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プロポフォール

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プロポフォール
Propofol.svg
Propofol3DanJ.gif
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
胎児危険度分類
  • B (U.S.), C (Au)
法的規制
投与方法 静脈投与
薬物動態データ
血漿タンパク結合 95〜99%
代謝 肝臓にてグルクロン酸抱合
半減期 30〜60分
排泄 胆汁排泄
識別
CAS番号
2078-54-8 チェック
ATCコード N01AX10 (WHO)
PubChem CID: 4943
DrugBank DB00818 チェック
ChemSpider 4774 チェック
UNII YI7VU623SF チェック
KEGG D00549  チェック
ChEBI CHEBI:44915 チェック
ChEMBL CHEMBL526 チェック
化学的データ
化学式 C12H18O
分子量 178.271

プロポフォール英語: Propofol)は、全身麻酔鎮静に用いられる化合物である。最も作用時間が短く調節性に優れる静脈麻酔薬の一つであり、プロポフォールの登場後、全静脈麻酔標的制御注入(TCI)など、麻酔科学上の多くの革新がもたらされた。商品名ディプリバン(Diprivan)でアストラゼネカから発売され、後発医薬品も出ている。

医薬品医療機器等法における劇薬習慣性医薬品処方箋医薬品である。

2009年、マイケル・ジャクソンの死につながった原因薬剤のひとつ。日本では2014年の東京女子医大事件にて子供が死亡した原因薬剤となった(後述)。

歴史

インペリアル ケミカル インダストリーズ(ICI) の獣医兼研究者であるジョン B. グレンは、13年の歳月をかけてプロポフォールを開発し、その努力の結果、彼に臨床研究に対する栄誉ある2018年ラスカー賞が授与されるに至った。プロポフォールは当初、ICI 35868として開発された。一連のオルトアルキル化フェノールの麻酔効力と薬物動態プロファイルについて、広範な評価と構造活性相関試験を経て、開発に選ばれた。

1973 年に薬剤候補としてはじめて同定され、1977 年にクレモホール ELに可溶化された形態を使用して臨床試験が行われた。しかし、クレモホールに対するアナフィラキシー反応のために、この製剤は市場から回収され、その後、大豆油/プロポフォール混合物の水エマルジョンとして再製造された。乳化製剤は、1986 年に ICI (現在のアストラゼネカ) によって商品名 Diprivan(ディプリバン)で再版された。現在販売されている製剤は、プロポフォール1%、大豆油10%、乳化剤として精製卵リン脂質1.2%、浸透圧調整剤としてグリセロール2.25%、pH調整剤として水酸化ナトリウムを配合している。ディプリバンには、一般的なキレート剤である EDTA が含まれており、単独で (一部の細菌に対して静菌的に) 作用し、他の抗菌剤と相乗的に作用する。新しいジェネリック製剤には、抗菌剤としてメタ重亜硫酸ナトリウムまたはベンジルアルコールが含まれている。プロポフォール エマルジョンは、含まれる小さな (約 150 nm) 油滴からの光の散乱 (チンダル効果) により、非常に不透明な白い液体である。

1986年、イギリスで「全身麻酔の導入および維持」の効能・効果で承認され、同年から販売された。1989年にはアメリカで承認された。

日本では、1988年に臨床試験が開始され1995年に「全身麻酔の導入および維持」の効能・効果で承認された。また、1999年には「集中治療における人工呼吸中の鎮静」の効能・効果が追加承認された。2001年には専用シリンジポンプと組み合わせて、標的制御注入が可能となったプレフィルドシリンジ製剤が承認された。販売から30年以上経過している2023年現在も全身麻酔薬の主要薬剤であり、さらに市場規模が拡大すると予測されている。

