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性教育
性教育(せいきょういく、英語: Sex education)とは、性器や性交・生殖(妊娠や避妊)など人間の性行動に関する教育全般を意味する言葉。
概説
生殖に関する教育は、広義には女性器に男性器を挿入する性交後に女性体内で起こる男性器から放出された精子が女性の卵子と結合する受胎から胎芽へ、胎芽から胎児へ、そして出産へと移り変わっていく流れを追いながら、新たな命の創造と成長を取り扱う。狭義には性感染症の概念やその予防、避妊法などの内容が、この範疇に含まれる。
学校の教育課程の中に性教育的なものが組み込まれてはいるものの、それを教えることに関して、未だ激しい議論が行われている国もある。性教育はどの段階で開始されるべきなのか、どこまで深く踏み込んで良いのだろうか、セクシュアリティや性行動に関する内容(安全な性交の実践、自慰行為、性の倫理感など)も扱うべきなのかなど、様々な論争が巻き起こっている。
また1994年にカイロで開催された国際人口・開発会議において提唱されたリプロダクティブ・ヘルス・ライツ(性と生殖に関する健康/権利。Sexual and Reproductive Health and Rights (SRHR))、「子どもを産む産まない、産むとすればいつ、何人産むかを、女性が自己決定する権利」は広く女性の生涯にわたる健康の確立を目指す概念として国際的にもその重要性が指摘され、厚生労働省の研究会で日本でも知識の普及をはかるべきとしている。
2018年1月に改訂されたユネスコの『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』では、性教育の開始は5歳からで、ヨーロッパの性教育スタンダードでは0歳からとなっている。現実として保育士による多数児への性虐待や、幼稚園児同士の性暴力も起こっており、子どもが自分の心と体を守るためにも適切な性教育は必要不可欠となっている。
包括的性教育
上記のような、男女間での性に関する知識やスキルについてだけでなく、ジェンダーや性的志向の多様性、人権、幸福を学ぶ概念としての包括的性教育(comprehensive sexuality education(CSE))が普及しつつある。ユネスコが推奨する性教育の項目には、「性行為」や「避妊の方法」だけでなく、友情や恋愛などに関する「人間関係」や「ジェンダー論」まで、包括的な内容となっている。
国際セクシュアリティ教育ガイダンスにおける8つのキーコンセプト:— 『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】』
- 人間関係
- 価値観、人権、文化、セクシュアリティ
- ジェンダーの理解
- 暴力と安全確保
- 健康とウェルビーイング(幸福)のためのスキル
- 人間のからだと発達
- セクシュアリティと性的行動
- 性と生殖に関する健康
日本の性教育
日本の性教育の概説
日本では、体育・保健体育の授業で小学校4年生で「体の発育・発達」、同5年生で「心の発達及び不安、悩みへの対処」、中学校1年生で「身の機能の発達と心の健康」として性教育を受ける。初めて学ぶ小学校4年生では、思春期初来の平均年齢の関係上、男子は思春期前に学ぶ者が多いが、女子は思春期初来(Thelarche)後に学ぶ者が多くなる。
小学校では体や心の変化を中心に取り上げ、自分と他の人では発育・発達が異なり、いじめなどの対人トラブルを起こしやすいことから、発育・発達の個人差を肯定的に受け止めること特に取り上げる。また、発育・発達を促すための食事、運動、休養・睡眠なども取り上げる。中学校では体や心の変化に加えて生殖も取り上げられるが、受精・妊娠までを取り上げても学校や教師によっても違うが妊娠の経過は取り上げられない事が多い。これに対し、義務教育で性交を教えないのは刑法に定める「性的同意年齢13歳」と矛盾するのではないかとの指摘がある。
「妊娠の経過は取り扱わない」とするいわゆる「歯止め規定」のためであるが、文部科学省は、決して教えてはならないというものではなく、全ての子供に共通に指導するべき事項ではないが、学校において必要があると判断する場合に指導したり、あるいは個々の生徒に対応して教えるということはできるものと国会で答弁している。「歯止め規定」については2018年に東京都足立区立の中学校で性の正しい知識を教えるため避妊や中絶等も盛り込んだ授業を行ったところ東京都議会で紛糾し、「課題があった」と答弁があったため教育現場が委縮する状況になった。
一方で初経の授業はあっても、ブラジャーについては学ぶ機会はほとんどなく、思春期の乳房が成長中(途中で初経を挟む約4年間)にジュニアブラを着用せずにノーブラだったり、大人用のブラジャーをつけたりとした問題が起きている。
トランクス着用の小中学生が増加したことで一部の自治体では小中学生にブリーフの着用を勧める活動が組織的に行われるようになった。2000年代前半頃より東京都足立区の一部の小中学校では性教育活動に熱心に取り組んでいる女性養護教諭が性教育の一環で小中学生の下着指導を行い、その活動の輪が足立区全体で拡がったことによるものである。養護教諭は男子生徒に体育の授業でトランクスでは陰部が見えるとの理由でブリーフの着用を提唱し、男子生徒にブリーフの着用を実践させている。
「過度な性教育は子供たちに大きな影響を及ぼしかねない」という批判がある。2005年には自民党が「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」を安倍晋三を座長に、事務局長は山谷えり子参議院議員で発足させた。養護学校で性教育に使われていた性教育人形を「セックス人形」と呼び批判を行った。このほか統一教会による学校現場での性教育批判も行われたとの性教育啓発活動を行う医師の証言が報道されている。また教団が作成した「新純潔宣言」と題した信者向けの冊子の冒頭には性解放思想に基づく性器・性交・避妊教育の性教育に反対することが掲げられており、その姿勢が性教育バッシングの発火点につながったと立教大学の浅井春夫は語っている。
また、児童を対象とした性犯罪や父親や兄、おじ、継父など親族らによる児童性的虐待が問題となっており、これらに被害児童の性に対する無知につけこんだ物が多い事から、思春期前のより早期からの性教育によって、子供に自身が性的搾取から保護されるべき権利主体である事を認識させようとする動きが見られる。子供への性虐待の研究では、加害者の中には多くの子ども達の中から拒否できない子を瞬時に見出す能力を持つ人間がいるため、アメリカ合衆国での小学校2年生女子へのレイプ事件をきっかけに生まれた子どもに対する暴力防止CAPプログラム(Child Assault Prevention)の受講や被害拡大することを防ぐために知識を得る性教育が有効としている。
2019年3月28日、東京都教育委員会は教員向けの指導書「性教育の手引」改訂版を公表し学習指導要領の範囲を超えた授業の実施を初めて容認した。手引は小中高校、特別支援学校での性教育の考え方をまとめ、コンドームやピルでの避妊や人工妊娠中絶できる時期がかぎられていること、性交相手の過去は分からないため性感染症の危険があること、SNSで性的な画像を送ると削除できないことを伝える。性の多様性にも初めて言及し性同一性障害や性的指向などへの配慮を明記した。
2020年度より、幼稚園、小・中学校、高校、大学で「生命の安全教育」という新しい教育を始める方針があるが、引き続き性行為や避妊は取り扱わない予定とされている。
日本産科婦人科学会では、各年代の女性が正しい性と健康の知識を得るために2014年に『HUMAN+』という冊子を作成して公開している。日本産婦人科医会でも、公式サイトにて若年層の2016 年の年齢別出生・中絶統計で20再未満の半数以上が中絶を選択する現状を示し、中学校で性交や避妊を取り上げるべきではないと悠長なことを言えず、義務教育が終わる中学校卒業までに教えないと間に合わないとの危機感を表している。
2017年頃には時期尚早との意見もあるが、日本では小中学生に性的少数者の教育をするところもある。
