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精神病質

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精神病質(サイコパシー)
パーソナリティ障害
分類および外部参照情報
診療科・
学術分野
精神医学司法精神医学司法心理学心理学
ICD-10 F60.2
ICD-9-CM 301.9
DiseasesDB 28852
MeSH D000987
GeneReviews

精神病質(せいしんびょうしつ、: psychopathy)またはサイコパシーとは、精神障害の一種であり、社会に適応することが難しい恒常的なパーソナリティ障害精神病妄想幻覚・乱雑な思考発語・非現実的で奇妙な行動などの症状)と健常との中間状態。精神病質を「人格障害」(パーソナリティ障害)の同義語類義語としている精神医学論文日本語辞典もある。

精神病質(サイコパシー)を持つ者は精神病質者サイコパスと言い、精神障害者の一種として「精神保健福祉法」で定義されている。より詳細には反社会性パーソナリティ障害者に分類されることがある。

政策科学博士の緒方あゆみの論文によると、現代の精神病質者に対する精神鑑定では、医学者精神科医クレッチマーの方法論が用いられている。クレッチマーいわく「精神病者、精神病質者〔サイコパス〕、正常人」という三者を断定的に区別できる指標は存在せず、これら三者は「相互に移行しあうもの」である。クレッチマーによって、精神鑑定対象者の責任能力については「心理学的基準による量的判断」が行われるようになり、正常からの偏りが大きければ「限定責任能力」、極端であれば「責任無能力」と鑑定されるようになった。

定義

用語

  • 精神病質は、『広辞苑』(第七版 2018年)で以下の解説がされている。
「【精神病質】性格の異常性のために自分で悩んだり、社会を困らせたりするような性格。性格障害・人格障害にほぼ同じ」。

医学博士精神医学者の林拓二学術論文では、「精神病質=人格障害」という表記がある。

類似語

  • 類似する用語として、社会病質しゃかいびょうしつ: sociopathyソシオパシー)がある。行動遺伝学者デヴィッド・リッケン (David T. Lykken) は反社会的人格を「ソシオパス的人格」「サイコパス的人格」「性格神経症」の三つに大別し、「ソシオパス的人格は、親の育て方などによる後天的なもの」「サイコパス的人格は元来の性格、気質などの先天的なもの」として位置付けている。しかし一般には、ソシオパスとサイコパスはほぼ同義なものとして扱われることが多い。研究では、原因は遺伝的要因と非遺伝的要因が挙げられている。
  • 「サイコパシー」は「マキャヴェリズム」「ナルシシズム」と共に、ダークトライアドを構成する3要素の1つである。

注意点

「精神病質(サイコパシー)」という言葉はかつては(主にヨーロッパにおいて)精神医学用語の1つとして、比較的広い意味で用いられていた。現在ではそうした用法は廃れているが、今日の用法と混同しないよう注意が必要である。またサイコパスは俗にサイコと略されることがあるが、この言葉には「精神病的(: psychotic、サイコチック)」という意味も含まれることもあるので「サイコパス的(: psychopathic、サイコパシック)」とは必ずしも同義ではない。

診断

現状では、チェックリストのみが診断基準であるので医学的にサイコパスと同じ状態であっても反社会性がなければサイコパスとはならない。反社会性などの診断基準を満たす者は幼少期からの素行問題など行動面の異常を示すことが多い。

現在は20項目(『HARE PCL-R第2版テクニカルマニュアル』)が新たに定められ、それを用いて個別診断で半構造面接を行い2時間半 - 3時間かけて評定をする。

サイコパスは病気(いわゆる精神病)ではなく、ほとんどの人々が通常の社会生活を営んでいる。そのため、パーソナリティ障害と位置付けられており、日本では反社会性パーソナリティ障害と名称されている。

精神病質と社会病質が混合されているがヘアによると精神病質と社会病質は似て非なるものであると記している。精神病質の原因と考えられているのは前頭葉の障害であるとされ、精神病質は遺伝病だとされる意見が主とされている。逆に、家庭・周囲環境や障害に因る心身の衰弱によるものなどによる、精神病質に似た性格異常は仮精神病質(偽精神病質)とされ、精神病質とは識別されている。

