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山火事
山火事(やまかじ、英語:wildfire)とは、自然界における火災の日本語での総称。山でなく、平坦な土地の森林や草原で発生・延焼する場合も含み、その対象に応じて森林火災(しんりんかさい)、山林火災(さんりんかさい)、林野火災(りんやかさい)、原野火災(げんやかさい)などともいう。乾燥や強風といった条件が重なると火災旋風に発展することもある。
近代になって地球温暖化が進行するにつれ頻度および規模が増大しており、各地で大きな被害を出しているほか、山火事の多発が地球の大気中で温暖化ガスである二酸化炭素(CO2)を増やしたり、北極と南極の氷や永久凍土の融解を促したりして温暖化を加速させる一因になる。
原因
自然現象
自然発火
落雷や火山噴火などによる自然発火。特に落雷が自然発火の主要な原因である。また非常に稀だが、強風による乾燥した樹木の幹同士または人工物などとの摩擦による発火の可能性も報告されている。乾燥と熱波の影響が燃焼を促進させる。また、泥炭火災が山火事に発展することもある。
病害虫
ヨーロッパニレノキクイムシや、アオナガタマムシなどの病害虫が木を食害し、立ち枯れする。枯死した植物は乾燥し、燃えやすくなる 。
人間
失火、放火
人間の手によるたき火、野焼き(火入れ)、焼畑農業、ゴミなどの野外焼却、タバコの不始末、火遊びなどによる失火、あるいは放火等が主因である。 長野県では2017年から2020年の間に死亡事故が14件に至っており、注意喚起がなされている。これらは下草火災と呼ばれ、農家が野焼きを継続する理由として、火災につながる危険を甘く見たり、適正処分には費用がかかったりするからなどの理由が挙げられている。 その他、電力会社が敷設する電線のショートによる発火、航空機の墜落、蒸気機関車の煙突から出る火の粉による火災もある(「物的損害」参照)。
地球温暖化
アメリカ合衆国の2017年調査では気候変動によって件数と範囲が増加傾向にあることが示された。2020年の分析においても地球温暖化が山火事の激化要因であることが示唆されている。過去40年間で山火事の発生件数は10倍以上に膨れ上がっており、その背景は地球温暖化の進行で山が高温、乾燥状態になるためと分析されている。
対処
消火
航空機やヘリコプターによる散水や消火弾の投下、消防車による放水の他に、樹木を帯状に伐採して防火帯を形成して自然鎮火を待つといった方法があるが、近年のアメリカ合衆国やオーストラリアなどのように、落雷などにより自然に発生した山火事は自然のサイクルの一現象としてとらえ、人命に影響しない限りむやみに消火しないといった方策をとる場合もある。
ロシアには、森林火災が人家などに危害を及ぼさないなど、消火にかかる費用対効果が見られない場合は、火災を監視するだけで消火しなくてもよいとする政令(2014年-)が存在する。
- 空中消火
- 大規模な火災を鎮火させることを目的として、ボーイング747やIl-76、C130ハーキュリーズなどを改造した大型の空中消火機材も存在する。ただし採算性は低く、747 スーパータンカー(ボーイング747改造)のように親会社(エバーグリーン航空)の倒産から運用中止に追い込まれたケースも存在する。
- スモークジャンパー
- アメリカ、ロシア、カナダでは迅速に消防士を投入するためにパラシュートを使ったスモークジャンパーを組織している。このスモークジャンパーは、現地に到着後、難燃消火剤の散布、木を切り倒して防火帯を作るなどの作業にあたる。
- ヘリタック
- ヘリで活動する消防士チームをヘリタックと呼ぶ。
予防
- 立ち入り禁止 - 新たな火災を起こさせないため、人的被害を防ぐために行われる。
- 屋外で火を用いない(焚き火、野焼き(火入れ)をしない)
- タバコをポイ捨てしない
- 火遊びをさせない
- 入山者等への啓発:林野庁、各地の消防庁等により啓発活動が行われている。
被害