性犯罪では、2013年に埼玉県警察が検挙した痴漢事件では、被害者では特に電車通学を始めたばかりの高校1年生が標的にされていた。平成23年の警視庁の「電車内の痴漢防止に係る研究会の報告書について」でも被害者が高校生が36.1%と最多数を占めているが、被害者の多くが被害に遭っても声を上げることができず、「相談する場所が分からない」「啓蒙活動が足りない」などの声が寄せられている。また加害者の性的犯罪依存を治療する識者も、痴漢は99%を占める男性の問題であり痴漢撲滅の予防行為として、予防教育、性教育や啓発活動が必要だと語っている。痴漢は未成年者の被害者が多いにもかかわらず被害時の相談先など具体的に教わることがなく、また自分も相手の体も大切にする性教育が不足することで認知のゆがみが生まれているのではと問題を提起している。
2023年1月、日本弁護士連合会は、日本の学校教育における性教育について国際的標準から極めて遅れていることを憂い、成人向け性情報の氾濫による誤った認識や価値観の植付けから起こる性被害や予期せぬ妊娠などの問題対応と人権保障の観点から、国及び地方公共団体が包括的性教育を実施するとともに、SRHRを保障する包括的な法律の制定及び財政的裏付けを伴う制度の創設が必要であると提言した。
日本の性教育の歴史
明治中期から昭和初期にかけて
第二次世界大戦前の性教育学者たちの言説には、明治以前の性的卓越性という男らしさの尺度を禁じつつ、男としてのアイデンティティを保持するために「学生時代は禁欲し、立身し然るべき時期に結婚して一家を成す」という、新しい「男性としてあるべき姿」像が含まれていた。
1890年(明治23年)頃から学生間での風紀の乱れと花柳病の蔓延がメディアを通じて社会問題となり、1900年代頃から学生の性の扱いに打つ手を持たない教育界を医学界がリードする形で、医学者と教育者との議論によって性教育が形成されていった。初期の性教育の使命は、若者の自然で健全な性欲を衛生的かつ倫理的に適った方向に誘導する、というものであり、議論のポイントは「手淫の害」と「花柳病の害」の予防法だった。しかし、科学に基づいた性知識の普及が学生の性的悪行を刺激し手助けする、という批判から、花柳病の具体的な予防法は教授せずに、若年の性交や恋愛は危険であり学生の間は学業に専念し禁欲せよ、という強制禁欲主義の教育がなされるようになった。
山本宣治は大正から昭和初期にかけて性教育についての啓蒙活動を行い、1922年(大正11年)に来日した産児制限で著名なマーガレット・サンガーの講演の通訳を務めるなどした。星野鉄男は昭和初期に『性教育に就いて』(1927年)などを著し、性教育は単に性欲についての知識を与える性欲教育ではなく、「社会を構成する男と女の全部」に必要な、今で言うところの生涯教育であると主張した。羽太鋭治は大正期においてドイツの性科学を下敷きに性教育についての著書をいくつか書き、昭和初期に大衆向けのハウツー本を多数出版した。太田武夫(太田典礼)は避妊リングの考案や1936年(昭和11年)に雑誌『性科学研究』を創刊するなど、性の研究を通じて社会問題に取り組んだ。梅原北明はエログロの先駆となる雑誌『グロテスク』を1928年(昭和3年)に創刊するなどした。
純潔教育から性科学への変化
日本の性教育の始まりは、1945年(昭和20年)の第二次世界大戦敗戦直後から国が主導してきた「純潔教育」に遡る。風俗対策や治安対策の一環としてスタートした。性科学者で京都精華大学ポピュラーカルチャー学部教授の斎藤光によると、1947年(昭和22年)にGHQの支援を受けて婦人民主クラブが創立され、発起人の一人である救世軍士官(牧師)の山室民子は、「一夫一妻結婚の貫徹」「男女ともに婚前性交の禁止」「男性の買春への批判、女性の人格を認め、女性の性の商品化と決別する」などの主張をした。これは日本キリスト教婦人矯風会等の性 ・ 結婚思想の基軸となってきたもので、戦前から存在する思想である。
1972年(昭和47年)、日本性教育協会が設立され、純潔教育から性科学を主軸にする性教育へと転換した。
性教育元年
1992年(平成4年)、学習指導要領が改訂され、性に関する具体的な指導が盛り込まれたことで「性教育元年」と呼ばれた。
学習指導要領の改訂で、思春期の成長は「男子=声変わり」から「精通」と定義され、これにより男女が名目上は平等に性教育を受けられるようになり、教育現場では射精をどこまで掘り下げるかなど試行錯誤をしていた。
エイズが社会問題化し、HIV教育の重要さがフォーカスされたことで、小学校6年の理科で扱う人体の学習が3年生に前倒しされ、5年生に『人の発生と成長』が位置づけられるなど、性教育に発展の兆しが見られるようになった。
そんななか、東京都日野市の七生養護学校(現・東京都立七生特別支援学校)では、知的障害の子どもが性被害を受けても気づかなかった等の事態を受け、男性器と女性器の名称を織り込んだ歌や、性器のついている人形を使うなど独自の性教育に取り組み、校長会等でも高く評価された。
性教育を巡る論争
七生養護学校事件
2003年7月、東京都議会議員で自民党の古賀俊昭、自民党の田代博嗣、民主党の土屋敬之ら3名の議員が、七生養護学校を始めとした学校を「行きすぎた性教育」と問題にし、『産経新聞』などのメディアで「過激な性教育」「まるでアダルトショップのよう」と扱われるなど、保護者や寮の職員から学校側に苦情や懸念が相次ぎ、社会的な批判が起きた。その後、七生養護学校は授業内容の全面変更・禁止、授業は事前に副校長の許可と当日の監視のもとで実施するよう指導され、校長他116人の教職員は処分された。
この処分について教育長(当時)の横山洋吉は「都立七生養護学校では、虚偽の学級編制あるいは勤務時間の不正な調整、それから勤務時間内の校内飲酒などの服務規律違反、その他、学習指導要領を踏まえない性教育など、不適切な学校運営の実態が明らかになったことから、教職員とともに、管理監督責任を果たさなかった校長への処分等を行ったものでございます」と都議会で説明している。
2008年2月、七生養護学校の教員や保護者、関係者が人権侵害を訴えて提訴した裁判で、東京地方裁判所は東京都教育委員会の裁量権乱用を認め、処分取り消しを命じる判決を言い渡した。また、2009年3月12日、東京地裁(矢尾渉裁判長)は、3議員および東京都教育委員会に対して210万円の損害賠償の支払いを命じた。
2013年、最高裁は「教育の自主性を阻害」するなどの「不当な支配」にあたると認定し、古賀俊昭をはじめとした都議側に、原告である教員らに賠償金を支払う判決を下した。
2019年、東京都教委『性教育の手引』から、16年前に都立七生養護学校(現七生特別支援学校)で行われていた性教育を「不適切」とする記述が削除された。 本件の原告となった教員は性教育攻撃の中心に日本会議や統一協会の関連団体「国際勝共連合」が存在し、チラシが配布されていたと語っている。
思春期のためのラブ&ボディBOOK
性行動の低年齢化や人工妊娠中絶、不測の事態の対応について書かれた冊子『思春期のためのラブ&ボディBOOK』が、中学校に無料で配布された。内容の一部が過激だとして批判され2002年に回収・絶版となった。2002年に国会の議論の対象になった。
過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクト
2005年3月4日の参議院予算委員会では、山谷えり子参議院議員が「ペニス、ヴァギナなどの用語を使いセックスを説明するのは過激で、とても許せない」と批判し、小泉純一郎元首相も同意した。自民党の安倍晋三を座長とした「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」が設置され、性教育は余計に性を乱すと批判した。山谷えり子は「性なんて教える必要はない」「オシベとメシベの夢のある話をしているのがいい」「結婚してから知ればいい」と主張した。
これにより学習指導要領が変更され、「受精」は扱うが「受精に至るプロセス」は扱わず「性交」という言葉も削除されるなどし、元一橋大学非常勤講師の村瀬幸浩は、日本は性教育後進国となったと主張した。
ニッポンの性教育 セックスをどこまで教えるか