エミール・クレペリンによるとサイコパスのひとつに「空想虚言者」という類型がある。ただしクレペリンの時代の精神病質の概念は現在のものとはことなる。

DSM-IVでの行為障害反社会性パーソナリティ障害の診断とPCL-Rで示されるサイコパス概念の違いは、人格というより、〈対人・情動〉、〈衝動的・反社会性行動〉、〈前2者に含まれない要素〉に着目することによってDSM-IVの診断を発展させたところにある。DSM-IVの診断では、単に反社会的行動をとる人たちという幅広い、それに至る多くの道があるという集団が同定されてしまう。

チェックリスト

サイコパシー・チェックリスト (PCL)
最も一般的に用いられているのは、ロバート・D・ヘアによって作成されたサイコパシー・チェックリストPsychopathy Checklist, Revised (PCL-R))である。

PCLは専門家が使ってもかなり複雑な臨床診断ツールであり、専門知識のない素人が自分や身近な人の診断に使うのは控えた方がよい。この診断には、しっかりとした訓練と正式な採点方法が必要である。

サイコパシー・チェックリスト (PCL)
  1. 口達者/表面的な魅力
  2. 過去におけるサイコパスあるいは類似の診断
  3. 自己中心性/自己価値の誇大的な感覚
  4. 退屈しやすさ/欲求不満耐性の低さ
  5. 病的に嘘をついたり人を騙す
  6. 狡猾さ/正直さの欠如
  7. 良心の呵責あるいは罪悪感の欠如
  8. 情緒の深みや感情の欠如
  9. 無神経/共感の欠如
  10. 寄生虫的な生活様式
  11. 短気/行動のコントロールの欠如
  12. 乱交的な性関係
  13. 幼少期からの行動上の問題
  14. 現実的で長期的な計画の欠如
  15. 衝動性
  16. 親として無責任な行動
  17. 数多くの結婚・離婚歴
  18. 少年時代の非行
  19. 保護観察あるいは執行猶予期間の再犯の危険が高い
  20. 自分の行動に対する責任を受け入れることができない
  21. 多種類の犯罪行為
  22. 薬物やアルコールの乱用が反社会的行動の直接の原因ではない
  • 各項目は、「0, 1, 2」の3点法で採点し、臨床的には合計点で評価する。点数が高いほどサイコパスの特質を多く持っていることになる。
サイコパシー・チェックリスト改訂版 (PCL-R)
  1. 口達者/表面的な魅力
  2. 誇大的な自己価値観
  3. 刺激を求める/退屈しやすい
  4. 病的な虚言
  5. 偽り騙す傾向/操作的(人を操る)
  6. 良心の呵責・罪悪感の欠如
  7. 浅薄な感情
  8. 冷淡で共感性の欠如
  9. 寄生的生活様式
  10. 行動のコントロールができない
  11. 放逸な性行動
  12. 幼少期の問題行動
  13. 現実的・長期的な目標の欠如
  14. 衝動的
  15. 無責任
  16. 自分の行動に対して責任が取れない
  17. 数多くの婚姻関係
  18. 少年非行
  19. 仮釈放の取消
  20. 多種多様な犯罪歴
  • それぞれの項目は、0 - 2点で評定、総計で0 - 40点に分布する。
  • 成人で30点を超えるとサイコパスとされ、20点未満であるとサイコパスではないとみなされる。
  • 子供のサイコパス傾向についての基準はあまり確立していないが、27点がカットオフ値。
サイコパシー・チェックリスト (PCL-R) をめぐる論争