そもそもの森林破壊以外にも、オゾン層の回復が遅れることが指摘されている。
人的損害
直接的な死亡、怪我
高温の炎と大量の煙によって死亡する。2018年のギリシャ山火事では、死者が81人に及んだ。 消火に当たる消防士や兵士も犠牲となる。 また、山に生息する野生の動植物も例外ではなく、オーストラリア山火事ではコアラやカンガルーなどが大量に焼死した。生態系も破壊され、影響は極めて甚大なものとなる。川は灰で汚染され、大量の魚が死滅した。また、植物の焼失により山の吸水、保水能力は低下し、降雨を吸収することが出来なくなる。それによって土砂が流出しやすくなり、大雨のたびに洪水、土砂くずれ、土石流へと連鎖する。
大気汚染
オーストラリア森林火災では、危険とされる基準値の11倍に達する大気汚染が生じ、多くの住民が目や呼吸器の苦痛を訴え衛生担当者が懸念を表明する事態となった。煙は学校へも到達し、子どもたちは早退させられた。この汚染は一ヶ月以上継続している。
アメリカ・カルフォルニア州では山火事による煙で、一時世界で最も大気が汚染された都市となった。
また、大量の煙は周囲を視界不良にし、航空機事故を引き起こす。インドネシア航空152便が墜落した事故では、乗客乗員合わせて234名全員が死亡する大惨事となった。
物的損害
炎は人家に延焼し住居や車、家畜などの財産が焼失する。アメリカ・カルフォルニア州の山火事では、小さな街が丸ごと焼失した。住宅、設備の被害は1000戸以上にのぼる。
その他、山中に敷かれた電気設備の不備で山火事が起き、被害者が敷設者である大手電力会社PG&Eに対し300億ドル(約3兆2千億円)の損害賠償を求める集団訴訟を起こした。PG&Eは負担に耐えきれず経営破綻となった。
その他
以上のように甚大な被害を引き起こすため、戦争時には、戦術の一つとして敵国内に山火事を引き起こすことが試みられることもある。第二次世界大戦において、日本軍はアメリカに大規模な山火事を起こすためオレゴン州の山林に焼夷弾を投下した。
法律
刑事
日本の場合、過失により山火事を発生した場合、森林法第203条第一項違反により罰金(50万円以下)が科せられる可能性がある。放火の場合は、森林法202条にあり、自分の所有する森では七年以下の懲役、他人の森にまで広がった場合は二年以上の有期懲役である。
日本以外での放火では、シリアではテロの罪で重労働の終身刑などの重罪となる。
さらに住宅などにも燃え広がることから、過失致死傷罪なども加わるケースがある。
民事
立木等の被害に対して賠償を求められる場合がある。高知県内の国有林に小型機が墜落、7-8haのスギ林が燃えた例では、所有者の国が搭乗者の遺族に対して4,500万円の損害賠償を求める訴訟を起こした事例がある。
アメリカ合衆国の例では、オレゴン州の森林に花火を投げ入れて約194平方キロ以上の森林を焼失させる原因を作った少年に対し、5年間の保護観察と1,920時間の奉仕活動を求める判決が出た。また、山火事を原因とする被害の賠償について、道路管理者や鉄道事業者などから11件の申し立てが行われ、約3,700万ドル規模の損害賠償請求が行われた例がある。
各地の概況
日本
- 総務省消防庁調べによれば、2008年の林野火災は283件。2009年から2013年に発生した林野火災の原因の上位は、たき火、火入れ、放火であり、自然発火によるものは少なく人為的な原因により発生することが多い。
- 消火は、地上から消防車を用いて行うが、現場周辺の道路(林道)の状況によっては消火ははなはだ困難になる。ヘリコプターの出動による消火剤の散布も行われるが、積載量は限られる上、天候や時間帯、ヘリポートからの距離に左右されるため確実性にかける。このため、水嚢(すいのう)を背負った消防団員らを投入する人海戦術に頼る消火も行われる。
- 異常乾燥やフェーン現象が拡大を助長させることがある。瀬戸内海の各島では多かれ少なかれ被災経験を持つ。かつては北海道でも山火事が頻発した時代があり、統計のある1886年から1945年の60年間に1,438,682町歩(約150万ha)が焼失。1892年当時の北海道の森林面積が約390万haであることから、単純計算で森林面積の4割弱が被害を受けていたこととなる。