2013年、中京テレビ『ニッポンの性教育 セックスをどこまで教えるか』が放送され、のちに無料公開された。
東京都議会質問
2018年3月、東京都足立区立中学校の授業が不適切だとする東京都議会質問が波紋を広げた。性交、避妊、中絶は中学の学習指導要領で扱っていないが、3年生を対象にした授業で「産み育てられる状況になるまで性交は避けるべき」と強調し、避妊や人工妊娠中絶についても教え、考えさせる内容を行った。
また授業前のアンケートで「2人が合意すれば、高校生になればセックスをしてもよいと思うか」や、正しいと思う避妊方法などを問う項目が含まれており、「学習指導要領に記載のない性交、避妊、中絶といった言葉を使っていた」「かえって性交を助長する」と問題視され、足立区教育委員会を指導するに至った。
発端の都議会質問は、七生養護学校を非難・処分し最高裁で敗訴した古賀俊昭であり、「結婚するまで性交渉を控えるという純潔教育や自己抑制教育が必要だ」「そもそも『結婚する・しない』を自己決定するという戦後の価値観が問題だ。『結婚・出産・子育て』は社会貢献だとしっかり教育すれば、安易な性交渉にはおのずと抑制的になる」などと主張した。
Yahoo!ニュースのアンケート(2018/5/15-5/25)では、25,063票中、性教育が必要は90.5%(22,674票)、不必要は9.5%(2,389票)だった。
2019年2月26日に行われた東京都議会では、中学校での性教育について、都教育委員会の中井敬三教育長は「児童生徒が正しい知識を身に付け、適切に意思決定や行動選択ができるよう、区市町村教委などと連携して各学校を支援する」と答弁した。東京都知事小池百合子は、犯罪の被害者を支援するための犯罪被害者支援条例を制定する方針を明らかにした。
男子の性教育
元一橋大学・津田塾大学講師の村瀬幸浩は、2014年出版の『男子の性教育』(ISBN 4469267600)に、男子高校生を対象にした「射精イメージ」の調査結果を記載した。約15%の男子が射精を「汚らわしい」と感じ、約20%が「恥ずかしい」という意識を持っている一方、女子高校生の「月経のイメージ」では「汚らわしい」と答えた人は約5%、「恥ずかしい」は約8%であった。この男女差は教育の有無によるものだとしている。
女子は妊娠・出産に備え親や学校が月経のメカニズムを教えるが、男子には「別に教える必要はない」という風潮が続いた。思春期になれば性的な欲求や関心が高まり、メディアや友達を通じ、様々な性情報にアクセスするようになるが、科学的に正しい知識ではなく、誤解や偏見によって理解や認識が歪むことも少なくない。高1男子100人に「射精や性器についての相談相手は?」をアンケートした際は、誰にも相談できないが70%、友達が20%、家族・親戚が9%だったとし、誰にも相談できず、悩んでいる子供が多い実態を指摘した。
「レイプが女性の人格を切り裂く殺人的行為だなんて考えたこともなかった。セックスのバリエーションのひとつと思っていた」などの認識や、望まない妊娠や中絶において彼氏の「他人事感」が問題となる場合、無知ゆえにリアルな想像や共感ができなかったことも原因だとし、性教育は大人が子どもに対して果たすべき責任だとしている。
アダルトビデオ=性のスタンダードになってしまうと、パートナーを心理的・肉体的に傷つけてしまうことに発展しかねず、「アダルトビデオは作り物なんだ」「あれは女の人がお金で演技している(させられている)ものなんだ」という分別がつけられるよう、性について真面目に伝えていくことが大切だとする。精液がついたパンツを「汚いから別の洗濯かごに入れてね」などと対応することで、子供がセックスは汚い、いやらしい、ひどいといったネガティブな意識を持ち、恋愛や性行為を回避するケースもあるという。
埼玉大学教育学部教授の田代美江子は、「性をいやらしいと考えている大人」や「性と真正面から向き合わない大人」は、極めて個人的な感覚に端を発するタブー意識を拠りどころに性を捉えており、大人たちが体系的な性教育を受けていないことから、「小学生には早い」「中学生に避妊なんて教えてどうするんだ」という価値観がストッパーになってしまうとしている。
男性器の包茎に羞恥心を抱き、美容整形クリニックの過剰な宣伝文句につられて意図せず高額な手術を受けてしまう被害もある。また包茎は不潔で、感染症のリスクが高いという不正確な情報が流布していると専門家は警鐘を鳴らしている。生殖については、思春期男子が気にするペニスの大きさより、精巣(睾丸)の大きさが重要であり未発達の場合、乏精子症または無精子症などで不妊の原因になる。男性器の相談は泌尿器科であると学生に性教育の講演を行う専門家もいる。
地方自治体ごとの性教育への取り組み
2002年から、秋田県では県の教育委員会と医師会が連携し、中高校生向けに性教育を実施している。その結果、全国平均の1.5倍だった10代の中絶が2018年には平均以下となり、2012年には10代の中絶率が約三分の一となった。性教育で性行動はより慎重になると知られている。
富山市では、10代の人工妊娠中絶率はこの5~6年、女子の人口1000人あたり1人前後の割合で推移している。対して全国平均は6人前後で、福岡県や沖縄県などは10人前後となっている。1990年代に女子高生等の性が商品化され、全国で人工妊娠中絶が急増したことに危機感を抱いた産婦人科医と富山市は協力し、1991年から性教育の出張授業を始めた結果となっている。性教育とは危機管理を学ぶことという意識で教育が行われている。
埼玉県産婦人科医会は、県内で医師や助産師が自主的に行っていた性教育講演を県内全域で行えるよう、2020年に「性教育委員会」を設立し医師10人が参加している。講演について県教育長は予算がつかないとしているが、埼玉医大病院産婦人科高橋幸子_(産婦人科医)医師は講演料は必要なく、外部講師による性教育の仕組みづくりをしたいと話している。
YouTubeで性教育動画チャンネルを配信している、助産師の大貫詩織は、国際教養大学(秋田県)の性教育トークショーで「性教育は「人権教育」で、タブーはない。いろいろな人を生きやすくするのに必要なもの」と言った。
青少年の性の状況
日本性教育協会の青少年の第5回性行動全国調査によると、交際相手のいる中学生で1割、高校生では男子7割と女子5割、大学生では9割以上がセックス経験があり、初体験の相手は中学生では自分と同い年、恋人が増加している。性行動が低年齢化が日常化によって進行していると言われている。
内密出産を取り扱う「こうのとりのゆりかご」を運営する医師は小学校5年生の出産に対応した経験があり、また「慈恵病院SOS赤ちゃんとお母さんの相談窓口」に寄せられた平成19年(2007年)から平成26年(2014年)度までの相談件数9248件のうち、15歳から18歳までの相談件数は715件であった。
東京都では高校生に対する性教育は東京産婦人科医会に依頼されて、高校の所在する地域の医師が派遣されるが、約200余の都立高校のなかで2017年(平成29年)は32校にしか過ぎないと報告されている。
若年層の妊娠出産が年400件で推移する沖縄県では、医師と児童相談所所長が中学終了まで一定程度の性教育の必要性と性的同意の重要性を説いている。
文部科学省も国会の質疑等でも厚生労働省と連携して取り組んでいくとしているため、産婦人科医会も全面的に性教育、特に中高生、一般の方に対する教育には努力は惜しまないことを表明しているが性交や避妊を教えない教育について正しい性の知識が普及しない懸念を示している。
公立高校では、文部科学省調査で2015年・16年度の2年間に学校が妊娠の事実を把握した生徒数は、全日制・定時制あわせて2,098人であり、そのうち32.1%にあたる674人が、妊娠を理由に「自主退学」しており、中には実際には退学を勧奨された事案もあり女生徒の妊娠は学業で大きな損失となる。一方で妊娠させた側についての調査はない。
ひとり親
人工妊娠中絶や特別養子縁組といった手段を取らず、分娩費用を助成する入院助産制度を活用して出産するなど若年層で子供を産み育てる選択を取ったとしても、未婚のまま、または離婚の場合も子どもを引き取るのは2012年統計では妻側が83.9%となっており、一人親になるのは圧倒的に母親である。