サイコパシーの尺度の一つとして、PCL-Rは確かに有用ではあるが、PCL-Rが「サイコパスの定義」と誤解されることが危惧されており、特に犯罪歴に関する項目が含まれている点に関しては強い批判がある。これに対して、ロバート・ヘアらは、「サイコパスであるためには、広義の意味で反社会的(: antisocial)であることは必須であるが、犯罪的(: criminal)であることは必ずしも必須ではない」と認めている。これにより、かつてハーヴェイ・クレックレーがその著書「The Mask of Sanity(正気の仮面)」で示唆した、非犯罪的サイコパスないし“成功した”サイコパスの存在が再認識された。“成功した”サイコパスと呼ばれる者たちの多くは、大統領や大企業のCEOなど、社会的成功を収めている人物だといわれている。

サイコパスの2因子モデル
因子1:対人/情動面 因子2:衝動的/反社会的行動面 因子3:どちらにも含まれない項目
1. 口達者/表面的な魅力 3. 刺激を求める/退屈しやすい 11. 放逸な性行動
2. 誇大的な自己価値観 9. 寄生的生活様式 17. 数多くの婚姻関係
4. 病的な虚言 10. 行動のコントロールができない 20. 多種多様な犯罪歴
5. 偽り騙す傾向/操作的(人を操る) 12. 幼少期の問題行動
6. 良心の呵責・罪悪感の欠如 13. 現実的・長期的な目標の欠如
7. 浅薄な感情 14. 衝動的
8. 冷淡で共感性の欠如 15. 無責任
16. 自分の行動に対して責任が取れない 18. 少年非行
19. 仮釈放の取消
サイコパスの3因子モデル
尊大で虚偽的な対人関係 感情の欠落 衝動的/無責任 どの因子にも含まれない項目
1. 口達者/表面的な魅力 6. 良心の呵責・罪悪感の欠如 3. 刺激を求める/退屈しやすい 10. 行動のコントロールができない
2. 誇大的な自己価値観 7. 浅薄な感情 9. 寄生的生活様式 11. 放逸な性行動
4. 病的な虚言 8. 冷淡で共感性の欠如 13. 現実的・長期的な目標の欠如 12. 幼少期の問題行動
5. 偽り騙す傾向/操作的(人を操る) 16. 自分の行動に対して責任が取れない 14. 衝動的 17. 数多くの婚姻関係
15. 無責任 18. 少年非行
19. 仮釈放の取消
20. 多種多様な犯罪歴

原因、脳の特徴

先天的な原因があるとされ、男性が多いとされるが、B・ブレアによれば反社会性の面では男性優位であるが、情動面では男女に差はないという。脳の働きを計測すると、共感性を司る部分の働きが弱い場合が多いという。反社会性パーソナリティ障害の一般人口における有病率は、男性3%、女性1%ほど。

ジェームズ・ファロン(自らがサイコパスと同じ脳構造を持っているという脳科学者)は「三脚スツール」という理論を提唱し、「反社会的行動をするサイコパス」の発現条件として以下3つの要素全てが揃うこととしている。

  1. 脳機能:前頭前野から扁桃体へつながる機能の低下
  2. 遺伝子:MAO-A遺伝子などいくつかの遺伝要因
  3. 生育環境:幼少期の身体的、精神的、性的虐待

ファロン自身が患っている疾患は双極性障害、強迫性障害、パニック発作。遠い親族に殺人者、殺人嫌疑者、兄弟にADHDがおり、本人の行為障害的行動についても語っている。ジェームズ・ブレアは扁桃体の機能不全こそがサイコパスの主な原因とするが、その原因については不明としている。

現時点で言えることは、以下の2点である。

  • 脳の機能について、遺伝の影響は大きい
  • 生育環境が引き金になって反社会性が高まる可能性がある

虐待や劣悪な環境を避けることで反社会性の発現のいくらかは抑えられるという研究がある。

脳の特徴

管理

英国国立医療技術評価機構 (NICE) は精神病質の診断基準を満たす人口に対しては、認知行動介入を検討するとしている。また併発疾患を治療することで、精神病質によるリスクを減少させることができる。また、これに携わるスタッフは有害事象リスクが高いため、スタッフには高レベルの支援と厳重な監督が提供されなければならないとしている。