化学的性質

無色から微黄色透明の液体で、脂溶性であり、エタノールジエチルエーテルヘキサンなど有機溶媒にはよく溶けるが、水にはほとんど溶けない。

薬理学

薬力学

GABAA受容体作用NMDA受容体抑制作用がある。麻酔効果は主にGABAA受容体作動作用によると考えられる。GABAA受容体作動薬には、この他にバルビツール酸系ベンゾジアゼピンがある。プロポフォールは、 GABA A受容体活性の増強を介していくつかの作用機序を持つと提唱されており、したがってGABA A受容体ポジティブアロステリック調節因子として作用し、それによってチャネル閉鎖時間を遅らせる。高用量では、プロポフォールは、GABA の非存在下で GABA A受容体を活性化し、 GABA A受容体アゴニストとしても機能する。プロポフォール類似化合物は、ナトリウム チャネル遮断薬としても作用することが示されている。いくつかの研究では、エンドカンナビノイドシステムがプロポフォールの麻酔作用とその独自の特性に大きく寄与している可能性があることも示唆されている 。プロポフォールによる全身麻酔を受けている患者に関する脳波研究では、脳の情報統合能力が著しく低下することが判明している。

薬物動態

プロポフォールは生体内で大半がタンパク質に結合しており、肝臓で抱合によって代謝される。プロポフォールの排泄半減期は 2 ~ 24 時間と推定されている。ただし、プロポフォールは末梢組織に急速に分布するため、臨床効果の持続時間ははるかに短い。 静脈内鎮静に使用する場合、プロポフォールの単回投与は、通常、数分以内に効果が消失する。プロポフォールは汎用性がある。この薬は、全身麻酔だけでなく、短時間または長時間の鎮静のために投与することができる。オピオイド薬でよく見られるような吐き気もない。急速な作用発現と回復が早いという特性とその、記憶喪失作用により、鎮静と全身麻酔に広く使用されている。

用途

日本国内で販売されているプロポフォール製剤の例

プロポフォールの主な用途は、医療における鎮静薬としての使用である。プロポフォールの持つ中枢神経抑制作用を利用し、全身麻酔の導入・維持に用いられる。また、集中治療における人工呼吸時の鎮静にも頻用される。

プロポフォール自体は、上記のように水に溶解しないので、販売されているプロポフォール製剤は、脂肪製剤を乳化剤としたエマルションの形を取っている。投与経路は点滴からの静脈内注入である。

投与開始後速やかに作用が発現し、投与された患者は数十秒で意識を失う。また、投与を中止した場合、それまでの投与速度・投与時間にもよるが、通常10分前後で患者の意識が回復し、刺激に応じて開眼する。

日本で唯一、コンピュータ制御による標的制御注入(TCI)が保険承認されている薬剤であり、TCIシリンジポンプによる投与は全身麻酔において広く行われている。

注意すべき点

心臓および血管系に対して抑制効果を有するため過剰に投与した場合、心拍数血圧の低下を招く。呼吸抑制作用があり呼吸が不十分に、あるいは停止することがあり、十分な監視下で使用されなければならない。

小児に対する使用法は確立していない。胎盤移行性があり、 妊婦又は妊娠している可能性のある女性には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与 。また、母乳移行性があるため、授乳婦へ投与する場合は授乳を中止する必要がある。

プラスチック製品中の化学物質の溶出が指摘されている。三方活栓や点滴の器具にはプロポフォールに対応した物を使用する。脂肪製剤は栄養価が高く細菌が繁殖しやすいため、保存する際は冷蔵保存するなど製剤の汚染には十分注意しなければならない。

副作用

臨床試験の条件での副作用。

重大な副作用
  • 低血圧(5%以上)、アナフィラキシー様症状(< 0.1%)、気管支痙攣(< 0.1%)、舌根沈下(0.1〜5%)、一過性無呼吸(0.1〜5%)、てんかん様体動(0.1〜5%)、
  • 重篤な徐脈(0.1〜5%)、不全収縮(< 0.1%)、 心室頻拍(< 0.1%)、心室性期外収縮(0.1〜5%)、左脚ブロック(< 0.1%)、
  • 肺水腫(< 0.1%)、覚醒遅延(0.1〜5%)、横紋筋融解症(< 0.1%)、悪性高熱類似症状(< 0.1%)
精神神経系の副作用。
発現機序は不明とされる。