日本ではひとり親の相対的貧困率が高く、無職では60%で30か国中ワースト12位と中位であり、有業のひとり親の相対的貧困率については58%で諸外国中ワースト1位という状況にある。
政府調査ではひとり親の4世帯に1世帯は、子どもの世話・家事について頼れる人が「誰もいない」うえ、金銭的援助も望めない世帯の割合は、母子世帯が 51.5%となっているため準備ができていない時の妊娠・出産は女性の人生でより困難な大きな転機となる。なお、出産費用の相談先について円ブリオ基金などのNPO団体もある。
中絶
人工妊娠中絶は昭和44年調査では200万件とも推計され、当時妊娠可能女性の42%が中絶の経験者でありその46%が家族計画避妊の失敗からという理由であるため、昭和49年当時にピルの薬局販売推進が国会答弁されている。
20歳未満の中絶率は平成30年(2018年)度衛生行政報告例で、東京都が最多の6.6‰、北海道6.4が続き、宮崎県の6.2ほか九州地方で以前から高い傾向にある。
現在は中絶件数が毎年低減しているものの、平成30年度件数は 161,741件であり、「20歳未満」について各歳でみると、「19歳」が 5,916 件と最も多く、次いで「18歳」が 3,434件となっている。一方で30代は60,368件、40代以上も15,909件となっている。
出産に関する統計はほとんどが15歳からだが、15歳未満の妊娠も年間約400件ほどある。
平成29年(2017年)度の出産数と中絶数の比率で出した中絶選択率は、全体では15%だが20歳未満で59%にも上る。また12歳未満の強制性交等の性犯罪は約1000人が被害者となっている。
佐賀県の産婦人科医の調査では、膣外射精を避妊手段として選ぶ知識のなさと、避妊なしの性交渉を断れない関係性が影響していると分析している。
望まない妊娠の相談先として「全国妊娠SOSネットワーク」がある
外国における中絶との比較
岡山県津山市で住宅団地の浄化槽から乳児の遺体が見つかった事件では、岡山県警はベトナム国籍の女性技能実習生について死体遺棄容疑で2020年4月16日に逮捕し処分保留で釈放したが5月に堕胎容疑で再逮捕している。実習生のため妊娠が発覚したら帰国させられると思った末の犯行だった。
しかし彼女がもしベトナムにいたとしたら中絶費用は妊娠初期で500円弱、中期でも1万円強。貧困地域や遠隔地では無料であった。今でも日本では堕胎罪、妊婦自身が行った場合には自己堕胎として罪に問われる問題がある。
韓国では2021年1月1日から堕胎罪が無効化された。
日本は平成30年(2018年)度 男女共同参画白書によると人工妊娠中絶率の国際比較において低位となっており20歳未満5.0%、20-24歳12.9%、全体6.5%であり、ドイツ20歳未満4.2%、20-24歳9.3%、全体5.7%には及ばないが、フィンランドの20歳未満8.2%、20-24歳15.3%、全体8.2%などより低い。
妊娠と自殺
若年層の妊娠は分娩希望の場合でも精神不安に陥りやすいこと、また年齢に関わらず緊急避妊薬を求める女性は性被害者が多く、中絶処置をした患者についてはその後思い悩み自殺企画が多いことが読み取れる。
2005年から2014年の東京都23区の妊産婦の異状死調査では、自殺63例のうち23例が妊娠中であった。うち10件以上が妊娠2週間のうちに起こっている。
2016年までの2年間で、産後1年までに自殺した妊産婦調査での死亡例は全国で少なくとも102人であり、妊娠中や産後1年未満に死亡した妊産を調べたところ、自殺が死亡原因の1位となっている。妊産婦は子育てへの不安や生活環境の変化から、精神的に不安定になりやすいとされる。
産婦人科医の調査では10代の妊娠(分娩希望)の場合も妊娠中自殺願望を持った患者は全体の15.6%であり、7.2%は自殺を試みている。一般の性感染症患者、緊急避妊薬処方患者は、デートDV被害者や性虐待被害者の場合が多く、自殺願望が認められると報告されている。また中絶後の患者が人口妊娠後遺症(PAS)に悩んでいるケースは76.2%であり、48.3%が自殺願望を持ち12.2%が実際自殺を試みている状況にある。海外での研究でも中絶経験者の60%が自殺を考え、28%が実際に自殺を図り、そのうち半数が2回以上自殺を図った。特に10代の若者や離婚者などにリスクが高い。心的外傷後ストレス障害(PTSD)も見られた。
フィンランドの13年間の調査では中絶の翌年は自殺、事故及び殺人による死亡が24%増加することが女性全体を対象した調査で判明した。調査期間中自殺の73件は中絶または流産後1年内に起こっている。
この調査では、中絶した女性の死亡原因の過半数が自殺であることも判明した。若すぎる妊娠や、望まない妊娠は自殺のリスクを高め、出産後0日の嬰児殺害にもつながっている。胎児を中絶する経験は女性に大きな罪悪感を生み出す。
海外では後述の緊急避妊薬でその妊娠の多くが容易に回避できる状況にあるが、日本国内では実現しておらず結果として女性が望まない妊娠・出産の負担を負うことになり、日本国内の女性に対して日本国憲法に定める法の下の平等や生存権が中絶に関わる主な精神的影響のリスク保証されていないものとなっている。
避妊について
中高生の妊娠には、避妊の正しい知識不足による失敗がある。言わゆる女性の生理周期の排卵日を避けて「安全日」を選んでする性行為も、男性が放出した精子は女性器内で最大5日生存するため、確実ではない。また月経中は妊娠しないという誤認があったり、膣外射精や炭酸飲料で膣を洗う対策は避妊ですらないということが伝わっていない場合がある。
緊急避妊薬OTC化に関する医師に対するアンケートでは、回答者の90%が処方経験がありその理由(複数回答)の95.5%がコンドームの脱落・破損だった。同意のない性交が36.1%、性暴力32.1%も含まれていた。この状況の背景には国連発表では日本の避妊の方法は男性用コンドームが75%で女性が使う経口避妊薬は6%にとどまり、経口避妊薬が31%である海外と比較し日本では男性が行う避妊方法に偏っていることが挙げられる。スウェーデンなど諸外国で普及している妊娠を防ぐホルモンが含まれたスティックを皮下に埋め込む「避妊インプラント」、腹部などに貼るシール状の「避妊パッチ」、膣内に挿入する避妊リング、避妊注射なども日本では承認されていない。
精子は射精時の精液だけでなく、前段階で分泌されるカウパー腺液中にも僅かに存在する場合があるため確率の高い避妊法とは言えず通常は避妊法としてカウントされない(PIは4-19程度)。また知識があったとしても、一般的な避妊方法に使用されるコンビニエンスストアでも購入できるコンドームによる避妊方法も万全ではなく、避妊失敗率は2%であり正しい使用方法でない場合を含めると18%とされ、一方でピルは0.3%とされる。
コンドームは「性感染症予防」、避妊のためにはより効果の高い方法を「併用する」ことが常識となっている。しかし口で性器に触れるオーラルセックスでは、双方の性器を保護しないと性感染症が防げない問題もある。
妊娠の不安については、市販されている99%の精度と言われる妊娠検査薬の存在への無知などがあり、様々な性にまつわる理解が不十分な状態が招いた問題となっている。
なお中絶可能週数は22週までで、中絶の同意書には配偶者の同意者が必要である。未婚者の場合でもパートナーの合意を求める病院があり男性も交際相手の女性の中絶同意書に署名する責任がある。しかしこの制度は性暴行の加害者にも同意を求めなくては手術を行うことができない現状に繋がっているため弁護士から批判を浴びている。
低容量ピルの承認
1999年(平成11年)6月、女性自身が妊娠をコントロールする低用量ピルが申請から9年の歳月を経て承認された。1965年以来、185以上の国連加盟国各国はピルを承認し、世界中で2000万人の女性が服用する中、日本はピルを承認する最後の先進国であり、国連加盟国185か国で当時唯一の未承認国であった。
1999年(平成11年)2月、衆議院予算特別委員会での国会審議において、末松義規議員より、バイアグラのスピード承認に対してピル承認が9年以上も審議にかかることについて、中央薬事審議会が社会的な価値観を持ち込んでいる疑問が呈され、同議員は「どうも何か大きな思惑があったのじゃないかと思わざるを得ない」と意見している。