- 優良な木材の生産地域で発生した場合、林業及び加工・流通などの関連産業に及ぶ被害額は甚大なものとなる。
- 対策として防火帯(防火保安林)の設置が行われるほか、道路の斜面緑化には枯れ草を出しにくい常緑性の牧草が採用されることがある。
- 1971年(昭和46年)、広島県呉市の灰ヶ峰で発生した山火事は、死者17名を出す大惨事となった。これは戦後の林野火災としては最も犠牲者が多く、かつ17名全員が消防署職員であり、最も殉職者を多く出した火事としても記録に残っている。
- 2021年2月21日、栃木県足利市で大規模な山火事が発生した。ハイカーによるタバコの不始末と考えられている。
北米
- 落雷などによる自然発火のほか、焼畑農業など人為的な原因により発生する。ヘリコプターや航空機による海水や湖水の汲みあげ散布も行われるものの、規模が極めて大きくなりがちであることから集落や道路などの拠点防御が目的となる場合も多い。基本的に自然鎮火を期待することとなる。
- ロッキー山脈周辺の山岳地で時に発生し、数週間にわたって続くこともある。
- 各地で発生する山火事の消火作業を民間の消防会社にアウトソーシングする自治体も多く、複数の企業が参入したが採算性が低いため撤退も多い。
- カリフォルニア州では刑務所の受刑者の中で危険度が低い者に消防教育を施した「受刑者消防隊」が山火事発生時に防火帯を築くなどの補助作業を時給1ドルの刑務作業として行うプログラムにより経費を節減している。
- 北米やオーストラリアの森林では、コントロールされた小規模な火入れ(prescribed fire)を定期的に起こしている。これにより、山火事による自然のサイクルが滞らないようにすると共に、大規模な山火事による被害を防いでいる。
オーストラリア
ロシア
- シベリア地方のツンドラ地帯は、有機物を大量に含む土壌であるため、樹木が消失した後でも土壌中で種火となりくすぶり続ける。こうした傾向は、亜炭や褐炭など低質の石炭層が露出している地域ではしばしば見受けられる。
北極圏
- 北極圏の火災は北極圏やその周辺の地域で雷などが原因で自然発生的に起こることの多い火災である。近年、地球温暖化の影響で北極圏での火災発生件数が増加している。北極圏の火災は泥炭火災や煤による太陽光の吸収を促進する上、焼失面積が広範囲にわたるため、二酸化炭素の放出量が多く、さらなる地球温暖化へと悪循環になっていることが問題とされている。
生態系との関係
山火事が頻発するような地域に生える植物には山火事に適応した形態や生態を持つものがある。防火として典型的なものでは樹皮を厚くし枝や表面が燃えても枝が下から生える胴ぶきするものがある。また、地下部の温度は地上部に比べて上がらないことから、地上部が焼損しても生き残れるように地下部に栄養を蓄えるリグノチューバをもつもの、地上部が損傷しても残った根や幹から芽を出して再生する萌芽再生の能力を高めたものなども知られる。
また、親となる植物の個体が焼損しても次世代に託す仕組みをもつものがあり、火災の熱で果実が割れて種子を散布したり、火災による温度上昇を地中で休眠中の種子が感知して発芽に至るような仕組みをもつものがある。山火事直後の土壌は競合する植物や病原菌が少なく、苗木にとって好適な環境であるため自身の生存ではなく次世代に託す戦略を持つ植物も多い。地中海沿岸やオーストラリアに成立する森林は硬葉樹林と呼ばれ、夏季の乾燥と山火事の多さが特徴である。
- フトモモ科(学名:Myrtaceae)ではオーストラリアを中心に分布するユーカリ属(Eucalyptus)やブラシノキ属(Callistemon)などに火災に適応した種が見られる。厚い樹皮を持ち、萌芽力も高く火災後いち早く再生する。種子が厚い樹脂に包まれ、保護されるとともに樹脂が溶けないと発芽できないようにもなっている。
