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強姦

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強姦
Tizian 094.jpg
分類および外部参照情報
ICD-9-CM E960.1
OMIM [2]
MedlinePlus 001955
eMedicine article/806120
MeSH D011902
GeneReviews

強姦(ごうかん)とは、女性の意思に反し、暴力脅迫、相手の心神喪失などに乗じて性行為強要することである。性暴力性的暴力性的暴行の一種である。

語源・表記

日本報道などでは、かつては当用漢字による漢字使用制限により「強かん」と表記されることもあったが、2000年代以降は漢字で「強姦」と表記するようになっている。英語表記のレイプrape)も、欧米文化の流入、女性の人権に対する意識の高まりとともに一般化している。

かつては日本のマスメディアの事件報道では婉曲的に「乱暴」などとぼかした言い方がよくなされ、被害者が児童・小児の場合は「いたずら」とも言われた。「暴行」の語も使用されるが、この語は性的暴行ではない暴力行為(他人の髪の毛を無断で切る、耳元で大音響を鳴らして朦朧とさせる、など)にも使われる。

ローマ法では、他の男性の管理下にある女性を拉致した男性はラプスの罪に問われた。拉致の時点で既遂となり姦通は要件ではなかった。ラプスはレイプの語源である。

加害者が複数の場合は「輪姦」と呼ばれることもある。被害者が男性で加害者が女性の場合、俗に「逆レイプ」と呼ばれることもある。警察業界や刑事弁護業界などでは、強姦事件を「ツッコミ」という隠語で表現することもある。

治療

強姦された場合の対処

強姦され、内に射精された場合は避妊を優先するべきである。被害後、72時間以内に産婦人科を受診し、性感染症妊娠の検査をする。検査費用は警察へ被害を届け出た場合は、公費負担がある。産婦人科では妊娠防止のため、アフターピルノルレボなど)による緊急避妊が行われる。また、この際に同意があれば強姦を証明するのに必要な加害者の陰毛精液などの証拠収集が行われる。多くの地域で性被害者を支援する機関があり、こうした機関からの紹介や警察の紹介で産婦人科を選択する。

その後のカウンセリングなど精神的サポートも重要である。被害者は強姦時の強い恐怖から、被害後に精神不安定や不眠症心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの精神反応が多くみられ、人間不信に陥ることも多いためである。サポートを1か所で提供しているワンストップ支援センターが全国各地に所在している。

周囲にいる者は、被害者にも責任の一端があったかのような言動は避ける。性被害に遭った被害者に対し、周囲の人間がさらに傷つける言動を行うことは「二次被害」「セカンドレイプ」と呼ばれる。また、本人がすぐに病院や相談機関へ行きたがらない場合は、無理やり連れていくようなことは避ける。

予防

大阪府警察は性犯罪に遭うリスクを減らす防犯対策を紹介している。

道路上
  • 帰宅途中に被害にあうケースが多いため、人通りの多い道、明るい道を選ぶ。やむを得ず一人で人気の無い暗い道を歩かなければならないときは、周囲の状況に注意を向け、顔を上げて毅然とした態度で早足で通り抜ける。また防犯ブザーをいつでも使えるようにしておく。
  • スマートフォンを操作しながらや音楽プレーヤーを聴きながら歩くと、不審者が近づく音が聞こえなかったり、スマホや音楽に集中することで上の空状態になったりし、とっさの出来事に対する対応が遅れる。歩きスマホなどは避ける。
  • 見知らぬ人に声をかけられたら、相手との距離を開けて対応する。「一緒に連れて行ってほしい」「車に乗って案内してほしい」などと言われても、安全性が保障されない見知らぬ人間と行動することは避ける。
帰宅
  • マンション等の共同住宅内では、エントランス、階段、通路、エレベーター内で性犯罪が発生している。マンションがオートロックドアであっても、居住者が入る後ろからつけて行くなどの方法で侵入することが可能であるため、注意が必要である。
  • エレベーター内では、操作盤付近に同乗者に背を向けずに立つ。危険を感じたら、ボタンを全部押して止まった階で降りる。また、見知らぬ男性と自分だけの場合は、一旦降りてやりすごすのも対策の1つである。
自宅
  • ドアの鍵は家に入ったらすぐに閉める。就寝中も必ず戸締まりをする。
  • 在宅中に人が尋ねて来たときは、相手の身分を確認できるまでドアを開けない。
  • ドアチェーンやU字ロックは施錠の代わりにはならない。ドアチェーンやU字ロックをしてドアを開けっぱなしという状態は危険である。

統計

日本
強制性交等の認知件数
年度 認知件数 被疑者 被害者
2021年 1,388 1,244 7 58 1,330
2020年 1,332 1,173 4 72 1,260
2019年 1,405 1,172 6 50 1,355
2018年 1,307 1,084 4 56 1,251
2017年 1,109 906 4 15 1,094
2016年 989 871 4 0 989