臨床試験はバイアグラはしなかったことを引き合いにピル承認について尋ねると、担当部局に伝えるとだけ回答されている。
HIV感染拡大の懸念から薬事審議会が一時審議を凍結し、感染症問題を管轄する公衆衛生審議会に意見を求めるなど調整が難航し、承認時にもなお感染症対策をもっと詰めて承認を決めるべきだったとの意見(東京医科歯科大学大島博幸教授)があった。
低用量ピルが長期審議から一転解禁となった背景には、男性用性的不能治療薬「バイアグラ」を個人輸入で大量に出回り死亡例が発生したことから安全に処方されるためとの理由で、申請からわずか半年で承認された。これにより男性本位との批判が起こったことが関係しているとの見解もある。
厚労省はピル解禁について、世の中の理解が進みピルを温かく見守る環境ができた(平井俊樹審査管理課長)との講和を発表した。しかしピルが承認されない一方でバイアグラが超特急で承認されたことに対し、『ニューヨークタイムズ』紙では世界的に安全性が確立された低用量ピルが認可されていないのみならず副作用ゆえに米国では88年以降販売されなくなった「危険な」高用量ピルのみが認可され,販売され続けていることも紹介し日本の薬事行政の奇妙さを紹介した。
懸念された性感染症については、ピルが承認の1999年のHIV感染者は日本人男性379人(うち同性接触195人)、女性が45人であり、2019年では同男性741人(うち同性接触575人)、同女性29人となっている。
また先進国のなかで卵巣がんが増加しているのは日本だけといった状況にあり、この卵巣がんの発症数については、月経回数を減らす効果がある低用量ピルが日本では4%の利用と極めて少ない普及状況が影響している可能性があると医師より指摘されている。
緊急避妊薬
緊急避妊薬は性交後に排卵を遅らせて妊娠を阻止する経口剤のことであり、妊娠を予防する薬である。流産を引き起こす中絶効果はない。Yuzpe(ヤッペ)法と呼ばれる中容量ピルがかつて使用されたが、日本ではレボノルゲストレル錠が2011年2月23日に緊急避妊薬として承認された。日本では医師の診察が必要な処方箋医薬品であるが、アメリカ合衆国では、大学区校内の自動販売機で緊急避妊薬が購入できる。このことと価格帯の問題のため日本では世界保健機関が2018年に勧告した、意図しない妊娠のリスクを抱えた全ての女性は緊急避妊薬にアクセスする権利があるとの声明に合致していない現状がある。コロナ禍においてオンライン診療での処方が暫定的に認められているが、処方箋なしの薬局購入(OTC化)については、市民団体が、10万7000人分の署名を厚生労働省に提出したものの、2021年現在認められていない。
厚生労働省の「医療用から用指導・一般化への転用に関する評価検討委員会議」で2017年には性教育の不十分さや薬剤師の知識不足を理由として否決されたが、再度2021年5月に処方箋なしの薬局販売についての審議が再開された。
なお2020年10月より同審議会はこれまでスイッチの可否を握ってきたが、スイッチ促進へ向けた課題解決案を話し合う場へと姿を変える見通しであり、今後の決定権は厚労省に移っている。
なお新型コロナ禍において2020年10月時点で1100名の医師が緊急避妊薬のオンライン診療研修を受け、薬剤師も3870名が処方研修を受けている。産科医以外にも、研修を受けた医師が処方できると厚労省は表明している。
ところでフランスにおいて中絶法(ヴェイユ法)を作り上げたシモーヌ・ヴェイユ (政治家)はその回顧録に於いて中絶よりそれ以前に成立した避妊法の成立への国会議員の抵抗が非常に激しいものであったことを述べている。男性たちは避妊が女性の自由を認め男性の関与を許さなくなるものであることに対し、中絶は男性も感情を損なうものではあるが女性の身体に男性が影響を及ぼさないようにするわけではないことを理由として考察している。
International Consortium for Emergency Contraception及びEmergency contraceptive availability by countryによると諸外国では日本・韓国・台湾では処方箋が求められるが、中華人民共和国やヨーロッパ諸国では処方箋が必要なく、場合により無償で提供されている。
10月の「国際ガールズ・デー」にあわせNGOが行った調査では若い女性ほど緊急避妊薬や低用量ピルについてどのような薬かの知識が高く、20代以下の女性では48%が入手方法も知っていたが高齢になるほど知識が低減していた。
緊急避妊薬へのアクセスは人権の問題であると「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」の共同代表であり、産婦人科医の遠見才希子は語っている。
不妊症
なお、子供を望むができない不妊症では加齢が原因の場合もあり、女性は胎生期に最大の卵子を持ち、以降減少していくため、女性の妊娠しやすさ(妊孕性)は、おおよそ32歳位までは緩徐に下降し、卵子数の減少と同じくして37歳を過ぎると急激に下降していく。また男性も年齢とともに妊孕能が低下する。女性が35歳以上の出産を高齢出産と呼び、流産の上昇や胎児の染色体異常の頻度などリスクも高くなる。
不妊については二人目不妊の問題もあり、雑誌社の調査では不妊治療経験者中で第二子のときに不妊治療を経験した人は6割を超え、その内半数が第二子で初めて不妊治療をした状態にあり、子供を望んでいて最初の妊娠で問題がなくとも加齢やセックスレスにより妊娠しづらくなる問題が起こる場合がある。このため生涯設計のため生殖可能年齢を早期に理解することも重要である。
日本産科婦人科学会によると不妊治療の体外受精によって2017年に誕生した子どもの数は、この年に生まれた子どものおよそ16人に1人の割合となっており、誰もが自然妊娠するとも限らない現状がある。
女性の胎内で胎児が育たない不育症の問題もある。2021年には厚生労働省が不妊治療費用の助成を拡大することを決定した。
2021年7月、厚生労働省は、来年度開始を目指す不妊治療の保険適用に向け、医療現場で使われている未承認の医薬品について、「公知申請」の制度を用いて承認手続きを迅速化し、体外受精に用いる排卵誘発剤や、「バイアグラ」など男性不妊に対する勃起障害の治療薬、射精障害に対する抗うつ剤に保険適用する予定と公表した。
世界保健機関(WHO)の発表によると、不妊症の方のうち、不妊症の原因が女性側のみというケースは41%、男性のみは24%、男女双方は24%、原因不明は11%となっている。
クラミジア感染症が不妊の原因となる場合もある。また不妊には肥満や喫煙が影響する場合があり、男性は70代でも生殖可能な一方で、サプリメント摂取による男性不妊も指摘されている。
胎児の出生前診断の普及により、不妊治療後に授かった子でも診断結果によって異状があった場合中絶する覚悟で検査をする実態もある。2013年から5年半の間に、6万人を超える妊婦が新型出生前診断を受けて陽性確定の9割が中絶したと報道されている。
コロナ禍における妊娠
コロナ禍において10代の妊娠相談は増加し、支援団体への相談者の1番下は小学4年生といった現実がある。
小学6年生に至っては複数人からの相談が寄せられている。
2020年現在では、コロナ禍において全国の妊娠届の件数は、感染への不安が高まった3月ごろに妊娠した人が届け出る5月以降で7月まで前年同期を1割超下回っているため、来年度は出生数が80万人を割り込む可能性がある。
ただしこれは日本人女性の産み控えだけではなく、日本に来ていた外国籍の家族滞在者などが本国に帰り日本で出産しなくなったことが影響している可能性もある。なお、同時期に「嫡出推定」制度見直が報道された。これは離婚から300日以内に生まれた子どもは前の夫の子と見做すことなどが規定されているが、離婚前に既に前の夫ではない男性と交際があった場合や早産、医学の発達により未熟児も生存可能となったことなどを背景として改定される見込みとなった。現状では前の夫の戸籍に入らないようにするため出生届がなされず無戸籍になることがある。
月経をめぐるトラブル