統計・割合

精神病質者(※マイルド・サイコパスも含む)は、人口に対し決して少なくない一定数(0.2%から3.3%)で存在し続けていると見積もられており「学校のクラスに一人くらい」「会社にも必ず何人もの」精神病質者がいると考えられ、4%とする研究もある。一般の人々と異なるさまざまな特徴があるが、精神病質者は人を騙すことを得意としているため、それを専門家でない者が見分けることは、非常に困難である。日本にもおよそ120万人いると推定される。下記の様に統計的見積もりに、バラつきがあるのは、後述する「マイルド・サイコパス」を含めるか、含めないかによる相違である。

  • 反社会性パーソナリティ障害の一般人口における有病率は、男性3%、女性1%ほど
  • ロバート・ヘアポール・バビアクは「女性のサイコパスが統計的に少なく出やすい、または見落とされやすい理由」として、サイコパスの特徴が見られる人間に対して、精神科医は「男性の場合は『サイコパス』と診断するが、女性の場合は『パーソナリティ障害(演劇性・境界性・自己愛性)』などの異なった診断を下しがちなこと」と「『女性はサイコパスでない』という先入観」によると推測している。
  • マーサ・スタウトによれば、アメリカでは25人に1人(約4%)とされる。「その多くが犯罪者でなく身近にひそむ異常人格者である」という「マイルド・サイコパス」の実態は反映していない(#診断を参照)。
  • 米国には少なくとも300万人、ニューヨークだけでも10万人のサイコパスがいると、ロバート・ヘアは統計的に見積っている。J・ブレアはアメリカでは反社会性人格障害のうち4分の1がサイコパスであるとしておりその率は全体の0.25%である。
  • 英国ボンド大学のネイサン・ブルックスによる2016年の研究によると、CEOの5人に1人はサイコパスであり、企業の上司の21%が臨床的に重要なサイコパス特性を示しているそうである。これは言い換えれば、受刑者と同じような割合である。
  • 英国では、サイコパスは犯罪者の約8%に過ぎないが、「永続的で暴力的な」犯罪者の約半数はサイコパスである。

特徴

行動・情動面での特徴

オックスフォード大学の心理学専門家ケヴィン・ダットンは、精神病質者(サイコパス)の主な特徴を以下の様に定義している。

中でも、最大の特徴は「良心の欠如」であり、他人の痛みに対する共感が全く無く、自己中心的な行動をして相手を苦しめても快楽は感じるが、罪悪感は微塵も感じない。「人の人権尊厳を平気で踏みにじる行動をしながら、そのことに心が動かない」という特徴があり、良心の呵責なく他者を傷つけることができる。精神病質者の大部分は殺人を犯す凶悪犯ではなく、身近にひそむ異常人格者(=マイルド・サイコパス(※後述))であるとされている。このようなマイルド・サイコパスは、社会的成功を収めることも多いとされている。