- ヤマモガシ科(Proteaceae)ではバンクシア属(Banksia)などで知られる。火災で開くタイプの果実を付ける。
- マツ科(Pinaceae)ではアメリカ大陸や地中海沿岸に分布するマツ属(Pinus)の一部の種で火災への適応がよく知られるが他の属では知られていない。火災で開くタイプの果実(球果)を付けるものと厚い樹皮や高い萌芽能力を付けたもののどちらも知られる。
- ヒノキ科(Cupressaceae)ではアメリカ西部のセコイア属(Sequoia)、セコイアデンドロン属(Sequoiadendron)、イトスギ属(Cupressus)の一部の種、オーストラリアで進化したCallitris属(和名未定)とActinostorbus属(和名未定)のすべての種などの一部のグループに火災で開くタイプの果実(球果)を持つものが知られる。
- ウルシ科(Anacardiaceae)では日本にも分布するヌルデ属(Rhus)は地中で長期の休眠が可能で熱を感知する種子を付け、火災後いち早く生えてくる。
- マメ科(Fabaceae)では東北地方ではヤマハギ(Lespedeza bicolor)が高い萌芽性を持ち火災跡地に繁茂するという。また、オーストラリアの森林火災跡地でもマメ科草本のSwainsona greyana(和名未定。英名darling pea)が繁茂しこれを食べた家畜が中毒死する事件が起こっている。
- ブナ科(Fagaceae)では地中海沿岸に分布するコルクガシ(Quercus suber)が厚い樹皮を備えて山火事に強いことで有名である。日本でもミズナラが高い萌芽力で火災跡地で迅速に再生する。
菌類ではマツ類に寄生するツチクラゲ(Rhizina undulata)の胞子が山火事後などの地温が高温の時に発芽することが知られている。また。アミガサタケ属(Morchella)のうち、北米産の一部の種では山火事の後に豊作になるといい、灰によって土壌がアルカリ性に傾くことなどが原因として考えられている。
そのほかにも、山火事で焼けた枯れ木に卵を産む虫タマムシやキクイムシと、その虫の幼虫を餌にする鳥セグロミユビゲラが繁殖しやすい。
山火事や山火事の消防隊を主題とする作品
- オンリー・ザ・ブレイブ (映画) - 2013年に発生した山火事「ヤーネルヒル火災」の実話をもとに2017年に公開された映画
- Fire Chasers - 2017年に公開されたNetflixドキュメンタリーシリーズ
- スモークジャンパー
- ファイアーストーム - アメリカのスモークジャンパーの活躍を描いた映画。
- 赤い空 - アメリカのスモークジャンパーの活躍を描いた映画。森林局が撮影に協力している。
- ファイティング・with・ファイア - 救助した子供を預かったスモークジャンパー達を描いたコメディ映画。
- Trial by Fire - スモークジャンパーを目指す女性消防士が主人公のカナダの映画。
- Planes: Fire & Rescue - プレーンズの続編。
関連項目
- 森章 (環境生態学者)
- 熱帯雨林
- 火災生態学、パイロファイト(火を利用する植物群)
- ボタ山
- 山火事の管理
- 火の見櫓、オズボーン・ファイア・ファインダー
- 年縞(湖底堆積物)、恐竜の食餌(内容物化石) - 山火事の痕跡を見ることが出来る。
- サルベージ・ロギング - 山火事などの焼け跡から木を採集すること。
- 周知活動:スモーキー・ベア
- 対策組織:合衆国魚類野生生物局、原野火災教訓センター、カリフォルニア州森林保護防火局
- 著名な山火事
- 江田島町林野火災
- 2007年ギリシャ山林火災
- 2009年ビクトリア州森林火災
- 2018年アッティカ山火事
- オーストラリアの森林火災、オーストラリア森林火災 (2019年-2020年)
- カリフォルニア山火事の一覧
外部リンク
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