このほか、性にまつわる問題として現代の女性は初経が早く、妊娠・出産の回数も少ないため、生涯の月経回数が多く月経トラブルも増加している。低用量ピルによる治療が有効だが普及率は3%となっている。
ピルは子宮内膜症、機能性卵巣嚢胞、子宮体がん、不妊症になる可能性を低下させる効能も言われている。
働く女性の8割以上が生理痛やPMS(月経前症候群)による仕事への影響を感じており、その影響で野経済的損失は年間6828億円との調査結果がある。このため、福利厚生制度で生理痛やPMSをやわらげる低用量ピルの服薬の支援を始めた企業もある。
アスリートが心身を追い込むと生理が止まることがあるが、低用量ピルは2008現在で欧米で行われた調査によると82%のトップアスリートが低用量ピルを服用さしており、継続的に月経対策を行われてコンディションを整えている。月経困難症やPMS(月経前症候群)、過多月経(経血量が多い)にも処方されている。
子宮内に装着する子宮内システム(IUS)も最長5年に渡る高い避妊効果と月経困難症の緩和が効能としてある。
性感染症
1980年代以降、後天性免疫不全症候群(エイズ)の存在が取り上げられるようになり、性教育もその存在を無視することはできなくなった。エイズが流行しているとまで言える状態にまで達してしまったアフリカ各国においては、研究者たちのほとんどが、性教育を公衆衛生において極めて重要と捉えている。米国家族計画連盟など、国際的な組織の中には、幅広い性教育を実践していくことは、人口爆発の危機を乗り越える/女性の権利を向上させるといった地球規模的な成果を達成することに繋がる、と考えている人々もいる。
性教育により、クラミジア、梅毒、HIVの性感染症や、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染による子宮頸がん、中咽頭がん、肛門癌、陰茎がんなどから身を守る方法を学ぶことができる。
2019年、淋病は男性が6,467人、女性が1,738人で男性は1999年より減少、女性は同水準である。2019年、梅毒は男性4,384人、女性2,255人となり、2010年までは男性は同水準、女性は減少だったものが一転して増加傾向にある。
性器ヘルペス以外の性感染症は全て男性が多く罹患している。梅毒の増加については風俗を利用する中高年の男性や、そこに勤める20代の女性などから感染が広がっているとみられている。男女ともに年齢関係なく、正しい性知識の普及が必要とされている。
子宮頸がん
子宮頸がんはそのほとんどを性交渉によるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を原因とし、年間約1万人が罹患し、約2,800人が死亡している。
ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染は20歳前後が多く、最も感染機会が多いのは性体験を始めた直後で性器の挿入の有無に関わらず性器の皮膚部分でも感染する。HPVウイルスは、性交渉を持ったことがある女性のうち、50-80%がHPVに一度は感染すると言われている。
正常な免疫状態の女性が感染から子宮頸がんに進行するには15年から20年かかるが、18歳で初体験をして21歳で死亡した急進行した事例もある。
妊娠・出産年齢や子育て世代と発症のピークが重なることから、子宮頸がんは「マザーキラー」とも呼ばれる。
また罹患した母親から新生児へのがんの移行が認められ、国立研究開発法人国立がん研究センターは出産直後の赤子が母親の子宮頸がんのがん細胞が混じった羊水を肺に吸い込むことによって、母親の子宮頸がんのがん細胞が子どもの肺に移行して小児での肺がんを発症した2事例を発表し、1組目の男児は免疫療法薬で治療できたが、2組目の男児は手術で肺がんを切除した。母親2人は出産後や出産時にがんと診断され、その後死亡したと公表した。
HPV感染を防ぐヒトパピローマウイルスワクチンを公費で打てる定期接種は小学校6年生から高校1年の女子が対象であったが、2020年時点、男子へも対象を拡大する方針となった。しかし女性のように無料でうてる定期接種化するかは厚労省審議会での議論による予定である。接種を受けて多様な症状が訴えられ、厚労省は対象者に個別に接種を呼びかける積極的勧奨を中止したが、厚生労働省は2021年11月に、2022年4月からの積極的勧奨接種再開を決定した。
私費の場合、2013年時点で1回あたり1.5万から2万円で3回接種を要する。HPV感染者がワクチンを打っても病状進行はしないが治癒効力もない。
その他の感染症
このほか、出生児を守るために母子感染による「先天性風疹症候群」を防ぐため、ワクチンの定期予防接種制度により一度も風疹の定期予防接種を受ける機会がなかった40代と50代一部男性を対象に2019年から2021年度末までの約3年間に原則無料で抗体検査・予防接種が行われている。
性行為がなくとも唾液を交換するディープキスで罹患する病気もある。伝染性単核症(infectious mononucleosis)は乳幼児期に初感染をうけた場合は不顕性感染であるが、思春期以降に感染した場合に発症することが多く、kissing disease とも呼ばれる。罹患で多くの場合38℃以上の高熱で 1 - 2週間持続する場合が多い。
2021年にはコロナワクチンの接種が開始する見込みだが、新型コロナワクチンとその他のワクチンは、互いに、片方のワクチンを受けてから2週間後に接種できるため、接種間隔に留意し接種計画を立てる必要がある。
性犯罪
性的同意年齢
日本では明治時代に制定された性犯罪に関する制度の継続により、13歳の中学1年生から性行為に同意する能力があるとしている。
2020年5月には、性的同意年齢を13歳からとしていた韓国では通信アプリのチャットルームで、脅迫などにより行わせた女性の猥褻な動画や画像を提供して暴利を得た「N番部屋事件」に中学生とみられる被害者が含まれていたことをきっかけとして年齢を16歳に引き上げた。
またフランスも性犯罪事件によって15歳に引きあげられた結果、日本やアメリカ合衆国、ドイツ、イギリス、スウェーデンなど14~18歳とする各国より最も低い13歳となっている。
カナダでは性的関係を持つことができる同意年齢は16歳であるが、刑法は「年齢が近い場合」あるいは「ピアグループ(同年齢集団)」の例外規定を設けており、12歳及び13歳に対しても「年齢が近い場合」の例外がある。
イングランドとウェールズでも犯罪認定年齢は16歳だが、性犯罪法は、性的虐待の場合以外の16未満同士による性行為承諾の規制を目的としてない。ただし児童保護の視点から、法令は13未満の承諾は法的効用を持たないとし、12歳以下の児童との性的行為はもっとも重度な刑法が適応される。
2021年2月に北海道旭川市で起こった中学2年女子の凍死事件では、被害者の少女が複数人より自慰行為を強要されその画像が拡散し、これを苦にして当初投身自殺未遂を起こしているが、わいせつ画像を送ることを強要した加害者は、児童ポルノに係る法令違反、児童ポルノ製造の法律違反に該当したが未成年で法に問えなかった。また警察が捜査終了後に加害者がパソコンのバックアップからデータ復元してチャットグループに再拡散させるなどわいせつ画像の流出が続くなどしているが、加害者が同世代であることで性行為の強要が罪に問われない事件も起こっている。
身近な人からの性加害・性被害の多さ
加害者は知人や親族など身近な人からのことが多い。実父に小学生時代から性虐待を受けていた女性は「家族がばらばらになる」とその被害を長期間打ち明けられなかったが、父親は避妊しない性行為すら虐待だと認識していないことが裁判で明らかにされている。
教師や塾講師など信頼する身近な大人から猥褻行為や性暴力を受ける事件もあり、被害者は自傷行為に陥ったり成長してからその意味を理解して深く傷つく場合がある。
2015年版『犯罪白書』によれば、摘発した性犯罪事件のうち、約3割は顔見知りによるものという。
特定非営利活動法人 性暴力救援センターの東京理事長の報告では、加害者の7割が顔見知りであった。性暴力では殺される恐怖で抵抗することができない被害者を見て、加害者が勝手に被害者が性交に同意したのだと思い込むことが多い。顔見知りでない場合でも地方から上京したばかりの女性が道を教えてくれと頼まれ、駐車場の車内などで被害にあうこともある。