犯罪心理学者のロバート・D・ヘアは以下のように定義している。

また、電気ショックなどの体罰は懲りないが、お金を取り上げるなどの罰は懲りるというのも面白い特徴である。

脳科学者中野信子により以下のような具体的な特徴が挙げられている。

  • 外見や語りが過剰に魅力的で、ナルシスティック。
  • 恐怖、不安を感じにくく、大舞台でも堂々としている。
  • 多くの人が倫理的な理由でためらってやらないことを平然と行う。挑戦的で勇気があるようみえる。一例として、トロント大学でも紹介された「妹を殺し、母親の葬式に出会った男と再会する」という流れを自然に思いつくことができる。
  • お世辞がうまく、有力者を味方につけたり、崇拝者のような取り巻きがいる。
  • ありえないようなウソをつき、常人には考えられない不正を働いても、平然としている。ウソが完全に暴かれ、衆目に晒されても、全く恥じるそぶりさえ見せず、堂々としている。それどころか、「自分は不当に非難されている被害者」「悲劇の渦中にあるヒロイン」であるかのように振る舞いさえする。主張をころころ変える。
  • 外見は魅力的で社交的。トークやプレゼンテーションも立て板に水で、抜群に面白い。だが、関わった人はみな騙され、不幸のどん底に突き落とされる。性的に奔放であるため、色恋沙汰のトラブルも絶えない。
  • 飽きっぽく、物事を継続したり、最後までやり遂げることは苦手。
  • 長期的なビジョンを持つことが困難なので、発言に責任を取ることができない。
  • 過去に語った内容とまるで違うことを平気で主張する。矛盾を指摘されても「断じてそんなことは言っていません」と、涼しい顔で言い張る。経歴を詐称する。
  • 残虐な殺人や悪辣な詐欺事件をおかしたにもかかわらず、まったく反省の色を見せない。そればかりか、自己の正当性を主張する手記などを世間に公表する。
  • 傲慢で尊大で、批判されても折れない、懲りない。
  • つきあう人間がしばしば変わり、つきあいがなくなった相手を悪くいう。
  • 都会を好む、都会と相性がいい。
  • 介護福祉カウンセリングなど人を助ける職業についた愛情の細やかな人の良心をくすぐり、餌食にしていく。自己犠牲を美徳としている人ほどサイコパスに目をつけられやすい。
  • ネット上で「荒らし」行為をよくする。
  • サークルクラッシャー、財産目当てで富裕層の老人に取り入るいわゆる後妻業とよばれる人々。


オランダの論文では、

  • 脳の一部の領域の活動・反応が著しく低く「不安恐怖を感じにくい」「モラルを感じない」「痛々しい画像を見ても反応しない」などの特徴がある。脅威への自動検出と対応に問題があるにもかかわらず、恐れを感じることがある。例えば人種差別は、サイコパスの手練手管であっても、いつ周囲の人間が自分に危害を加えてくるかわからないため、何もできないことが恐怖の源となる。

福井裕輝、James Blairらによれば、

  • 他者への共感は欠如しているが、国語の試験問題を解くかのように、相手の目から感情を読み取るのは得意である。しかし他人の恐怖や悲しみを察する能力には欠ける。

オンライン講座での解説

コーセラのオンライン対談講座で、イェール大学心理学専門家ポール・ブルームは、精神病質者についての質問──「精神病質者たちは世界の最悪な人々の一部」であり、私たちは「精神病質的な人々の手に世界を委ねるべきでしょうか?」──に回答している。ブルームいわく、「世界を良くも悪くも変えている人の心理機構は、感情移入においては中度から低度である反面、その他の倫理的感情においてしばしば高度な人」であり、「定義上は」精神病質者たちは「悪い人々」である。またブルームは、精神病質者などについての作品描写を取り上げて、ほとんどの「創作物幻想ファンタジー〕」であり「純粋神話」であると述べている。

「その映画〔『ゴーン・ガール』〕はとても楽しかったです。 … もっと一般的に答えるとしましょう。どの映画が悪人たちを描いているのか? 創作物は精神病質者たち、怪物たち、加虐性愛者〔サディスト〕たち、さらにその他を描いています。そして常に生じる一つの問いは、どの程度これらが現実的な悪の描写なのか? です。


そしてほとんどの部分において、創作物は非現実的です。ほとんどの部分において、創作物は幻想ファンタジー〕です。これについては授業中かオフィスアワー〔教授業務時間帯〕で語ったかもしれませんが、ロイ・バウマイスターは純粋神話について語っています。純粋悪の神話は、映画や小説や他のあらゆる創作的な出来事の中で自己表現しています。この神話は悪のために悪を欲しがっている、一種の怪物です。」


対談者のクリスティーナ・スターマンズ(Christina Starmans)から紹介された質問「精神病質者たちは世界の最悪な人々の一部です。彼らは酷いことをしています。では私たちは、低感情移入的または精神病質的な人々の手に世界を委ねるべきでしょうか?」に対し、ブルームは次の発言で回答している。