日本における2018年(平成30年)の強姦(強制性交等)事件の認知件数は1,307件である(被害者の内訳は、女性が1,251人、男性が56人)。この認知件数は、1964年昭和39年)に6,857件と戦後最多を記録した後、長期減少傾向を経て横ばい傾向にあった。近年では1997年平成9年)から2003年平成15年)にかけて増加傾向にあったが、2004年平成16年)から2016年平成28年)まで減少傾向に転じていた。

2017年(平成29年)7月13日以降は、強姦(強制性交等)の対象に被害者の性別を問わなくなり、かつ性交(姦淫)に加え肛門性交及び口腔性交も加わったこと、そして監護者が18歳未満の者にこれらの行為を働いた場合にも罰せられるようになった影響で、2017年以降は(数字の上では)増加している。

日本の人口10万人あたりの強姦の発生件数は2018年で1.0である。アメリカ合衆国は42.6と日本の約42.6倍である。

ただし、日本の強制わいせつを加えた場合、2018年は10万人当たり5.3件となり、アメリカ合衆国との差は約8.0倍となる。また性犯罪の場合は被害者が被害届を出さないことも多々あり、いわゆる「暗数」が多いため実際はさらに多くなる。また強姦罪の定義は国によって異なり、日本では12歳以下との性行為は同意の上でも強姦に定義される。

歴史

『ブルガリアの致命女達』 - オスマン帝国の兵士による、ブルガリア人女性に対する強姦を描いた絵画(1877年作)。背景に描かれたイコノスタス・床に転がった振り香炉・破壊された燭台から、ここがブルガリア正教会聖堂の中であり、聖堂に逃げていた女性がレイプされるシーンであることが分かる。敵国に攻め込まれた市民が最後に聖堂に立て篭もることは大陸ではよく行われたが、侵略軍が規律の薄いものだった場合、現地の宗教心も踏みにじり、宗教施設でまでこのような残虐行為を行うことも珍しく無かった。なおこの絵画の作者コンスタンチン・マコフスキー(Konstantin Makovsky)はロシアの移動派の一人である。

性的暴力は、少数民族奴隷先住民難民貧困層また大規模災害などによって生まれた社会的弱者に対して行われたり、刑務所収容所内、そして戦時下において行われたりしてきた。内乱や戦時下では大規模な集団レイプが発生した事案がある。

古来、征服された民族の女性の運命は過酷であった。最も有名なのはモンゴル帝国の創始者チンギス・ハーンとその係累・後裔であろう。モンゴル帝国による降伏勧告を受け入れず抵抗の後征服された都市はことごとく破壊・略奪・殺戮され、女性も戦利品として王侯・軍隊などの権力者以下にあてがわれた。また、これに先立つ遊牧騎馬民族王朝のは、北宋を滅ぼした際、北宋の皇族女性全てと多くの貴族女性を捕え、これを金皇族・貴族のまたは彼らを客とする官設妓楼娼婦にした。世界各地の男性のY染色体を調べた結果、かつてのモンゴル帝国の版図に高率で共通の染色体が検出されたという話さえある。もっとも、歴史上このような事は金やモンゴル帝国に限った事ではない。

近代から現代も、戦時下において各国軍隊に属する複数の兵士による敵国女性へのレイプが少なからず発生した。第一次世界大戦以降では米軍ソ連軍ドイツ軍の男性兵士による女性民間人・一般市民への大規模な強姦事件が起こった。

南アフリカ共和国では「男性の27.6%が女性をレイプした経験がある」とする調査結果を、2009年に同国の医学研究評議会が明らかにしている。調査は全国9州のうちクワズールー・ナタール、東ケープの2州で行われたものである。

20世紀以降は、アメリカや日本、韓国等において大学生による性的暴行事件、いわゆる「キャンパスレイプ」が多発し社会問題になっている。日本では2003年に発生した早稲田大学インカレサークルによる集団強姦事件「スーパーフリー事件」から集団強姦罪・集団強姦致死傷罪が創設されるなどしたが、2010年代後半に再び事件が多発し、その実態が明るみになっている。アメリカでは、女子大学生のおよそ4人に1人が性的暴行を受けていることが2019年に行われたワシントンポストのアンケートによって判明しており、その大多数の被害にアルコールが絡んでいたという。

社会学

社会学的見地

アメリカでは強姦する加害者の半数以上が若年層であるという統計もあり、強姦する側が貧民層であるというのは、ある種の差別的な幻想である。社会的地位の低さによって満足な性生活が送れない、あるいは失う物が少ないなどの理由で犯行に及ぶ場合もないわけではない。貧困と強姦を特に結びつける根拠としては説得力に欠ける。富裕層の強姦事件も決して少なくなく、社会的地位と強姦についての因果関係に結論は出ていない。

