を保護すること、第二に提供者が自ら父であると名乗り出るなどの家族関係への介入を防ぐ、という理由が存在する。 しかし一方で子どもの出自を知る権利の重要性が存在する。すなわち第一に近親婚を防ぐ、第二に遺伝病を知る、第三に家族が秘密や匿名を守らなければならないことが、家族全員にとって有害な緊張関係をもたらす、といった要請である。 代理母出産においても精子提供等を受ける場合があるため、この権利がどこまで認められるべきか、問題となる。
各国における認否
条件つき合法化国
代理懐胎を一定の条件付きで容認している国としてはイギリス、オランダ、ベルギー、カナダ、ハンガリー、フィンランド、イスラエルなどがある。
全面禁止国
代理懐胎を全面的に禁止している国としてはドイツ、イタリア、オーストリアなどがある。これらの国で代理出産が行われた場合には懐胎者を母とする法制度が一般的である。スイスでは代理懐胎は憲法で禁止されている。他にはフランスでは人体の尊重・不可侵・不可譲という認識が強く、代理懐胎契約は無効とされ、そのあっせん行為も禁止し処罰対象としている。
認否不定国
日本
代理母出産の明確な禁止も条件を定めた認可もしてないため、個人の判断で行いたければ国外で出来る形となっている。代理母出産については、生殖補助医療の進展を受けて日本産科婦人科学会が1983年10月に決定した会告により、自主規制という形で事実上の代理出産阻止が行われているため、日本国内では原則として実施されていない。
日本では諏訪マタニティークリニック(長野県下諏訪町)の根津八紘院長が、国内初の代理母出産を実施し、2001年5月にこれを公表した。また、2000年9月に妊娠判明と同時に子宮頸癌が発見されたため、妊娠16週(妊娠5ヶ月)の時に癌部位切除手術のために胎児を失い、同年11月21日広汎子宮全摘出手術を受けたタレントの向井亜紀が、同年12月19日に病状報告会見にて日本国内の自主規制を避ける形で海外での代理母出産を依頼することを公表した。
向井は胎児喪失と子宮全摘の失意から高田に離婚を持ちかけたこともあったが、最終的に、向井は「愛する人の遺伝子を残したい」と、2002年から代理出産に挑戦した。2度の失敗後に、3度目の挑戦で妊娠に成功した。2003年11月、当時31才のアメリカ人女性が代理母としてアメリカで双子を出産した。
このような状況を受け、厚生労働省の審議会及び日本産科婦人科学会はそれぞれ対応策の検討を開始し、2003年には、共に代理母出産を認めないという結論とした。
そうした中、向井亜紀・高田延彦夫妻が2003年に代理母出産によって得た子供たちの戸籍上の扱いについて提訴したり。最高裁の判決で日本国において、代理母の法的な子であり、「日本在住のアメリカ人」という認定になった。2009年に高田夫妻は双子と特別養子縁組を結んだことで、双子がアメリカ人女性との法的な親子関係を解消し、普通の親子と同等の関係となったこ。
2006年10月、根津八紘医師が、年老いた母親に女性ホルモンを投与し娘のための代理母にした、という特殊な代理母出産を実施したことを公表した。
なお、代理母出産は、2008年4月5日時点で根津医師が公表したものだけでも15例が実施され、また、海外での代理母出産も相当数(日本人が米国で実施したものだけで100例以上)あるとされる。 近年では、インドやタイで代理出産を行うケースが増えている。日本人向け業者がごく最近になってあっせんを始めた影響だと思われる。この状況を受けて、タイ・インドでは代理出産を一定の要件の下で認める(規制するという見方もできる)法案が準備されつつある。
このような事態の発生により、厚生労働省および法務省は、2006年11月30日、日本学術会議に代理母出産の是非についての審議を依頼した。しかし、審議の間にも、日弁連は、代理母出産を禁止すべきという2000年の提言の補充提言を発表し、根津八紘医師は、代理母出産の法制化に向けた私案を公表した。
2008年7月には、インドで代理母出産により出生した子供が、依頼夫婦の離婚などが原因で出国できなくなった事案がある。また実母が代理出産した男児を特別養子縁組とした例がある。
2008年4月、日本学術会議は、代理懐胎の法規制と条件付き合法化による原則禁止などを内容とする提言を行った。
- 代理懐妊の法規制と原則禁止が望ましい
- 営利目的での代理懐妊の施行医、斡旋者、依頼者を処罰の対象とする
- 先天的に子宮をもたない女性及び治療として子宮摘出を受けた女性に限定し、厳重な管理下での代理懐妊の臨床試験は考慮されてよい
- 試行にあたっては、医療、福祉、法律、カウンセリングなどの専門家で構成する公的運営機関を設立し、一定期間後に検討し、法改正による容認するか、試行を中止する
- 代理懐妊により生まれた子は、代理懐妊者を母とする
- 代理懐妊を依頼した夫婦と生まれた子の親子関係は、養子縁組または特別養子縁組によって定立する
ウクライナ
他にも法律が無く、認否どちらもしていない国としてはウクライナなどがある。 ウクライナでは外国人と代理出産の契約を結ぶことが許可されているため、国際的な代理出産の拠点となっている。2014年のウクライナ紛争以後には避難してきた若い女性が金を得るために業者と契約する事例が、紛争以前より増加した。関連法が無いため業者は届け出をする必要も無く、引き取りを拒否しても依頼者には罰則が無いため、受け取り拒否された障害児の場合は捨てられることが問題となっている。
関連書籍
- 大野和基『代理出産―生殖ビジネスと命の尊厳』集英社〈集英社新書〉、2009年。ISBN 978-4087204926。