「私が思うに世界を良くも悪くも変えている人の心理機構は、感情移入においては中度から低度である反面、その他の倫理的感情においてしばしば高度な人です。 …

すると精神病質者たちは実に感情移入が欠如〔不足〕していて、精神病質者たちは悪い人々です、定義上は。しかし、感情移入が欠如している他の個々人は悪い人々ではありません。
自閉症を持つ個々人がその一例で、感情移入が欠如しています。ほとんどの検査では、精神病質者たちよりもはるかに低感情移入的です。でも彼ら〔自閉症患者たち〕は悪い人々ではありません。彼らは世界を悪化させません。彼らはしばしば犠牲者たちです、その、残酷なことの。でも残酷な加害者たちになることは滅多にありません。そしてそれが示唆するのは、感情移入の欠如それ自体が人間を悪い人にすることはないということです。

それと、それとこれも覚えておいてください。つまり、つまり人は精神病質者たちや攻撃的な人々の中に感情移入が欠如しているのを見出しますが、それはしばしば状況次第なんです。言い換えると、彼らの脳が低感情移入的だから彼らが悪いことをするわけではありません。むしろ、彼らが悪いことをするのは多種多様な理由があるからです。衝動制御の低さ。しばしば害意がある欲求など。そうして悪いことをしていく途中で、彼らは自らの感情移入を引き下げるのです。」

マイルド・サイコパス

サイコパスの症状はグレーゾーン的であり「サイコパス的な脳のつくりを持ちながら、反社会性傾向はなく、攻撃性が社会的に許容される程度(重犯罪を犯さない)」のサイコパス(→#原因、脳の特徴)も存在しており、身近な日常に紛れ込んでいる可能性も高い。このような、社会的に適合・成功しているケースを「マイルド・サイコパス(または成功したサイコパス)」と呼ぶこともある。

  • 情動面でのサイコパスの特徴」(良心の欠如冷淡自己中心的など)を持ちながらも「犯罪行為」は行わない(=低い反社会性)
  • 前述したような「社会的成功を収めているサイコパス」は「反社会性が低い」のが特徴である。
  • マイルド・サイコパスであっても、ほぼ間違いなく何らかのハラスメント行為に及ぶと言われている。
  • マイルド・サイコパスの上司がいる会社の場合「部下の離職率、精神疾患の発症、モチベーションの低下」などが際立っていることも報告されており、会社によっては、その社会的損失が莫大ともなり得る。
  • マイルド・サイコパスは、ジェームズ・ボンドのような気質を持つが、一般人とはほとんど見分けがつかない。

影響力

人がサイコパスに騙されやすい理由として、人間の脳には以下3つの特性があるため、もともと自身で意思決定を行わず、何かを信じ、信じたことに従っていた方が、脳に負担がかからず楽という習性がある為である。

  • 認知的負荷(自分で判断することが負担で、それを苦痛に感じる)
  • 公正世界誤謬(人間の行いに対して公正な結果が返ってくるものである、と考える思い込みである)
  • 認知的不協和(自身の中で矛盾する認知を同時に抱えて不快感(葛藤)をおぼえると、その矛盾を解消しようと、都合のいい理屈をつくりだす)

なぜサイコパスは魅力を有するのかという疑問のひとつの答えとして、南カリフォルニア大学における神経学的研究結果が挙げられる。それによると、犯罪的な嘘つきは、通常の人と違い、脱抑制状態になることなく嘘をつけるようにできているという。

女性の心理学者が診断していた男性のサイコパスに恋して彼の逃亡を幇助したという話が知られている。

ロバート・ヘアは「世の中の全ての本を読んでも、サイコパスの破壊的影響力から守られるということはない。専門家も含めて、誰もが騙され、操られ、ペテンにかけられ、当惑の果てに取り残される。優秀なサイコパスは、どんな相手の心の琴線でも協奏曲を奏でることができる。」と述べている。

サイコパスと結婚した経験があり、『Just Like His Father?(父親と同じ?)』の著者でもあるリアン・リーダム精神科医は、「サイコパスと一緒に住むと、サイコパスと同じ視点で世の中を見るほどに変わりうるものなのでしょうか?」という問いに対して、「答えは確実にイエスです。それは、あなたが如何にサイコパスを知っていようとも、サイコパスと一緒に生活をする、しないに関わらず、サイコパスといかなる関係をもつときにも起こることです。」と述べている。