強姦は一般に見知らぬ他人が加害者であるイメージがある。犯罪白書によれば70%が見知らぬ人による犯罪で、知人による犯行は20%程度である。これを元に判断すれば見知らぬ他人が加害者であるというイメージは、ある程度の妥当性を持っている。一方、香港における女性への性的暴行においては約8割のケースで親族や知り合いが加害者になっているとの報告もある。相手が旧知の間柄である場合、「強姦」として報告されない事例があるためにこのような差が生まれるとも考えられる。

ラディカル・フェミニズムでは、男性による女性に対する性的な支配が、男性社会を維持する仕組みとして使われてきた側面があるとする社会学的見方が主張されている。スーザン・ブラウンミラーは、強姦は、社会的に抑圧された男性がその弱さを糊塗するため、女性を支配することによって力を誇示して満足感を得ようとする権力作用であり、男女間の力関係を支配・征服により確認する行為であるとしている。

性犯罪者への断種・去勢

レイプが男性の性欲に強く依存することに基づいて、抗アンドロゲン剤を投薬あるいは注射することにより、性犯罪者の更生と再発防止を図る試みも、アメリカなど一部の国で行われている。しかし、これはまた別の人権論争を巻き起こしている。

20世紀以降、北欧などの民主主義的国家において性犯罪者に対し、強制断種が合法的に実施された。デンマークの「全国女性会議」は1920年代に男性の性犯罪者から女性を守るために性犯罪者に対する去勢手術を合法化する必要があると運動を展開し、フェミニスト達の解釈による政治的運動が法的に反映された。

21世紀に入り、アメリカ・韓国・インドネシアでは、小児への性犯罪者に対し、薬物により「化学的去勢」を行うことが認められた。

また先進国を含めて、女性保護の観点からの性犯罪者への化学的去勢が一部女性団体などから主張されることがある。これに対して、香山リカは優生思想に基づく断種の歴史の軽視や、人道に対する罪であると批判している。

法的定義

強姦の定義は国などによって異なる。

日本

長らく強姦罪として、暴行または脅迫を用い、または13歳未満の女子に対して、男性器により女子の抵抗を著しく困難な状態に追い込み女性器を姦淫した場合に限り強姦罪が適用されていた。強姦罪の制定目的は女性の保護よりも血統の乱れや嫡出関係の崩壊を防ぐことが想定されていたと考えられており、旧法では実質的に関係が破綻していたと認められない限り、夫婦間での強姦罪は成立しないというのが通説であった。

法定刑も2年以上の懲役と低いままであったが、2004年に3年以上に引き上げられた。2017年7月13日には法改正により強姦罪は廃止され強制性交等罪に置き換えられた。強制性交罪では被害者が男性の場合や、肛門や口腔を犯しまたは犯させた場合も適用対象に加え、法定刑も5年以上の懲役となった。さらに監護者の立場に乗じて18歳未満の者にこれらの行為を働いた場合(同意の有無を問わない)にも同じく処罰されるようになった(監護者性交等罪)。

アメリカ合衆国

アメリカでは、互いの合意のない性行為の強要は恋人間(デートレイプ)や夫婦間(マリタル・レイプ)でも強姦と見なされ、刑事罰の対象となるという判例が定着している。さらに司法省は2012年1月7日にFBIの「強姦」の定義を拡大することを明らかにした。

司法省によれば、2010年に発生した強姦件数は18万8380人となっているが、これは氷山の一角との指摘もある。「疾病予防管理センター」によれば、全米で無作為抽出した約1万人の女性に電話アンケートを行ったところ、18.3%が「強姦されたことがある」または「強姦されそうになったことがある」と回答し、また加害者との間柄については、被害を受けたと回答した女性の過半数を占める51.1%が、「親密な現在・過去の恋人や配偶者」と回答した。次いで多かったのが「知人」だった。

2014年保健福祉省に属する「疾病予防管理センター」が実施した調査結果によれば、「アメリカに在住する女性のうち、ほぼ5人に1人がレイプ被害者であり、その数は2300万人超」だという。

米産婦人科学会誌の1996年の研究によれば、こうしてレイプされた女性が妊娠してしまう確率は5%に上り、毎年、推定3万2101件のレイプによる妊娠があるという。また、キリスト教国であるという性格を持ち、社会・政治への宗教的影響が強いアメリカでは、人工妊娠中絶の是非が選挙の争点の一つになるなど多大な関心が寄せられる。キリスト教原理主義の立場から「レイプ被害者の人工妊娠中絶も絶対禁止すべき」と主張する中絶反対派もおり、キリスト教保守派が支持基盤にある共和党党員・支持者にも存在し問題が複雑化している。

脚注

注釈

参考文献

書籍
ウェブサイト

関連項目

外部リンク


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