注入時痛

重大な副作用ではないが、静脈からの注入時に注入血管に一致した痛みが高率に発生する(発生率は文献によって異なるが37-100%)。前肘静脈などの太い静脈から投与する、局所麻酔薬リドカインを静脈内から前投与する、リドカインとプロポフォールと混合投与する、またはオピオイドを静脈内から前投与する、などの対策がそれぞれ注入時の痛みの発生率をおよそ半分以下に減らす事がメタ解析で示されている。

プロポフォール(注入)症候群

プロポフォールを高用量で長期間使用し続けると、プロポフォール症候群またはプロポフォール注入症候群と呼ばれる病態が出現する。代謝性アシドーシスに始まり、横紋筋融解症高カリウム血症ミオグロビン尿症、治療抵抗性徐脈、急性心不全を伴う心筋症、肝臓肥大・脂肪肝、高脂血症などが増発し、死亡に至る。ミトコンドリア障害により、遊離脂肪酸の代謝不全が起こることが原因であると考えられる。

動物試験

条件不明のサルへの試験では、バルビタール身体依存への交差能、弱い身体依存形成能、明らかな強化効果(感作または逆耐性)が見られた。

マウスへの静脈内投与が以下。

死亡例

マイケル・ジャクソン
2009年、プロポフォールの過剰投与による副作用が原因で、急性中毒による呼吸不全および心不全を起こし、救急救命室における治療の甲斐なく50歳で死亡した。プロポフォールには依存性があるにもかかわらず、アメリカ合衆国においては法規制も甘いため薬物乱用が横行しており、マイケル・ジャクソン自身も、常用により生理機能が乱れていたと報じられている。
付き添いの医師がおり、過量投与も見逃されていたとみられており、死因となった投与が、本人の意思によるものか、この医師の判断によるものかが、裁判で争点となった。
東京女子医科大学病院
2014年2月18日、東京女子医科大学病院で頸部リンパ管腫の摘出手術を受けた2歳男児が、3日後の2月21日に急性循環不全で死亡した。術後投与されたプロポフォールが原因だった可能性があり、東京都は病院への立ち入り調査を実施、警視庁は業務上過失致死容疑で捜査し、証言により、成人用量あたりの過量(OD)での使用が確定した。
全身麻酔剤であり、人工呼吸器を使う際の鎮静剤としても使用されるが、過量においては呼吸や心拍が著しく低下する恐れもあり、また中毒になった際の解毒剤がなく、救命手段がないため、特に製薬企業の添付文書では、集中治療中の小児への投与を禁忌と明記している。また、投与に対する事前説明はなく、必要とされる家族同意書も得られていなかったが、警視庁の捜査により、死亡小児には成人用量の2.7倍もの過量投与が行われていたことが判明した。しかし、小児の麻酔導入・維持に必要な体重あたりのプロポフォール投与量は成人よりも多量が必要である。
また、同大医学部の非公式会見(大学側のトップの承認によるものではなく、むしろ内部対立が背景)および捜査結果からは、過去5年間にわたり、14歳未満の55人に63回ほど投与しており過量投与も常態化していたと発表された。さらには同医大理事長の会見により、詳しい死因は不明ながら、同様の小児投与事例のうち12人が最短で数日後、最長3年以内に死亡していたことも公表された。
なお、よく報道でも混同されているが、法律上でこうした使用が禁止されているわけではなく、あくまで製薬企業と臨床現場の共同で、世界各国統計調査により死亡例報告が相次いだ使用ケースにおいては、説明書において使用禁忌が明記されているに留まるのが現状である。同医大においても医師判断で使えるものではなく、個別症例により他薬では代用が効かない際に、学内倫理委員会に審査に出して承認される必要があり、家族同意書も必須である。

関連項目

外部リンク



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