リスクを恐れないサイコパスによって、フロンティアが開かれていったともいわれ、月面に着陸したニール・アームストロングもサイコパスだったのではないかとダットンはいい、サイコパスが人類を進化させた中野信子はいう。

サイコパスと職業、組織内のサイコパス

ケヴィン・ダットンの調査による、サイコパスの多い職業の上位10位は次のとおり。

また、ヘアは、次のような職業の者に多いと推測している。

また、他にも次のような者にも多いとしている。

企業内のサイコパス

彼らの特性が原因で、サイコパスは、組織内の位置としては組織下層部よりも上層部に多いと考えられており、とりわけ企業に存在するサイコパスはコーポレート・サイコパス (corporate psycopath) と呼ばれ、長年安定して営まれてきた企業をときに破滅へと導く原因になり得ると考えられはじめている。コーポレート・サイコパスには以下の様な特徴がある。

  • 「変化」と「スリル」を好むため、様々なことが次々起こる状況に惹かれる。
  • 自由な社風になじみやすい。ラフでフラットな意思決定が許される状況を利用する。
  • 他人を利用することが得意な為、リーダー職に適正がある。スピードが速い業界などでは、本性が暴かれる前に、周りの状況が変化するため都合が良い。
  • 口ばかりうまくて地道な仕事はできないタイプが多い。
  • 職場の環境を「協調し合う場所」というより「競争的なもの」であると捉える。
  • 一般社会におけるサイコパスの発生率は1%だが、組織の指導的立場にある人を見ると4%と著しく過小評価されている研究もあったが、ボンド大学の法医学心理学者ネイサン・ブルックスの研究によると、CEOの5人に1人がサイコパスで、企業の上司の21%がサイコパスであることが判明した。CEOの5人に1人はサイコパスということになり、これは囚人とほぼ同じ比率である。
  • コーポレート・サイコパスの上司がいる会社の場合「部下の離職率、精神疾患の発症、モチベーションの低下」などが際立っていることも報告されており、会社によっては、その社会的損失が莫大ともなり得る。

このことは、非倫理的行動や違法行為に傾倒する一種の「コーポレート・サイコパス」が、採用の仕方によっては会社のトップに立つことが許されることを示しており、企業は従業員をスキルだけでなく性格的特徴も含めて審査する必要があるのである。

サイコパスと考えられる著名人

政治家
宗教家
起業家
殺人者・犯罪者

フィクション

犯罪少年犯罪)を題材にしたフィクションの作品においてもサイコパス(またはソシオパス・反社会性パーソナリティ障害)の要素があるキャラクターが登場している。大抵はモラルが欠落した者(反社会性を持つ者)・犯罪者・サイコキラーとして登場している。

小説

映画

関連項目

日本では「情性欠如者」と訳されることが多く、神戸市立東須磨小学校教員いじめ事件を切っ掛けとしてその存在の認知が広まった。
元はドイツの精神科医クルト・シュナイダーが1949年に出版している『精神病質人格・第九版』において当人から提唱・命名された概念である

脚注

注釈

参考文献

  • 赤羽, 由起夫「少年犯罪と精神疾患の関係の語られ方」『犯罪社会学研究』第37巻、日本犯罪社会学会、2012年、104-118頁、NAID 110009554174 
  • 緒方, あゆみ「罪を犯したパーソナリティ障害を有する者の刑事責任能力判断とその処遇」『同志社法學』第72巻第7号、同志社法學會、2021年、2529-2574頁。 
  • 林, 拓二「統合失調症患者の責任能力(特集 統合失調症の責任能力と医療観察法)」『Schizophrenia Frontier』第12巻第3号、メディカルレビュー社、2011年、13-16頁“この患者とはその後数年間付き合うこととなったが … いわゆる「パーテン(精神病質=人格障害)」ではあるものの,「シゾ(統合失調症)」とは考えられなかった。” 

関連文献

外部リンク


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