2020年3月、北海道において特別支援学校を卒業した知的障害がある女性(31歳)は就労支援施設のトイレで出産し、乳児を便器に押し込み窒息死させた事件が起こった。女性は性教育を受ける機会もなく、また乳児の父は元施設職員の50歳男性でほとんど避妊をしない性行為を行っている一方、関係者も妊娠に気づかなかったと報道されている。
フランスではどのような相手でも体の大切な部分を触らせない教育の重要性を説いている。
また、人間における子供への性犯罪の前に加害者が子供の孤独や承認欲求につけこみ被害者との親密な関係性を築き、性犯罪に及ぶ準備の懐柔行為を示すことがある。教師などの身近な人物からや、グルーミングはツイッターやTikTokなどSNSを通じて行われることがある。2021年の性犯罪の刑法改正審議会では性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する、いわゆるグルーミング行為に係る罪を新設することについての審議が明記された。
性犯罪の再犯性の高さ
1988年におきた東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件では、最終的に犯人は幼女を裸にして写真を撮影していたところをその父親に見つかり警察に通報され逮捕に至ったが、少女の父親が仏心を出して通報しなかったら事件は解決しなかったとも言われている。わいせつ行為には再犯制性が高く通報することは次の被害者を生まない意義もある。
小児への性犯罪は再犯罪率も高く、9歳の特別支援学級女児を裸にして撮影した教員は以前に別の中学で猥褻行為をした後小学校で復職し犯行に及んだことが分かっている。
男女間における暴力に関する調査
内閣府が2018年3月に公表した「男女間における暴力に関する調査報告書」によると、これまで結婚したことのある女性のうち、配偶者などから、「身体的暴行」「性的強要」などの暴力を受けたことが「何度もあった」人はおよそ7人に1人であった。
2018年の内閣府男女共同参画局の「男女間における暴力に関する調査」によると、無理やりに性交等をされた被害者の女性は 7.8%、男性は1.5%であり、18歳未満のときにあった被害について、「その加害者は監護する者(例:父母等)でしたか」という質問に対して、「監護する者」が 19.4%であった。被害の相談をしなかったのは、女性で58.9%、男性で39.1%で、半数が羞恥心によると回答している。
レイプ
国際政治学者の三浦瑠麗は中学3年生のとき車に連れ込まれ、集団レイプ被害を受けたことをその著作で公表している。当時は家族などにもその被害を打ち明けることができなかったと語っている。
法務省は2020年3月、性犯罪を厳罰化した2017年の改正刑法施行から3年の実態を調査した報告書を公表し、被害者や心理学の専門家、加害者臨床に携わる医師らへのヒアリングで被害者は必ずしも強い抵抗を示すわけではないこと、激しく抵抗しないと被害が認められにくいなどの指摘があった。準強制性交等罪の要件である「抗拒不能(身体的・心理的に抵抗するのが難しい状態)」の定義が曖昧だとの課題もある。
性暴力の被害者心理に詳しい精神科医の小西聖子は、抵抗しないほうが早く終わるという理由で自分から応じる場合や、加害者の機嫌を損ねてさらに危険にさらされないように笑って応じることもあると父から娘への性暴力の公判で証言している。誘拐事件や監禁事件などの犯罪被害者についての臨床においても、被害者が生存戦略として犯人との間に心理的なつながりを築きその支配下に置いて協力的になるストックホルム症候群もよく知られるところである。
報道機関の推計では、警察が被害届を受理した事件数は、推定被害者数の4.71%でしかなく、レイプ事件が裁判となる事例は1.92%としている。その被害者の多くは泣き寝入りしている実態がある。令和3年版『男女共同参画白書』によると強制性交は被害について「どこ(だれ)にも相談しなかった」者は,女性は58.4%,男性は70.6%となっている。平成26年版男女共同参画白書によると女性の異性からの強制性交経験は1回が4.1%,2回以上が3.5%で,被害経験がある女性は7.7%である。被害時期は「20歳代」が35.1%で最も多く、次いで「中学卒業から19歳まで」が20.1%、「30歳代」が14.2%、「中学生」が5.2%、「小学生以下」が13.4%を占める。
被性的害時のフリーズ
実際に被害に合った時にはフリーズ(もしくは凍りつき)反応がスウェーデンではレイプ被害者の70%で見られている。これは動物にも見られる擬死状態で、強直性不動状態になることにより捕食者の意欲をそぎ生存確率を上げる役割がある。
災害や被害にあった際に想定外のことに頭が真っ白になって反応ができなくなってしまうことを「凍り付き症候群」と呼び逃げ遅れる要因として知られている。
1994年にアメリカの神経生理学者であるステファン・W・ポージェス博士が発表したポリヴェーガル理論では、重大な生命の危機に面した場合に意図せずして背側迷走神経系が優位になり、「不動化」「仮死状態」「凍り付き」が起こり生存確率を高めるとしている。また、加害者からさらなる加害行為を受けないように、「迎合」という反応が起こる場合があることも述べている。
男性への性被害
2017年に性犯罪を厳罰化する刑法改正案が可決成立し、第177条の強姦罪が「強制性交等罪」に改められ、被害者を女性に限っていた強姦および準強姦の罰則規定が、男性にも等しく適用となった。日本の未成年男子で何らかの性被害を受けたことがある人は高校生男子で5~10人に1人、レイプ被害率は1.5%となっているとの統計もあり、男児だから性被害に合わないというわけではなく、自身を恥じ入りトラウマとなって精神的にも被害を受けるケースもあるため男女共に性犯罪を防ぐ知識と犯罪に合ってしまった時のケアが大切となる。恐らく薬物の入った飲料を飲まされ朦朧とした後に複数の男性によってレイプされ、HIVに罹患した被害もあり、成人男性だから安全ということもない。
痴漢
電車内での痴漢行為という性犯罪に日常的にさらされた被害者の女子中学が自殺念慮を抱きリストカットした事例もある。痴漢問題は性犯罪であるという前提と、人権侵害行為であるということが重要との指摘があり、99%の痴漢は男性による犯罪となっている。「犯罪白書」(平成27年・2015年)では、痴漢を行う男性で最も多いのは四年制大学卒業のサラリーマンでこのうち既婚男性は34.7%と分析されている。。被害者は公共交通機関利用ができなくなったり、うつ病を発症するなどPTSDに苦しみ、自傷行為や自殺を考えるほど追い込まれる人もいる。日本共産党東京都委員会ジェンダー平等委員会の調査では被害者は18歳以下の場合が71.5%で中学生以上の通学時だけでなく、性的知識が不十分な幼児や小学生がターゲットとなったことが明らかになった。
児童虐待
厚生労働省の虐待死の統計では、その被害者は半数以上が0歳であり、児童虐待死が最も多いのは「0歳0ヶ月0日」となっている。
社会福祉法人恩賜財団母子愛育会の平成26年(2014年)度調査によると、児童相談所一時保護所入所者の虐待は性的虐待年齢が13.03歳となっている。
強制わいせつ
男女交際の場においても、束縛や性行為の強要などが起こるデートDV危険性がある。現在、児童ポルノ被害の約4割は「児童が自らを撮影した画像に伴う被害」で、児童がだまされたり、脅されたりして自分の裸体を撮影させられた上、メール等で送らされる被害が増加している。
年上男性と学生層の女性との間である買春行為も含むいわゆる「パパ活」「援助交際」ではホテルで睡眠薬を盛られて強制性交被害に合い、わいせつ画像を撮影されたり強盗被害にあうこともある。
盗撮・リベンジポルノ
学習塾で生徒が講師から盗撮された事件では犯人は千葉県の迷惑防止条例違反で逮捕されたが、県により条例が異なっているため他県では犯罪として取り締まれない状態があり問題視されている。スマートフォン(スマホ)の普及もあり盗撮の検挙件数は10年前の2倍超に達していることから、「盗撮罪」としての刑法改正が望まれている。
コロナ禍での中高校生の性
2020年3月から5月にかけて、新型コロナウイルス感染症拡大予防のためにとられた全国での一斉休校において、学校や部活も無くなり自宅にいる中高校生が性行為の機会を持ち望まない妊娠に至ったり、妊娠の不安を感じてこうのとりのゆりかごを設置する熊本市の慈恵病院の妊娠相談窓口に、過去最多の中高生からの相談が寄せられている。
コロナ禍の最中に性虐待が判明した少女には、10歳での母の恋人からの性暴力の妊娠や12歳での父からの性強要による事件も含まれ、日本は他国に比較し性虐待の顕在化がされていない可能性が高い一方で自分の体を守り大切にする性教育が不足しているため自らを責めたり我慢をする少女もいる。
女性の心身を守るうえでも性教育は重要である。更にコロナ禍の中では、在宅勤務や外出自粛要請で、女性や子どもがDV被害にあうことも懸念される。国連人口基金は4月、ウイルス感染への恐れや外出制限により、女性が医療機関に行かないことが予期せぬ妊娠につながると指摘している。
性暴力への相談窓口
性暴力を受けたときに相談できるワンストップ支援センターの大阪支部では、2010年度~18年度に来所し、受診につながった者のうち19歳以下の子どもは1285人で6割を占めている。また17、18年度、家族からの性暴力を訴えた子どもは161人となり、実父からが36%、実兄・義兄からが18%を占め、そのほか母の恋人・祖父・いとこが加害者の事例もある。
生活苦から援助交際と言われる年上男性との性行為の結果、妊娠に至った高校生もおり、親に打ち明けるにも「小さないのちのドア」などの支援者の援助を得て乗り切るケースもある。
2020年12月、産科医療機関でつくる「あんしん母と子の産婦人科連絡協議会」(本部・埼玉県)が、18歳以下の女性を対象に、無料で相談や初診を受け付ける事業を始めている。
性暴力被害の相談については「#8891」となり、2020年10月より全国共通の短縮ダイヤルが開設された。
世界の性教育
アメリカの性教育
キリスト教と純潔教育
アメリカ合衆国では1980年代半ばから、性病やエイズ感染症の予防からコンドームの使用指導をしていた。しかし1990年代初めより、キリスト教右派の「絶対禁欲性教育」が導入された。結婚するまで絶対にセックスをしてはならず、妊娠の医学的仕組み、避妊の仕方も教えてはならないというもの。ブッシュ政権は莫大な資金援助をしたが、避妊を教えた場合は助成金を打ち切った。その結果、一部の州で未成年者の性病罹患と妊娠が急増した。
純潔教育を扱ったドキュメンタリー映画に『シェルビーの性教育〜避妊を学校でおしえて!』がある。ピュアボールという、父親と10代の娘が「結婚するまで処女を守る」と誓うダンスイベントも存在する。
2004年、アメリカの『ニューズウィーク』誌は、アメリカ国民の79%、キリスト教徒では87%が、聖母マリアの処女懐胎を信じていると報じた。
アメリカでは「絶対禁欲性教育(Abstinence-Only Sex Education)」「包括的性教育(comprehensive sex education)」他の複数のカリキュラムがある。この二つについてはどちらが良いかについて論争がある。特に、子どもの性的行動を取り扱っていくことを善しとするか害と見るかに関して、激しく意見が割れている。より具体的に言えば、コンドームや経口避妊薬などの産児制限、避妊具が婚外妊娠に与える影響力、若年での妊娠、性感染症の伝染などの扱うことの是非である。アメリカの性教育をめぐる論争の火種となっているものの1つとしては、保守系の人々が推奨する純潔教育や絶対禁欲性教育への支持が高まっていることを挙げることができる。性教育に対して、アメリカや英国も含めたより保守的な態度を示す国では、性感染症の蔓延や若年妊娠が高い率で生じている。
アメリカ心理学会の研究では、「包括的性教育」の有効性が示されているとした。包括的・総合的な性教育の有効性は、査読誌の記事の複数によって明白であるとする一方、「絶対禁欲性教育」は深刻な危険があるとの指摘がなされている。
イギリスの性教育
イギリスでは中等学校(11歳から16歳)での性教育が1994年より義務化された。イギリスの10代少女の妊娠数は1960年代終わりから1970年初頭にかけて正式統計で年間13万件以上、実数は20万とも30万とも言われるほど多く、学業の継続困難から安定した職業に就くことも出来ず、貧困問題とも結びついて社会問題化していた。また1980年代後半におこった性感染症とエイズの問題が性教育の必要性を後押ししたとされ、その後10代の妊娠は少しずつ減っていった。
北欧の性教育
2007年のTIME誌によると、デンマークでは性教育を特定のクラスに限定せずに、必要な際には授業のあらゆるカリキュラムにおいて話し合われるとしている。スウェーデンでも同様で、性教育は1956年以降必修であり、7歳から10歳のときに始まるとしている。フィンランドでは15歳時に学校でパンフレットやコンドームなどの入ったパッケージを渡されるという。スウェーデンでは通常、17歳で処女を失うとされ、それは15年前と変わらないとしている。
逆効果となった事例
オーストラリアやイギリスの一部の学校で10代の妊娠を防ぐために子育ての大変さを教えるための赤ちゃんロボットが導入されたが、オーストラリアのウエスタンオーストラリア州で行われた調査では、一般的な性教育のみのグループと、赤ちゃんロボットを貸し出したグループとでは、赤ちゃんロボットを貸し出したグループのほうが20歳までの妊娠率が高いという結果となった。
イギリスでは毎年4万人10代少女が妊娠していることが問題視され、2004年から少女達に妊娠予防のための避妊教育(Young People’s Development Programme,YPDP)に取り組んだところ、総額9億円の避妊教育は逆効果で少女たちの性への関心度が高くなり、受講した少女たちの方が妊娠率は更に上がった結果、イギリス政府は2009年までにYPDPを中止している。
アダルト業界における性教育
カリスマAV男優として名高い加藤鷹(1988年デビュー)は、『秘戯伝授 最終章』(ISBN 4845412381)や各種メディアで、爪のケアなど衛生面の徹底、女性の反応を重視するセックステクニックを推奨している。また、加藤はパートナーと妊娠を望まない性交に及ぶ際に必ずコンドームを着用し、性感染症、望まない妊娠等を防止(避妊)するよう呼びかけている。
女性が作る女性のためのAVメーカー「シルクラボ」にて圧倒的人気を博した一徹は、加藤鷹の時代から「AVはファンタジーである」という発信は多くの人が言い続けているが、気づかないままAVに影響されてしまう者が多いとした。ネット時代において、情報リテラシーが高い者は正しい情報を手に入れており、格差も大きいとしている。2014年に『恋に効くSEXセラピー』(ISBN 4040662296)を出版。大事なのは相手の立場に立って考えるコミュニケーションだとし、女性は勇気を出して違和感を伝え、男性はそれを受け止めて、やり方や考え方を変えていくことを提案している。2017年時点で、男性向けの激しいAVはもういい、女性が嫌がっている顔を見たくないという理由で、女性向け作品を見ている男性も少しずつ増えているとした。
脚注
参考文献
- 澁谷知美、井上章一(編)、2008、「性教育はなぜ男子学生に禁欲を説いたか:1910~40年代の花柳病言説」、『性欲の文化史』1、講談社〈講談社選書メチエ〉 ISBN 9784062584241
関連項目
- 性科学
- 子供の性
- プライベートゾーン
- ジェンダーフリー
- セーファーセックス
- 性科学映画
- 純潔教育 - 婚前交渉を否定する方針の性教育。子どもの福祉に有益であるとする考え、あるいは宗教的な偏向であるとする考えなどが存在。
- 十代の出産
- 性的同意年齢
- 児童の権利に関する条約
- 日本性教育協会
- "人間と性"教育研究協議会
- 結婚適齢期
- ヴァギナ・デンタタ - 民話レベルの性教育の教訓話(日本ではアイヌの伝承に同類のものがみられる)。
- 山本宣治 - 大正から昭和初期にかけて性教育の啓蒙活動(産児制限など)を行った。
- 山谷えり子 - いきすぎた性教育批判